俺は、星野隼人(ほしのはやと)。特撮ファンボーイで今年の春新社会人の1日目を迎える。……筈だった。朝起きたら俺の身体は16歳の頃に戻っていて私立円谷学園という学校に通うことになっていた。
俺は夢を見てるのか?それとも俺が今まで過ごしていた高校から大学までの日々が夢だったのか?
「……取り敢えず登校するか」
登校準備をした俺は、知っているような知らないような街並みを歩きながら、何故か場所が記憶にある円谷学園へ向かった。
「ここ……、だよな?」
俺は円谷学園の校門前に到着したが、そこから見える校舎と思わしき建物の外観が、どう見ても初代ウルトラマンの科学特捜隊日本支部の基地だった。
「普通の学校には見えねえぞ……」
俺は、円谷学園の校門を潜った。騒がしい校内を歩いて自分のクラスを目指しながら呟く。
「なんかコスプレした美女美少女としかすれ違わないんだけど」
うん。なんか奇抜な格好した女性ばかりだ。しかもなんか何処かで見たような格好をしているような気がする。やっぱり普通の学校ではないのかも……?
そんなこんなで俺は自分のクラスに到着し、自分の席に着席する。そして、それとなく辺りを見回す。クラスメイトと思しき少女達は、やっぱりコスプレだらけだ。もうブレザー制服を着ている俺が浮いているぞ。
「ねえ、このクラスに居るってことは君も新入生だよね?君名前は?私はバキシム!」
そんな中、教室にいるオレンジ色の髪で頭から角を生やした少女が親し気に話しかけてくる。ん?バキシム?
「俺は星野隼人だけど、バキシムが君の名前?」
「そうだよ!あれ、私みたいな奴が他にいると思ってるのかな?まぁいいや、よろしくね、星野君!」
「あ、ああ。よろしく」
バキシムという少女は俺に握手を求め手を差し出してくる。俺はバキシムの手を握り返しながら挨拶する。バキシムだと?バキシムと言えばウルトラマンAに登場する一角超獣の別名を持つ怪獣だ。俺はバキシムの格好を見てみる。んん?そういえば怪獣のバキシムっぽいような?
「ホシノハヤトなんて怪獣は聞いたことないけど、どんなことが出来るの?」
そう尋ねてくるバキシム。なにを言っているんだこの子は?
「俺は人間だけど?因みに特技は書道だ。初段まで行ったぞ」
「はははっ!冗談が上手いねー!この円谷学園は怪獣娘が通う学校なんだから〜!」
バキシムは俺の肩をポンポンと叩きながら笑う。その仕草が妙に親密で、距離感が近すぎる。
「……は?」
俺の思考が停止する。
「怪獣……娘?」
「そうだよ!私みたいなのがいっぱいいるの!みんなそれぞれ元になった怪獣がいて、能力を持ってるんだ!」
バキシムは目を輝かせて説明する。オレンジ色の髪が揺れ、頭の角がピクピク動いている。
「俺は……」
「だから星野君も何か特別な力があるんでしょ?まだ秘密にしてるだけでしょ?」
バキシムの期待に満ちた視線が刺さる。俺は何も答えられない。
「あはは!緊張してるのかな?大丈夫だよ!誰だって最初は恥ずかしいもん!でもここで過ごしていくうちにきっと見せたくなるから!」
バキシムはそう言って俺の腕を掴む。熱い。彼女の体温か、それとも興奮しているのか。
「おはようございます」
その時、新しい声が聞こえた。教室の入り口に立っていたのは……
「あ!ゼットンさんおはよう!」
黒髪のクールな雰囲気の少女がゆっくりと教室に入ってきた。ジト目が特徴的で、どこか物静かな雰囲気を漂わせている。
「ゼットンさんですか?」
俺が思わず尋ねると、その少女は小さく頷いた。
「はい。私の名前はゼットンです」
ゼットン……。ウルトラマンを知る人間なら大体の者が知っているであろう、初代ウルトラマンにおいてウルトラマンが最後に戦った宇宙恐竜の別名を持つ怪獣だ。怪獣娘となった今でもゼットンの名前を持つということは本人は相当なプライドを持っているだろう。
「おはよう、ゼットンさん。今日も凛々しいわね」
バキシムが嬉しそうにゼットンさんに話し掛ける。ゼットンさんは小さく「おはよう」と返すだけだった。
「あの……俺もおはようございます。俺は星野隼人です」
「……」
ゼットンさんは俺をじっと見つめていた。まるで俺のことを品定めしているかのように感じた。
「あなたも新入生ですか?」
ゼットンさんが初めて俺に直接話し掛けた。「はい」と返事した俺に対して彼女は表情を変えずにこう言った。
「よろしくお願いします」
そうとだけ言ってゼットンは自分の席に向かう。その後ろ姿を見送りつつ、俺は呆然としていた。
「ゼットンさんってクールだけど良い人だよ!怖がらなくて大丈夫だからね!」
バキシムが優しく微笑む。「ありがとう」と返すと同時に始業のチャイムが鳴り響いた。
「じゃあまた後でね!授業が始まったらちゃんと集中しないとダメだよ!」
バキシムは自席に戻る。俺は窓際の席に座りながら教室内を見渡した。
(まさか本当に怪獣娘だらけの学校なのか……?それに『ゼットン』さんとか『バキシム』とか本名で呼ぶんかい!?)
