努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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11.決勝

 

Side:ナミギリ

 

「勝者! ネメシア殿下!」

 

 2回戦が終わった。

 対戦相手は血だらけで、ピクリとも動かない。

 

 医療班が急いで回収していく。

 

(ふむ、やりすぎましたかな)

 

 姫様は寝ておられる。

 だから、姫様のお時間を無駄にするわけでもないし、少し遊ぶくらいなら良いかと思った。

 

 こんな機会は滅多にない。

 だからつい、楽しんでしまう。

 あと少し、もう少し、この技を試したら終わりにしよう。いや、あの技も試してみたい。

 

 そうやって戦い続けていたら、相手が体力が先に限界を迎えてしまった。

 

 反省だ。

 姫様は、周りからの評価を気にされていた。

 ならば忠臣として、遊びは最低限にしなければならなかった。

 それに、ベスト4に確実残るためにも、体力はなるべく温存した方が良かった。

 

(次戦の遊びは、3合のみとしよう)

 

 わしは心の中で誓った。

 

 

 

...*...*...*...

 

 

 

 大闘技場は、一万人の観客の熱狂で揺れていた。

 太鼓が鳴り響き、紙吹雪が風に舞い、視界を白く霞ませる。

 司会役のアナウンスが、空を震わせるように高らかに響いた。

 

「ついに決勝だ! 王女ネメシア殿下――対――聖女の騎士セドリック!」

 

 まず現れたのはセドリックだった。

 

 白銀の鎧をきっちりと着込み、鍛え抜かれた体躯から気迫が溢れている。

 肩に担ぐ大剣はただの鉄塊ではなく、聖女に仕える騎士の矜持そのもの。

 刃は陽光を反射して鈍く輝き、彼の歩みに合わせて観客の喚声が爆発する。

 

「うおおおっ! セドリックだ!」

「きたぞ、聖女の盾!」

「鉄壁の守り、大盾流!」

「今年はセドリックが優勝間違いなし!」

「俺はセドリックに全財産賭けた! 絶対勝てよ!」

 

 その声援を背に、セドリックは堂々と舞台中央へ歩み出る。

 

 次に入場したのは――わしだ。

 

 とはいえ、見た目は姫様そのもの。

 豪華なドレスではなく、軽装の衣装だ。

 白銀の髪は、後ろで束ねられたポニーテール。右手には、刀、銘を《夢霞》の一本のみ。

 

「か、かわいい……!」

「いやいや、寝てばっかりの眠り姫が勝てるわけない!」

「お前に全財産賭けたんだから勝てよ姫様ぁ!」

「血の王女だ!」

「残虐姫だ!」

「寝顔で観客煽ってんじゃねぇ!」

「眠り姫、最強! 眠り姫、最強!」

 

 なお、姫様は2回戦が始まる前からずっと眠り続けている。

 もしかしたら起こした方が良かったかもしれぬが、下手に起こせば、「棄権するよ」と言うかもしれない。

 

 姫様の目的は優勝ではなく、ベスト4であるが故、そうする可能性は高い。

 

(それに……やはり相手はこの男か)

 

 わしは、相手の男――セドリックを見た。

 一目見た時から、その実力は有象無象と違うことは分かっていた。

 この男と戦えずに終わるなど耐えられぬ。

 

 セドリックは、こちらに向き直って朗々と宣言した。

 

「ネメシア王女殿下。聖女様をお守りするためにも、全力で挑ませていただく!」

 

「こちらこそ、全力を尽くすことを誓おう」

 

 今までのような遊びをする余裕はないだろう。

 嘘偽りなく、全力で戦わねばならぬ。そして、ここまで来たのだ。姫様に、『優勝』という結果を献上しようではないか。

 

 審判が手を振り下ろす。

 

「構え――始め!」

 

 

 

 ついに決勝が始まった。

 

 セドリックが大剣を振ると、その軌跡に巨大な盾が幻のように浮かび上がった。

 

 空気が歪み、透明な壁が形成されるかのような錯覚。まるで彼の周囲すべてを覆う、鉄壁の防御陣。

 

「見ろ! あれが大盾流だ!」

「剣を振るだけで、盾が現れる……!?」

 

 ナミギリは一足で詰め、刃を軽く打ち込む。

 

 しかしその一撃は、幻の盾に吸い込まれ、衝撃すら残さずに霧散した。

 

 これは、大盾流か。

 

 盾を幻視させる守りの流派。真に鉄壁。

 ……とはいえ、これほどまでに鮮明に大盾を可視化できる使い手と対峙するのは、初めてであるな。

 

 セドリックが大剣を正眼に構え、声を張った。

 

「王女殿下、剣は届かせない! 聖女様の筆頭騎士として、絶対に負けるわけにはいかない!!」

 

 観客の熱狂がさらに高まる。

 

