牢屋敷の看守長 作:野良のなれはて
第八話
翌日、午後の自由時間。
エマたちはマーゴに呼ばれ、図書室にて魔女のことが記された本を見ていた。
その本は見たことがない文字で記されていて、読むことができなかった。
「この本、図解が多いの。だから魔女について書かれているってわかったのよ」
「ほら、これなんかは私たちの魔法について描かれてるんじゃないかしら」
「あ!本当です!この絵の女の子、ちょっと浮いてる!」
「ね?興味深いでしょう?私たちの魔法がどう進化する読み解ける」
エマたちが一通り読み終えると、もう一冊マーゴが持ってくる。
「こっちは魔女についての本とは少し違うのだけれど…」
マーゴは同じ言語で記された本を開く。
「これは…絵本でしょうか?ところどころ文字がありますけど、読めませんね!」
「どうやら人間と魔女の歴史みたいなものが描かれているの」
「正直、絵本だからフィクションだと思ったんだけど、文字以外も描かれている本は珍しくて、何か脱獄の手がかりになるかもと思ったの」
(前にゴクチョーから聞いた話だと、人間と魔女で交流があったことは事実みたいだ…もしかしたら大魔女のこのについても書かれているかも)
エマはさっき見たサバトの図解を思い出す。
「なるほど…少し読んでみたんですが、何かしら人間と魔女で争いがあったみたいですね」
「この絵本、少し怖いですわ…」
シェリーとハンナは絵本読み、好き勝手に感想を語る。
「絵本は子供の言語学習にも使われると言うし、さっきの本の解読にも使えるかもしれないわ」
マーゴは息をついて本から目を離し、エマたちの方へと目を向ける。
「この本を見てもらうついでに、魔法を使った脱獄方法について話し合いたかったの」
「そうだね…!改めてみんなの魔法を確認してみよう」
エマたちは自分たちの魔法について共有しあった。
途中でココも加わり、マーゴの魔法はモノマネ、ココの魔法は千里眼ということがわかった。
どちらの魔法も脱獄には使えそうにない。
「あてぃしは…あてぃしは…早くここを出たい…!」
「早く出なきゃ…」
悲痛な呟きを漏らし、ココは踵を返して出ていった。
「ココちゃん、心配ね…ずいぶんとストレスが溜まってるみたい」
(みんな、限界なんだ…いつ誰が魔女になってもおかしくない)
(でも、マーゴちゃんの『モノマネ』も、ココちゃんの『千里眼』も脱獄には向いていない)
エマはもう一度頭の中で少女たちの魔法をおさらいしていく。
———マーゴの『モノマネ』
———ココの『千里眼』
———ナノカの『幻視』
———シェリーの『怪力』
———ハンナの『浮遊』
———メルルの『治癒』
———ミリアの『入れ替わり』
———アンアンの『洗脳』
———アリサの『発火』
そして、看守長の『扉』
(看守長の魔法を使えば、みんな元いた場所にすぐに飛べるんだろうな…)
「ふーむ…なんとか看守長さんを懐柔したりできないんですかねえ…」
「看守長を?シェリーさん、あなた中々度胸ありますわねえ…」
「できるならそれがベストなんでしょうけど、できなかった時のリスクが大きすぎると思うわ」
(他に脱獄できそうな魔法なんて、やっぱりハンナちゃんの『浮遊』以外には…)
開かれたままの本のページが、エマの目に飛び込む。
そこには大空を自由に飛ぶ魔法の姿が描かれていた。
(…ボクらもこんな風に自由に空を飛べたら、楽しいんだろうな)
(でも、ボクらはその分科学を発展させて、空を自由に移動できる…)
「あ!!」
「どうしました、エマさん?」
「脱獄方法、見つけたかも…!」
閃きを得たエマは、前のめりになって少女たちに向けて、語り出した。
看守長side
蓮見レイアがなれはてとなって2日が経った。
黒部ナノカはまだ捕まえられていない。
監視フクロウから報告が来るたびに向かっているが、逃げる準備を整えているのか扉で向かっても姿を見ることもできない。
私が外を歩いていると、パンっと遠くから銃声が鳴る。
私は銃声が鳴った方向に扉を出し向かう。
「マズイ、逃げなきゃ…!」
「何がマズイって?」
「ひっ…」
「…え?」
私が突然現れ、エマたちは驚いて固まっているようだ。
特に佐伯ミリアは可哀想なぐらい震えて、顔が青ざめている。
「銃声が聞こえたんだが、君たちが撃ったのか?」
「え、えっと…ボクたちが撃ったわけじゃ…」
「どっちかというと、撃たれた側ですね!」
「なるほど。黒部ナノカの場所はわかるか?」
「そ、それは———」
話の途中、私たちの間に銃弾が飛んでくる。
「あっちか…君たちは早くここから離れたほうがいい」