改めて現実を受け入れられずにいた。しかし周りを見てもみんな普通にしているため疑問点を持ち出すこともできないまま時間が過ぎていくだけだった。
担任教師がやってきて出席確認が行われた後講義が始まるものの全然頭に入らない……そんな状態での一日目が過ぎていくのであった……
◇ ◇ ◇
放課後、バキシムは俺に
「また明日ね!」
と言って空間を割ったかと思うとその裂け目の向こう側に行ってしまった。他の生徒、もとい怪獣娘達が特に驚いた様子を見せなかったので恐らく珍しい事ではないのだろう。そんな中、俺は廊下でぶつかった事を切っ掛けに2人の怪獣娘に出会った。
彼女達はそれぞれ、ゴモラとベムスターと名乗った。両方とも有名な怪獣である。ゴモラは初代ウルトラマンに登場した古代怪獣で、怪獣娘としての姿はスクール水着の様な服を着た角と尻尾が特徴的な小柄な少女、ベムスターは帰ってきたウルトラマンに登場した宇宙怪獣で、怪獣娘としてはお腹の部分にベムスターの最大の特徴である第二の口がある長身の少女だった。
「ゴメン、大丈夫だった?」
「よそ見してたゴモ!」
心配してくる2人。俺はゴモラとぶつかったのだが、小柄な割に結構重いタックルだった……。しかし俺はやせ我慢して、
「いや、大丈夫。えっと、ゴモラにベムスターだっけ?急いでどうしたの?」
話題を別の方向に持っていく。するとゴモラが、
「この先から美味しそうなお肉の匂いがしたんだ!」
と答える。ベムスターの方は、
「ゴモはお肉が大好物なんだ」
そう補足した。ゴモラはベムスターに肩車してもらうと、
「ベム!あっちの方から匂いがする!」
そのまま2人はとある部屋に向かう。部屋の入口の上部には、『怪獣図鑑制作部』と書かれてあった。俺はなんか気になったので、
「あっ!?まってくれ!」
2人の後を追った。そして俺達が怪獣図鑑制作部の部室らしき部屋の扉を開けたら……。
「採用」
「?」
「えっ?」
「はい?」
何故か入部する事になった。
◇ ◇ ◇
「あの、本当にいいんですか?ゼットン星人さんが勝手に言ったのに」
申し訳なさそうに言ってくる小柄な黒髪の少女は、怪獣図鑑制作部の部長であるペガッサ星人先輩だ。怪獣達の情報を乗せた怪獣図鑑を制作している怪獣図鑑制作部は新入部員を募集してたところ、俺達3人が来たらしい。
部活の概要も知らないのにゴモラとベムスターは二つ返事でOKしてしまい、俺もこの空気で断るのもアレだったので、OKを出してしまった。
「まあ、最悪幽霊部員でもいいなら……」
「それは困りますけど……、じゃあ一応自己紹介をしますね」
「面倒くさい……」
「バードンさん!あっ、私が部長のペガッサ星人です」
ペガッサ星人先輩の自己紹介に続き、
「ゼットン星人だ」
ゼットンの姉だというナイスバディ黒髪美女のゼットン星人先輩、
「ガッツ星人よ。ペガちゃんとは幼馴染なの」
ゼットン星人先輩に負けないナイスバディのガッツ星人先輩、
「バードン……モグモグ」
これまたナイスバディだが何故か肉を食いながら自己紹介をするバードン先輩で終わった。
「ゴモラゴモ!」
「ベムスターです」
「星野隼人と言います」
俺達も自己紹介を返す。ペガッサ星人先輩は、
「部活動の詳しい説明をしたい所ですけど、今日はもう遅いので後日にしましょう」
そう言って今回はお開きとなった。夕方、ゴモラとベムスターと共に下校する。どうやら途中まで帰り道が同じなようだ。
「それでね!ベムは寒い日は一緒の布団に入って温めてくれるんだ!」
「2人はとても仲が良いんだな」
ゴモラの話に俺は相槌を打つ。ゴモラとベムスターの2人は同居しているらしく、まるで恋人同士の様な関係だ。
「まあね。ゴモには色々助けてもらったんだ。だから恩返ししたくてね」