「殿下が押されている!」

「やはり本命はセドリックか!」

 

 わしは、何度も切り込む。

 

 正面から、斜めから、速度を変え、間合いを変え――。

 

 だがどの攻撃も、幻の大盾に阻まれる。

 盾の幻影は重厚で隙がなく、攻防の呼吸すら奪うほどだった。

 

 観客はざわつき始める。

 

「殿下の攻撃が全部止められている!」

「セドリックの勝ちだ!」

 

 なるほど……

 通常技だけで打ち破るのは至難の業だ。

 

 そして、確信した。

 こやつは、わしと同じ。同類だ。

 剣の道に人生のすべてを捧げた者。純粋に、剣を極めること自体が至上の目標となった者。

 

 セドリックが吼える。

 

「我らが大盾流、破れるものなら破ってみろ!」

 

 

(しかし、感謝せねばなりませぬ。奥義を使わなければならぬほどの強敵が現れてくれたことを……)

 

 

 わしは深く息を吸い込み、刀を静かに構えた。

 

 

「……斬霧流奥義、一の太刀――《波断》!」

 

 次の瞬間、刀が振るわれるたびに空気が震え、波紋のような揺らぎが舞台を覆った。

 

 寄せては返す剣圧の波が幾重にも押し寄せ、観客席から悲鳴が上がる。

 

「な、なんだ!? 波が現れた!」

「剣気が……波になって押し寄せている!」

「波が迫ってくる!」

「殿下の姿が霞んでいく!」

 

 舞台に立つわしの姿は、揺らめく波に包まれ、まるで蜃気楼のように揺れている。

 

 観客から見れば、わしの姿は少しずつ波に消えて行っているように見えることだろう。

 

 セドリックは額に汗を浮かべ、大剣を振り続ける。

 

「だが! 我が大盾は絶対の防御だ! どのような技だろうと破れはしない!」

 

 幻の盾が幾重にも重なっていく。

 まるで要塞そのもの。

 

 だが、波はそれを呑み込み、じわじわと締め付けていく。

 

 セドリックは叫ぶ。

 

「決して負けられぬのだ! 聖女様を守り、勇者と共に世界を救うために――この盾は砕けぬ! 大盾は聖女の守り。代々の騎士が命を賭して磨き上げた流派! それが我らの矜持!

 

 

 

――大盾流奥義、《百盾連廻(ひゃくじゅんれんかい)》!」

 

 セドリックが剣を振る速度以上に、加速度的に盾が生まれていく。

 その数は百を超えているように見える。

 

「百を超える盾が、すべてを守り、すべてを破壊する!」

 

 セドリックは叫ぶ。

 

 波がいくらぶつかっても、百の盾は内側から再生し続ける。

 

 奥義対奥義のぶつかり合い。

 はたから見れば、五分。この戦いはさらに激しさを増していくと思うかもしれない。

 

 しかし、我が奥義は、未だ未完成。

 斬霧流奥義《波断》は、波を顕現させ、相手を惑わす。そして、波の幻想ごとすべてを断ち切ることで完成する――

 

 

 

「――断」

 

 一閃。

 

 舞台全体を覆った波が突如消えた。

 そして――百の盾を一太刀で断ち切った。

 

 轟音とともに、セドリックの大盾の幻影が粉砕される。

 

「な……!? 大盾流が……断たれた……!」

 

 この瞬間の隙を逃すわしではない。

 刀を寸止めで、相手の喉元へ。

 

 セドリックは膝をつき、唇を噛んだ。

 

「……完敗だ。代々受け継がれてきた大盾流が……一太刀で……」

 

 その声には悔しさと、同時に清々しさが滲んでいた。

 

 審判が高らかに叫ぶ。

 

「勝者――王女ネム殿下!」

 

 一瞬の静寂の後、大地が揺れるような大歓声。

 

「うおおおおおおっ!!!」

「剣聖だ!」

「勇者パーティ入りだ!」

「王女様、美しく強い!」

「眠り姫! 眠り姫!」

 

 観客席は総立ち。

 

「剣聖姫の誕生だ!」

「世界を救う英雄の仲間入りだ!」

 

 セドリックは剣を下ろし、深く一礼した。

 

「王女殿下……見事でした。私の大盾流も、いつかあなたのように……」

 

「強い男でした。その盾、さらに磨けば、いずれ誰にも破れぬものとなりましょう」

 

 わしがそう言うと、セドリックは目を見開いた。

 

「……ありがとうございます。精進いたします」

 

 姫様は……まだ寝ておられるようだ。

 

 わしは控室へ向かう。

 もうわしが体を借りている意味はない。

 姫様に体を返すこととしよう。

 

(しかし、最後はもう少し楽しんでもよかったか)

 

 決勝の相手は、強かった。

 しかし……あそこで決めてしまうのは少々もったいなかったかもしれぬ。

 

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