TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
翌日のことである。ネットの玩具になっている公平は濁流の如き誹謗中傷と弄りに心を痛めていたかと言うと、そーでもなかった。
「やっぱり、ラグビーは最高だな!」
最初こそビックリしたが、所詮はネット上でしか言われないし同級生の悪ノリにも直ぐに適応していた。彼はネットに強いラグビー部員探索者だった。
ダンジョンで流すよりも、よっぽど健全で健康的な汗を搔きながら帰路に着いた時のことである。公園に腕組をしながら、チラチラとコチラを見て来るお姉さんが1人。言わずもがな不審者である。
「(怖いな。目線を合わせないでおこう)」
先日の配信では見事なイキりぶりを見せていたが、中身は年相応の少年である。ヤバイのには関わらないという真っ当な危機管理能力に従って、通り過ぎようとしたが『待て』と声を掛けられた。
「少年。自らの運命に打ち勝ちたくはないかね?」
「え? いきなりなんですか?」
「私はしがないダンジョン配信愛好家だ。先日の一件で、SNSを賑わせている初心者がいると聞いてね。待ち構えていたという訳だ」
こればかりは公平もゾッとしていた。要するに、自分の住所や学校が割れている可能性があるからだ。
「え? リアル凸はちょっとやめて欲しいんですけど」
「そうだろう。そうだろう? リアル凸とか玩具扱いは嫌だろう? 君はもう傍観者じゃなく、一方的に殴る立場でもない当事者なんだ」
えらいノリノリだった。多分、このダメそうなお姉さんも同類なのだろう。公平としては甚だ遺憾であったし、ラグビー部で培った脚力で逃走することも考えたが、足を止めている要素があったとしたら。
「(このお姉さん。頭はおかしいけれど、顔、体、声はバチクソに良いんだよなぁ)」
INTへの割り振りを全部APPに割いたんだろうか? ラグビー部故の悶々のせいで会話を打ち切るということができなかった。肝心な所でやらかすのが、公平と言う男子の特徴なのだろう。
「分かるよ。私も辛い思いをしたんだ。SNSに張り付いては鬼の様に飛んで来るDMやクソコラ。BB素材。果てはボイスをAIに食わせて、言ってもいないことややってもいない動画が飛び回る始末! 世は理不尽である!」
「お姉さん。ネット止めた方が良いと思いますよ」
「なんでさ! 私は悪くない! 私を不快にする連中が悪い!!」
いよいよ、公平は警察に通報しようかと考えたが、自分は男で相手は女。話が面倒臭くなる可能性が高いので、何とか穏便に収めようと考えた。じゃあ、逃げろよと言う話でもあるが。
「わ、分かりましたよ。お姉さん。話聞きますから落ち着きましょうよ」
「うむ。分かれば良いんだ。ホラ、カラアゲも買っているぞ」
「いらないです」
ラグビー部として食事制限を徹底している為、間食はしない主義だった。とりあえず、ベンチに腰を下ろして。お姉さんは捲し立てていた。
「と言う訳でね。私は君のことを気の毒に思っているんだ。これから君が勇壮な冒険譚を送ろうとも『でも、アイツはぷぷぷー』していたんだよなぁ。って思われるだろうしね。おーっと、チャンネル削除しても無駄だぞ。連中は幾らでもアーガイブを持っているからな」
「お姉さん。苦労したんすね……」
きっと、彼女はネットに依存し過ぎて心が壊れてしまったんだ。と、公平の中に恐怖と同量程度の憐憫も湧いていた。そして、あわよくばと言う考えも。
「分かるかい! そう、私達は同志。同じ痛みを知るモノ同士なんだ」
「(でも、適当に話し相手になれば、美人お姉さんとお知り合い。あるいは大人の付き合いもできるかもしないし!)」
『公平 乱太郎』。極普通の男子に避けられない程度には性欲を抱えていた。運動部員だから仕方がない。
「で、ここからが本題だ。少年が抱えてしまった十字架は今後を生きていく上では重すぎる。故に、私は例のダンジョンに呪いを掛けた」
なんで、勝手に十字架背負わせているんだ。とか、思うよりも先に『呪い』とか言う物騒なワードが出て来た。
「呪いとは?」
「一定期間内にダンジョンが踏破されなければ発生する影響のことだな。これから3日間、少年が潜ったダンジョンがクリアされなければ。君のチャンネルは削除され、例の痴態も話題にならなくなる」
ダンジョンにそんな影響力があったのは初めて知った。
しかも、呪いを掛けた。と言うことから、もしかして。このお姉さんはダンジョン側の存在なのだろうか?
