努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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12.いらないご褒美

 

「ネム様! ネム様!」

 

「んん……あと五分……」

 

「表彰式が始まりますっ!」

 

 メイドの声で目が覚めた。

 

「……表彰式?」

 

 ここは控室のソファ。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 

 むにゃむにゃ……

 

 とりあえず、手を引かれるままに歩いていく。

 メイドに手を引かれ、ふらふらと舞台へ向かう。

 

 眠気眼のまま、大歓声が響く闘技場へ――。

 

 

――うるさ。

 表彰式の鐘が高らかに鳴り響き、舞台上に歓声が渦巻いた。

 寝起きでこれはきついって……

 

「まずは準決勝で惜しくも敗れてしまった二人! 賞金は――金貨百枚!」

 

 司会役の声と同時に、大きな袋がドンと置かれる。

 袋の口がわずかに開き、黄金色の輝きが覗いた。

 

「……お?」

 

(あれ一袋あれば……おにゅーのベッド買って、昼寝三昧できるじゃん……)

 

 目が覚めてきた。

 

 観客たちからも「おおーっ」とどよめきが起こっている。

 

 続いて、準優勝者の名が告げられた。

 

「準優勝者! 賞金は金貨三百枚!」

 

 見知らぬ男は、深く一礼しながら静かに受け取った。

 

「えっ、三倍? 百枚の三倍!?」

 

 優勝したらもっとすごいはず。金貨千枚?

 いや、眠り放題の別荘とか? ベッドに囲まれて暮らす夢が、現実に近づくかも!

 

(てか、これってもしかしなくても、優勝者って……)

 

 

 

「そして優勝者――王女ネメシア殿下!」

 

「はい! ネメシアですっ!!」

 

 やっぱり、わたしだった!!

 

(でかした、ナミギリ!)

 

『やるからには優勝、当然のことですな』

 

 大歓声が闘技場を揺るがした。観客たちが立ち上がり、手を振り、旗を掲げる。

 

「ネム様!」

「眠り姫!」

「新しい剣聖様だ!」

 

 わたしは胸を張り、堂々と歩み出る。

 

「きたーっ! 大金貨袋が貰えるんだよね!? 何枚? 千枚!? これで惰眠の未来が確定する!」

 

 しかし、次に告げられたのは予想外の言葉だった。

 

「優勝者には――『剣聖』の称号と、()()()()()()()()()()()を授ける!」

 

「…………は?」

 

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 

「えっと……わたしが剣聖?」

 

 御伽噺に出てくるような称号、剣聖。

 勇者、聖女、賢者に並び有名な称号だ。

 それが……わたし? その重さの実感がない。

 

 だってわたし、寝てただけだし……

 

「……というか、え? 金貨は? ベッドは?」

 

 司会役は涼しい顔で告げる。

 

「ございません!」

 

 わたしは司会役を見つめた。

 

「……ない? 本当に?」

 

 もう一度確認する。

 

「本当に、ございません!」

 

「そんな……詐欺じゃん……」

 

 わたしは力なく床に突っ伏し、「おにゅーのベッド……」とうめいた。

 

 しかし、なぜか観客は盛り上がっているようだ。

 

「眠り姫だろうと、剣聖は剣聖!」

「これで勇者様も心強い!」

「やはり大会に出た意味があったのだ!」

「魔王を倒してくれ~!」

 

 そんな歓声に混じって、妙な方向のささやきも広がっていく。

 

「勇者と結ばれるのは聖女様だけど……剣聖の可能性も出てきたんじゃ?」

「眠り姫が勇者と!? それはそれで……」

 

 観客たちは勝手に盛り上がり、まるで恋愛ドラマの予想合戦のような空気になっていた。

 

 わたしは、床に突っ伏した。

 

(……やめて! 昼寝妨害しないで! わたしは勇者とどうとかより、惰眠と結ばれたいんですけどー!)

 

 わたしは頭を抱えた。

 

(てか、え? 剣聖の称号? は、まぁいいとしても。勇者パーティ加入の権利? いらんすぎる。てかそんな大会だったの!? わたし知らなかったんだけど)

 

『い、いえ……姫様。剣聖の称号が与えられるのは毎年のこと。しかし、どうやら今年は勇者パーティへの加入も定められていたようですな』

 

 そのナミギリの言い方に、どこか違和感を感じた。

 

(はっ!? ……まさか、ナミギリ、最初から知ってたなんて言わないでしょうね?)

 

『……申し訳ございません。知っておりました』

 

(はぁああああああ!? 知ってたの!?)

 

『しかし、たとえこの条件を知らなかったとしても、わしは最後まで戦いたかった。準決勝、決勝の相手は……それまでとは格が違う剣士でした。あのような者たちと剣を交えられる機会は、二度とないかもしれません』

 

(……気持ちはわからなくもないけど)

 

 わたしは大きくため息をついた。

 

(でも! ギルティ! 一週間素振り禁止! その間わたしが昼寝を満喫するから!)

