牢屋敷の看守長   作:野良のなれはて

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第七話

 

 

それから私は怪しまれることがなく裁判は進んで行き、蓮見レイアが城ケ崎ノアを殺したと自供した。

私は何度も裁判を見ているから多少慣れてはいるが、少女たちの顔は皆一様に暗い。

少女たちによる魔女を選出する投票は、全員一致でレイアとなった。

 

「なんで…?なんでノアちゃんを殺したの?」

 

「わかんないよ…ノアちゃんは何も悪いことなんてしていなかったじゃないか…!なんで!?」

 

桜羽エマが悲痛な声で蓮見レイアに問いかける。

 

「ノアくんの同室であるアンアンくんが倒れただろう?それで私は、彼女を守らないとと思ってしまった」

 

蓮見レイアが夏目アンアンを守るためだったという嘘の動機を話していく。

いや、正確にはそれもあるのだろうが、彼女の動機はもっと根深いものだ。

 

「…ちが…っ」

 

声を上げた夏目アンアンが青ざめ、茫然と蓮見レイアを見る。

 

「アンアンちゃん…?一体何を…?」

 

「———もういいよ。やめるんだ、アンアンくん」

 

「私のことを庇ってくれなくてもいいんだ。もう覚悟は決めたよ」

 

「…っ」

 

アンアンの片目から、ひとしずくの涙が頬を伝い落ちていく。

 

「でも、これだけはわかってほしいんだ。私はただ、アンアンくんを守りたい一心で…」

 

「ちが…ちがう。レイア、貴様は間違っている」

 

「わがはいは、弱くない…ノアが、わがはいに絵をくれた…お守りだと…」

 

アンアンがスケッチブックに描かれた蝶の絵について説明し始める。

相性が悪いと思っていたが、知らないうちに城ケ崎ノアと夏目アンアンは仲良くなっていたらしい。

夏目アンアンのために、赤色の液体は全て蝶になる魔法をかけたとのことだ。

 

「…ノアが最後に見たのは、おそらくレイアの姿、だろう」

 

「ノアは、刺されてもなお、レイアを怖がらせないように血を、蝶の絵に変えたんじゃないのか」

「本当にみんなのことを守ろうとしていたのは、ノアの方、じゃないのか…!」

 

「———!」

 

蓮見レイアが衝撃によろめき、その場に膝をつく。

 

(…どうやら…思ってた以上に彼女たちの絆は深まっていたっぽいな…まだ会って数日しか経っていないのにも関わらず…)

(見ている側としても中々これは…キツイな…)

 

少女たちの間に重苦しい空気が立ち込める。

 

何度も裁判を見てきているが、初回からここまで仲が良かった事は滅多にない。

初回から私も怪しんできた所を見るに、この中に殺人鬼なんていないと内心皆期待してもいたのだろう。

 

「あっ、お話終わりました?時間も押してますし、そろそろ進行したいんですが…」

「各自のスマホにボタンが表示されていると思うので、全員がそれを押したら処刑執行スタートします」

 

「えっ、ボ、ボクらが押すの…?」

 

「ええ、そのように決まっていますのでお願いします〜。ぐーっと長く押していただけますと…」

 

少女たちは青ざめながら、次々に手元のボタンを押していく。

 

「はい!ではこれより、魔女の処刑を執行します〜」

 

ゴクチョーが処刑台を操作し始めたのに合わせて私と看守が動く。

看守が蓮見レイアをがっちりと捕まえてステージ上に引きずっていく。

私は処刑台の天使像の横に立ち、邪魔や介入ができないようにする。

 

「ま、待ってくれ…!い、いやだ!『あれ』中には入りたくない!」

 

必死にもがく蓮見レイアを引きずり、処刑台に連れていく。

そして、天使像が中央から割れて、開いていく。

そこであちこちから悲鳴が漏れた。

 

天使像の内部には大量の細長く鋭い針がついていて、これを閉じられたら、中にいる人間は全身串刺しになる。

私と看守が蓮見レイアを拘束していく。

 

そこで、蓮見レイアが私に向かって叫ぶ。

 

「裁判のやり直しはしなくていいから!お願いだから、せめて、せめて他の処刑方法にしてください!」

 

「…悪いが、処刑台についての権限は私にはないんだ。ごめんね…」

 

私と看守が拘束したレイアを処刑台の中に入れる。

 

「外見は天使像だけど、処刑方法はアイアンメイデンということよね」

「やっぱり悪趣味だわ」

 

うっとりとしたようにマーゴが漏らした言葉に内心、共感する。

そして、青ざめた顔になったレイアが必死に叫ぶ。

 

「いやだ!お願い!お願いします!これを閉めないで!!やだあぁぁぁ!!」

 

「お願いだから他の処刑方法にして!!閉めないでください!!」

 

「他の処刑方法にしよう!!これはダメだ!!だってみんなに見えないじゃないか!!」

 

その悲痛な叫びに少女たちはほんの少し違和感を抱いたようだった。

どうやら、本当の動機に気づいたらしい。

 

「———やっぱね。みんなを守りたかったなんて、嘘ばーっか。ノアを殺した動機、わかっちゃった」

 

沢渡ココが邪悪な笑みを浮かべ、蓮見レイアを見据える。

 

「あんたがノアを殺したのは、自分が一番目立たない状況が許せなかったからでしょ?」

 

「ああ、なるほど!『バルーン』の方が動機でしたか!」

 

「知名度的には、芸能人のレイアさんより、圧倒的に上ですもんね!」

「何せノアさんは、世界で有名なアーティストです。ああ、やっと殺害動機がしっくりきました!」

 

「ちが、ちが…」

 

