努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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15.久しぶりに学校へ

 

 剣技大会が終わって、幾ばくかの時が過ぎた。

 

 わたしの日常は、完璧な惰眠ライフに戻っていた。

 

 朝は遅くまで寝て、起きたら庭でお昼寝。おやつを食べて、また寝る。

 

 たまにナミギリが素振りをするけど、その間もわたしは脳内でお昼寝。

 

 完璧。何の不満もない。

 

 ――はずだった。

 

「でも……ちょっと飽きてきたかも」

 

 ふかふかのベッドに寝転がりながら、わたしは天井を見つめた。

 

「惰眠にもバリエーションが必要だよね。そうだ、学校! あの机の固さと冷たさ、恋しいなぁ」

 

 伸びをして、大きなあくびをひとつ。

 

「よし、今日は学校で寝よっと!」

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 久しぶりに校門をくぐると、生徒たちの視線が一斉に集まった。

 

 ひそひそ声があっという間に広がっていく。

 

「殿下だ!」

「剣聖様が学校に来てる!」

「ほんとに……? 眠り姫、じゃなくて剣聖姫が……?」

「剣聖になってから来てなかったから、てっきり退学するのかと……」

 

 授業が始まった。

 

 相変わらず、授業というのはどうしてここまで人を眠たくさせるのだろう?

 

 わたしは本能のまま、机に突っ伏した。

 

 木の冷たさが頬にひやりと伝わる。

 

 その下に隠れた微かな木目のざらつき。これだ。これが欲しかった。

 

「これこれ~……やっぱり学校の机睡眠は格別……」

 

 全身がとろけていく。

 

 いつものベッドとは違う、絶妙な不快感が逆に眠りを誘う。

 

 これぞ惰眠の新境地。

 

 だが、静寂は長く続かなかった。

 

 わたしの机のまわりに次々と人影が集まり、声が飛ぶ。

 

「殿下! どうすれば剣聖になれるんですか!?」

「ぜひ一戦お願いします!」

「一太刀だけでも!」

 

 わたしは顔を伏せたまま、半分夢の中で答える。

 

「……今は昼寝タイム。話しかけないで」

 

「で、でも!」

「お願いします!」

 

「…………zzz」

 

 完全無視。睡眠優先。

 

 その瞬間、教室の空気が「さすが眠り姫」と妙な納得を帯びた。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 ガラッ、と勢いよく扉が開いた。

 

 仁王立ちして現れたのは、因縁の男――ガイルだった。

 

「ネム姫! 久しぶりだな!」

 

 わたしは机に顔を埋めたまま、片手をひらひら振る。

 

「えー……やだよ。今日は寝に来ただけだってば」

 

「待ってくれ! ネム姫に、どうしても教えてほしいことがあるんだ!」

 

(またこれか……)

 

 教室はざわついた。

 

「……ガイル、また来たのか」

「剣聖様に弟子入りしたいって、毎日職員室で待ち伏せしてるらしいぞ」

「マジで? 熱心すぎるだろ……」

「ちょっと引くよね」

「でも、真面目なのはガイルらしいけど」

「真面目を通り越してない?」

 

 ガイルが周囲を気にせず、わたしに近づく。

 

「ネム姫に教えてもらった『強さの秘密』――毎日実践してるんだけど、どうしてもうまくいかないんだ!」

 

 わたしは深くため息をつく。

 

(昼寝妨害は、ほんと罪深いんだよね……)

 

「ねぇ、ほんとにめんどくさいから、やめてくれない?」

 

 わたしはあくび混じりに、肩をすくめる。

 

「でも! 本を読んで寝ても、一向に理論が完成しないんだ! 何か、コツがあるんじゃないかって思って……!」

 

「えーと、先生ー! ガイルがまた騒いでまーす!」

 

 教室の後ろから誰かが声を上げる。

 

「待ってくれ! まだ聞きたいことが――それに、ネム姫との一戦も……!」

 

「はいはい、また今度ね」

 

 わたしは手を振って、再び机に顔を伏せた。

 

 廊下から教師の足音が近づいてくる。

 

「ガイル! 授業中に何をしている!」

 

「くっ……!」

 

 ガイルは悔しそうに歯噛みしたが、教師に連れ出されていった。

 

 教室に静寂が戻る。

 

(平和が一番……)

 

 わたしは心地よい木の冷たさを感じながら、再び夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 わたしは校庭の木陰でお弁当を食べていた。

 

 メイドが用意してくれた、豪華なお弁当。

 

「んー、おいしい♪」

 

 サンドイッチを頬張りながら、わたしは芝生に寝転がる。

 

 空は青く、雲がゆっくり流れていく。

 

 風が心地よく頬を撫でる。

 

(あー、最高……学校もたまにはいいかも)

 

 そう思っていると、影が差した。

 

 顔を上げると、クラスメイトの女子が数人、遠慮がちに立っていた。

 

「あの、ネム様……」

 

「ん? なに?」

 

「その……剣技大会、すごかったです!」

 

「えっと、ありがとう?」

 

 わたしは適当に返事をする。

 

「あの、もしよかったら……剣の極意とか、教えていただけませんか?」

 

「極意? んー……」

 

 わたしは少し考えて、答えた。

 

「寝ること、かな」

 

「……え?」

 

「寝れば寝るほど強くなるよ。これ、マジで」

 

 女子たちは顔を見合わせた。

 

「え、えっと……それは比喩、ですよね?」

 

「いや、マジで。わたし、ほとんど寝てるだけだし」

 

「……」

 

「……ふわぁ」

 

 女子たちは互いに目を合わせ、困惑した表情。

 

 その中の一人が手を挙げた。

 

「あ、あの! あと、できれば……美の極意とかも、教えていただけませんか?」

 

「美の極意?」

 

「は、はい! 以前よりも美しくなってるように見えてて……」

 

「それも惰眠だよ! 寝れば寝るほど美しくなる! 名付けて、惰眠美容法!!」

 

「へ、へー……」

 

 女子たちは困惑した表情で去っていった。

 

(なんだったんだろう……?)

 

 わたしは首を傾げながら、再びサンドイッチを頬張った。

 

 そして、お弁当を食べ終えると、芝生の上でごろんと横になる。

 

「ふわぁ……やっぱり昼寝が一番……」

 

 まぶたが重くなり、意識が遠のいていく。

 

 学校での惰眠。

 

 これもまた、至福の時間だった。

 

 

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 わたしは帰り支度をしながら、今日一日を振り返っていた。

 

(うん、久しぶりの学校も悪くなかったかも。たまには環境を変えるのもいいね)

 

 教室を出ると、廊下でメイドが待っていた。

 

「ネム様、お疲れさまでした」

 

「うん、今日はいっぱい寝れた!」

 

「……それは良かったですね」

 

 メイドは苦笑しながら、わたしと一緒に歩き出す。

 

 校門を出ると、夕日が校舎を赤く染めていた。

 

 わたしは伸びをして、大きくあくびをする。

 

「帰ったらお風呂入って、ごはん食べて、また寝よっと!」

 

「さすがネム様ですね……」

 

 メイドは呆れたような、でも優しい笑顔を浮かべた。

 

 わたしたちは夕焼けの中を、のんびりと王宮へ帰っていった。

 

 至福の惰眠ライフは、今日も続く。

 

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