牢屋敷の看守長 作:野良のなれはて
第一話
「ごめんなさい…ハル…」
誰…
「メルルを…頼みます…」
待ってよ…
「……ちゃん!」
「ハルちゃん!起きてください!」
「ん…あれ…」
私はこの牢屋敷の管理人、メルルに起こされて立ち上がる。
「もう!今日の夜、魔女候補の子達が来るんですから運ぶの手伝ってくださいって言いましたよね!」
「ごめんごめん、ちょっと寝過ぎちゃった…」
私は花畑から離れ、メルルと牢屋敷に向かって歩く。
メルルはぷりぷりと怒りを露わにしているが正直言って全然怖くない。
もう外は暗い…大体22時ぐらいだろうか。
「今回の子達で大魔女様が見つかるといいんですけれど…」
「…そうだね…」
メルルは涙目になりながら呟く。
(私達は元々大魔女と共に暮らしていた。
だけどある日、大魔女がいなくなってしまった。
この牢屋敷に来る魔女候補の少女達は、大魔女の…『魔女因子』を持っている。
私達は少女達を魔女化させることによって大魔女を見つけ出そうとしている…
それは…とても残酷で…本当にこのままでいいんだろうか…)
私は…
遠くから羽音が聞こえてくる。
「メルル様、ハルさん、魔女候補の子達を乗せたヘリが来ましたよ」
「お、思ったより早かったですね!?わ、私は着替えを持ってきますね!」
メルルは慌てて牢屋敷に戻って行った。
私はゴクチョーと一緒にヘリに向かって歩く。
「今回は12人の魔女候補が運ばれてくるそうですよ…やれやれ…せめて業務時間内に来てほしいですね…」
「あはは…」
私はゴクチョーの話を聞き流しつつ、運ばれてきた少女達を『扉』に通していく。
「メルル、この子達を着替えさせておいて」
「はい!やっぱり便利ですね…その『扉の魔法』」
「メルルの治癒の魔法には負けるよ」
私たちは魔法を使うことができる。メルルは治癒の魔法、そして、私は扉の魔法。
私の扉の魔法は、現在自分がいる所と、一度行ったことがある、又は見たことがある場所を繋ぐ扉を出すことができる魔法。
運ばれてきた少女達を扉でメルルの元へ送っていき、着替えさせた少女達を、地下の監房に運んでいく。
(私達と同じ…魔法を使える少女達…立場が違うだけで、私もこの時代に生まれていたらここに来ていたんだろうな…)
私は少し同情的な視線を向け少女達をベッドに寝かしていく。
「二階堂ヒロ…」
私はその少女から、何故かとても懐かしい雰囲気を感じた…
気のせいだと思い、次々と少女達を運んでいく。
「ふぅ…これで運び終えましたね。お疲れ様です!」
「はぁ…また明日から騒がしくなるんですね…やれやれ…残業が増えないと良いのですが…」
「増えても主に働くのは私と看守でしょ。」
談笑しながら私達は牢屋敷を少女達の服を持っていき、地下のダストシュートに服を捨てていく。
「これで今日のお仕事は終わりですね。ゴクチョーさん、一応あの子達が起きて暴れたりするかもなので監視をお願いします!」
「やれやれ…鳥使いが荒いですね…わかりましたよ」
ゴクチョーが飛び去っていく。
私も看守に指示を出し、監房の監視に向かわせる。
「では、私も監房に行きますね。明日からよろしくお願いします。ハルちゃん」
「了解。メルルも明日から頑張ってね。おやすみ」
私はメルルと別れ、外のゲストハウスへと向かう。
そして水精の間の中に入り、ベッドに寝転がる。
(さっき寝たしあんまり寝れる気しないけど、明日からはベッドも使いづらいからな…今の内に堪能しておこう)
私は明日から始まる騒がしい日々に憂鬱な気分を覚えながら少しずつ眠りに落ちていった…
次の日私は日が出る前に起き、今日の予定を確認しているといつの間にか日が昇っていた。
すると水精の間にゴクチョーが入ってくる。
「おや、看守長。お早いんですね」
「今日から忙しくなるしね…ゴクチョーは地下で準備?」
「そうですよ。いつものアナウンスの準備です。やれやれ…メルル様も私に任せるんじゃなくて、ハルさんに任せればいいのに…朝から働かせるなんて、鳥使い荒いですよ。まったく…」
「しょうがないでしょ。私は入っちゃダメって言われてるんだから…」
私はメルルに地下にだけは入らないでほしいと言われている。正直気になるが、メルルがあまりに真剣な表情していたため入らないようにしている。
「それじゃあ、私は地下のマイクや、カメラの調整をしてきますので…看守長はアナウンスが流れたら、看守と一緒にラウンジ案内してください」
「了解。」
私は牢屋敷に向かって歩き出した。
