努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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14.至高の寝具を求めて

 

 剣技大会から少し経った頃。

 

 ポンコツじゃないって証明できたし、心置きなく惰眠ライフを満喫していた。

 ちなみに、勇者パーティはとうの昔に出発している。

 聖女様がわたしを訪ねてきた次の日とかに出発したらしい。メイドから聞いた。

 

 『剣聖』枠は、わたしの代わりに準決勝でわたしに敗れた聖女の騎士セドリックが加入することになった。頑張れ~。

 まあ、でも、聖女の騎士になる気持ちもわかるよ、うん。

 聖女様は、外見だけじゃなくて、性格まで神だった。ほんと、何もかもが聖女すぎるよね!

 

『……姫様とは違って』

 

「何か言った?」

 

『いえ、何も』

 

「あー、でも本当なら新しいベッドが手に入ってたはずだったのに……」

 

 剣技大会には、なぜか優勝賞金はなく、賭けも一回だけじゃ大した額にはならなかった。

 

「あー、ナミギリが、賭けといてくれればなぁ……」

 

 そのとき。

 

「ネム様、来客が来ております。【寝具王】と名乗るお方です」

 

「え?」

 

 

 

...*...*...*...

 

 

 

 来客はひげもじゃのドワーフだった。

 

「わしは世界一の寝具職人、【寝具王】グラン・ネルマーじゃ」

 

 背中には、金属製の枠にぎっしりと針と布と工具を詰め込んだリュック。

 見た目は旅商人だが、その眼だけは鋭く、布の向こう側にある何かを見据えているようだった。

 

「剣聖ネメシア殿下。あなたのために、最高のベッドを作らせていただきたい」

 

「え、わたしのために?」

 

「うむ。わしは超一流を自負しとる。真の一流とは、その人に合ったベッドを、素材の段階から作る者。それがわしの誇りじゃ」

 

「へぇ……でも、お金は?」

 

「金? いらんいらん」

 

「え!?」

 

 わたしは驚いて聞き返した。

 

「わしにとっての報酬は、超一流のベッドで超一流の眠りを提供すること。それだけじゃ。金に執着しとったら、超一流にはなれんのでな」

 

「じゃあ、タダで作ってくれるの!?」

 

「うむ。ただし、いつかわしの工房に来て、よく眠れたと言ってくれればそれでええ。それが何よりの喜びじゃ」

 

「わかった! 絶対行く!」

 

「では、素材を決めよう。おぬしに最適なのは……羊竜の毛皮じゃな」

 

「羊竜……!」

 

「空に浮かぶ眠りの獣。その毛並みは夢を織るような柔らかさを持つ。じゃが、鮮度が命。王都には流通しとらん」

 

「つまり……」

 

「うむ。剣聖殿下が自ら狩るしかない。わしも同行する。素材の下処理は、その場でせねばならんからな」

 

「行く!! いつ出発する!?」

 

『姫様、いつもと違って、決断が早いですね……』

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 王都から約半日。

 

 ここは【浮雲(ふうん)草原】と呼ばれているらしい。

 地形としては、若草色の草原なんだけど、空には——

 

「——あれが羊竜……!」

 

 真っ白な羊が、ふわふわと空中に浮いていた。

 小さな翼を羽ばたかせながら、のんびりと草原の上を漂っている。

 

 これは、羊だ。

 羊に似た魔物とは聞いてたけど、モコモコとした白い毛に覆われていて、まんま羊だった。

 

「メェー」

 

 鳴き声も羊そのものだった。

 

『姫様、あれを狩るのですか?』

 

「うん! ナミギリ、お願い!」

 

 私はナミギリに体を預けた。

 

 ナミギリは剣を抜くと、軽く跳躍。空中の羊竜に向かって斬りかかる。

 

「メェェ!?」

 

 羊竜は慌てて逃げようとしたが、ナミギリの剣はその首筋を捉えていた——

 

 が。

 

「む……」

 

 羊竜の毛が異様に厚く、剣が深く入らない。

 

「メェー!」

 

 羊竜は魔力の風を放って距離を取る。

 

『なるほど、毛がクッションになっているのか。これは少し厄介ですね』

 

(ナミギリ、大丈夫?)

 

『問題ありません。今のでコツを掴みました。次は問題なく——』

 

 と、そのとき。

 

 草原の奥から、一際大きな羊竜が姿を現した。

 他の羊竜の倍以上はある巨体。

 黄金色に輝く角。

 そして全身から溢れ出る、圧倒的な魔力。

 

(あれは……?)

