ウマ娘 ワールドダービー 『燦然と輝く天の星』獲得RTA   作:アヤべさん遊び人概念好き好き大好き

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おまけ5(初詣)

「──あけまして、おめでとうございます」

 

「ああ。おめでとう」

 

 

 

 冬休みに入ってから三が日くらいまでは帰省している生徒も多い。いつもはたくさんのウマ娘でにぎやかなトレセン学園も、この時期ばかりは火が消えたかのようだ。

 

 とはいえ全員が居なくなるわけではない。レースが近いウマ娘やそのトレーナーなどは学園に残っているし、家庭の事情などで家に帰らないウマ娘だっている。

 

 アドマイヤベガもそんなウマ娘のうちの一人だった。母と険悪……というわけではないが、少しぎこちない関係性の彼女は、年末年始であっても実家に顔を出してはいない。

 

 トレセン学園の設備も流石にこの時期はメンテナンス中で使用不可ではあるが、それでも今までは出来る範囲の自主トレーニングをして過ごしていた。

 

 今年もその予定──であったのだが、トレーナーからストップがかかった。理由は至極単純で、オーバーワークになるからというもの。ただでさえ体重が減りやすく、脚部にも不安のある体質なのだ。筋肉の回復にも時間のかかることであるのだし、少なくともこの年末年始の間は練習禁止。それがトレーナーから下された判断だった。

 

 ならば仕方がない。ひとまず予定のない休日を楽しもう──そう考えていたアドマイヤベガだったが、ぴたりと動作が止まった。……休日とは、どのように過ごす物だったか? 

 

 趣味をして過ごす……流石に昼から星を見に行くことは難しい。プラネタリウムに行こうにも年末年始では閉まっている。いつもなにかと声をかけてくるルームメイトも今は不在だ。

 

 しっかりと体を休めることに注力する……休むってどういう風にするんだっけ? それが彼女の頭に湧いてきた疑問だった。ただ横になっていればいい? 睡眠時間を長くとったらいい? 考えれば考えるほど何をしたら休んだと言っていいのかが分からなくなってきた。

 

 アドマイヤベガは困り果てて……トレーナーに連絡を取ることにした。

 

『トレーナー、今平気ですか?』

 

『問題ない。どうした?』

 

『相談したいことがあります』

 

『直接話すか? それともこのまま?』

 

 少し悩んで、出来れば直接と返信する。すぐに『トレーナー室で待っている』と返ってきた。

 

 

 

「どうしたんだ? アヤベが相談なんて珍しいな」

 

「大したことではないのだけれど……その……」

 

 少しばかり口に出すのを躊躇してしまう。休み方が分からない、だなんてあまりにも間の抜けた悩みだと思ったから。

 

 実際逡巡の後のそれを聞いたトレーナーは珍しく大笑いしていた。笑われた側であるアドマイヤベガが少しばかりむくれるのも仕方のないぐらいに。

 

「そうだな……普通なら趣味に没頭したり友人と遊んだりするものだが」

 

「それが思いつかないからこうして相談しているのよ」

 

「……なら、もっと単純に行こう」

 

「単純?」

 

「今日は元日だ。幸いなことにこの国には季節行事というものがある」

 

 こうして、冒頭の会話に行きついた。まずは形から入ろうということだ。

 

 そしてそのまま学園の外へと向かう。年末年始はあくまで休暇となっているため、わざわざ外出申請を出す必要もない。そもそも寮長をしているウマ娘も帰省などで空けているからというのもあるが。

 

 向かった先はトレセンの近くにある神社。元日と言うこともあってそれなりに賑わっており、普段の二人であればわざわざ足を運ぼうとはしなかっただろう。

 

「……こんな列に並んで、時間の無駄じゃないの?」

 

 実際、参拝者の列に並んでいる間に小声でアドマイヤベガはそんなことを尋ねていた。

 

「無駄だろうな。願い事があるならこの時間でそれに向かって努力していた方が叶う可能性は上がるだろうさ」

 

「でしょう?」

 

「だがその無駄を娯楽と呼ぶ。君には必要な物だろう?」

 

「どうして? 私の走る理由は知っているでしょう?」

 

 そのためには無駄な『娯楽』に時間を費やす余裕はない。言外にそんな主張をしている。

 

「勿論知っている。だがまあ……有り体に言えば、張り詰め続けた糸は切れやすい。どこかで緩めないとな」

 

 まあそれはそれとして、行列と言うのは俺も苦手だが。そう冗談交じりに言葉を締めたのは、説教臭くなるのを嫌ったからだろうか。

 

「……ああ、それで思い出した。前渡した本、読んでくれてるか?」

 

「あの黒い本? 少しずつ読み進めてはいるけど……少し、難しいのよね」

 

「ほう? 具体的には?」

 

「なんというか……オカルト、というの? そんな概念が多くて……比喩表現だとは思うのだけど」

 

「ああ……書いたやつがやつだからな。直接話を聞きに行くべきかもな」

 

「その口ぶり、知り合い?」

 

「まあな。少なくとも、本の内容が理解できなかったと聞いても怒るようなヤツじゃないから安心していい」

 

「そんな心配はしてないわよ」

 

