努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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13.聖女(上)

 

 次の日。

 

 王宮に、来客があった。

 

 片膝をつき、兜を床に置いて深々と頭を垂れた。

 えっと、誰?

 

『決勝の相手ですな。聖女の騎士セドリックと名乗っておる者です』

 

(ふ~ん)

 

「殿下。改めて、おめでとうございます」

 

「う、うん。ありがとう」

 

 わたしは戸惑いながらも、軽く会釈を返した。

 

 セドリックは顔を上げ、まっすぐにわたしを見つめる。

 

「殿下。どうか、我らが聖女様をお守りください。悔しいですが――しかし認めざるを得ません。あなたは私よりも強い」

 

 その瞳は熱を帯び、言葉は一層力強くなる。

 

「だから心の底から我ら聖女の騎士の想いを託したい! 殿下には聖女様を助け、勇者様と共に世界を救っていただきたいのです!」

 

 わたしは思わず一歩引いた。

 

「……いや無理。ていうかわたし、そんなのやりたくないし。寝てたい」

 

「寝てたい!? この期に及んで!?」

 

 セドリックは絶句している。

 

(だって本当のことだし……)

 

「殿下――どうか前に進んでください!」

 

「え、嫌だけど」

 

 セドリックは固まってしまった。

 

 いや、用が済んだんなら、出て行ってほしいんだけど。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 午後、王宮の謁見の間に呼び出された。

 

 ……って、何この面々は?

 

 重臣と勇者、賢者、聖女が並び立っている。

 そして、国王は玉座に座っていた。

 

 でも、その表情は――複雑だった。

 怒っているようでもあり、誇らしげでもあり、困っているようでもある。

 

 勇者の隣には、聖女が立っていた。

 柔らかな金色の髪、穏やかな微笑み。優しげな雰囲気を纏っている。

 

「ネムよ……剣聖となったか」

 

「うん、まあね」

 

 わたしは適当に返す。

 

 国王は深くため息をついた。

 そして――長い沈黙の後、深く息を吐いた。

 

「……ネム」

 

 その声は、いつもと違った。

 

 厳格な王ではなく――一人の父親の声。

 

「お前を……ポンコツと呼んだこと。深く謝罪する」

 

 国王は、玉座から立ち上がり、一歩前に出た。

 

「お前は努力ができないと思っていた。だが、それは余の傲慢だった。お前は努力できるようになったんだな。剣をみればわかる。そして、剣聖にまで上り詰めた」

 

(してないんだけどね~)

 

「父として――いや、一人の人間として、お前に謝りたい。すまなかった」

 

 重臣たちが息を呑む。

 国王が、頭を下げた。

 

「……はいはい、許す許す」

 

 わたしは適当に手を振る。

 

(まあ、謝ってくれたし、いっか)

 

 国王は顔を上げ、玉座に戻った。

 

「そして……約束通り、以後は口を出さぬ」

 

 重臣たちは蒼白になり、口々にざわめいた。

 

「陛下……!」

 

 わたしは小さくガッツポーズをした。

 

「やったー、ダブル言質ゲット♪」

 

「だが、ネム」

 

 国王は真剣な目でわたしを見つめた。

 

「剣聖となった以上、勇者パーティに加わるのは――父としてではなく、この国の王として、お前に願いたい」

 

()()()()()でしょ? 義務じゃなくて権利。わたしが決める」

 

「……そうか」

 

 国王は深くため息をついた。

 

「お前は……本当に変わらぬな」

 

 その声は、怒りではなく、諦めと――少しだけ、安堵が混じっているようだった。

 

 その時、勇者が一歩前に出た。

 金色の髪、真っ直ぐな瞳。筋肉質な体に、腰には立派な剣。

 絵に描いたような正統派の勇者だ。

 その佇まいからは、使命感と正義感が溢れている。

 

(……なんか、めんどくさそう)

 

「王女殿下」

 

 勇者はわたしの前で片膝をつき、手を差し出した。

 

「俺と一緒に、世界を救ってくれませんか?」

 

 観客席――じゃなくて、重臣たちがざわつく。

 

「勇者様が直々に……!」

「これは断れないだろう……」

 

 わたしは勇者の手を見て、大きくため息をついた。

 

「……やだ」

 

「え?」

 

「だから、やだって言ってるの。わたしは寝てたいの。世界を救うとか、そういうの興味ないの!」

 

 勇者は目を見開いた。

 

「だが、君は剣聖だ! その力があれば――」

 

「力があるから使えって? そういうの、押し付けって言うんだよ」

 

「しかし、世界を救うことに興味はないのか?」

 

「ない。わたしは惰眠至上主義なの!」

 

「だ、惰眠至上主義……?」

 

「そ! 世界で一番惰眠を愛しているの!」

 

「な、なるほど……だ、だが、魔王が暴れたら、君の惰眠も邪魔されるぞ!」

 

「……う~ん、それは困るけど」

 

「だろう? だから一緒に――」

 

「なら、魔王は勇者が倒して。わたしは寝る」

 

 わたしは勇者の手を払いのけ、背を向けた。

 

「わたしは、わたしの好きなように寝る(生きる)。誰にも邪魔されたくない」

 

 勇者は立ち上がり、拳を握りしめた。

 

「……わかった。今は無理でも、いつか必ず――君の心を変えてみせる」

 

 その目には、諦めない意志が宿っていた。

 

(うわ、めんどくさそう……)

 

 わたしは内心でうんざりしながら、適当に手を振った。

 

「はいはい、頑張ってね」

 

 

 

...*...*...*...

 

 

 

 部屋に戻ると、メイドが待っていた。

 

「ネム様、お疲れさまでした。お風呂の準備ができております」

 

「やったー! お風呂入って、ごはん食べて、惰眠生活する!」

 

「惰眠生活、ですか?」

 

「うん! 一週間くらい何もせず、だらだらするの! 大会で頑張ったし、自分へのご褒美的な?」

 

 メイドは少しだけ呆れたような、でも優しい笑顔を浮かべた。

 

「さすがネム様ですね……」

 

 わたしは鼻歌を歌いながら、お風呂へ向かった。

 

 剣聖? 勇者パーティ? 世界を救う?

 そんなの、全部どうでもいい。

 

 ……どうでもいいよね?

 

 いや、どうでいいに決まってる!

 

 わたしにとって一番大事なのは、今日も明日も、気持ちよく寝ること。

 それだけ。

 わたしの心は、誰よりも軽く、そして誰よりも自由だった。

 

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