努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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2.禁書惰眠(上)

 王宮の庭園。

 季節の花々が咲き誇り、陽の光はあたたかく降り注いでいた。午後の日差しが芝生に落ちる影を作り、そよ風が優しく頬を撫でる。

 

 完璧な昼寝日和だ!

 芝生にごろんと寝転がって、両腕を枕にして空を見上げる。青い空に白い雲がゆっくりと流れていく。

 

 いつもなら3秒で夢の国に行ける。

 

 いや、本気を出せば1秒でもいける!

 

 ……はずだった。

 なのに。

 

「……ぜんっぜん眠れない!」

 

――ポンコツ。

 

 昨日、父に浴びせられたあの言葉が、まぶたの裏にべったり貼り付いて離れない。

 『ポンコツネムがっ』『王族としての意識が足りぬ』

 何度目を閉じても、あの冷たい声と視線が脳裏に蘇ってくる。

 

「快眠が……わたしの快眠がぁぁぁ!!」

 

 じたばたと芝生を転げ回る。

 惰眠こそ至高、惰眠こそ最強美容法。

 それが揺らぐなんて、許せるわけない。惰眠は人生の基盤なのに、その土台が崩れてしまった。

 

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

 両腕を枕にしたまま地団駄を踏む。

 怒りと悲しみと悔しさが入り混じって、心はぐちゃぐちゃ。

 通りかかった庭師が驚いて見ているけど、今はそんなこと気にしてられない。

 

「このままじゃ、わたしの美容に悪影響が……!」

 

 立ち上がって、ぶんぶんと頭を振る。

 

「そうだ……いつもと違う場所なら、眠れるかも!」

 

 新しいお昼寝スポットを探そう。

 きっと完璧な場所が見つかるはず。

 

 気付けば足は、王宮の奥へ奥へと向かっていた。

 

 

 

...*...*...(っ*´Д`)っ...*...*...

 

 

 

 石造りの重厚な扉の前。

 

「……ここって」

 

 そこは『禁書』と呼ばれる、人の道に反した魔道書や古代の記録が眠る場所――王宮禁書庫。

 

 本来なら王族であっても自由に入ることはできない。

 入室には国王の許可が必要で、記録係の監視のもとでしか閲覧できないという厳重な規則がある。

 

「……入っちゃダメって言われてるけど」

 

 ふと、昨日の父の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 ――ポンコツネムがっ!

 

「……今のわたしは、イライラしてるの」

 

 怒りがふつふつと湧き上がる。

 

「もう、禁書庫に入っちゃえ!」

 

 重い扉を押し開けると、古い紙とインクの匂いが鼻をつく。

 天井まで続く本棚には、革装丁の分厚い本がぎっしりと詰まっている。

 

「む〜、悪くないお昼寝スポットはあるけど……」

 

 窓辺の読書椅子や、柔らかそうな絨毯の上。確かに静かで落ち着く。

 椅子に座ってみたり、絨毯に寝転がってみたり。

 

「……やっぱり眠れない」

 

 ため息をついて、ぼんやりと本棚を眺める。

 

「そうだ、禁書って、なんだろ?」

 

 興味本位で一冊抜き出す。

 

 『魂の分割と保存に関する考察』

 

 表紙を開いて、ぱらぱらとページをめくる。

 

「うえ、ほかの本と一緒じゃない? むしろもっと読みにくいような……」

 

 難解な専門用語がびっしり。

 図解も複雑で、見ているだけで頭が痛くなりそう。

 

「人の道に反したとか言うから、もっとすごいのかと思ったのに……ふわぁ」

 

 あくびが出る。

 

「……すぅ」

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 ――気がつけば、夢の中。

 

 ふかふかのベッドで、極上の惰眠を貪っている。

 鳥のさえずり、優しい風、温かい日差し。

 完璧な昼寝だ。

 

 どれくらい眠ったのだろう。

 ゆっくりと目を開けると、手には先ほどの禁書。

 

「……あれ?」

 

 時計を見ると、かなりの時間が経っていたようだった。

 

「えっ、今……めちゃくちゃ熟睡してなかった!?」

 

 立ち上がって、本を見つめる。

 

「もしかして……」

 

 別の本を手に取る。『不老不死の研究概論』。

 

 ページを開いて、文字を目で追う。

 やはり難解で、意味が全然分からない。

 

「……すぅ」

 

 またもや、あっという間に――

 

 ――夢の世界へ。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

「やった!!!」

 

 目覚めたわたしは、両手を掲げて叫んだ。

 

