牢屋敷の看守長 作:野良のなれはて
それから一日が経った。
あれから私は、何度か佐伯ミリアの懲罰房に訪れて少しだけ話をするようになった。
懲罰房に入れられた当初は、顔が真っ青で死にそうな顔をしていた佐伯ミリアが、今では少し生気を取り戻してマシな顔色になっていた。
「あれから、エマちゃんたちの様子はどう…?」
「全員あまり積極的に話す様子はないな。監房にこもりがちだ」
「そっか…そうだよね…おじさんがあんなことしちゃったから…」
佐伯ミリアが後悔した顔で俯く。
「まぁ、ここを出てから謝ればいいんじゃないか?」
「そ、そりゃ謝るよ!でも…謝っても元の関係には戻れないんだろうなって…」
「…桜羽エマなら、許してくれるんじゃないか?あの子は見たところお人よしだろう」
私たちが話していると、机の上のケータイが鳴り響く。
どうせ拘束されて取れないので、懲罰房内の机の上に置いていたのを忘れていた。
「悪いが、私が出るぞ」
「うん…」
電話をかけてきたのは桜羽エマだった。
私は一度懲罰房から退出し、桜羽エマからの電話に出る。
『え!?ミ、ミリアちゃん!?』
「何の用だ?桜羽エマ」
『看守長!?え、なんで!?』
「…丁度、囚人の様子を見に来てな、そしたらケータイが鳴り始めて、私が代わりにケータイを取っただけだ」
『ミリアちゃんは!?ミリアちゃんは無事なの!?』
「元気にしてるよ、拘束はしてるが…何回も問題を起こすならいずれ見せしめが必要になるから気をつけろ」
それだけ言って私は通話を切り、懲罰房内に戻る。
「誰からだった?な、なんて言ってた?」
「桜羽エマからだったよ。君が無事か確認したかったらしい」
「そっか…エマちゃんが…」
「少なくとも心配してくれる人がいるんだから、ちゃんと謝って償えばいい」
「うん…そうだよね」
佐伯ミリアが元気を取り戻す。
「じゃあ、そろそろ自由時間が始まるから、私は仕事に戻るよ。次は、就寝時間に来る」
「わかった、看守長のおかげで気持ちが楽になったよ。ありがとう」
「…」
私は懲罰房を出て歩き出す、しかしその足取りは重かった。
(そういえば、前にメルルから夏目アンアンが殺人事件を起こすかもって聞いたけど、誰が殺されるんだろう…)
その問いの答えはこの後すぐに判明することとなった。
佐伯ミリアとの会話を終え、外の見回りをしているとすっかり夜となった。
最近は少女たちも心の距離が縮まって少しずつ打ち解けている様に見えたが、佐伯ミリアの事件以降、その空気はすっかり失われている。
佐伯ミリアの存在は少女たちにとって大きかったのだろう。
(これだったら、謝って仲直りさえすれば元の関係に戻れるんじゃないかな)
私も何度か彼女と話してわかったが、あの子は優しい。
今回の子達はみんな善性が強いが、佐伯ミリアは上位にくるだろう。
(でも、何故仲が悪くなるようなことを…?あの子ならわざわざ人との仲が悪くなるような立ち回りはしないと思うんだけどな…)
(でも…ストレスを溜めさせるんだったら…このままの方がいいのかな…)
私がそう考えながら、牢屋敷に戻ると一階はものすごく静かだった。
いつもこの時間なら誰かが食事をとっていたり、シャワーを浴びた後に話していたりするが、今は誰1人いない。
(たまたまいないだけ…?それとも脱獄か?)
