努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~ 作:エレティムさん
剣技大会が終わって、幾ばくかの時が過ぎた。
わたしの日常は、完璧な惰眠ライフに戻っていた。
朝は遅くまで寝て、起きたら庭でお昼寝。おやつを食べて、また寝る。
たまにナミギリが素振りをするけど、その間もわたしは脳内でお昼寝。
完璧。何の不満もない。
――はずだった。
「でも……ちょっと飽きてきたかも」
ふかふかのベッドに寝転がりながら、わたしは天井を見つめた。
「惰眠にもバリエーションが必要だよね。そうだ、学校! あの机の固さと冷たさ、恋しいなぁ」
伸びをして、大きなあくびをひとつ。
「よし、今日は学校で寝よっと!」
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
久しぶりに校門をくぐると、生徒たちの視線が一斉に集まった。
ひそひそ声があっという間に広がっていく。
「殿下だ!」
「剣聖様が学校に来てる!」
「ほんとに……? 眠り姫、じゃなくて剣聖姫が……?」
「剣聖になってから来てなかったから、てっきり退学するのかと……」
授業が始まった。
相変わらず、授業というのはどうしてここまで人を眠たくさせるのだろう?
わたしは本能のまま、机に突っ伏した。
木の冷たさが頬にひやりと伝わる。
その下に隠れた微かな木目のざらつき。これだ。これが欲しかった。
「これこれ~……やっぱり学校の机睡眠は格別……」
全身がとろけていく。
いつものベッドとは違う、絶妙な不快感が逆に眠りを誘う。
これぞ惰眠の新境地。
だが、静寂は長く続かなかった。
わたしの机のまわりに次々と人影が集まり、声が飛ぶ。
「殿下! どうすれば剣聖になれるんですか!?」
「ぜひ一戦お願いします!」
「一太刀だけでも!」
わたしは顔を伏せたまま、半分夢の中で答える。
「……今は昼寝タイム。話しかけないで」
「で、でも!」
「お願いします!」
「…………zzz」
完全無視。睡眠優先。
その瞬間、教室の空気が「さすが眠り姫」と妙な納得を帯びた。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
ガラッ、と勢いよく扉が開いた。
仁王立ちして現れたのは、因縁の男――ガイルだった。
「ネム姫! 久しぶりだな!」
わたしは机に顔を埋めたまま、片手をひらひら振る。
「えー……やだよ。今日は寝に来ただけだってば」
「待ってくれ! ネム姫に、どうしても教えてほしいことがあるんだ!」
(またこれか……)
教室はざわついた。
「……ガイル、また来たのか」
「剣聖様に弟子入りしたいって、毎日職員室で待ち伏せしてるらしいぞ」
「マジで? 熱心すぎるだろ……」
「ちょっと引くよね」
「でも、真面目なのはガイルらしいけど」
「真面目を通り越してない?」
ガイルが周囲を気にせず、わたしに近づく。
「ネム姫に教えてもらった『強さの秘密』――毎日実践してるんだけど、どうしてもうまくいかないんだ!」
わたしは深くため息をつく。
(昼寝妨害は、ほんと罪深いんだよね……)
「ねぇ、ほんとにめんどくさいから、やめてくれない?」
わたしはあくび混じりに、肩をすくめる。
「でも! 本を読んで寝ても、一向に理論が完成しないんだ! 何か、コツがあるんじゃないかって思って……!」
「えーと、先生ー! ガイルがまた騒いでまーす!」
教室の後ろから誰かが声を上げる。
「待ってくれ! まだ聞きたいことが――それに、ネム姫との一戦も……!」
「はいはい、また今度ね」
わたしは手を振って、再び机に顔を伏せた。
廊下から教師の足音が近づいてくる。
「ガイル! 授業中に何をしている!」
「くっ……!」
ガイルは悔しそうに歯噛みしたが、教師に連れ出されていった。
教室に静寂が戻る。
(平和が一番……)
わたしは心地よい木の冷たさを感じながら、再び夢の世界へと落ちていった。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
昼休み。
わたしは校庭の木陰でお弁当を食べていた。
メイドが用意してくれた、豪華なお弁当。
「んー、おいしい♪」
サンドイッチを頬張りながら、わたしは芝生に寝転がる。
空は青く、雲がゆっくり流れていく。
風が心地よく頬を撫でる。
(あー、最高……学校もたまにはいいかも)
そう思っていると、影が差した。
顔を上げると、クラスメイトの女子が数人、遠慮がちに立っていた。
「あの、ネム様……」
「ん? なに?」
「その……剣技大会、すごかったです!」
「えっと、ありがとう?」
わたしは適当に返事をする。
「あの、もしよかったら……剣の極意とか、教えていただけませんか?」
「極意? んー……」
わたしは少し考えて、答えた。
「寝ること、かな」
「……え?」
「寝れば寝るほど強くなるよ。これ、マジで」
女子たちは顔を見合わせた。
「え、えっと……それは比喩、ですよね?」
「いや、マジで。わたし、ほとんど寝てるだけだし」
「……」
「……ふわぁ」
女子たちは互いに目を合わせ、困惑した表情。
その中の一人が手を挙げた。
「あ、あの! あと、できれば……美の極意とかも、教えていただけませんか?」
「美の極意?」
「は、はい! 以前よりも美しくなってるように見えてて……」
「それも惰眠だよ! 寝れば寝るほど美しくなる! 名付けて、惰眠美容法!!」
「へ、へー……」
女子たちは困惑した表情で去っていった。
(なんだったんだろう……?)
わたしは首を傾げながら、再びサンドイッチを頬張った。
そして、お弁当を食べ終えると、芝生の上でごろんと横になる。
「ふわぁ……やっぱり昼寝が一番……」
まぶたが重くなり、意識が遠のいていく。
学校での惰眠。
これもまた、至福の時間だった。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
放課後。
わたしは帰り支度をしながら、今日一日を振り返っていた。
(うん、久しぶりの学校も悪くなかったかも。たまには環境を変えるのもいいね)
教室を出ると、廊下でメイドが待っていた。
「ネム様、お疲れさまでした」
「うん、今日はいっぱい寝れた!」
「……それは良かったですね」
メイドは苦笑しながら、わたしと一緒に歩き出す。
校門を出ると、夕日が校舎を赤く染めていた。
わたしは伸びをして、大きくあくびをする。
「帰ったらお風呂入って、ごはん食べて、また寝よっと!」
「さすがネム様ですね……」
メイドは呆れたような、でも優しい笑顔を浮かべた。
わたしたちは夕焼けの中を、のんびりと王宮へ帰っていった。
至福の惰眠ライフは、今日も続く。