途中、昨日邪魔だからと置いてあった鎌を回収し、地下の監房へと歩いていく。
そして地下の監房へと到着し、少女達が目覚めるまで待機しておく。
そして、数刻の時が経った頃、少女達の叫ぶ声が聞こえてくる。
『ねえ、ここどこなのかな!?』
『何を考えていますの!?わたくしをこんなところに閉じ込めるなんて!」』
『少女監禁とか、犯罪だよこれ!誰だか知らないけど、人生終わるよ!?』
『ざけんな…ぶっ殺すぞおらぁ!出せぇ!!』
少女達の困惑、怒号の声が聞こえてくる。
(今回は思ったより騒がしいな…)
そう思っていると、アナウンスが聞こえてくる。
「あ…もしもし…映像って見えてます…?何せ古くて故障が多いので…やれやれ」
「私、ゴクチョーと申します」
「詳しい説明がしたいので、ラウンジに集合してください。監房の鍵を開けますので、看守達の後についてきてください」
私はアナウンスを聞き、看守を連れ監房の前へ歩いていく。
「私は手前の4つの監房にいる8人を連れていくから、看守は奥の5人を頼む」
看守は何も言わず、奥に歩いていく。
『ぎゃああぁ!触んな化け物ぉ!キモいから!わかった、わかりました、行くから!』
……
私はオートロックが外れた鉄格子のドアを開け、少女達を連れ出す。
そして看守も連れ出し終わり、私と看守の後に少女達はおずおずとついてくる。
皆の表情はさまざまで、顔が青ざめて怯えている少女もいれば、私を睨んできている少女もいる。きらきらした目をして興味津々な少女もいれば、心ここに在らずといった少女もいる。
途中、喧嘩でもしたのか突き飛ばされている少女もいたが、後でメルルが治療するだろうと思い無視し、ラウンジへと少女達を案内していく。
そしてラウンジの前に着き、ドアを開け、少女達を中に入らせる。
全員が入ったのを確認し、ドアを閉め、私と看守はドアの両隣で待機する。
「いやぁ〜すごいですねっ」
突然、場にそぐわない、明るく、楽しそうな笑顔の青髪の少女が喋り出した。
「突然牢屋で目覚め!化け物に見張られていて!」
「なんかすごいことが起こっているのを感じます!高まっちゃいますよね〜!」
(こんな状況で明るく喋り始められるなんて…恐怖心がないのかな…?それともただ単に好奇心が強いだけ…?)
彼女が喋ったのを皮切りに次々に少女達が喋り始める。
「なあにが、高まっちゃいますよね〜、ですわ!」
「やべーことになってるんですわ!もっと危機感を持った方が良いんじゃないかしら!」
そして、少女達の会話は自己紹介へと移っていく。
最初に突き飛ばされていた一人称がボクの少女、桜羽エマ。
いかにも正義感の強そうな大和撫子、二階堂ヒロ。
スケッチブックを持った言葉を発さない少女、夏目アンアン。
自由気ままにラウンジの物の配置を変えている、城ケ崎ノア。
中性的な見た目をしている特に顔が整っている少女、蓮見レイア。
一人称がおじさんのおどおどしたギャルの見た目の少女、佐伯ミリア。
妖艶な雰囲気をしている他の子と同年代に見えない少女、宝生マーゴ。
ずっと私に対しての警戒心が強く睨んできている銃を携帯している少女、黒部ナノカ。
監房から出た時からずっと私達を睨んできている不良少女、紫藤アリサ。
最初に明るく喋り出した危機感が薄い探偵少女、橘シェリー。
どこか歪なお嬢様言葉を話すかん高い声の少女、遠野ハンナ。
毒舌で少しミーハーな雰囲気を持つ猫耳型のヘッドホンをつけた少女、沢渡ココ。
そして最後にこの牢屋敷の管理者であり黒幕の、氷上メルル。
13人の少女達の自己紹介が済み、蓮見レイアが話出す。
「全員の名前が知れて何よりだよ」
「ここにいる意味は、私にもわからない。けれど、冷静行動するべきだと思っている」
「とにかく騒がず、落ち着いて説明を待とうじゃないか」
彼女が言い放った直後、聞き馴染みのある羽音が天井付近にある通気口から聞こえ、ゴクチョーが飛んでくる。
看守はゴクチョーの後ろに立ち、私はドアの前に立ち、完全に出入り口を塞ぐ。
「あっ…人がいっぱい…。えっと…改めまして…この屋敷で管理を任されている、かわいいフクロウ、ゴクチョーと申します…」
「定時とかもあるので…さっさと説明していきますね…」
「あっと…すごく申し上げにくいんですが…皆さんは『魔女』になる因子を持っています」
ざわ、と不穏な空気が広がる。
だが、一部は納得している少女もいる。
ただ大半は、困惑し、理解ができていない様子だった。
「エラい人が決めた話では『魔女』はこの国にとって、災厄をもたらす悪らしいんです」
「わが国の法に基づいた全国検査によって………」
