牢屋敷の看守長 作:野良のなれはて
それから一日が経過した。
私は紫藤アリサの釈放をしに懲罰房へ訪れていた。
房の鍵を開け、中へ入ると紫藤アリサが壁の隅に座り込んでいた。
「紫藤アリサ。懲罰房へ入って2日が経過した。罰則は終了だ」
紫藤アリサはよろよろと立ち上がり、私を睨む。
「やっとかよ…チッ…いつか絶対ぶっ殺してやるかな!」
「好きにすればいい。だが、規則を破った時は覚悟しておくんだな」
紫藤アリサを房から出し、取り上げていたスマホを渡す。
そのスマホを荒々しく奪い、紫藤アリサは懲罰房の外へと歩き出した。
私も懲罰房を片付け、地下を歩いていると沢渡ココと出会う。
「ひっ…か、看守長…」
「沢渡ココか…ここで何をしているんだ?他の囚人は自由時間でみんな上にいるが」
「そ、その…ノアっちが部屋に篭って絵を描いてるじゃん?あてぃし、どこかでその絵を見たことがあると思って…ちょっと本人に聞いてみようかなって」
「ああ…城ケ崎ノアか、あの子はここにくる前は『バルーン』という名前でアーティストをしていたらしい」
私は囚人名簿に記載されていた内容を思い出しながら伝える。
「マ、マジ!?あの…!?」
「私はよく知らないが、外では有名だったらしいな。まぁ嘘だと思うなら本人に聞いてみればいい」
沢渡ココは真偽を確かめるためか、それとも早く私との話を切り上げたかったのか、さっさと城ヶ崎ノアの房へと去ってしまった。
私も上に戻り、看守の仕事へと戻った。
エマside
夕食後、エマたちはシャワールームを利用していた。
昨日も利用したが、シャワールームには各囚人番号が振られたロッカーがある。
その中には、下着や衣類の替えがきっちり収められていた。
規則によれば着ていた服は、シャワールームに設置されているダストシュートに捨てなければならない。
「服を捨てるなんて…ぐぬぬ、もったいないですわ…」
「このダストシュート地下の焼却炉に通じているんですよね。焼却炉室を地下で見かけました」
「ああ、そういえば…」
(地下を探索した時、焼却炉室があるのは見かけた)
(魔女図鑑の規則には『毎週月曜の15時に稼働』とあったっけ)
「まだ全然着られますのに!」
「私たちが魔女候補だからかもしれませんねー。着てたものを全て焼却処分って、偏見のようなものを感じます」
「うん…」
「単純に洗濯が面倒なのかもしれませんが!」
「でもそこまでチェックされていない感じしますし、嫌なら捨てなくてもいいのでは。」
「看守長さんは現場さえ見られなければ、意外と見逃してくれそうですよ?」
「うっ…嫌ですが、規則違反がバレたら何をされるかわかりませんし…」
「仕方ないですわ、くそ〜〜!」
「———しかも毎日同じ服を着なきゃならないなんて!せめて寝巻きは用意してほしかったですわ」
シャワーを浴びた後も、ハンナの愚痴は続いていた。エマは苦笑を浮かべる。
「ま、まあまあ。同じ服でも替えがあるのはありがたいよ」
「ゴクチョーさんたちの趣味かもしれませんねぇ」
火照った体から湯気を立てながら、エマ、シェリー、ハンナの3人で通路を歩く。
「ふん、趣味は悪くないんじゃないかしら」
「気に入ってるんですね。」
「べ、べべべべっつにぃ?気に入っていませんけどぉ?」
(なんか…こういうのいいなって思ったり)
歩くエマの口元は緩んでいる。
(こうやって友達同士でおしゃべりしながら歩くのって、憧れだった)
(もちろん、ボクらは囚人で、ここは牢獄なんだけど…なんか忘れちゃいそうになるな)
「あ、エマさん、ハンナさん、スマホ見てください」
唐突にシェリーが切り出したことで、エマとハンナはスマホを取り出す。
すると、蓮見レイアの配信ランプが点灯しており、レイアの顔が画面に映った。
「———団結するためにも私も定期的に配信をしようと思う」
「みんな、気持ちをしっかり持ってほしいんだ。どうか衝動的にならないでほしい」
「今は従うしか方法はない。だが、私たちは決して屈しない」
「全員で生き残って、必ずここを出るんだ。大丈夫。私が必ず、なんとかしてみせる」
力強いレイアの言葉はエマの胸を打ち、瞳が潤む。
(さっき食堂でひりついて、みんなが怖がってたから安心させるために…レイアちゃんは偉いな…)
(ボクは自分のことしか考えられてない…)
「ふんっ、こんなもの見る価値ありませんわね」
捨て台詞を吐きながら、ハンナは食い入るようにスマホを見ている。
「ふむ。」