 

『なっ……それは、あまりにも……!』

 

(くくく、いい気味だ)

 

 ……でも、正直ちょっと嬉しい。

 

 一週間、筋肉痛なしで眠れる。

 

(まあ、鍛錬がないのは少し不安だけど……でも一週間くらい平気だよね?)

 

 わたしは、ぺったんこなお腹をつまんだ。

 

「はぁ……」

 

 歓声は鳴りやまない。

 

「剣聖様! 万歳!」

「剣聖姫様だ!」

「歴史上、最もかわいい剣聖だ!」

「そもそも女性剣聖なんて聞いたことないぞ!?」

 

 これで賞金があったらまだ許せたかもしれない。

 でも、もう無理だ。

 現実逃避したかった。

 

 わたしは逃げるように表彰式を後にしたのだった。

 

 

 

...*...*...*...

 

 

 

 フードをかぶり、屋台の方へ。

 

 見て回っていると、面白い屋台を見つけた。

 

「昼寝屋台だ!」

 

 屋台が並ぶ通りでも、少し人通りの少ない不人気エリア。

 その端に、昼寝屋台があった。

 

 気持ちよさそうなベッドが並んでいて、1つ空きがあった。

 そのベッドが、わたしを手招きしているように感じた。

 

 ああ。

 お昼寝ソムリエの血が騒ぐ。

 

 店主のもとへ駆け寄った。

 

「あの、寝てもいい?」

 

 フードで顔を隠しながら、尋ねる。

 

「ああ、1昼寝、銀貨1枚だ」

 

 わたしはお金を渡して、ベッドにダイブした。

 

「おおおっ!」

 

 

 疲れがベッドの中に染み込んでいくように感じる。

 驚いた。大衆向けのベッドとは思えないほどのものだった。

 

「すごいね! いいお昼寝ポイントだよ!」

 

「嬢ちゃん、わかるのかい?」

 

「うん! 包み込まれるようなこの感覚! それに、日の入り方もわたし好み」

 

「そうか。それはこっちとしても、出店を出した甲斐があったというもんだ」

 

「うんうん、昼寝屋台ってあんまりないよね~」

 

「ああ、俺はな、世の中の人たちはもっと寝るべきだって思っているんだ」

 

 店主の声は、少し真剣さを帯びていた。

 

「わたしも、そう思う! 努力なんてしたくなければ、しなくていい!」

 

「お! 本当に話の分かる嬢ちゃんだな! そうなんだよ。努力なんて心からしたいと思ったときだけでいい!」

 

「うんうん」

 

「ここに来ている剣士たちなんか、寝る間を惜しんで努力している。ポーションで誤魔化しているんだ。確かに、肉体的には問題ないのかもしれん。しかし、精神の回復が足りていねぇ。強くなるためと言って、心に無理をして、一日中鍛錬を積む。そんな世の中は間違っている」

 

 わたしは体を起こして、店主を見た。

 その目は真剣だった。

 

「そうだよね! わたしもそう思うよ! 世の中は間違っている! パパもガイルも間違っている!」

 

 努力しなければならないと、パパもガイルも思っている。

 それは間違いだ。

 

 

 そのとき、風が吹いた。

 

 少し強い風が吹いた。

 寝っ転がって、ズレかけていたフードが完全に外れる。

 

 わたしの髪が、あらわになる。

 

「嬢ちゃん……その白銀の髪は……」

 

「ん? ……あっ!」

 

 そのとき、キャアアアアアアと悲鳴が上がる。

 

「あ、あれは!」

「剣聖だ!」

「殺されるぞ!」

「逃げろ逃げろ!」

 

 喧騒は広がっていく。

 

 隣で寝ていた人も起きる。

 

「……んん、なんだ? って、え? あ、眠り姫? や、やばい! びゅーん!」

 

 気付いた瞬間、逃げ去っていく。

 

 いつの間にか、辺りから人が消えていた。

 

 残っているのは、昼寝屋台の店主一人だけ。

 

「嬢ちゃん、剣聖様だったんだな」

 

「あ、うん。てか、なにこれ? なんでみんないなくなったの?」

 

「さあ? 俺には、同じ眠友(みんとも)にしか見えないが」

 

「みんとも?」

 

「睡眠の眠に、友達の友と書いて、眠友だ。だってそうだろう? 俺のベッドで寝て、同じ価値(すいみん)観を持つもの同志なんだから」

 

「店主! よくわかってるじゃん!」

 

 なぜかみんな逃げて行った理由は、もう、どうでもよかった。

 

 重要なのは、静かになって、よりお昼寝力が上がった今この瞬間。この場所。

 わたしは、ベッドに身体を預けた。

 

「むにゃむにゃ……」

 

 ああ、絶対に快眠できる。

 

 わたしは数秒で夢の中に入っていく。

 

 風がやみ、通りが静まり返った。

 

「世界一、幸せそうな寝顔だな」

 

 店主は小さくつぶやくのだった。

 

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