「禁書を読み始めると、10秒で眠れる!」

 

 これは大発見だ。

 難しすぎて意味が分からない本は、最高の睡眠導入剤になる。

 

「これで『ポンコツ』なんて暴言忘れて眠れるね!」

 

 胸に本を抱きしめる。

 

「名付けて――『禁書惰眠』!」

 

 完璧だ。

 もう二度と、眠れない夜なんて来ない。

 

 ほかの本も試してみよう。

 『禁じられた召喚術の系譜』『古代魔法陣の解析』『血と魂の錬成理論』

 

 どれもこれも、開いた瞬間に眠くなる。

 

「最高……ここは、わたしの楽園だ……」

 

 禁書庫の柔らかい絨毯の上で、本を枕にして丸くなる。

 

 ――努力なんて、わたしがやる必要ないでしょ。やりたい人にやってもらえばいいのに。

 

 そんなことをぼんやり考えながら、またもや夢の中へ。

 

 幸せな惰眠の日々が、再び始まったのだった。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

Side:ベルトナーガ

 

 あれから一ヶ月が経った。

 

「……ネムの様子はどうだ」

 

 国王ベルトナーガの低い声が、執務室に響く。

 末娘の惰眠ばかりの生活に、このままではいけないと叱ったあの日以降。

 ネムはどうしているのか。

 

「はい……本を持って、よく寝ています」

 

 メイドが報告する。

 

「本を?」

 

 ベルトナーガの目が僅かに見開かれた。

 

「はい。庭園や廊下、教室でも……いつも分厚い本を抱えて眠っておられます」

 

「……努力を、しているのか?」

 

 その言葉には、かすかな期待が込められていた。

 

「いえ……」

 

 メイドは申し訳なさそうに首を横に振る。

 

「まともに読んでいる姿は、一度も見たことがありません。本を開いて数秒で寝てしまわれます。ご本人は、それを『禁書惰眠』と仰っていますが……」

 

「禁書……惰眠?」

 

 国王の眉がぴくりと動く。

 

「……て、おい、禁書!? 禁書を読んでいるのか!?」

 

「そのようです」

 

「いや、絶対ダメだろ! ネムを呼びなさい!」

 

 ベルトナーガの声が執務室に響き渡った。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 また玉座の間に呼び出された。

 

「禁書を読むのをやめなさい」

 

 父の声は厳しい。

 

「なんで? 別に誰にも迷惑かけてないし」

 

「禁書は危険な知識が記されている。お前が理解できぬとも、持ち出されるだけでリスクだ。下手に優秀な者の手に渡れば、大きな被害が発生するやもしれん」

 

「ふ〜ん」

 

 父は、言った。

 

「禁書を読むなんて、どれだけポンコツなんだ! それに結局、まともに読んでないって話じゃないか!」

 

「だってこれ、ただの睡眠導入剤だし」

 

 でも、また、ポンコツって言った……!

 

 わたしは、睨む。

 

 父は額に手を当てて、深く、深く、ため息をついた。

 

「一瞬でも……一瞬でもネムが努力を始めたと思った余がバカだった……そもそも睡眠導入剤なら普通の本でよかろう!?」

 

 その言葉が、また胸に突き刺さる。

 

「……っ」

 

 悔しい。

 見返したい。

 

 でも――

 

「知らない!」

 

 わたしは叫んで、玉座の間を飛び出した。

 

「ネム! 待ちなさい!」

 

 父の声が背中に響くけど、振り返らない。

 

 廊下を走って、走って、自室に駆け込む。

 

 

 

...*...*...*...*...*...

 

 

 

 ベッドの上に置いてあった禁書――『魂の分割と保存に関する考察』。

 

 わたしは思う。

 これで普通の本にしたら、負けじゃん!

 

 『ポンコツ』って言われて、その通りにするなんて、絶対イヤだ。

 

 死んでも『禁書惰眠』を続けてやる!

 

 わたしは手に取ると、すぐにページを開いた。

 

「……見返す! 絶対に見返してやるんだから!」

 

 拳を握りしめる。

 

「でも、禁書惰眠すれば眠れるし……いつかね……」

 

 いつか、いつか――

 

「……すぅ」

 

 本を抱きしめたまま、ベッドに倒れ込む。

 

 そもそもの話。

 努力なんてやる必要ある?

 少なくとも、わたしがやるものではないよね?

 

――そう。

 努力なんて、やりたい人だけがやればいい。

 

 そんな風に思いながら。

 柔らかな惰眠に身を委ね、深い、深い眠りに落ちていった。

 

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