努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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9.剣技大会(上)

 

 剣技大会の開幕を告げる太鼓が、地鳴りのように轟いた。

 

 王都の大広場に設けられた仮設ステージの周りは、ぎっしりと観客で埋まっている。旗や紙吹雪が舞い、屋台からは香ばしい串焼きの匂いが漂い、熱気がすごい。

 

「今年はシュノール騎士団からも参加者が出るらしいぞ!」

「おお、あそこは精鋭揃いだ」

「でも一番の目玉は王女殿下だってよ!」

「ははっ、まさか……あの『眠り姫』が?」

「本当に出るのか? 寝てばかりの姫が剣なんて」

「見世物になるに決まってるぜ!」

 

 観客のざわめきは、半信半疑と野次馬根性で満ちていた。

 

(……眠り姫?)

 

 ヒソヒソと聞こえてくる民衆の声。

 

「王族なのに何もしないって有名だよな」

「学園でも寝てばかりらしいぞ」

「まあ、美しいからそれでもいいんだけどさ」

 

(あ、わたしのこと? まあ、事実だし)

 

『姫様……民衆にそう呼ばれていることを、ご存知でしたか?』

 

(知らなかった。でも、眠り姫って……むしろいい名前じゃない?)

 

『……姫様らしいお考えですな』

 

 わたしは入場門をくぐりながら、大きなあくびを噛み殺す。

 

(……早く帰って昼寝したい。どうせなら三戦まとめて不戦勝とかにならないかなぁ。マジで怠い)

 

『姫様、気を抜きすぎて涎を垂らされませぬように』

 

(フォローの方向間違ってない!?)

 

『そうでしょうか? ひどく妥当な懸念だと愚考します』

 

(……ナミギリがわたしのことどう思っているか、お話が必要な気がしてるんだけど?)

 

『姫様のことですか? わしのような老いぼれに、再び剣を振る機会を与えてくださった。それだけで、姫様への忠義は永遠に尽きませぬ。それに、姫様は、わしが生涯で出会った中で最も天才的な術者でいらっしゃいます。この黒魔術は前代未聞、死にゆく者の人格を取り込み、感覚を共有し、しかも意識の切り替えまで可能とする。その上、姫様は類稀なる美貌の持ち主。白銀の髪、澄んだ瞳、気品ある佇まい――まさに絵に描いたような姫君でいらっしゃる。たとえ姫様がどれほど惰眠を愛されようとも、わしにとっては絶対の主。この命に代えても、お守りいたします』

 

「……な、ながいよ?」

 

『事実を述べただけでございます』

 

「ふ、ふ~ん……」

 

 ま、まあ、そこまで言うのなら、何も言わないよ、うん。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 剣技大会の予選は、王都の大広場に設けられた仮設ステージで行われた。

 

 石畳を組み合わせただけの舞台に、木製の柵。屋根もない。

 

――はっきり言って、しょぼすぎる。

 

 けれど、観客はやたら多い。

 

 屋台がずらりと並び、焼き串や甘い蜜菓子を手にした人たちが、ぎゅうぎゅうに押し合って舞台を取り囲んでいた。

 

「王女が出るって本当か?」

「勝ったら見物だぞ!」

「怪我でもさせたら、打ち首になるんじゃないか?」

 

 わたしは肩をすくめてため息。

 

(……え、こんな貧相ステージでやるの? 人だけは無駄に多いし。てか王女なんだから予選免除でいいじゃん。なんでわざわざ庶民に見世物されなきゃいけないの~?)

 

 脳内でナミギリの真面目な声がする。

 

『場数を踏むことは重要です。どのような舞台であれ――』

 

(どうでもいい。わたしはただ早く帰って昼寝したいだけ!)

 

「次の試合は――」

 

 審判が声を張り上げた。

 

「予選第一ラウンド! サバイバル形式で行います! ステージに残った参加者が、次のトーナメント戦へと進みます!」

 

 観客席がざわめく。

 

「サバイバルか!」

「一気に人数を絞るつもりだな」

「これは荒れるぞ!」

 

(……サバイバル? つまり、一度にたくさんの人と戦うってこと?)

 

 ステージの中には、わたし以外に、30人以上の参加者がいた。

 

 筋骨隆々の大男、素早そうな剣士、重装備の騎士。

 わたしと同い年か年下に見えるような子もいるし、まともに剣を振れるか怪しい老人もいる。

 

(……え、こんなにたくさん? 一度に全員と戦うの?)

 

『はい。複数の敵を同時に相手にする形式ですな』

 

(めんどくさ……もう、ナミギリに任せていい?)

