ウマ娘 ワールドダービー 『燦然と輝く天の星』獲得RTA   作:アヤべさん遊び人概念好き好き大好き

8 / 11
タグにアプリ時空をつけ忘れてました


おまけ4

 ホープフルステークス。ジュニア級王者を決めるそのレースは、大きな注目を集める。勿論現時点で誰が一番強いのか、という意味合いもあるが、それ以上に来年のクラシック路線の前哨戦としての意味合いが強い。ここで勝利をしたウマ娘は、クラシックの最有力候補として大きく注目を集めることになるだろう。

 

 そんな中でアドマイヤベガはレース前から大きく注目を集めていた。母親が有力なウマ娘であったというのが一つ。デビュー戦での好走が一つ。インタビューでのトレーナーの受け答えが一つ。

 

 まあ要するに、好奇の目に晒されていたということである。少し上の世代の人間からは、あの母の子供はどのくらい走るのかと。メイクデビューを見ていた人間からは、あの走りはフロックではなかったのかと。そして雑誌の煽るような記事をよんだ人間からは、ビッグマウスが現実に叩き潰されるところを見てやろうと。そんな様々な思惑。

 

 さて、そんな中で渦中の二人はと言えば──

 

「出走表、見せてもらってもいい?」

 

「ほら。誰か気になるか?」

 

「……いいえ、大丈夫。貴方も同意見なのでしょう?」

 

「ああ。君が実力通りに走ればまず勝てるだろうよ」

 

 いつもと変わらず過ごしている。

 アドマイヤベガは既に『妹のため』という確固たる信念を持っている。それ故に周囲からの影響のほとんどを関係のない物としてシャットアウトすることができる。

 

 トレーナーは……単純な経験の違いか。初めての担当の初めてのG1レース、であればまた違ったかもしれないが、彼はもうとっくの昔に自分が浮足立ってもなんの価値も無いことぐらい分かっている。

 

「こんにちは! ナリタトップロードですっ、失礼します!」

 

 そんな二人のところに、一人の賑やかなウマ娘がやってきた。

 

 アヤベさんの大事なレースですから! と来てくれた彼女はアドマイヤベガのクラスメイト。明日は自分のレースも控えているというのにこちらへと来るのは余裕の表れ……ではなく、メンタルコントロールの一環だろう。

 

 彼女は『期待に応える』ことを重荷に感じているウマ娘だ。だからこそ、一番人気に推されながらも平然としているアドマイヤベガにあやかりに来たのだ。

 

 そんな彼女へのアドマイヤベガの答えは、覚悟を持つこと。

 

 周囲がどうでも、困難も、苦痛も、不利も無謀も未熟も背負うと決めたもの全てを背負って走り抜く。そんな覚悟こそが力になると。

 

 

 

 

 

 ファンファーレが鳴り、いよいよホープフルステークスが始まる。

 

 実況が人気の高いウマ娘を紹介していく中でも、アドマイヤベガの心は落ち着いている。緊張だとか、観客からの期待だとか、周りのウマ娘だとか、そういった余分は彼女の心の中からは排されている。そこにあるのはただ一つ。

 

(これがG1レース……きっと、観客の期待も周りからの評価も、メイクデビューとは大違い)

 

(お姉ちゃん、頑張るからね。貴女の分まで走って、頑張って──)

 

(貴女が得るはずだったもの全部、貴女に届ける)

 

(それが……私の旅路だから)

 

 

 

 たった一つの背負う物。それを考えている時がアドマイヤベガにとって一番集中している瞬間である。

 だから、ゲートが開いたときに出遅れるなどということは起こりえなかった。

 

 アドマイヤベガは元々中距離──2000~2400メートル──を得意とするウマ娘であり、今回のホープフルステークスは2000メートルのコース。普通に走ればスタミナ切れだとか速度が乗り切らないだとかいったことを心配する必要は無い。

 

 それでも本番……それもG1という大舞台ともなれば、ウマ娘によっては無駄な体力を使いながら走ってしまったり、どんなコース取りをしながら走ればいいのか分からなくなったりしてしまうものだが、冷静で冷えた心を持つ彼女はそんなミスを犯さなかった。

 

(体は闘志で燃やす──けれど頭は冷たく、心はなお冷たく)

 

 レース前にトレーナーから教わった心構え。闘志を燃やすというのと心を冷たくするというのは矛盾ではないかと最初は思ったものだが、今では理解できる。

 

 負けない。勝つ。そのために必要な事を最後方で考える。

 

 足をどこまでスパートのために溜めるべきか。先頭のウマ娘のペースからして仕掛けるべきはいつか。コースはどこが踏み固められ走りやすくなっているのか。どのラインを走れば前を塞がれないように走ることが出来るか。

 

 体力──問題ない。今までの練習はしっかりと身になっている。身体に余計な力も入っていない。

 

 脚力──万全。毎日のように舗装されていない自然の道を走ってきたのだ。整備された芝の上は走りやすすぎて驚くくらいだ。

 

 400メートル、800メートル、1200メートル、1600メートル──最終直線。

 

(──ここ!)

 

 本能が告げている今がスパートをかける絶好の機会だと。充分に温められた脚も、全力を出す瞬間をずっと待っていた。

 

 思い切り脚を踏み込んで、駆ける。芝でないダートコースであれば深い足跡がそこには刻まれることになっていただろう。

 

 ここまでくれば余計な思考は要らない。ただ愚直に前に居るウマ娘達全てを追い抜かすだけ。

 

(脚を燃やす! 全てを使い切る!)

