ウマ娘 ワールドダービー 『燦然と輝く天の星』獲得RTA 作:アヤべさん遊び人概念好き好き大好き
誕生日。基本的にはめでたい物として扱われているし、人によっては盛大に祝うこともするだろう。大人であれば折角だからと休暇を取ったり、高い店を予約したりもするかもしれない。
しかしながら、世の中の人間全てがそうではない。
アドマイヤベガにとって、誕生日は『特別な日』ではあるが『祝うべき日』ではなかった。
何故かと問われれば答えは単純。この日は彼女にとって、自分が産まれた日ではなく、産まれるはずであった妹の全てを奪ってしまった日なのだから。
無論、常にそこまで自罰的に、罪悪感を感じながら過ごしている、というわけではないが。それでも例えば朝ルームメイトからおめでとうと祝われた時、本来その祝福を受けるべきなのは自分じゃなかったのにと、そんな思考が湧き上がってくるのを止められない。
そんな中、トレーニングの時間が救いだった。朝練習、昼休み、放課後。ただひたすら走る。全力で走っている間は、余計なことを考えずに済むから。
少し大き目のレジャーシート。ヘッドライト。方位磁針つき腕時計。まだ夜は少し肌寒いから、防寒用のひざ掛けに、淡いブルーのクッション。
いつもの天体観測の時の持ち物。あの子に会いに行くときのいつもの準備。
特徴的な香りがしないから、少なくともトレーナーが来ていないことは分かった。それが少しだけ寂しくて残念だと思ってしまって、気の迷いだと頭を振ってそんな思いを振り払う。ゆっくりと二人で妹と会えるのだから、どう考えてもあの人が居ない方が良いに決まってるだろうと。
星を見ながら色々なことを伝えた。もうすぐ三冠レースの一つ目──皐月賞へと挑むこと。最近クラスメイトとよく並走をするようになったこと。……勝つたびに大げさに喜ぶものだからついついこちらもムキになってしまうこと。
それから──トレーナーのこと。
「……最初は、トレーナーなんて誰でもいいと思ってた。レースに出る為に仕方なく契約するだけで……別に練習メニューだって自分でも組めていたし」
口に出して自分の思考を纏める。
「私のトレーナーは……よく分からない人。変に勘の鋭いところはあるけど、デリカシーはあまりないし。そのくせいつの間にか私の好物とか把握してる。あの人は……」
静かで冷たい夜に、アドマイヤベガの声だけが流れる。
「……あの人は、何が好きなのかしらね。意外と、甘い物が好きだったりするのかしら。あんなお店を知っていたぐらいだし。顔には似合わないけど……なんて、流石に失礼ね」
そもそも彼女自身も自分の見た目と好みは乖離していると思っている。ふわふわした物にしても、甘い物にしても。そういうのはルームメイトのあの娘とか、そのルームメイトに見せられた動画で配信していたハートの似合う子とか、似合うのはそういう人たちだろう。
「良い人……ではあるのだと、思う。愛想はないけど。いえ、人のことは言えないわね」
変わった人。よく分からない人。それがアドマイヤベガからのトレーナーへの評価。
「……貴女だったら、もっと仲良くやっていたのかしらね。それとも、相性が悪かったりするのかしら」
それは有り得ないもしもの話。自分の代わりに妹が生きていたら。自分の代わりにトゥインクルシリーズを走っていたら。……もしも、自分の代わりに彼と契約していたら。
「……もうこんな時間。……また来るね」
学園に帰ってきた時に、門の前に人影が見えることに気が付いた。一瞬門限を大幅に過ぎでもしたかと慌てたが、時間を確認してもそんなことはない。ならば誰かとの待ち合わせ? そう思いながら人影が段々とはっきり見えてきて。
「トレーナー?」
「お帰りアヤベ。寮に戻る前に、少しだけ時間あるか?」
外出から帰ってきたことだけ寮長に伝えてくる、と言ったらトレーナー室で待ってると返ってきた。レースの打ち合わせ……にしては時期が早すぎるし、トレーニングの連絡などは文面でのやり取りで十分なはず。
何か今日中に済ませなくてはならないような急ぎの用事はあったか。そう頭を悩ませながらトレーナー室へ向かう。ウマ娘の寮にトレーナーは入れないし、逆もまた然り(こちらは守られているとは限らないが)だから、トゥインクルシリーズに出るようになって与えられたこの部屋の存在は有難かった。
「ごめんなさい。待たせてしまった?」
「気にするな。仕事をしていただけだ」
「でも、外出から帰ってくるのを待っていたのでしょう?」
「ああ。大した時間は待っていないが」
「急ぎの要件?」
「そうでもない。今日中なら何時でも良かったしな。──少し待ってくれ」
トレーナーがゴソゴソと何やらカバンを探り出す。資料か、書類か。そう思っていたが出てきたのは何やら飾りの付いた箱。