 

『もちろんです。お任せください』

 

(じゃ、寝るね~)

 

『姫様! せめて起きて――』

 

(おやすみ~)

 

 わたしは頭の奥、真っ暗な世界で意識を手放した。

 

 ふわぁ……やっぱり寝るのが一番だよね……

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

『姫様、起きてください』

 

「んー? もう終わったの?」

 

 目を開けると――

 

 ステージには、わたししかいない。

 

(……あれ? みんなどこ行ったの?)

 

 と思ったら、足元に倒れている人がいた。

 

 いや、足元だけじゃない。

 

 ステージ中に、倒れた参加者たち。

 血だらけの者、気絶している者。

 

「え……?」

 

 ナミギリと交代。

 自分の体を動かして、辺りを見回す。

 

「な、何これ……?」

 

 貧相なステージには、たくさんの男たちが倒れている。

 

 わたしは心配になって、近くに倒れている血だらけの男の傍に座る。

 

「えっと……死んでる? あの~、生きてますか~?」

 

「ぐ、あ……」

 

 ゆすってみると、反応がある。

 

「よかった、生きてて」

 

「うう、う……」

 

 男は、なんとか、身体を動かし、目を開けた。

 

 わたしと目が合った瞬間――

 

「ひやああああああっ!? お、鬼だぁぁぁぁ!!」

 

 その男は転げるように逃げ出した。

 

「え、ちょっと!?」

 

 他の参加者たちも、わたしに気づくと――

 

「来るな!」

「悪魔!」

「化け物!」

 

 一斉に逃げ出した。

 

「……え? わたし、何かした?」

 

(ナミギリ? 何があったの?)

 

『……申し訳ございません。少々、やりすぎました』

 

(やりすぎって?)

 

『少々遊び……いえ、今後のためにも、なるべく鍛錬になるように戦いました』

 

 観客席を見ると、みんな青ざめた顔でこちらを見ていた。

 

 先ほどまでの熱狂は、どこにもない。

 

 ただ、静寂と――恐怖。

 

「鬼だ……」

「悪魔だ……」

「あれが……王女……?」

「見たか……あの動き……」

「人間じゃねぇ……」

「眠り姫じゃない……血の王女だ……」

 

(え、なにこの雰囲気……)

 

 わたしは木刀を見下ろした。

 

 血が、ついていた。

 

「……え?」

 

(これ、わたしがやったの?)

 

『はい。姫様の体を使い、わしが戦いました』

 

(でも、こんなに……血だらけって……)

 

『申し訳ございません。つい楽しく……ではなく、少々、手加減が足りませんでした』

 

(手加減が足りないって……)

 

『ご安心ください、姫様。全員、生きております。ただ、骨が数本折れている程度です』

 

(程度って……)

 

 わたしは頭を抱えた。

 

(……これ、やばくない? わたしの評価が……)

 

 さっきまでは「眠り姫」だったのに、今は「血の王女」。

 

(絶対悪い意味だよね!? むしろ悪化してない!?)

 

 わたしは、ただ寝てただけなのに。

 

 なんでこんなことに……

 

(パパにバレたら、絶対何か言われるやつじゃん……)

 

『姫様、次のラウンドが始まります』

 

(え、まだ続くの!?)

 

 審判が、震える声で告げた。

 

「つ、次は……トーナメント形式で……予選第二ラウンドを、3番ステージで行います……」

 

(……もう、帰りたい)

 

 わたしは深々とため息をついた。

 

 でも、ここで帰ったら、パパに何を言われるか分からない。

 絶対にベスト4にはならないと!

 

(……仕方ない。ちゃんと起きて、戦いを見てみるか)

 

『姫様が?』

 

(うん。さすがに、このままだとわたしの評価がやばいことになってる気がするし)

 

『……なるほど。姫様が見ていただけるのであれば、遊ぶわけにはいきませんな』

 

(……遊ぶ? さっきから、なんか言ってたけど、どゆこと?)

 

『いえ、何でもありませぬ。この忠臣の働きっぷり、しかと見せましょう』

 

(……なんか、引っかかるんだけど)

 

 わたしは、仮説ステージを出る。

 

 ざざざと距離を大きくとる観客たち。

 

 うるさかった観客は、静まり返っている。

 みんな、怯えた目でこちらを見ていた。

 

(……わたし、何か悪いことした?)

 

 いや、したんだろうけどさ。

 ナミギリが。

 

 でも、わたしは寝てただけなのに……

 

 内心、不貞腐れながらも、監視するため、次の試合が始まるのを待つのだった。

 

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