すると、ゴクチョーが私に向かって飛んでくる。
「あ、看守長ですか、丁度良かった。どうやら殺人事件が起こったみたいなので、現場の監視をお願いできますか?」
「え…?誰がどこで死んだの?」
「佐伯ミリアさんが、懲罰房にて亡くなったようです。やれやれ…こんな夜に殺人事件を起こさないでほしいですよね…」
「佐伯ミリアが…?」
私は殺害現場へと走る。
途中で、看守に連れられてラウンジへと歩く少女たちと目が合うが無視して走る。
私が懲罰房に訪れると、磔刑台に拘束された佐伯ミリアが死んでいた。
(そんな…誰が…いや、夏目アンアンか…)
私はメルルの言葉を思い出し、犯人を予測する。
(みんなと仲直りしたがってたのに…誰にも謝れずに…死んでしまったの…?)
私は立ち尽くした後、気を取り直し懲罰房の扉の横に立つ。
(これはいつものことだ…ここに来た時点でいつかは死んでしまうんだ…情に流されたらダメだ…看守長が囚人に情は持つな…!)
私は佐伯ミリアの死体をなるべく見ないようにし、死体現場の見張りに集中することにした。
それから少し経つと、桜羽エマ、橘シェリー、メルルの3人が佐伯ミリアの懲罰房へと来る。
「今回ゴクチョーさんに中に入っちゃダメって言われてないので、入っても大丈夫ですよね?」
橘シェリーが前に出て問いかける。
「…ああ、いいぞ」
「エマさん、メルルさん、時間もないのですぐに調査を始めましょう!」
「う、うん…」
3人が事件現場の調査をしに懲罰房の中へと入っていった。
少し時間が経った後、調査が終わったのか3人が出てくる。
すると橘シェリーが、壊れた錠前を私に見せてくる。
「先ほど、ミリアさんの部屋に入るために壊しちゃったんですけど…これって怒られたりします?」
「普段なら懲罰房行きだが…今回は特例として見逃そう」
それだけ聞き、橘シェリーは懲罰房から離れていく。
「それじゃあ、私は別のところの調査もしてきますね!」
「ボクも別のところを調べてくるね…」
桜羽エマの声は震えていて、立っているのもやっとな様子だった。
立ち去る時、桜羽エマがちらりと私の方を見る。
(なんだろう…?一瞬私の方を見た…?気のせいかな…)
いつの間にかメルルもいなくなり、懲罰房前には誰もいなくなっていた。
その後、宝生マーゴや紫藤アリサなどが懲罰房へと出入りし、調査を進めていった。
そして時間が経ち、荘厳な鐘の音が牢屋敷に鳴り響く。
私は懲罰房を離れ、一階の裁判所へと向かい、看守と扉横に立つ。
ふと、看守の方を見ると、いつも持ち歩いていたはずの懲罰房の鍵が無くなっていることに気づく。
(…え?なんで無いの?まさか盗まれた…?いやでもこの子から盗むなんて不可能…)
私が考えているとゴクチョーが喋り出す。
「魔女裁判のルールについては、皆さんもう理解されていますよね?」
「ええ。始めて構わないわ」
(この裁判が終わったら探さないとな…いや、もしかしたら今回の事件関係することかな…?まぁいいや…裁判が終わったら考えよう)
「それでは魔女裁判開廷です!」
重い雰囲気の中、裁判は進んで行き遠野ハンナと沢渡ココの証言により、佐伯ミリアの殺害時刻が20時から21時の間という推測が立てられる。
しかし、20時から21時の間は私を含め、ほとんど人物のアリバイがわからず、医務室にいたメルルと夏目アンアン以外はアリバイの証明ができなかった。
途中、拷問ショーなどの物騒な単語が出てきていたが、とりあえず聞き流すことにした。
次に死因が胸の刺し傷だとわかり、お腹がメッタ刺しにされている様子から犯人は非常に強い殺意があったことがわかった。
「『非常に強い殺意』ねぇ…」
「ならさあ、疑わしい人物なんてひとりしかいないんじゃねーの?」