「……それは?」
「誕生日だろう? 君達に、ささやかな贈り物だ」
あまりにも自然な動きで差し出されたそれを受け取ってしまってから、言葉の意味が脳に届いてきた。
「そんな……気を遣わなくていいのに。だって私、何も返せない」
「子供はそんな事考える必要無いんだよ。どうせ気にするなら子供らしく中身が何かだけ気にしとけ」
「……そんなに子供扱いされるほど幼くない。──けど。開けても、いい?」
「ああ。気に入らなかったら適当に処分してくれ」
包みの飾りをほどいて箱を開けてみれば、出てきたのは──緩衝材で覆われていて何だかは分からなかった。ガサゴソとそれらをどかした先の正体は──
「グラス? 星座……うお座の模様かしら。この刻印されてるの」
入っていたのはグラスが2つ。1つは青みがかった色と、うお座とAdmire Vegaという金色の刻印。
「アヤべはやはり星のイメージが強かったからな。それに、勝負服の青色は実によく似合っていた」
「……もう1つは?」
「君の妹に。悪いが好きな色は分からんから勝手に黄色にさせて貰った」
箱から出してみてみればなるほど確かに黄色味がかったガラスで作られている。こちらの刻印は双子座。名前の刻印は……Gemini。流石の彼も名付けられなかった妹の名前まではどうしようもなかったらしい。
「繰り返すが気に入らなければ捨ててくれ。それか、突き返してくれてもいいが。俺はよく人の気持ちが分からないと苦言を呈される」
「……そうね。私を人から貰った贈り物を突き返すようなウマ娘だと思ってるところは、少しどうかと思う」
「む」
「ありがとう。とても……気に入った。けど……どうやって返したら──」
「さっきも言ったが気にしなくていい。俺が渡したいから渡しただけ。つまりは徹頭徹尾俺のエゴだ。ただ、どうしてもというなら」
「言うなら?」
箱がもう1つやってきた。こちらはカバンからではなく、冷蔵庫から。
「ケーキを一緒に食べよう。君が好むものをと思っていたら、つい買いすぎてしまった」
「貴方って、見た目の割に結構間が抜けて……いえ、……衝動的よね」
覗き込んだ箱の中には2人でも多いぐらいの量のケーキが詰め込まれていた。ウマ娘は健啖家が多いとはいえ、胸焼けや胃もたれという言葉と無縁なわけではない。
いただきます、と手を合わせて、お互い1つずつ選ぶ。アドマイヤベガはふわふわとしたチーズケーキを。トレーナーは少し苦めに作られたガトーショコラを。
黙々と食べ終えたところで、このささやかな集まりもお開きとなった。いくら学園内とはいえ、あまりに帰寮が遅くなるとお小言を貰いかねない。残ったケーキはルームメイトと分けてくれと持たされている。
「……その、ありがとう。それと、ごめんなさい。貰ってばかりで」
「いや、まだ1つ渡すものがある。……いや、物体では無いから手が塞がっていることは心配しなくていい」
寮までの帰り道にも会話は続く。もう学園の敷地内なのだから送ってもらわなくて大丈夫という抗議は、俺にも腹ごなしに歩かせろという要求にかき消された。
「……悪い事が起きた日は、何かを喜ぶのは不謹慎だと言われやすい。極端な例で言えば、災害のあった日だとかだな」
いきなり何を、とアドマイヤベガは思ったが口は挟まなかった。
「だが、悪い事が起きたからと言って、その日に起きた良い事が消える訳じゃない。良い事だけの人生も悪い事だけの人生も存在しないのだから」
「それは……」
「だから、俺は君自身がそう思えなかったとしても、不快に思われようとも、あえてこの言葉を君に贈る。──誕生日おめでとう、アドマイヤベガ。君が産まれたことは、祝福されるべきだ」
そんな言葉を貰う資格は無いと思っていた。本来はその祝福を受け取るべきだったのは妹なのだから。
しかし目の前の彼はそれでも、と言う。君が産まれたことは否定されるべきではないと。
「貴方は、本当に──」
何も知らない人から言われたのなら怒りを返すか、無視していた。何も知らないくせにと。
でもこの人は。わざわざ妹の分まで祝いの品を用意してくれて、アドマイヤベガ達を担当すると始めから決意してくれていたから。
「よく分からない人」
そう返した時のアドマイヤベガは、自然と柔らかく微笑んでいた。
(お姉ちゃん以外からのプレゼントなんて初めて!)
(お姉ちゃん、しっかり見える所に飾っておいてくれるかな?)
(……ありがとね、お姉ちゃんのトレーナーさん)
(お姉ちゃんのこと、お祝いしてくれて)
(……初めて、見れたから。誕生日に、笑ってるところ)
アドマイヤベガのヒミツ13
ホラー映画は苦手。悲鳴は出ないが身体に出るタイプ
高評価、お気に入り、感想ありがとうございます。モチベになります。