TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
定刻通りに公園に訪れていた公平君を自宅に上げて、バフォーも含めて確認をしていた。
「まず、俺達は冒険者と遭遇しちゃいけない。無断で入っていることがバレたら、騒ぎになるからな。念の為、姿を隠すアーティファクトも使うけど、過信はし過ぎないように。基本は裏方だと思ってくれ」
「それじゃあ、俺達は何をするんですか?」
「主にモンスターに指示を出したり、仕掛けを使ったり。あるいはスキルで間接的な妨害をすることだが、君のスキルは?」
前回の探索時、公平君がスキルを使っていた様には見えなかった。ひょっとしたら、自分にだけバフが掛かるタイプかもしれないが。
「実は自分でもよく分かっていないんですよ」
「は? 適性検査を受けた際に分かるハズだろ?」
「違うんですよ。スキルはあるし、他者に害をなすタイプじゃないけれど。発動条件が分からないってモンで」
物凄く心当たりがあるタイプだ。なんたって、俺のスキルである『BB劇場』も素材が出回るまでは、発動できなかったからだ。
と言うことは、バフにも何にも頼らず持ち前のフィジカルと知識だけで2階部分まで突破して来たということか。本当に申し分のない才能をしている。
「何かの拍子に分かることもあるかもしれない。それまで、色々な雑用をやって貰うからよろしくな」
「了解っす!」
運動部特有の返事の良さを確認した後、ダンジョン内でするべきことの解説をバフォーに頼んだ。
「公平君には警報装置の担当をして貰う。初心用ダンジョンでは強烈な罠は仕掛けられないからな」
「地雷とか丸太飛ばしも無いんですよね」
罠としてダメージが入る物もあるが、あまりに強烈な物は設置されていない。かと言って、警報装置が弱い物かと言われたらそうでもない。
「警報装置も十分脅威だ。配信している探索者相手なら著作権に引っ掛かるBGMを流してやれば情報収集を潰せるし、そもそもフロア内で休息中モンスター達が一斉に目を覚ますってだけでも脅威だ」
ハック&スラッシュ型の探索もあるが、基本的に敵を倒しまくるというのは体力の消耗もあるし望ましいことではない。避けられるべき戦いは避けて進む。と言うのもまた、立ち回りの一つである。バフォーが付け加えた。
「ダンジョンの探索は基本的に単身で行われる物だから、複数のモンスターに囲まれる。と言うのは、それだけで脅威なのだ」
「えっと。複数人で入った場合、ダンジョン内で犯罪行為が行われる可能性も考慮して。ってことですよね?」
普通に考えれば複数人で攻略した方が効率的なのだが、ダンジョンが出現したばかりの黎明期では攻略に託けた犯罪行為が蔓延った為だ。
「もっと真っ当に真面目に攻略されていれば、こんなことも無かったのだがな。嘆かわしい!」
バフォーがプリプリと怒っていた。これに関して、邪推を加えるとしたら。攻略スピードと攻略難度を下げない為。と言うのもあると思う。現在の時点でも割と早めに攻略されるのだから、パーティを組まれたら本当に直ぐに攻略される。
「そして、俺はスキルを用いた妨害をする。幸い、このダンジョンに入って来る探索者は初心者ばかりだから何とかなる」
中級探索者辺りになると対処が難しくなりそうだが、恐らく、多分、そういうのは来ないハズだ。今日も探索者が来るはずだ。
「装置の使い方も説明したい。探索者用の装備に着替えて、ダンジョンに入るぞ」
「待て待て。公平君が見ているから、お前はトイレで着替えろ」
「いや、自分は後ろ向いておくんで」
「良くないわ! このスケベ!」
クラシカルなやり取りを聞きながら、俺はトイレに入って手早く着替えを済ませた。公平君も同じ様に着替えていた。準備はオッケーだ。
シッカリと玄関を施錠して、電気を消して、誰もいないことを装いつつ、俺達は押し入れの中にあるゲートを潜った。
――
「なんか、新しい子が来とるやん」
「こちらは公平君。私と同じくネットで玩具になってしまった悲しき男子だ。短い付き合いだけど、よろしく頼む」
「どうも。よろしくお願いします」
モンスター相手に偏見を持つ。と言うことも無く、頭を下げていた。
なるほど、企業が体育会系を雇いたがる理由が分かる。そりゃ、素直で言うことをよく聞く奴なんて何処でも欲しいに決まっている。
「素直なええ子やな。よろしく頼むやでー」
「挨拶は大事だ。こっちに来てくれ。警報装置の使い方はだな」
バフォーから警報装置の使い方をレクチャーされている間、俺は強化されたメカムスメちゃんや皆の様子を確認していた。
「なんか動き難いとかそういうのは?」
「ウチは特に無いなぁ。何人か探索者とも交戦したけど、やっぱり防御できるのはデカイで」
「私はですね。両腕で殴ることもできる様になった手前、呪文を使うかどうかって判断がし辛くて、動きが止まってしまうことが増えましたね」
「キャーッ!」
メカムスメちゃんは良好だが、スキュさんは少し動き辛そうにしていた。ハピやんは元気そうで何よりです。
「後、20日程。この階もいずれは突破されるかもしれないけれど、上階を手入れする時間が少しでも欲しいから、皆。頑張って行こう」
「分かったやでー」
メカムスメちゃんがノリノリで返事してくれる中、スキュさんだけが少し考え込むような仕草をしていたので気になった。
「スキュさん? やっぱり、腕の問題が?」
「いえ。それもあるんですけど、先日。探索者の中で気になることを言っていた者が居てですね」
「なんと?」
スッと触手でハピやんを指差した。やはり淫語を叫ぶキモい毛玉として駆除かヘイトを掲げることでも言っている奴が居たんだろうか。昨今はコンプライアンスも煩いし仕方ないと思っていたが。件のモンスターは元気に叫んだ。
「カワイイ!」
「……は?」
「はい。探索者がですね。あのモフモフのハピやんを見て可愛いと。力尽きる前に配信していました」
「トニカクカワイイ!」
「自意識過剰がこの野郎……」
良くてキモ可愛いだろ。カワイイなんて、ハピやんには過ぎた言葉だ。と思って、SNSを調べてみたら、モフモフハピやんの話題がそこそこに上がっていた。
『初心者用のダンジョンで見るキモいのがカワイイくなっていた』『例のダンジョンのマスコット狙い』『う、羽毛……』など。一体、連中は何に関心を示すかまるで予想ができない。……とか、話していると公平君達が戻って来た。
「何の話をしていたんですか?」
「いや、このハピやんが可愛いと巷で話題らしい」
「カワイイ!」
クワっと五指を広げてアピールしていた。キモいか憎たらしい位の感想しか湧かないが、現代っ子的にはちょっと違うんだろうか?