 

『普通の羊竜、ではなさそうですね』

 

(……! これは!)

 

 わたしの第六感が、激しく反応していた。

 

(ナミギリ、見て! あの毛並み……!)

 

『はい、確かに見事ですが——』

 

(わたしの第六感が言っている! あいつは最高のベッドになる!!)

 

『姫様!?』

 

(いただきます!)

 

 わたしは叫んだ。

 

 羊竜王がこちらを向く。

 その瞳に、知性の光が宿っているのが見えた。

 

「メェメェ」

 ——おや、随分と小さな剣士だな。

 

 脳内に、低く威厳のある声が響いた。

 

(しゃべった!?)

 

「メェ」

 ——吾は羊竜王。この草原を統べる者だ。何用か、人の子よ。

 

(あなたの羊毛が欲しいんです! 最高のベッドを作りたいので!)

 

「メェ……」

 ——率直だな。だが断る。吾の羊毛は誰にも渡さぬ。

 

(ナミギリ、やっちゃって!)

 

『御意』

 

 ナミギリが駆ける。

 

 羊竜王も魔力を解放し、迎え撃つ。

 

——ガキィン!

 

 剣と魔力の障壁がぶつかり合う。

 

「メェェ!」

 ——ほう、やるではないか!

 

 羊竜王は魔力の刃を無数に放つ。ナミギリはそれを次々と斬り払いながら、距離を詰める。

 

 だが——羊竜王は空中を自在に移動し、ナミギリの剣が届かない位置をキープする。

 

『……空中ではやや不利でしょうか』

 

 攻防が続く。

 

 ナミギリの剣技は確かに羊竜王を上回っているが、決定打に欠けていた。

 

「メェェ!」

 ――その刀、もったいないな。

 

(え?)

 

「メェェ!」

 ――なんだお前、それほどの腕がありながら気付いとらんのか。まあいい。肌身離さず持っていれば、いずれ分かるかもしれんな。

 

(何を言って……?)

 

 刀?

 この《夢霞》のことだよね?

 ……もったいない?

 

「メェェ!」

 ――まあ、吾を傷つけるのは不可能なのは分かっただろう。今日のところは帰るのだな。

 

 羊竜王は勝ち誇ったように、言った。

 

(ナミギリ……)

 

『姫様、申し訳ございません。わしが不甲斐ないばかりに……』

 

「メェェ!」

 ――ふむ、羊竜の毛程度であれば、好きに持っていってもいいぞ。それくらいの腕はあるだろう。

 

 羊竜王の羊毛の方が絶対いいけど、仕方ないかな?

 

『姫様……奥義を使えば』

 

(え……)

 

『基本技だけで、この羊竜王なる魔物を倒すのは難しい。しかし奥義を使えば必ずや倒してごらんに入れましょう』

 

(でも……)

 

 わたしは少し躊躇した。

 また、筋肉痛になってしまうかもしれない。

 

(……ん~、まぁ、でも仕方ないか! ベッドのためだもんね! よしわかった、ナミギリ、奥義を許可する!)

 

『——御意』

 

 ナミギリの体から、膨大な魔力が溢れ出す。

 

 剣が光り輝く。

 

『斬霧流奥義、二の太刀《集波斬》――』

 

 一閃。

 

 光の斬撃が、羊竜王に向かって放たれた。

 

「メェ……」

 ——この魔力は……

 

 羊竜王は悟った。

 

 ——死ぬ。確実に死ぬ。

 

 光の斬撃が迫る。

 

 羊竜王は全ての魔力を防御に注ぎ込んだ。

 ありったけだ! 効率とかそんなものはどうでもいい。今この瞬間これに耐えるしかない!

 

——ドォン!

 

 爆発的な衝撃が草原を揺らす。

 

「メェェ……」

 

 羊竜王は、なんとか立っていた。

 だが、全身が震えていた。

 

「メェェェ!?」

 ——ちょ、ちょっと待て!? ステイだ、ステイ!!

 

 羊竜王の声に、さっきまでの威厳は消えていた。

 

『遅い!』

 

 ナミギリの剣が再び羊竜王に迫る——

 

「メェメェ!」

 ——これをやろう! これで許してくれ!

