努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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17.王都炎上

 

 ……なんか今日、やけに騒がしくない?

 

 【羊竜王の宝毛】で作った最高級ベッドで眠りながら思った。

 あの襲撃事件から数週間が経ち、王宮なら、ちゃんと眠れるようになっていた。王宮の外はまだ怖いけれど、庭園とか図書館とか馬小屋とか、王宮にもいろいろお昼寝スポットあるし、ま、いっかって思えるくらいには立ち直っていた。

 そして今日も、わたしはそのベッドで眠っていたんだけど。

 

 ……やっぱり騒がしい。

 枕に顔を埋めたまま、ぼんやりとそう思った。

 どうにも寝心地が悪い。いや、布団はふかふかなんだけど、外がガヤガヤしてて、もう完全に起きちゃったんですけど。

 

 ちょっとイラッとして、呼び鈴を鳴らす。

 

「——はい! ただいま!」

 

 ドンドンと、いつもより三倍くらい乱暴なノックとともに、いつものメイドの声が飛び込んできた。

 声もやけに切羽詰まっている。

 

「え? どうしたの? そんな慌てて」

 

「姫様! ついに、ご出陣なされるおつもりになったのですか!」

 

「え? なにそれ。なんのこと? てか、わたしは寝心地が悪くて呼んだんだけど。もしかして今日って何かお祭りでもやってるの? 太鼓がうるさいんだけど」

 

「は……?」

 

 メイドは扉の向こうで固まったのがわかった。

 

「まさか……まだ気付いていないんですか……? 王都が魔物に襲われているんですよ! 魔王軍です!」

 

「え、また冗談を……。そんな物騒な冗談、やめてよ」

 

「冗談ではありません! 何度も何度も、もう三度もお呼びしましたのに、『まだ寝るから』って……!」

 

 ああ、そういえば。

 なんか思い出してきたかも。

 

 一度目は「姫様、大変です!魔物が!」って言われたけど、「まだ寝るから…」って返した。

 二度目は「姫様!本当に危険です!」って必死に言われたけど、「あと5分…」って布団に潜り込んだ。

 そして三度目が、今。

 

「……もしかして、あれって夢の中の出来ことじゃない?」

 

「そうですよ!!」

 

「でもそんな、魔王軍なんて……」

 

 渋々体を起こし、窓辺に歩み寄った。

 寝ぼけ眼で外を覗く。

 

「魔王軍なんているわけ——」

 

 

 ——次の瞬間、窓ガラス越しにも熱気が伝わってきた。

 

 黒煙がごうごうと天に立ち昇り、いくつもの炎の舌が空を舐めている。まるで夕焼けが降りてきたように王都全体が赤く染まっていた。炎上している箇所からは、建物の崩れる音や、人間のものとも思えない獣の咆哮が響き渡っている。

 

「……ちょ、ほんとに燃えてる!? 王都があんなに!?」

 

「だから言いました!!」

 

 遠くからは人々の悲鳴が重なり合い、まるで街全体が泣き叫んでいるみたいだった。

 

 わたしの胸が、ぎゅっと締め付けられた。

 あの時の——黒装束に襲われた時の恐怖が、一瞬蘇る。

 

 でも。

 

『姫様、大丈夫ですか?』

 

 ナミギリの声が、優しく響いた。

 

「……うん。ナミギリがいるから」

 

 わたしは深呼吸をした。

 そうだ。ナミギリに任せれば、きっと大丈夫。あの襲撃事件の時も、ナミギリが守ってくれた。

 

「ナミギリなら……さくっと、なんとかしてくれるよね……?」

 

『はい、姫様。もちろんです』

 

 ナミギリの声には、揺るぎない自信があった。

 

『では、参りましょう』

 

 わたしは頷く。

 メイドが慌てて声をかけてくる。

 

「姫様! お着替えを!」

 

「別にいいでしょ! サクッと終わらせるんだから!!」

 

 着替える必要も感じない。

 パジャマ姿のまま、わたしはナミギリに体を預け、城を飛び出すのだった。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