その様子が興味深かったのか、シェリーがさっとハンナのスマホを取り上げた。
「!」
ハンナが慌てたように、スマホに映ったレイアの姿を追い求める。
「何しますの!お返しなさい!」
「ハンナさん、本当はレイアさんのこと好きなんじゃないですか〜?そんな一生懸命になって」
ぶんぶんとスマホを振り回され、ハンナが真っ赤になって、忙しなく視線を動かしている。
「このゴリラ女!返せ!!」
「ふふふ、捕まえてごらんなさいな〜」
追いかけっこを始めた2人に、エマが呆れた表情になってため息を漏らした。
その間、エマ自身もレイアの映った画面から目が離せずにいる。
(レイアちゃんって、女の子を惚れさせる魔法でも使えるのかな)
そう思っていると、追いかけっこをしていた2人の目の前に、扉が現れ中から看守長が出てきた。
「ひっ…」
ハンナは顔を青ざめて固まり、少女たちの間に緊迫した空気が張り詰める。
シェリーは慌てて減速し、看守長とぶつかる寸でのところで止まる。
「わわっ!看守長さん!いきなり出てくると危ないですよ」
「それはすまない。だが、廊下を走るのは危険だからやめるように」
(アリサちゃんが言ってた看守長の魔法って今の扉のこと…?いきなり目の前に現れるなんて、まるでテレポートみたい…)
「はーい!わかりました。ところで看守長さん、今の扉って魔法ですか?やっぱり看守長さんも魔法が使えるんですね!」
「そうだ。私の魔法は『扉の魔法』。自分のいる場所と、行きたい場所を繋ぐ扉を出すことができる魔法だ」
(ハンナちゃんも長い間飛べないとかの条件があったし、看守長の魔法にも何が条件があるのかな…?)
シェリーも同じことを思ったのか、看守長に魔法についての質問をする。
「なるほど…もし脱走がバレたらその魔法で飛んでくるというわけですね。何か条件とかはあるんですか?距離制限とか!」
「それは言えないな」
「話はそれだけか?私はこれから用事があるので失礼する」
看守長は話を切り上げこの場を去って行った。
看守長が去った事で張り詰めた空気が少し緩む。
「シェリーさん…あなた、よく平然と看守長に話しかけられますわね」
ハンナは少し引いた様な目でシェリーを見る。
「意外と話は通じますよ?それに牢屋敷の管理者側で唯一人間の見た目してますからね。ハンナさんも次は看守長と話してみたらどうです?」
「考えておきますわ…」
看守長side
私はエマ達と別れ、医務室へと向かう。
メルルに足りなくなった薬を持ってきてほしいと頼まれていたからだ。
私はノックをし医務室へ入る。中ではメルルがハーブティーを飲んで待っていた。どうやら夏目アンアンは外出しているようだ。
「頼まれてた薬持ってきたよ。解熱剤と睡眠薬。少し多めに持ってきちゃったから余るかも」
「ありがとうございます。今後何が起こるかわかりませんし…多めに持ってきてくれるのは助かります」
「夏目アンアンの調子はどう?」
「顔色はまだ優れませんが…外に出ることができるぐらいには具合は回復しました」
メルルはそっとハーブティーを入れたカップを私に差し出す。
「せっかくですし、少しだけゆっくりしていきませんか?アンアンさんも自由時間が終わるまでは出歩くつもりらしいですし…」
「そうだね…じゃあ少しだけここにいようかな。」
私は椅子に座り、メルルと少しの間お茶を飲みながらお互いの近況を報告しながら談笑をした。
「そういえば、レイアさんが目立てないことに対して悔しがっているみたいです…もうあと一押しで殺人をするかもしれません」
「蓮見レイアが…?」
私から見た蓮見レイアはとても殺人を犯すような少女には見えなかった。少し芝居めいた振る舞いは目立つが、素行も悪くなく、殺人を犯すとは到底思えなかった。
「今はノアさん…バルーンの話が中心になっていて、レイアさんはあまり目立てていないといった状況です」
「なので…近い内に殺人事件が起こると思います」
「そっか…」
私達が話していると、メルルのスマホが震える。
「あっ…そろそろ自由時間も終わりみたいですね」
「そうみたいだね。夏目アンアンに見つかるのもまずいし私もそろそろ休むよ」
私は医務室から出るために、扉を出す。
「お茶美味しかったよ。また時間があればくるね」
「はい!」
私は扉を開け、医務室から退出した。
看守長が退出してすぐに医務室にアンアンがやってくる。
『メルル以外にも誰かいたのか?』
「いえ…?誰もいませんでしたよ?」