「それって…」
「…私のことかしら」
自覚があるのか、黒部ナノカが反応する。
「…たしかに私が疑わしいのは否定しないわ」
「え〜?それって自白〜?」
「客観的な事実だもの」
「…でも私は別の人物が疑わしいと思うわ」
「そんなやついんの?」
黒部ナノカは私の方へと向く。
「…看守長よ」
「…看守長だけでなく、黒幕、もしくはそれに準ずるこの牢屋敷運営が関わっていると思っているわ」
「…私が前に言ったことは覚えているかしら?『佐伯ミリアが黒幕の可能性がある』と」
「残念だけど…調べた結果、その証拠は見つからなかったわ」
「は?勘違いだったってこと?」
「…ええ。私のミスよ。ごめんなさい」
「お前、銃撃までしておいて…」
「私が言っても意味はないけれど…でもだからこそ、私は運営の関与を疑っているわ」
黒部ナノカはどうやら私たち運営側が佐伯ミリアを殺し、黒部ナノカに罪を着せようとしていると思っているらしい。
「ふーむ…もし犯人でなかったリスクが大きすぎるので、一度詳しく話を聞きたいですね」
「…わかった。なら少し話させてもらおう」
「黒部ナノカは私を怪しんでいるようだが、私には殺す動機がない。それに私が殺したとしたら、わざわざナイフでメッタ刺しにする必要がない。持っている鎌で首を刎ねてしまえばいい」
「動機は私に罪を着せてスケープゴートにすることが、十分動機になり得ると思うわ」
「それに私は何度か佐伯ミリアの懲罰房へと訪れているあなたを見ている。その時あなたは何をしていたの?」
「それは…佐伯ミリアに頼まれて話し相手になっていただけだ…」
「話し相手にしろなんにしろ、佐伯ミリアが懲罰房にいる間、出入りしていたのは看守長だけ…そして私たちは鍵を持っていないから入ることができない」
「鍵が閉まっていた懲罰房に入れたのは、鍵を持っている看守長…あなただけよ」
そこで桜羽エマが反論してくる。
「…たしかにナノカちゃんの言う事はもっともだけど…」
「でも、最初から鍵が開いてた可能性もあるんじゃないかな」
どうやらエマは新しい可能性として、鍵が元々開いていたと発言する。
しかし、私は鍵を閉めたし、黒部ナノカも鍵が開いているのはありえないと反論する。
「『鍵はかかっていた』…!懲罰房の鍵を持っていない私たちに犯行は不可能よ…!」
「…それなら説明できるかもしれませんよ!」
橘シェリーは小さな鍵を証拠品として提出する。
どうやら佐伯ミリアの死体から発見された鍵らしい。
橘シェリーはこの鍵があれば懲罰房を自由に開閉できると主張する。
「鍵をミリアさんが持っていた以上、看守長さん以外にも鍵を開けることができた人がいたということになりますよね!」
橘シェリーが自信満々に言い放つが…
(あれって懲罰房の鍵じゃないよね…)
私がそのことについて突っ込もうとすると、先に黒部ナノカが反応する。
「それは懲罰房の鍵じゃないわ。そんなはずない…!」
「その鍵は懲罰房の扉についていた錠前には合わないはず…!」
(なんでそんなことを知ってるんだ…?鍵の情報なんて私ぐらいしか…)
他の少女たちも鍵の情報を知っている黒部ナノカに疑いの目を向ける。
そこで観念したのか、新しい証拠品として鍵を出す。
「新しい証拠を提出するわ…みんなで好きに見てちょうだい」
私の持っている鍵と同じものが出される。
「私の持っている鍵と同じだな」
私も持っている同じ懲罰房の鍵を出す。
「…どういうこと?」
「ふーむ…鍵は二つあったということでしょうか?」
「そうだな。基本的に私とそこの看守の2人がひとつ持っているんだが…まさか盗んだのか?」
「…この鍵は、懲罰房の中で拾ったのよ」
「…詳しく聞かせてもらおうか」