私はゴクチョーのいつもの説明を聞きつつ周りの少女達を見渡し、脱走しようとしている子がいないか監視する。
稀に説明途中で逃げ出したりする少女もいるからだ。
今回はいきなり逃げ出す少女はいないようだった。
彼女達がこの牢屋敷にいる理由を話終えた様子のゴクチョーは、私達看守の説明に移る。
「あっ、ちなみに看守はかつてここに収容された者が魔女になってしまった姿です。『なれはて』と呼ばれています」
「多くの魔女になったものは処刑されますが、与しやすい者を、マインドコントロールしてます。逆らったら殺すように洗脳してしまったので…ほんとすみません、逆らったら死んでください」
「そして、後ろに立っている鎌を持った人…彼女は看守長です。基本的に看守の指示出し、食事の提供など…まあ、この牢屋敷の雑務担当ですね」
彼女達の視線が一斉にこちらを向く。
「あと…彼女はなれはてとは少し違う存在なのですが…説明するのも面倒なので、看守と似たような存在だとでも思ってください」
「…よろしく。」
私は簡潔に挨拶を終え、彼女達の目線から目を逸らす。
重々しい沈黙の中、最初に一歩前へ出たのは、二階堂ヒロだった。
清楚な少女は、凛とした声をあげる。
「間違いです。私は悪ではない」
絶対的な自信を持っているのか。二階堂ヒロの声には一切の迷いがない。
「この国に災厄をもたらす危険因子はこの子の方だ」
びしり、と桜羽エマを指差す。
桜羽エマはひどく傷ついた様子で、そばにいたメルルがそっと二の腕に触れ、心配している様子だった。
二階堂ヒロの訴えに、ゴクチョーは心底面倒そうなため息をつく。
「はあ〜〜……あの、頼みます。悪者を受け入れてください。私は残業したくないですし、みんな平和で楽しくがいいので…」
「間違っている。私は悪じゃない」
二階堂ヒロは迷いなく歩き出す。
「この世界を正すことができるのは、私だけだ。私はこの世の悪を排す。まずは———。」
ヒロは暖炉脇に立てかけられていた、火かき棒を手に取った。
(何をする気だ…)
私は鎌に手をかけ警戒を露わにする。
二階堂ヒロが凶器を手に取ったことで、少女達の間に緊迫した空気が張り詰める。
「貴様だ!化け物!」
———ダッ、と、二階堂ヒロが地を蹴り、看守の方へと走り出す。
一気に看守へと距離を詰め、手に持った凶器を看守へと振り下ろす。
「悪は死ね!死ね死ね死ね!」
二階堂ヒロは何度も何度も火かき棒を振り下ろしていく。
(初めからこんなに殺意を剥き出しにしているのは初めて見た…初日から懲罰房行きになる少女はいたけど…これはもう…)
私はこの後起こる惨劇を予想し、ラウンジから出て、玄関ホールの掃除道具入れから掃除道具を取り出す。
そして、またラウンジへと戻る。
ラウンジのドアを開けると、二階堂ヒロの死体を持った看守が出てきた。
(やっぱりこうなったか…)
予想していた通り、二階堂ヒロは死んでいた。看守に死体を運ぶのを任せ、私はラウンジの掃除をするために看守と入れ違いのような形で部屋に入る。
少女達の張り詰めた空気が緩む様子はない。
当然だろう、化け物がやっと出て行ったと思ったら、化け物の親玉が帰ってきたのだから。
私は少女達の怯えた様な目線を無視し、ラウンジの掃除をしていく。
そして誰も話し出さない気まずい空気を察し、私は掃除をしながら口を開く。
「…好きに話していただいて大丈夫だ。幸い今は自由時間だし、規則さえ守ってくれるのであれば私から何かする事はない」
私が言い終わったあと、中央に立って話始めたのは蓮見レイアだった。
「看守長もこう言っている様だし、とりあえず現状の確認、それと情報共有をしようと思う。知り合ったばかりではあるが、私はキミたちをできる限り守りたい」
「先ほどのヒロくんのような振る舞い、また、あの状況下でアリサくんのような逃亡は全員に危険が及ぶかもしれない。今後は勝手な行動は謹んでもらいたい」
私は蓮見レイアの話を聞きながら、飛び散った血の跡、吐瀉物の処理などをしていく。
私が掃除を終えた頃、少女達は2つのグループに分かれているようだった。
「あれれ〜?グループが2分割しちゃいましたねっ」
「…どうやらそのようだね。みんなで協力し合うに越したことはないけれど、意見が合わないなら仕方ない」
「私達は一旦地下に戻るよ。ルールによれば、地下監房にいないといけない時間だ」
蓮見レイアが歩き出すと、彼女についていくと決めたらしい少女達がぞろぞろと続いていく。
私も掃除道具を戻しに、ラウンジを退出した。