「な、なんでそんなことを?」
「だから、言っただろう? 私も同じ様な目に遭ったと。これ以上、同じ苦しみを味わう人間を増やしたくないのでね。君はダンジョンから手を引きなさい。それを言いに来たんだ」
今までの乱痴気ぶりは何処にか。本当にファンタジーや幻想の中に出てきそうな儚げな空気を醸し出していた。そのまま去ろうとしたので、慌てて呼び止めた。
「あの! 俺にも何かできることはありませんか!?」
「え?」
「だって。その、ホラ! こっちがやって貰うだけじゃ不公平でしょう! 俺の名は『公平(きみひら)』って言うんです! 公平でありたいんです!」
実際の所。公平は動画とか玩具とかは割とどうでも良かったのだが、目の前に少年呼びして来る超美人ファンタジーお姉さんが現れたことが重要だった。
「(そして、お近付になりたいです!)」
いわゆる『一目惚れ』である。彼はイキりこそはするが硬派と言う訳ではない。いや、むしろイキって良い風に見られたいと思う位には周りには関心がある人間である。下心全開・フルスロットルである。
「うーむ。そうだなぁ。ちょっと考えさせてくれ」
――
ヤバイ。この男子、性欲の塊みて―な奴だ。なんで、俺に?と思ったが、そう言えば俺はTSしているんだった。
鏡で自分を見ても不思議と何とも思わなかったし、羽生やモンスター達も容姿に言及して来ることが無かったので、あんまり考えたことはなかった。
「(おい、バフォー。コイツに手伝って貰えることはあるか?)」
「(うーん。自分から手伝いを申し出るとは。狡く生きる若者が多い中、実に喜ばしいことだ。何かしらを考えたいな)」
どうやら、バフォーには下心とかそういうのを見抜く能力が無いらしい。
しかし、そんなに容姿が良いなら。完全にTSした後は好き勝手に色々とやってみるのも良いかもしれない。とか、皮算用をしていると。バフォーが何かを思いついたらしく、俺の肩からピョコっと顔を出した。
「少年よ。今、吐いた言葉にウソ偽りはないな」
「悪魔!?」
バフォメットのフォーマルな姿を見て、公平は驚いていた。コレにはバフォーも非常に気をよくしていた。
「そうだ。私達は契りを結んでいる。貴様も探索者達の道を食らい潰す悪魔の一員となるのだ」
「そんな邪悪なことが、許されるのか!?」
バフォーが身もだえていて非常にキモかった。そうだよな。普通の子は自分の目的の為に他人を犠牲にするなんてできないよな。
「そうか。残念だ。ちなみにダンジョンの入り口は私の自室なのだが」
「まず、下見に行かせて貰って良いですか?」
「うむ。案内しよう」
そう言えば、バフォメットには男と女って意味もあったっけかな。極自然に男子をアパートに連れ込もうとしているが、絵面的に最悪なのは良いんだろうか?
いや、私の中身は男だし問題は無いだろう。あくまで3日間だけの付き合いだ。もしかしたら、呪いの影響で俺も忘れるかもしれないし、公平も俺のことを忘れるかもしれない。
「(その方が、お互い幸せなハズだ)」
相手は何も知らない男子。一方の俺は、前途有望な探索者達に嫌がらせをしているカス。付き合いは深くならない方が良いに決まっている。
自宅に到着したので、彼を家に上げた。招くことまでは考えてなかったので、雑多としているが、公平は部屋内の物を見まわしていた。
「すごい。アーティファクトに調査資料に……お姉さん。もしかして、高ランクの探索者で?」
「いや、中級の探索者だったよ。この押入れが例のダンジョンに繋がっている」
ガラリと開けると、モヨモヨとした空間が広がっている。流石に無装備の人間を通す訳にはいかないので、見せるだけだが。
「管理されていない入り口。なんて物があるんっすね」
「私も、長いこと探索者をしていたが見たのは初めてだ。とまぁ、下見はこんな感じだ。明日から本格的に手伝って貰う。何をして貰うかは考えておくから、とりあえず。連絡先の交換だけでもしておこう」
連絡先を交換して、と。今日できることはこんな物だろう。公平君を公園まで送り届けた後、俺は自宅に引き返して溜息をついた。
「疲れた。なんだよ、あの喋り方。誰だよ」
「だが、公平君の興味を引くことには成功した。良き協力者になるかもしれんぞ」
「いやいや。用事が終わったら、お互い関わらない。それが、私達にとって一番だよ」
「そうだな」
バフォーがニヤニヤしていたのがキモかった。とりあえず、明日に備えてもう一度ダンジョンの中を確認しておこう。俺は装備を整えて、押し入れの中に入った。