ウマ娘 ワールドダービー 『燦然と輝く天の星』獲得RTA   作:アヤべさん遊び人概念好き好き大好き

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おまけ3

 メイクデビューでまずは一勝──というのは字面ほど簡単な話ではない。そもそも1つのデビュー戦に絞って見てみたとしても、勝利できるのは1人のウマ娘だけで、一緒に走った残りのウマ娘はまとめて敗者として括られてしまうのだから。

 

 メイクデビューで勝ったごく一部のウマ娘だけが、三冠ウマ娘やトリプルティアラといったメジャーな夢へと向かうことが出来る。無論デビュー戦で敗北しようと三冠やティアラに挑むことが出来なくなるわけではないが、果たして何人のウマ娘が、敗北してなおそんな夢を見続けられるというのか。

 

 だからこそ、必然的にメイクデビューに勝利したウマ娘は注目を集める。負けても愛されるウマ娘というのは歴史上に珍しい話ではないが、勝って歓声を浴びるウマ娘の数の方が多いのだから。

 

「それでは、このままクラシック路線へ?」

 

「ええ。本人の距離適性からしてティアラ路線よりも相応しいでしょうから」

 

 アドマイヤベガがメイクデビューに勝利した後、当然のこととしてインタビューのためにと記者がやってきた。まだ学生の身分であるとはいえ、すでにアイドルとしての要素も兼ね備え始めてしまっている以上、この手のことからは逃れられない。彼女がそれを得意としているかどうかは関係なしに。

 

「となると次の目標は弥生賞あたりですか? それともジュニア級の間はOP戦で経験を?」

 

「いえ。ホープフルステークスです」

 

「……いきなりG1ですか? 失礼ながらその……自信のほどは?」

 

「自信なんて要りません。アドマイヤベガが走る以上彼女が勝ちます」

 

 彼女は喋ることが得意ではない。元より他人と馴れ合わずに生きてきたのだから、愛想のいい話し方なんてできようもない。しかしながら、その彼女をしてトレーナーの受け答えはいわゆる塩対応というものではないかと思わせる物だった。その証拠……と言っていいのかは分からないが、インタビュアーも助けを求めるようにアドマイヤベガの方へ視線を向けている。

 

 といっても彼女の方も別に気の利いた答えは言えない……どころか、なんならトレーナーが答えた内容は彼女が答えようとしていたものと大差ない。『誰が相手でも負けるつもりはありません』……まあ、闘争心の強いウマ娘としては標準的な回答と言えるかもしれない。

 

 結局それ以上の答えを引き出すことは諦めたらしい。答えているトレーナーに話を広げるつもりが無い以上仕方の無いことではあるが。

 

「えー……では、周りで注目しているウマ娘などは? ブリッジコンプや、ハッピーミークなどが世間では人気ですが」

 

 どちらもメイクデビューで勝利を収めたウマ娘の名前だ。中距離路線というのはトゥインクルシリーズの王道であり、つまりはそれだけ意識しなければならないライバルも多いということ。その中で記者がわざわざ名前を上げるぐらいには周りから期待されているウマ娘なのだろう。

 

「ナリタトップロード。それからテイエムオペラオー」

 

 だからこそ。トレーナーが挙げた名前を聞いて、質問した記者も隣で聞いていたアドマイヤベガも驚いた。

 

 知らない名前だったからではない。アドマイヤベガからすればクラスメイト(と後輩)であるし、記者の方も──たまたまではあるが──彼女達のデビュー戦を観戦していたからだ。

 

「え……彼女達はその、まだ白星を上げていませんが……」

 

 メイクデビュー、なんて名前で呼ばれてはいるが、走る人数の関係上負けるウマ娘の方が多いのは自明の理。そしてそこで負けて這い上がれるウマ娘が少ないというのは純然たる事実。

 

「勝つのはいつだって強者ではなく適者だ。その2人が負けて、そこから這い上がってきたなら相当手強くなるでしょう」

 

 しかし一部のウマ娘は敗北を糧に成長する。それはもしかしたら、勝利以上の物をもたらすのかもしれない。

 

 いまいち盛り上がりに欠けるものではあったが、ひとまずアドマイヤベガへの取材は終わった。おそらくは盛り上がりを作るためにある程度脚色されて記事にされるのだろうが、それはトレーナーの……勿論アドマイヤベガも、管轄外である。

 

「その、ごめんなさい」

 

「何の話だ?」

 

「インタビュー。任せっきりにしてしまって」

 

 担当ウマ娘からの補足でようやく意図を察したのか、ああと納得した声を上げる。

 

「別に構わん。俺も得意ではないが……君に任せるよりはマシだろう」

 

「……その評価は少し不本意なのだけれど」

 

「では君は愛想良く笑顔を振りまきながら自分の将来を語れるか? 『外野には関係ない』の一言で終わらせそうだが」

 

「そんなこと……ある、かも、しれないけど……」

 

 歯切れの悪い反論は肯定と同義だ。対人関係のやり方を改める気が無いトレーナーと、対人関係の経験値が薄い担当ウマ娘。2人でコミュニケーションをとる分には問題なかったが、他の人間と話す時はボロが出る。それはもうとても。

 

「まあ気にするな。その内慣れる。俺も初めて担当を持った時なんて酷い物だったが──」

 

「?」

 

 不自然に言葉が途切れ、続きを待っても何も語られない。何か言いたくも無いような思い出でもあったのだろうかとあたりを付けたアドマイヤベガは、不自然にならない程度に話題を逸らす気遣いを見せた。

 

「初めての担当って、どんな娘だったの? その娘も、口下手だった?」

 

