牢屋敷の看守長 作:野良のなれはて
看守長side
数日が経った夜、私はメルルに呼ばれ医務室に訪れていた。
「あ、ハルちゃん!来てくれたんですね」
「そりゃもちろんメルルの頼みだしね。それで…何か用?」
「そろそろまた殺人事件が起こりそうなので、その報告と、あとはハルちゃんとちょっとお話ししたいなと思って…」
「ふーん…別にいいけど、長く話すのは危ないんじゃない?前に一回、それで早く黒幕ってバレたこともあったでしょ?」
私は昔の魔女候補たちを思い出す。
「それは、そうですけど…でも私、心細いんです…エマさんたちは私と仲良くしてくれていますけど、いつかいなくなっちゃいます…」
「一緒に大魔女様を探してくれて、隣を歩いてくれるのはハルちゃんしかいないんです…だから、少しぐらいダメですか…?」
上目遣いになり、メルルが私の顔を見る。
「…わかった、少しだけね」
「やった!お茶淹れますね!」
(こうやって甘えられると弱いんだよな…私…)
普段あまりわがままを言わないメルルだからこそ、甘えてくれた時は一緒にいてあげたいと思う。
「熱いから気をつけてくださいね」
「ありがとう。メルル」
「へぇ… 気球で脱走ねぇ…」
「はい…エマさんが主軸となって脱獄計画を立てたみたいです」
私はエマに脱獄方法を探しても問題ないと伝えていた。おそらくもう見つけたのだろう。
「何か対策を考えないとね」
「それに関してなんですけど…」
メルルがおずおずと話す。
「アンアンさんが脱獄することに不満を持っているみたいで…おそらくこのまま自然に失敗すると思います」
「そうなの?なら、私は何もしなくて大丈夫そうだね」
「そうですね。ハルちゃんはいつも通り看守長として仕事をしていてください」
メルルの言うとおりに進むのなら、脱獄の失敗により少女たちの仲に亀裂が入るだろう。
最初に、リーダーシップがある蓮見レイアが死んでしまったが、桜羽エマによって少女たちの間に絆が生まれているらしい。
(それにしても、今回の子達は優秀だな…脱獄方法を見つけるのが早い。桜羽エマのおかげかな…)
「そういえば、監房内に花を供えてるのってハルちゃんですよね…?噂になってましたよ」
「あー…そうだけど、ダメだった…?」
「いえ…ダメじゃないんですけど、なんで監房に花を置いているんですか?前からずっと気になってて…」
「それは…みんな急にここに連れてこられて、死んでしまうでしょ?それなのに弔う墓も無いから、せめて花ぐらいは…と思って」
本当はちゃんと地下に行き彼女たちに花を供えたいが、メルルに地下には行くなと言われているので彼女たちがいた監房に花を置いている。
「まぁ…どの面下げて花を供えてるのって話だけどね…あれはただの自己満足だよ」
「それでも…ハルちゃんは優しいですよ」
「あはは…ありがとうメルル」
そのまま私とメルルは自由時間が終わるまで雑談をした。
エマside
———脱獄計画決行の朝、エマはシェリーとハンナに連れられ、外に出ていた。
そこには、破壊された気球の残骸が落ちていた。
「わたくしたちが頑張って作ったものが…こんなのってないですわ…」
「一体誰がこんなことを…」
騒ぎを聞きつけた少女たちが続々と集まってくる。
そして、ひどい有様になっている気球に、皆茫然と立ち尽くしていた。
脱獄は失敗した、その現実が少女たちに突きつけられる。
「おい、おっさん!」
「ぐっ…」
アリサがミリアの首リボンを掴み上げ、至近距離で睨む。
「隠し場所はおっさんしか知らなかったはずだ。おっさんがやったのかよ!」
「…」
ミリアは何も言わない。
(そんな、ミリアちゃんがそんなことするなんて、そんなわけ…)
エマの脳裏には、昨日話していた帰りたくないというミリアの本音が過ぎる。
そこでスマホに通知がはいる。
『監視フクロウより報告が入りましたので、お知らせしますね…』
『佐伯ミリアさんが、外出禁止の深夜に外を出歩いていたそうで』
『規則を破ったため、懲罰房に入ってもらいますね…やれやれ』
まるでミリアの犯行を裏付けるかのような内容の通知が届く。
「なるほどぉ…深夜に脱け出して、ここに来て、気球を破壊したんですね」
「ひどいですわ!一体どうしてそんなことを!」
「んなの、当然じゃん?おっさんが黒幕なんでしょ。あてぃしらに逃げられると困るからやった」
「そうなんだろ!?ねえ!!」
