努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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9.剣技大会(下)

 

 トーナメント戦が始まる。

 

 観客席は、先ほどまでとは違う雰囲気に包まれていた。

 

 熱狂ではなく――恐怖。

 

「次の試合は王女殿下だ……」

「また血の海になるのか……?」

「あの……サバイバルは、見たか?」

「見た……というか、見えなかった……」

「一瞬で全員が倒れて……」

「血だらけだったぞ……」

 

 ざわめきが、重苦しく広がる。

 

 わたしは大あくびをして肩を回す。

 

(……早く終わらないかな。お昼寝したい……)

 

 でも、パパとの約束。

 ベスト4に入らないといけない。

 

 それに、さっきの試合結果。

 あの反応、絶対に普通の勝ち方じゃない! あんなに怯えられるなんて絶対おかしい。

 

 わたしはこんなにかわいい美少女だっていうのに……

 

(ちゃんと起きて見てなきゃ……)

 

 対戦相手は、筋骨隆々の大男。

 

 手にしたのは舞台用の大剣――木刀とはいえ分厚く重い。

 

 彼はステージに上がると、わたしを睨みつけた。

 

「おい審判! 王女サマだからって手加減はしなくてもいいんだよなァ?」

 

「え、ええ……」

 

「じゃあ、怪我させちまっても、文句はねぇってことだよなァ!?」

 

(だ、大丈夫だよね?)

 

 大男の凄みに、一歩後ずさる。

 

 体も声も、デカい。ちょっと怖いかも……

 

『ご安心ください。この程度の者、100人いたとしても、負ける道理はありません』

 

(そ、そっか!)

 

 こんな大男100人いても大丈夫なんだ!

 

 一方。

 

 大男と審判は言い争っている。

 

「おい審判! どうなんだァ!!」

 

「あ、えっと、こちらとしては怪我させてもいいとは言えないというか……」

 

「はぁ? じゃあ攻撃するなってか!?」

 

「寸止めなどで戦っていただいて」

 

「それは全力で戦うことにならんだろ!? なぁ王女サマ?」

 

「えっと……あなたが100人いても負けないよ?」

 

「あ?」

 

「だから! あなたが100人いても、負けるわけないって言ってるの!」

 

 観客席がざわめく。

 

「おいおい、また煽ってるぞ……」

「さっきのサバイバルを忘れたのか、あの男……」

「そのサバイバルって本当なのか? そんなに強いようには見えないぞ」

 

「おいおい、これは教育が必要みたいだなァ……」

 

『姫様! 無駄に煽るようなことを言うべきではありません!』

 

(でも、ナミギリが言ったんだよね?)

 

『それはそうですが……』

 

 大男はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 

「俺様が100人いても勝てるような相手と戦うんだ、手加減なんてできるわけねぇよなァ? そんで勢い余って、怪我させちまっても仕方ねぇってことだよなァ?」

 

 わたしは片手をひらひらさせた。

 

「どうぞご自由に~」

 

「ククク、言質は取ったぜ!」

 

 審判が手を振り下ろす。

 

「構え――始め!」

 

 次の瞬間、大男の大剣が唸りをあげて振り下ろされる。

 

 刃の影が覆い、観客席から一瞬、悲鳴が上がった。

 

「殿下が――」

「やめろ!」

 

 だけど――

 

 

 

 大剣は見事に空振っていた。

 

 虚しく石畳に振り下ろされ、砂埃を上げる。ただ、それだけ。

 

 その大剣は、全然違う方向に振り下ろされていた。え、どこ狙ったの?