 

 アドマイヤベガは不器用なウマ娘だ。細かい駆け引きは不得意だし、最初からハナに立ってレースを作るなどということも向いていない。

 

 代わりに、全てを薙ぎ払う豪快な脚があった。

 

 

 

 気が付けば、夜空を駆けていた。星が力を貸してくれている。足に宿って、さらなる力強い踏み込みを実現させてくれる。

 

(この走りを、祈りに変えて──)

 

 星に願った。彼女に少しでも奪った物を返せますようにと。

 

 星に祈った。彼女に少しでも楽しさを分けられるようにと。

 

 星に誓った。彼女のために勝利を捧げると。

 

(だから私は……負けられない!)

 

 夜空は当然暗い。だがアドマイヤベガが迷うことはない。何故なら一等明るい星が進むべき道を照らしているのだから。

 

 星に、手が届く──そう思ったところで、あたりの風景が元のレース場に戻った。正確に言えば、戻ったように、アドマイヤベガには感じられた。

 

 耳に届くのは大歓声。気が付けばゴール版も後方へと置き去りにしている。

 

《一着はアドマイヤベガ──!》

 

 そんな実況の声もどこか遠くに聞こえる。勝利の実感は、遅れてやってきた。

 

(──お姉ちゃん、勝てたよ。見ててくれた?)

 

 暮れの中山に、新星が誕生した。

 

 

 

 

 

「お疲れ、アヤベさん」

 

「ええ。──ちょっと待って、その呼び方」

 

 控え室に戻ってきたアドマイヤベガを迎えたのは当然トレーナー。ただし聞きなれた愛称がその音を発したことのない口から聞こえてくるオマケ付きだったが。

 

「ああ、いいあだ名じゃないか。なんで今まで教えてくれなかったんだ?」

 

「別に。特に必要なかったから」

 

「じゃあこれから俺もアヤベさん呼びしてもいいわけだ」

 

「……せめて、さんはやめて。揶揄われてる気分になるから」

 

「了解、アヤベ。……一着おめでとう。疲れただろう?」

 

「……どう、かしら。正直、よくわからなくて」

 

「アドレナリンだのなんだの出てるだろうしな。とりあえず、そこに座ってくれ」

 

「? ええ」

 

 立ちっぱなしで居る理由もない。言われたとおりに椅子へ腰かけたアドマイヤベガ……の足元にしゃがみ込むトレーナー。

 何をする気かとぼんやり眺めていると──靴を脱がされた。

 

「ちょ……なにを──」

 

「マッサージ。アイシングはライブ後にしっかりとやっておこうか」

 

 そう言われてしまえば強く抵抗も出来ない。脚の消耗はレース生命に直結するのだから。それに汗で蒸れた脚を触られるのが恥ずかしい……なんて口に出せる程にアドマイヤベガの情緒は育っていなかった。そう文句を言ったところでこのトレーナーはマッサージのメリットを懇々と述べて封殺していただろうが。

 

「トレーナー」

 

「どうした?」

 

 しかし恥ずかしくはあるから、気を紛らわせるために意識を別のこと……会話へと向ける。

 

「ありがとう。貴方のおかげで、妹にも少しだけプレゼントできたと思う」

 

「不要な感謝だ。トレーナーとして当然の仕事をしただけなのだから」

 

「……貴方は。どうして」

 

「なにがだ?」

 

「私達の……私の事情は、貴方が背負う物じゃないのに。どうして」

 

 親身になってくれるのか。或いは協力してくれるのか。そんな言葉を口に出す前に、トレーナーが言葉を発した。

 

「俺は、『黄金』を探している……いや、探し続けている」

 

「黄金?」

 

「『旅の果てに、一筋の黄金を見た』ってな。憧れてたウマ娘が遺した言葉だ」

 

 アドマイヤベガは黙って聞くことにした。自分とはまた違う、レースに何かを求める人間の言葉をしっかりと聞いておきたかったから。

 

「あるウマ娘はレースそのものだと言った。あるウマ娘はレースに伴う全てと言った。俺は──」

 

 一拍。言葉を止めて、続ける。

 

「俺は、未だに見つけられていない……いや、納得できていない、かな?」

 

「どうして?」

 

「……さぁな。きっと、それが分かった時に俺の旅も終わるんだろう」

 

 はぐらかされた、ということぐらいはアドマイヤベガにも分かった。かといって追及するつもりは無かったが。自分だって他のトレーナーと契約していたら妹の事情を話したりしていなかっただろうから。

 

 代わりに。

 

「……ありがとう、トレーナー。私と……私達と一緒に旅をしてくれて」

 

「気にするな。俺が好きでやっていることだ。君が『夢物語』を捨てない限り、俺は君と共に夢を見よう」

 

 

 

 

 

(お姉ちゃん、ありがとう)

 

(ああ、この言葉を直接伝えられたらいいのに)

 

(クラシックレース──皐月賞! 日本ダービー! 菊花賞!)

 

(私のワクワク、伝わってくれないかな?)

 

(楽しみだね、お姉ちゃん!)

 

 

 

(──それと、お姉ちゃんのトレーナーさん)

 

(私達に付き合ってくれてありがとう)

 

(お姉ちゃんのことよろしくね)

 

(……なんて言っても、伝わらないのかぁ……残念)

 

 

 




アドマイヤベガのヒミツ11
ホッキョクウサギが立ち上がった写真を初めて見た日は一日中その事を考えていた
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。