 

 羊竜王は必死に、自分の顎髭を一本引き抜いた。

 その髭は、淡く黄金色に光り輝いている。

 

「メェェェ……いたたた……!」

 

 目に涙を浮かべながら、それでも誇り高く差し出した。

 

(え……髭?)

 

「メェェ!」

 ——髭とは失礼な! 羊竜王の宝毛と言えば、世界最高の素材と言われておるだろ!? これが生えるのに数百年かかるのだぞ!

 

(宝毛……)

 

『姫様、確かにこれは……普通の羊毛とは比べ物にならないほどの魔力を含んでいます』

 

「メェメェ」

 ——これ一本で、最高級のベッドができる。頼む、命だけは……!

 

 威厳あふれる羊竜王は、もういなかった。

 そこにいるのは、必死に命乞いをする一匹の羊だった。

 

「……」

 

 わたしは少し考えて、宝毛を受け取ることにした。

 

(わかった。いいよ)

 

「メェ!?」

 ——本当か!?

 

(うん。ありがとう、羊竜王)

 

「メェメェ……」

 ——助かった……本当に助かった……

 

 羊竜王はホッとした様子で、ふわふわと飛び去っていった。

 

『姫様、羊毛はいらなかったのですか?』

 

(だって……)

 

 わたしは腕に抱えた宝毛を見つめた。

 柔らかく、温かく、そして魔力に満ちている。

 

「これの方が、毛皮よりもいいベッドになる気がするもん……!!」

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

「これが……羊竜王の宝毛……!」

 

 ネルマーは震える手で宝毛を受け取り、何度も何度も確認する。

 

「間違いない……これは本物だ! こ、これほどの極上品は……生まれて初めて見ました!」

 

 ネルマーの目が、職人の目に変わった。

 

「殿下、すぐに下処理をさせていただきます。宝毛は鮮度が命。時間が経てば経つほど、魔力が失われていく」

 

「下処理……?」

 

「うむ。素材というものは、手に入れた瞬間から勝負が始まっとる。適切な処理を施さねば、どれだけ良い素材も台無しになってしまうのじゃ」

 

 ネルマーはリュックから様々な道具を取り出し、草原の上に広げた。

 特殊な液体に浸した布、魔力を感知する水晶、そして精密な刃物。

 

「これより、羊竜王の宝毛の魔力を封じ込める処理を行う。見ておるがよい、これが超一流の技じゃ」

 

 ネルマーの手が、流れるように動く。

 宝毛を特殊な液体で丁寧に洗い、魔力の流れを水晶で確認しながら、一本一本の繊維を整えていく。

 

「……美しい」

 

 その手つきは、まるで芸術作品を作り上げているようだった。

 

「素材との対話じゃ。この宝毛が、どんな眠りを求めているのか。それを理解せねば、超一流のベッドは作れん」

 

 処理は一時間ほど続いた。

 最後に、ネルマーは宝毛を特殊な布で包み、大切そうにリュックにしまった。

 

「よし、これで完璧じゃ。二日もあれば、最高のベッドを仕上げてみせましょう」

 

「本当ですか!?」

 

「うむ。これほどの素材に出会えたこと、職人冥利に尽きます」

 

 ネルマーはそう言って、満足そうに笑った。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 二日後。

 

 私の部屋に、真新しいベッドが届いた。

 黄金色に淡く光る、美しいベッド。触れただけで、魔力が優しく体を包み込む感覚があった。

 

「これが……宝毛のベッド……」

 

 恐る恐るベッドに横たわった。

 瞬間——

 

「……っ!」

 

 言葉を失った。

 

 今までのどんなベッドとも違う。

 雲の上どころか、天国にいるような心地よさ。

 体の疲れが、みるみる溶けていく。

 

「すごい……これ、すごいよナミギリ……」

 

『姫様、よかったですね』

 

「うん……これで、いつでも最高の睡眠ができる……」

 

 わたしは、そのまま、深い眠りに落ちていった。

 

 至福の寝心地の中で、夢を見た。

 羊竜王が空を飛んでいる夢を。

 どこか誇らしげに、でも少しホッとしたような顔で。

 

「メェー」

 ——良い夢を、剣聖よ。

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 わたしは、さらに深い眠りへと沈んでいく。

 

 最高のベッド。最高の睡眠。

 これで、わたしの惰眠ライフはさらに充実する。

 

 そう思いながら。

 

 そう。

 このときのわたしは、このときまではこんな最高の日常がずっと続くと信じていた。

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