 そんな雑談をしている間にも列は進んでいく。話題がアドマイヤベガはウマスタをやらないのかといった話や、貴方の方こそSNSはやってないの、と問われたトレーナーが実はウマッターをしていたことが判明したあたりでようやく順番が回ってきた。

 

 二礼二拍手一礼。トレーナーは元よりアドマイヤベガの活躍を祈ると決めていた。とはいえ神頼みにするつもりなど毛頭なく、どちらかといえば決意表明のようなものではあったが。

 

 一方アドマイヤベガ。こちらも神様にわざわざ頼んで、摩訶不思議な神通力でも恵んでもらおうなんて発想すらない。あくまで自分の力で成し遂げるからこそ勝利に価値が産まれるのだから。妹に捧げるための勝利に不純物が混じってはいけないのだから。

 

 結局、何を祈ればいいのかは決められなかった。ただ知識にある礼儀作法をこなして、『レースに勝てますように』ではなく『レースで勝つ』と決意を固めて参拝を終えた。似た者同士の二人だ。

 

 

 

「……屋台でも並んでくれてればよかったんだがな」

 

 くぅ、とアドマイヤベガのお腹が小さな主張をしたことを受けての発言。聞かれた方は顔を赤らめていたが、聞いた方は特に何とも思っていない。

 

「別に、大じょ──分かったわよ。ちゃんと何か食べるから……」

 

「餅でも買っておけば良かったな。……コンビニでもいいか?」

 

「私は別になんでも」

 

 どうせならおせちや餅でも食べればより正月らしかったのに、などと内心考えているトレーナーと、そもそも正月にはどう過ごすものなのかもよくわかっていないアドマイヤベガ。実は初詣に行っただけでもアドマイヤベガの人生の中で一番正月らしいことをしているのだが、だからこそ中途半端になるより様々させておきたかったというトレーナー心だ。

 

 結局、ベンチで並んでホットスナックを食べている。寒いから、という理由だけで選ばれたそれだったが結果としては大正解。冷えた手先も温めてくれたし、しっかりとカロリーの補給にもなっている。

 

「夜になれば星も見えるのにな」

 

「……そうね。でも、見えないだけでそこにあることに変わりはないわ」

 

 それもそうか、と二人でぼんやりと空を眺める。少しだけ肌寒くはあったが、日が出ている分夜の天体観測よりは随分とマシだった。

 

「……ねえ」

 

「ん」

 

「答えたくなかったら、無視してくれて構わないのだけれど」

 

「俺が空に託している相手の話か?」

 

「……相変わらず察しが良いのね」

 

 外に出る時は常に……つまりは今も、身に纏っているスモーキーな香りは関係あるのか、だとか。そもそもどんな関係性の相手なのか、とか。気になることは数多くあったのだが。

 

「どんな関係の人だったの?」

 

 家族なのか。友人なのか。もしかして恋人だったりするのか。自分だけ妹のことを知られているのは不公平だという思いが半分。好奇心が半分で少しだけ彼の事情に首を突っ込んだ。『アドマイヤベガ』がそんなことをするとは、誰も思いはしなかっただろう。

 

「どんな……そうだな、一言で言うなら、同じ相手に憧れたファン同士、かな?」

 

 ファンという言葉に少しばかり驚いた。このトレーナーが誰かを声を張り上げて応援しているような姿が想像できなかったから。

 

「歳は下なのに、俺より余程大人だった。生きる立ち回りの上手さもそうだし、纏っている雰囲気だとかもな」

 

「……想像つかないわね」

 

 アドマイヤベガにとって一番身近な年下は同室のカレンチャンだ。天真爛漫で、可愛らしいウマ娘。なんとなく年下と言われるとあのような雰囲気を想像してしまう。

 

「ああ。今は海外を旅してるしな。もう俺よりよほど人生経験も豊富になっているだろう」

 

「それで、空を?」

 

「海を越えても同じ空の下で繋がってる……なんて、有り触れたクサいセリフだがな。笑ってくれていい」

 

「笑わないわよ」

 

 横に並んで空を眺める。

 

 ここに居ない誰かの事を考えながら。

 

 

 

「──くしゅっ

 

「……悪い。くだらない話に付き合わせたな。そろそろ帰ろうか」

 

「そうね、帰りましょう……それと」

 

「?」

 

「くだらなくなんて、無いと思う。少なくとも、私はあなたのことが知れて、嬉しかった……んだと、思う……から」

 

 尻すぼみに消えていく言葉。自分でも似合わないことを言っているという自覚があるのだろう。言葉を聞いたトレーナーも心なしか少し呆けているような気がする。

 

 どうしてトレーナーのことを知れたら嬉しいのか。そう問われてもアドマイヤベガは答えられないだろう。咄嗟に出た言葉は考えて出したものでは無いから。

 

「……ありがとな」

 

 ただ、だからこそ。何の裏も無いその言葉に込められた気遣いを、不器用な男も素直に受け止められたのだろう。

 

 

 

 

 

『今日はありがとうございました』

 

『一先ず明日は本を読んで過ごす予定です』

 

『トレーナーも、体調には気を付けて』

 

『また休み明けにから、トレーニングよろしくお願いします』

 

 




アドマイヤベガのヒミツ12
酔っても表情に全く出ないがスキンシップが露骨に増える
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