 

「……は?」

 

 大男の呆けた声。

 

 ナミギリは、木刀を相手の喉元に寸止めしていた。

 

 観客の悲鳴が――静寂に変わった。

 

「……終わった?」

「一瞬だった……」

「さっきのサバイバルと同じだ……」

「あの大男が……一瞬で……」

 

 やがて、静寂が歓声に変わっていく。

 

「王女殿下が勝ったぞ!」

「一撃だ……!」

「いま絶対直撃したと思ったのに、次の瞬間には剣の向きがおかしくなっていた!?」

「さっきのサバイバルも……こういうことだったのか……」

 

 わたしも驚いた。

 

 ナミギリは自信満々だったとはいえ、こんなに強そうな男に一瞬で勝ってしまうなんて。

 

(……ナミギリ、本当に強いんだね)

 

『姫様が見ておられるのです。手を抜くわけにはいきませぬ』

 

 観客席は、歓声と――少しの安堵が混じっていた。

 

「強い……」

「血は出なかったな……」

「さっきのサバイバルとは違う……」

「綺麗に勝った……」

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 予選二回戦。

 

「次はシュノール騎士団の兵士だ!」

「精鋭だぞ! 王国随一の武勇を誇る!」

「勇者様の仲間になるかもしれん男だ、手を抜くはずがない!」

 

 観客席がどよめくなか、舞台に現れたのは漆黒の鎧をまとった若い兵士だった。

 

 背筋をぴんと伸ばし、木刀を手にすると、まずは深々と礼をする。

 

「王女殿下。無礼を承知で――全力で参ります」

 

 脳内にナミギリの声が響く。

 

『姫様、手合わせを願う者の誠意。ここは正面から応えて差し上げましょう』

 

(うん、お願い。わたしは見てるから)

 

『はい。お任せください』

 

 審判の合図。

 

「構え――始め!」

 

 兵士の踏み込みは鋭かった。

 

 地を蹴る音が重く響き、剣筋は無駄がなく正確。

 

 観客が息を呑む。

 

「さすがシュノール!」

「これは……殿下でも苦戦するかもしれん……」

 

 木刀が交錯する――と思われたその瞬間。

 

 相手の木刀は、ナミギリの方を向いていなかった。

 

 ただ虚空を斬っていた。

 

 悠々と、木刀を喉元に突きつけるナミギリ。

 

「……っ! 完敗です」

 

 兵士は目を閉じ、剣を下げた。

 

 観客からは大きな拍手と、どよめきが湧き起こる。

 

「殿下が……精鋭を倒した!」

「また一瞬だ!」

「マグレじゃなかったのか!?」

「今のなんだ!? 絶対に木刀が合うと思ったのに!?」

「さっきと同じだ! 剣が交差する瞬間に!」

「王女様は瞬間移動でも使っているのか!?」

 

 歓声が熱狂に変わっていく。

 

 わたしも驚いていた。

 

 ナミギリが強いとは思っていたけど、まさかここまでとは。

 

 学園の生徒を瞬殺するのとは、訳が違う。ちゃんと強い剣士を相手に、瞬殺だった。

 

 どれだけの実力差があればこんなことが可能なんだろう? 分かんないけど、きっとものすごい力の差があるということなんだと思う。

 

(……なんとなく、わかった気がする。ナミギリが『剣鬼』って呼ばれていた理由。ほんっとうに規格外すぎない?)

 

『……姫様。過分なお言葉です』

 

(謙遜とかいいから、本音で言って! 生きてたときって、どれくらい強かったの? 今の力って、全盛期と比べてどうなの?)

 

『……正直に申し上げますと、今のわしは全盛期の半分も出せておりませぬ。この若き体はまだ鍛錬が足りず、わしの技を完全には再現できません。しかし――それでも、この程度の者たちに後れを取ることはございませぬ』

 

(半分……? それでこれ? じゃあ全盛期のナミギリって、どんだけヤバかったの……)

 

『姫様、次の試合が始まります』

 

(え、もう?)

 

 観客席は、完全に熱狂していた。

 

「王女殿下万歳!」

「無敵だ!」

「眠り姫、最強! 眠り姫、最強!」

 

(……最強? まあ、悪くないかな)

 

『姫様、油断されませぬように』

 

(大丈夫、大丈夫。ナミギリがいれば、余裕でしょ?)

 

 わたしは、次の試合へと向かった。

 

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