努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~ 作:エレティムさん
次の日。
王宮に、来客があった。
片膝をつき、兜を床に置いて深々と頭を垂れた。
えっと、誰?
『決勝の相手ですな。聖女の騎士セドリックと名乗っておる者です』
(ふ~ん)
「殿下。改めて、おめでとうございます」
「う、うん。ありがとう」
わたしは戸惑いながらも、軽く会釈を返した。
セドリックは顔を上げ、まっすぐにわたしを見つめる。
「殿下。どうか、我らが聖女様をお守りください。悔しいですが――しかし認めざるを得ません。あなたは私よりも強い」
その瞳は熱を帯び、言葉は一層力強くなる。
「だから心の底から我ら聖女の騎士の想いを託したい! 殿下には聖女様を助け、勇者様と共に世界を救っていただきたいのです!」
わたしは思わず一歩引いた。
「……いや無理。ていうかわたし、そんなのやりたくないし。寝てたい」
「寝てたい!? この期に及んで!?」
セドリックは絶句している。
(だって本当のことだし……)
「殿下――どうか前に進んでください!」
「え、嫌だけど」
セドリックは固まってしまった。
いや、用が済んだんなら、出て行ってほしいんだけど。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
午後、王宮の謁見の間に呼び出された。
……って、何この面々は?
重臣と勇者、賢者、聖女が並び立っている。
そして、国王は玉座に座っていた。
でも、その表情は――複雑だった。
怒っているようでもあり、誇らしげでもあり、困っているようでもある。
勇者の隣には、聖女が立っていた。
柔らかな金色の髪、穏やかな微笑み。優しげな雰囲気を纏っている。
「ネムよ……剣聖となったか」
「うん、まあね」
わたしは適当に返す。
国王は深くため息をついた。
そして――長い沈黙の後、深く息を吐いた。
「……ネム」
その声は、いつもと違った。
厳格な王ではなく――一人の父親の声。
「お前を……ポンコツと呼んだこと。深く謝罪する」
国王は、玉座から立ち上がり、一歩前に出た。
「お前は努力ができないと思っていた。だが、それは余の傲慢だった。お前は努力できるようになったんだな。剣をみればわかる。そして、剣聖にまで上り詰めた」
(してないんだけどね~)
「父として――いや、一人の人間として、お前に謝りたい。すまなかった」
重臣たちが息を呑む。
国王が、頭を下げた。
「……はいはい、許す許す」
わたしは適当に手を振る。
(まあ、謝ってくれたし、いっか)
国王は顔を上げ、玉座に戻った。
「そして……約束通り、以後は口を出さぬ」
重臣たちは蒼白になり、口々にざわめいた。
「陛下……!」
わたしは小さくガッツポーズをした。
「やったー、ダブル言質ゲット♪」
「だが、ネム」
国王は真剣な目でわたしを見つめた。
「剣聖となった以上、勇者パーティに加わるのは――父としてではなく、この国の王として、お前に願いたい」
「
「……そうか」
国王は深くため息をついた。
「お前は……本当に変わらぬな」
その声は、怒りではなく、諦めと――少しだけ、安堵が混じっているようだった。
その時、勇者が一歩前に出た。
金色の髪、真っ直ぐな瞳。筋肉質な体に、腰には立派な剣。
絵に描いたような正統派の勇者だ。
その佇まいからは、使命感と正義感が溢れている。
(……なんか、めんどくさそう)
「王女殿下」
勇者はわたしの前で片膝をつき、手を差し出した。
「俺と一緒に、世界を救ってくれませんか?」
観客席――じゃなくて、重臣たちがざわつく。
「勇者様が直々に……!」
「これは断れないだろう……」
わたしは勇者の手を見て、大きくため息をついた。
「……やだ」
「え?」
「だから、やだって言ってるの。わたしは寝てたいの。世界を救うとか、そういうの興味ないの!」
勇者は目を見開いた。
「だが、君は剣聖だ! その力があれば――」
「力があるから使えって? そういうの、押し付けって言うんだよ」
「しかし、世界を救うことに興味はないのか?」
「ない。わたしは惰眠至上主義なの!」
「だ、惰眠至上主義……?」
「そ! 世界で一番惰眠を愛しているの!」
「な、なるほど……だ、だが、魔王が暴れたら、君の惰眠も邪魔されるぞ!」
「……う~ん、それは困るけど」
「だろう? だから一緒に――」
「なら、魔王は勇者が倒して。わたしは寝る」
わたしは勇者の手を払いのけ、背を向けた。
「わたしは、わたしの好きなように
勇者は立ち上がり、拳を握りしめた。
「……わかった。今は無理でも、いつか必ず――君の心を変えてみせる」
その目には、諦めない意志が宿っていた。
(うわ、めんどくさそう……)
わたしは内心でうんざりしながら、適当に手を振った。
「はいはい、頑張ってね」
...*...*...*...
部屋に戻ると、メイドが待っていた。
「ネム様、お疲れさまでした。お風呂の準備ができております」
「やったー! お風呂入って、ごはん食べて、惰眠生活する!」
「惰眠生活、ですか?」
「うん! 一週間くらい何もせず、だらだらするの! 大会で頑張ったし、自分へのご褒美的な?」
メイドは少しだけ呆れたような、でも優しい笑顔を浮かべた。
「さすがネム様ですね……」
わたしは鼻歌を歌いながら、お風呂へ向かった。
剣聖? 勇者パーティ? 世界を救う?
そんなの、全部どうでもいい。
……どうでもいいよね?
いや、どうでいいに決まってる!
わたしにとって一番大事なのは、今日も明日も、気持ちよく寝ること。
それだけ。
わたしの心は、誰よりも軽く、そして誰よりも自由だった。