「なんか、腹立ちますね」
「だろぉ!! ウンウン。公平君とは気が合うなぁ!」
褒美と言わんばかりに女体を擦り付けてやろう。こんな発想、中身がおっさんじゃないとできないだろう。案の定、公平君は鼻の下を伸ばしていた。
「青少年に悪影響を与えたらアカンでー」
「そうだ。それに、もうそろそろ探索者達が来るだろう。各自、持ち場についてくれ」
メカムスメちゃんの注意もほどほどに、俺達はバフォーの言う通り。探索者迎撃に向けての配置に着いた。……と言っても、俺は公平君と同じ裏方なので基本は隠れているんだが。
2階の情報がもたらされたこともあって、ちらほら1階を突破して来る探索者も現れ始めた。とは言え、結構急に強くなるモンスターを前に逃げきれず、あるいは引き時を見誤って撃退される探索者も多い。いたって普通のダンジョンだ。
「お姉さん。そう言えば、名前の方はまだ聞いていなかったんですけど」
「鈴子だ」
「鈴子さんはどうして探索者に?」
「大した理由はない」
以前、メカムスメちゃんに話したようなことを話した。社会に出たくなかったこと、何となくで動画配信をしたら思いもよらぬ炎上をしたこと。
「黄金パターンっすね!」
「そのツケを今払わされている。公平君はどうして?」
「いや、実は俺もそんなにやる気じゃなかったんですけどね。ほら、同級生がダンジョン配信している様子を見て思ったんですよ。俺ならもっと上手くやれる! って。指示とかは飛ばさなかったんですけど」
そう言う人間は珍しくも何ともない。いわゆる指示厨は配信には付き物であるが、リアルで体を動かす必要があるダンジョン配信にも湧くことはある。
「それで、配信であんなにイキっていたのか」
「だって、全員ウンコが嫌だの。汚いだの。本気で打ち込めって思ったんで、まず自分が示すべきだと思ったんですよね!」
あまりに真面目過ぎる。その結果がアレで全国に晒されるんだから、この世界が残酷で理不尽な物であると認識せざるを得なかった。
「公平君はえらいなぁ。でも、その話だと探索者を続けるつもりはない?」
「そうっすね。あくまでグチグチ言う同級生に見本を示すためだけにやっていたんで。配信も見せつける為だけだったんで」
だったら、呪いが成就しても問題無さそうだ。もしも、彼がガッツリ動画配信をしていたら、チャンネル削除はシャレにならない被害になるからな。
「勿体ない。君が探索者になれば良い線を行けるだろうに」
「今の俺にはラグビーがありますからね。そっちの方を優先して、結果残せなかったら務め人になるつもりです」
「人生を先まで見据えているんだねぇ。私とは大違いだ」
彼の様な年齢で、そこまで覚悟を決められる人間の方が少ないとは思うし、現実がどうなるかは分からないが。
「鈴子さんこそ。『呪い』? って奴が遂行されたらどうするんですか?」
「多分、また探索者をやっていると思うよ。準備を重ねて、時間を使って、無駄に終わることも多いけれど。それでも止められないんだ」
好きなのか。それだけしかできないからか。と言うのは分からないが、ダンジョン探索を止めようかと思うことは割とよくあるのだが、結局はやめられないとは思う。
「正直、お姉さんが羨ましいです。俺、色々と言いながら打算とか妥協で動いているから」
「それが悪いとは思わないよ。きっと、親御さんとしても誇らしいし安心できるだろうから。もっと誇ると良い」
「そうっすね」
それでも、煮え切らないことはあるんだろうか。しばらく、他愛のない話をしていた。私としても楽しい時間だった。あまり公平君の貢献は感じられなかったが、俺のストレス対策要員としては十二分に活躍してくれた。
ただ、上手く行っていた故に見落としていたこともあった。探索者達が配信していたこと。ハピやんのことを『カワイイ』と紹介していたこと。
……そう。宝物やアーティファクトにも勝る可能性が取り上げられていたことを、俺は失念していた。配信とはそう言うものだった。