「そうですね!いつ銃弾が当たるかわかりませんし」
「いや、それもあるが、看守が猛スピードで来てる。あの子は融通が効かないから最悪殺されるよ。」
「え!?」
私はそれだけ言い、銃弾が飛んできた方向に走る。
後ろを振り返ると、慌てて少女たちは牢屋敷の方へと逃げていた。
すると猛スピードで来ていた看守が桜羽エマたちを無視し、こちらに向かってくる。
「ん…?なんで無視して…まぁいいや。丁度いいから手伝っ———」
看守は私に向かって鎌を振るってくる。
それを咄嗟にかわし、距離をとる。
「なんのつもりだ…?」
「…」
看守は銃弾を飛んできた方向を塞ぐようにして立っている。
それはまるで黒部ナノカを庇っているかのような———
「っぐ…!」
『ハルちゃん!いつか一緒に脱出しようね!』
『いつか妹にも会ってほし———』
「はぁ…はぁ…」
(気持ちが悪い…頭の中に指を突っ込まれて…掻き回されるような…)
(なんで…急に…)
私は黒部ナノカを探すのをやめ、看守に背を向けて歩きだす。
看守が私を追ってくる様子はなかった。
(とにかく気分が悪い…少し花畑で休もう…)
私は花畑の方へと歩きだした。
「ん…あれ…寝てたのか…」
私は花畑で目を覚ます。
すっかり日も暮れて、外は真っ暗になっている。
今は夜の自由時間のようだ。
(まだ頭が痛い…しばらく黒部ナノカを探すのはやめよう…)
私は起き上がり、医務室の方へと向かう。
医務室の扉を開けると、中にはメルルがいた。
「あ…!ハルちゃん」
「ちょ、ちょっと!今は誰もいないけど…もし聞かれたらまずいよ…」
「大丈夫ですよ、先ほど皆さんは各々好きなところに向かったので」
「そ、そうなの…?」
私はメルルと話しながら医務室に来た目的を話す。
「ここに頭痛薬ってあるでしょ?それを1つもらいたくて…」
「頭痛薬…ですか?別にいいですけど…体調が悪いんですか?」
「まぁ、ちょっとね。寝不足かなー…あはは…」
私はメルルから頭痛薬を受け取り、その場で飲む。
「この薬は即効性はありませんが…次第に効いてくると思います」
「ありがとう、メルル。じゃあ私は出て行くね」
「はい!おやすみなさい、ハルちゃん!」
私は医務室を退出した。
エマside
それから数日が経過した。
エマたちの脱獄計画は順調に進んでいる。
(後はもう、アリサちゃんさえ説得できれば…)
エマは起き上がり、今日もアリサを捜索することを決めていた。
(毎日説得は続けてるんだけど…なかなか手ごわい)
アリサは脱獄に消極的なわけではない。
協力自体をそこまで嫌がっている風でもない。
(アリサちゃんは大事なところを任されるのを怖がってる…?)
(でも、今日こそアリサちゃんを説得するんだ!あとできれば、ナノカちゃんも見つけたい!)
限られた自由時間の中で、エマは奔走する。
エマはアリサを探しに湖に来ていた。
アリサは見当たらない時は大抵、森の中にある湖の畔にいる。
エマはそう踏んで足を運んだのだが、今日は誰もいなかった。
(ここは空振りかあ)
この一帯は薄暗く、エマは少し怖ろしさを覚える。
「アリサちゃんはなんでここが好きなんだろう」
ぽつりと呟く。
「———彼女は、自分が怖いんだと思うわ。だから、常に水のばにいる」
どこかから声が聞こえて、エマははっと顔を上げた。
茂みの中から、ナノカの姿が垣間見えた。
「ナノカちゃん!今までどこに———」
ナノカの姿はすぐに見えなくなる。
「ナノカちゃん!話を聞いて———!」
「ミリアちゃんは黒幕じゃないよ!すっごく良い子、ううん、良い人だから!」
「アンアンちゃんやココちゃんも、すっかりミリアちゃんに懐いちゃって…アンアンちゃんたちだけじゃない。ボクらみんな、ミリアちゃんの存在に救われてるんだよ!」
「お願いだからミリアちゃんを狙うのはやめてほしい!!」
「ボクたちと一緒に、ここを出よう!」
「…私の目的は出ることじゃない。死のうと魔女になろうと、復讐を遂げてみせる———」
ナノカの声を追いかけ、エマは走った。
しかし声が聞こえたところには、既に誰もいない。
(ナノカちゃん…)
「ボクは…みんなと生きて、ここを出たいよ」
エマはふと足元を見る。
先ほどナノカがいた場所に紙切れが落ちているのに気づく。
(これは…)
どうやら、看守長の行動パターンのようだった。
そして紙の隅に、小さく文字が書かれている。
『あなたたちがここを脱獄するつもりなら、これを参考にして』
「ナノカちゃん…!」
エマはそのメモをポケットに仕舞った。
(ナノカちゃんも協力してくれたんだ…!脱獄、絶対成功させるぞ!)
エマはアリサを探しに湖を離れた。