「ちが…」
泣きそうなココの顔を見て反論は弱まり、ミリアは力なく項垂れた。
「…みんな、ごめん」
「エマちゃん、ごめん…おじさんのこと、信頼してくれたのに、本当にごめんなさい」
(やっぱり、ミリアちゃんが気球をめちゃくちゃにしたんだ…)
「あー…話してるとこ悪いんだが、佐伯ミリア、通知にもあったと思うがお前は今から懲罰房行きだ」
そこに、看守と看守長が近付いてきて、看守がミリアを物のように抱え上げる。
「わ、わあっ、や、やめて…」
「懲罰房行きなんて、嫌だぁ!誰が助け…っ」
看守に拘束されたミリアの表情は、青ざめ、恐怖でひきつっている。
けれど、誰もミリアに救いの手を伸ばせない。ミリアから視線を逸らし、うつむいてしまう。
そうするうちに、看守長が出した扉の中にミリアの姿が消えていった。
看守長side
「それで、まあなんとなく想像はつくが、深夜に何をしていたんだ?」
私は磔刑台に拘束された佐伯ミリアに話しかける。
「…」
外出のことについて何も話すつもりがないのか、佐伯ミリアは口をつぐんだままだ。
「はぁ…まあいいや。とりあえずそこで反省してて」
「おじさんは…今から拷問でもされるのかな…?」
佐伯ミリアは顔を青ざめた顔で、暗い瞳で私を見る。
「あー…まぁそうなんだけど…」
「…?」
佐伯ミリアが首を傾げる。
「あんまり拷問とか、痛そうなことはなるべくやりたくないんだ…」
「それに今回、私は外出禁止時間に外を出歩いていたとしか聞いていない。だから…まぁ、そんな罪も重くなくてもいいだろう」
「そ、そうなんだ…意外と甘い…?」
「…ちゃんと痛い目見るか?」
「ご、ごめんなさい!お、おじさん、思ってたより厳しくなくてホッとしちゃってて!」
佐伯ミリアが慌てて弁明する。
「はぁ…まぁ本来、懲罰房は囚人を反省させる場所だ。もう十分反省してるようだし、私はこのまま磔刑台に2日拘束で十分だと思ってるよ」
(ゴクチョーからは見せしめとか言われてるけど…まあ無視していいでしょ)
「2日かぁ…おじさん、腰とか肩がバキバキになっちゃうかも…」
「それはしょうがない、佐伯ミリア。お前他の囚人に比べたら模範囚だから、その程度で済ましてやる」
私がそうやって佐伯ミリアと話していると、佐伯ミリアの目に少し光が戻る。
「そっかぁ…あはは…意外と看守長って話が通じるんだね」
「意外ってなんだ意外って…」
「…ねえ看守長、お願いがあるんだけどさ…」
「…聞くだけ聞いてやる」
佐伯ミリアが悲しげな顔で語りだす。
「看守長の方からさ、ナノカちゃんに私は黒幕じゃないって伝えてくれないかな…?今、おじさんは誤解を受けてて大変で…」
「…ちゃんと自分から弁明したか?あの時裁判所でナノカが語った過去は、断片的なものだろう?全部話せばいいんじゃないか?」
「…おじさん、あんまり自分の過去は話したくないんだ。それに、さっきみんなとはだいぶ深い溝もできちゃったし…」
佐伯ミリアが泣きそうな顔になり、私に頼んでくる。
「ダメ…かな?」
「…悪いが、私から言うことはできないな。自分でなんとかしてくれ」
私はあくまで牢屋敷の管理者側だ。メルルに協力している以上、黒幕の容疑がかかっている人数を減らすと、メルルが疑われる可能性が上がる。
(可哀想だけど…このまま疑われてくれる方が都合がいい)
「そっか…やっぱりダメだよね…」
佐伯ミリアが首を下に向け、項垂れる。
「なら…たまにでいいから、ここに来ておじさんの話し相手になってくれないかな?」
「…余計に疑いがかかると思うけど?」
「うん…でも、今は誰かと話してたいんだ…今みたいに、多人数対1人の状況は辛くて…せめて、看守長でもいいから関わりが欲しい…」
佐伯ミリアは余程1人の状態がしんどいらしい。本来、私は彼女たちにストレスを与えなくてはいけない。だけど———
(まあ、少しぐらいならいいでしょ)
「…自由時間外になら、たまに来てやる」
「…!」
私は疑いを晴らさなかった負い目もあるのか、佐伯ミリアの頼みを承諾した。
「さて、私は仕事もあるから戻る。また時間ができたらここに寄ってやる」
「うん!ありがとう看守長、またね!」
磔刑台に拘束されているのにも関わらず、佐伯ミリアは私に笑顔を向け見送った。
(そこに拘束したのも、こんな目に遭うのも私たちのせいなのに…)
私は罪の意識に苛まれながらも懲罰房を退出した。