王子様の仮面を容赦なく剥がされていき———

その顔に亀裂が入り、手の爪がありえないスピードで伸びていく。

 

魔女化の兆候だ。

 

「あ、ああ、あ———」

 

「ああそうだ!認めるよ!私は目立ちたかった!」

「一番目立たないといけなかった!だから、許せなかった!」

 

「城ケ崎ノアに、舞台の主役を奪われて、あいつを殺さないといけないと思ったんだよ!」

 

「あいつが邪魔だったんだよ!」

 

蓮見レイアは串刺しになるのが嫌なのではなく———

 

「これを閉めたら、みんなが私のこと、見れなくなっちゃうじゃないか!!」

 

「もっと私を見てくれよ!私だけを見てよ!やだぁぁぁ!!」

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、悲鳴を閉じ込めるように、天使像が閉じられた。

 

 

 

 

 

閉じられた天使像の中で、蓮見レイアは絶叫していた。

しかしその姿を見ることはできない。天使像が閉じているから。

 

少女たちの処刑方法は基本的に彼女たちのトラウマ…禁忌を抉ることを目的としている。

私は具体的には知らないが、地下で毎回別のものを用意しているらしい。

 

(…トラウマを抉るような事をしてごめんなさい…せめて楽に死なせてあげられたらな…)

 

天使像の下から、蓮見レイアから流れ出たであろう血液が滴り、台座へと広がる。

その生々しい赤は、皮肉なことに全てが美しい蝶へと変わっていく。

 

「なぁ、もうやめろよ!コイツは十分苦しんだろ!!」

 

耐えきれなかったのか紫藤アリサが叫ぶ。

すると、ずっと絶叫していた声が、聞き慣れたおぞましい唸り声に変わっていく。

もはや蓮見レイアの面影はなく、獣のような咆哮だった。

 

「無事に魔女のなれはてとなりましたので、彼女は永遠の牢獄へと閉じ込めます」

 

ゴクチョーが宣言すると、仕掛けが作動し、処刑台が地下へと片付けられていった。

 

 

 

 

 

その後、私は大量の監視フクロウが飛び回っている森の奥で寝転がっていた。

今日は寝れる気がしなかった。

 

あの裁判の後、黒部ナノカがゴクチョーを撃ち、佐伯ミリアを黒幕と誤認する事件などがあったが、特にそれ以外問題はなかった。

 

私は蓮見レイアから向けられた目線を思い出す。

基本的には恨まれたり、怯えるだけなのだが、蓮見レイアは少し違った。

 

恐怖で顔を引き攣りながらも、懇願するような目…私はなぜか既視感があった。

私は何度かそれを見たことあるような———

 

突然、飛び回っていた監視フクロウの一匹がこちらに寄ってくる。

どうやら、黒部ナノカが監房に戻っていないらしい。

 

(面倒くさいな…ゴクチョー風に言えば残業ってやつか。まぁでも、今日は寝れる気がしないから働くか…)

 

私は黒部ナノカを探しに見回りに戻った。

 

 

 

 

 

次の日の昼頃、私は地下の監房に訪れていた。

降りてくる途中、一階で少女たちが集まっているのを確認し、誰もいないのがわかっていたからだ。

今なら気づかれずに監房に来ることができた。

 

そして、城ケ崎ノアと蓮見レイア、そして二階堂ヒロの房内に花瓶を置き紫苑の花を挿す。

誰かが亡くなった後、こうやって花を房内に飾るのが私の習慣だ。

だが牢屋敷の黒幕側である以上、私に弔う権利などない。だから、これはただの自己満足だった。

 

(…大魔女を見つける過程の中、君たちの犠牲があったことを私は決して忘れない)

 

私は監房を後にした。

 

 

 

エマside

 

少女たちとラウンジで脱獄計画について話した後、エマは監房に戻ってきていた。

そして自分の房内に、見慣れないものがあるのに気づく。

 

(花瓶と花…?誰が置いていったんだろう…)

 

エマは気になったが、殺風景な房内に少し彩りが加わったことで自然と顔が綻ぶ。

 

(誰かわからないけど…もしわかったらお礼を言おう)

 

持っていたスマホで写真を撮り、エマはベッドに寝転がりながら夜の自由時間まで過ごした。

 

 

 

 

 

 

夕食の時間となり、食事をしながら、エマはハンナとシェリーに監房内にあった花について聞く。

 

「そういえば、ボクの部屋に花が置いてあったんだけど、2人の部屋にはあった?」

 

「いえ、特に花なんて置いてありませんが…」

 

「私の部屋にもありませんわ」

 

「あれ?じゃあボクだけなのかな…?」

 

エマは花の写真を2人に見せながら話していると、おずおずとミリアが近づいてくる。

先日や今朝の出来事もあったからか、少し居心地が悪そうにしている。

 

「ど、どうしたの?ミリアちゃん?」

 

「その…さっきエマちゃんが話してた花のことなんだけど、おじさんの部屋にもあったんだ」

 

「ミリアさんの部屋にもですか?」

 

「うん…いきなり置いてあるなんてちょっと不気味なんだけど、殺風景な部屋には少しありがたくて…誰かがくれたならお礼を言いたいんだ」

 

「そうなんだ…でもごめんね。ボクも誰が置いたのかは知らなくて…」

 

「そっか…あはは…じゃあ、見つけたらエマちゃんにも教えるね」

 

ミリアはそれだけ言い、そそくさと席に戻っていった。

 

「ミリアさんとエマさんに花…2人共同室の方がいなくなってますし、誰かが花を手向けたんでしょうか?」

 

「そうかも…」

 

 

 

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