「……いや。インタビューも事前に打ち合わせでもしていたのかってぐらいスラスラ答えて、慇懃無礼にならない程度には丁寧に対応していた」

 

 つまりは完璧だったってことだ、とトレーナーは懐かしむように笑いながら言う。

 

 それを聞いてアドマイヤベガの脳裏に浮かぶのは葦毛のルームメイト。色々とネットで活動しているらしいし、多分彼女のような人ならこういう場でも上手に立ち回るのだろう。ただ、目の前に居る彼のような人間と良好な関係を築いている姿は少し想像できなかったが。

 

「あなたって……」

 

「ん?」

 

 見透かしたようなことを言うくせに人づきあいが下手。他の娘の担当をしているところが想像できない。そんなようなことを思ったが、上手く纏めることは出来なくて。

 

「よく分からない人ね」

 

 その一言が出てきた。

 

 

 

 

 

 大衆が見るのは華々しいレースの世界だけだが、その下には幾重にも地道に重ねられた練習という風景がある。そして当然のことながら厳しい練習というのは心身に大きな負担がかかる。

 

「……最近、自主練はしていないな?」

 

「報告している以上には。……子供じゃないのだから、そんな好き勝手駆け回らない」

 

「そうだな」

 

 難しい顔をしながらトレーナーが見ているのは身体測定の結果。具体的には身長と体重。乙女の秘密も何もあったものではない。比較的そういうことを気にしない性質であるアドマイヤベガとしてもあまり見られたいものではない。

 

「食事はとれているか? 睡眠は?」

 

「睡眠は……平気。最近は夜更かしするほど体力も……いえ、これは文句では無いわ。食事は──」

 

 そこまで言ったところで気が付いた。最近はルームメイトの食堂への誘いも断って簡単なもので済ませていた気がする。

 

「食事は……その、簡単なものを……」

 

「そこだな」

 

 ゼリー、栄養補助食品、飲料。その程度ではただでさえ激しいウマ娘のカロリー消費を補うには流石に力不足であったらしい。

 

「少し考えておく。……なるべくしっかり食事はとるように」

 

 

 

 そんなことを言われて数週間経ったぐらいか。また外出の連絡がアドマイヤベガの元へと来た。ただし今回は街を歩いていても不自然でないような恰好という指定がついてはいたが。

 

 指定された校門前で私服姿でトレーナーを待っていると、さして時間もたたないうちにいつものスーツ姿の彼がやってきた。

 

「すまん、待たせたか?」

 

「問題ないわ。……それで、今日はどこに行くつもり?」

 

「食事が出来るところだな」

 

「いえ、それは分かっているのだけれど……」

 

 それだけ分かれば十分だろう? そう言わんばかりに歩き出してしまうから、結局行先も分からず付いて行くしかなくなってしまう。それに文句も言わずまあその通りかと納得してしまうあたり、アドマイヤベガは従順なウマ娘なのかもしれない。面倒なコミュニケーションをせずに済んで楽だと思っているのかもしれないが。

 

「着いたぞ」

 

「ちょっと待って。言いたいことが多すぎるのだけど」

 

 到着した目的地はそれこそルームメイトが喜びそうな可愛らしいお店。少なくともオジサンに片足を入れ始めたトレーナーと自分のようなウマ娘が来る場所ではないだろう。アドマイヤベガが言いたい一番はそんなことだったが、衝撃に負けて未だに文句が出せていない。

 

「甘い物は嫌いか? 俺は寡聞にしてそんなウマ娘は見たことが無いが」

 

「まあ、どちらかと言えば好きだけど……そうじゃなくて」

 

 別に人の好みに口出しするつもりは無い……けれど。不愛想で掴みどころが無くて、インテリヤクザもかくやといった見た目をしている男にこんなお店は似合わなすぎるでしょう!? アドマイヤベガがもし口が達者ならそんな言葉をぶつけていただろう。しかし。

 

「……よく来るの? こういうお店」

 

「話題になっている物は一度は試すことにしている。見識を広げる為にな」

 

 聞けたのはその程度で、返ってきたのはこの程度。結局よく来るのかどうかには答えてもらっていない。

 

「ふわふわのパンケーキで人気の店でな。好きだろう? そういうもの」

 

「……なんのことかしら」

 

 眼をそらしているがふわふわと聞いた途端に揺れた尻尾とピクリと反応した耳は見逃してもらえなかった。

 

「練習の時のタオル。天体観測のクッション。小物への目線。……別に、隠すようなことでもないだろう?」

 

 他人から見れば妄執の類に映るほどに磨いてきた観察眼。分かりやすいこの身程度は語るまでも無く知っていたらしい。

 

「……前も言ったと思うけど。知ったようなことを言うのは──」

 

「悪癖だとも返したろう? ……君は、恐らく君自身が考えているよりも分かりやすいぞ?」

 

 そんなことはないはずという苦情は入店していくトレーナーには届かなかった。せめてもの腹いせにできたことは、体重増量にかこつけてなるべく高いものを頼んで財布を削ってやることぐらい。対して効果も無かったし、一口パンケーキを口にした時点でそんな思惑は頭から消えていたが。

 

 結局、ふわふわで甘い物は好きなのだ。アドマイヤベガはそう認めざるをえなかった。

 

 

 

 

 

(こういうのこそ学生の本分だよね)

 

(私も甘くてふわふわな物は好きだよ、お姉ちゃん)

 

(……それとも、お姉ちゃんが好きだから私も好きなのかな?)

 

(まあどっちでもいいんだけど)

 

(顔、すごく緩んでるの、気づいてる?)

 

(お姉ちゃんのそんな顔、久しぶりだね──)

 

 




アドマイヤベガのヒミツ10

土下座すればバニースーツまでは着てくれる
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