ベムスターは微笑む。俺が「羨ましいよ」と言うと、ゴモラとベムスターの2人は少し顔を赤くする。そんな話をしていると、十字路に差し掛かった。そこでゴモラは急に立ち止まり、俺の方を振り向き、
「じゃあボク達はこっちの道だからここでバイバイゴモ!また明日ね!」
走り去っていった。ベムスターも、
「じゃあね星野君。これからもよろしくね」
そう別れを告げてゴモラの後と追っていった。2人を見送った俺は、
「さて、家に帰ったら情報を整理するか……」
そう言って自宅への帰路を急ぐのだった。
「さて……」
玄関の鍵を閉めた瞬間、全身から力が抜けた。今日一日で情報量が多すぎて脳がオーバーフローしている。
まずは現状の整理だ。
**【現状把握】**
* 自分の身体が16歳くらいに戻っている。背丈も縮んでいる。スーツケースの荷物はどうやら夢だったようで跡形もない。
* 街並みは見たことがあるようでない。東京の下町っぽいが、微妙に違う。看板や店構えも似てるけど微妙に異なる。
* 特に円谷学園周辺の女の子たちが皆、ウルトラ怪獣をモチーフにしたコスプレをしている。そしてそれを皆が当たり前に受け入れている。
* 教師も職員も生徒も皆女性で、しかも誰もが怪獣娘っぽい容姿をしている。
* 圧倒的にコスプレ感満載なのに、「怪獣娘」というのが日常の概念として定着している。
**【考えられる可能性】**
① **壮大な夢オチ説**
* 最有力候補。社会人1日目で過労死して死ぬ直前の夢とか?ありえる。
* テスト方法:頬をつねる→痛い。痛覚はある。夢じゃない?
* でも夢の中って痛みを感じる時もあるしなぁ……
② **パラレルワールド/別次元転移説**
* 『ウルトラマンダイナ』みたいに次元の歪みに巻き込まれて飛ばされた?
* 地球防衛軍とかバリア要塞があったりする世界観じゃなくてごく普通の日常っぽいけど……
* もし現実なら俺は何者なんだ?怪獣娘だらけの世界に紛れ込んだただの人間?
③ **創作世界へのトリップ説**
* 拝啓ゲーム『ウルトラ怪獣擬人化計画』の世界観そのまま!みたいな。
* でもそんなゲーム聞いたこともない。
* ここの円谷学園は平和そうだし戦いの匂いは全然しない。
④ **神様転生フラグ説**
* 死亡 → お詫び転生 → 力を与えてスタート!ってパターン。
* 「君には怪獣娘をまとめ上げるリーダー能力を与えよう」「は?なんで俺が?」
* 今のところスキルも覚醒イベントもなし。無能力転生?ただの転生チートなしパターン?
……どれもピンとこない。そもそもなんで俺が選ばれたんだよ。
**【現実問題】**
* 現在の装備:学生服+鞄(ノートPCとスマホは消滅済)
* 自宅:築浅のマンション風(だが鍵のシステムが未来的)
* 生活費:謎。口座にも残高ある(元の世界の財産は失われたっぽい)
* 学歴:円谷学園に編入学(手続きは完了済み)
**【当面の目標】**
* この世界が本当に「怪獣娘が普通にいる世界」かどうか確定させる。
* 自分の正体とここに来た原因を探る。
* 現地での生活基盤を確立する。
「よし……とりあえず寝るか。明日また円谷学園で情報収集だ!」
風呂に入る前に鏡を見た。確かに高校生の俺だった。特撮愛を語る少年時代の自分。あの頃は怪獣やヒーローに憧れてたな。
「……もし本当に怪獣娘だらけの世界なら……」
このチャンスをモノにするしかない。せっかくならウルトラオタク知識フル活用してやる!
そして明日から始まる非日常を思い描きつつ眠りについた。
翌朝
「ふはは!寝起きドッキリ!これぞ極悪なのだ!!」
「うわあああ!?誰!?」
駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等お待ちしております。