(ナミギリ、ちゃちゃっとお願い。早くお昼寝に戻りたい)

 

『姫様、ご安心を。この程度の魔物は、姫様の惰眠を妨げる障害にもなりませぬ』

 

 頭の中に響くナミギリの声は、いつものように自信に満ちている。

 

(その言葉、信じるよナミギリ。早く終わらせて。まだ眠いの)

 

『……しかし、これはどういうことでしょうか』

 

 言われてみると、わたしでも分かるくらいに、珍しいことが起きていた。

 街を進むにつれて、視界が悪くなっているのを感じた。

 

(……霧?)

 

『ええ、そのようですな』

 

(珍しいね。この時期に霧なんて。それに、なんか変な感じがする)

 

『……姫様、この霧は北の方から流れてきているようです』

 

 ナミギリの声に、いつもとは違う緊張感が混じっていた。

 

 うっすらと、乳白色の霧が、通りを覆い始めている。まるで生き物のように、ゆらゆらと蠢きながら街並みを飲み込んでいく様子は、どこか不気味だった。確かに、風向き的には北からこの王都へ向かってきているようだ。

 

(なにこれ、なんか変? 北から流れてきているような)

 

『王都の北部は森林地帯です。恐らく魔法的な現象かと。警戒が必要です』

 

 ナミギリは慎重に通りを進んでいく。石畳の道が霧に霞んで、普段なら賑やかな商店街も静まり返っていた。

 

 その時だった。

 

「きゃああああああああああああ!」

 

 女性の悲鳴が霧の向こうから響いてきた。

 

『姫様、参ります』

 

 ナミギリは迷いなく悲鳴の方向へ向かい、近くの民家の扉を蹴破って中に飛び込んだ。

 

「きゃー!誰か助けて!」

「母さん!逃げろ!」

 

 リビングの真ん中で、毛むくじゃらの巨体を持つホブゴブリンが、今にも住民の親子を襲おうと棍棒を振り上げていた。

 その醜悪な顔には、明らかに殺意が宿っている。

 

 うげぇ、きったない。

 こんなのにわたしの安眠を邪魔されたの……?

 

『――疾ッ』

 

 一瞬の静寂。

 ナミギリの一閃が空気を裂く音すらしなかった。

 ホブゴブリンは声さえ上げられず、棍棒を握ったまま音もなく崩れ落ちる。

 

 え? もう終わり?

 まあ、剣聖になったナミギリなんだし、これくらい当然なのかな? 実感ないけど。

 

 あっけなさに拍子抜けしていると、助かった住民たちが駆け寄ってきた。

 

「王女様! ありがとうございます! 命の恩人です!」

「剣聖姫様、万歳! 剣聖姫様、万歳!」

「これでうちの子供たちも助かりました……! 本当にありがとうございます!」

 

 住民たちが口々に感謝を述べてくるが、体を操っているナミギリが小さく会釈をするだけだった。

 

「しかし王女様、この魔物は一体どこから現れたのでしょう?」

 

 住民の一人——中年の男性が、まだ恐怖で顔を引き攣らせながら訴えた。

 

「突然現れたんだ! いえ、突然現れたんです! 何もないところから!」

「そう! 何もないところというよりは、あの白い霧から生まれたように見えました!」

「つまり何もないところからってことだろ? 同じじゃねぇか」

 

 老人がぼそりと呟くと、他の住民たちも頷いた。

 

『姫様、他にも被害者がいるかもしれません』

 

 ナミギリは住民たちに一礼すると、さらに奥へ向かって駆け出した。

 城門前まで向かう途中、遠くから爆音や悲鳴が断続的に聞こえてくる。

 

 うわぁ、本格的にヤバい感じになってきたね。

 

 

 

『姫様、次はオーガのようです』

 

「はぁっ!」

 

 見ると、見覚えるのある少年の姿があった。

 

 ガイルだ。

 巨大なオーガと剣を交えており、必死に背後の市民を守っている。

 

『姫様、あれは』

 

(ガイルだね)

 

 オーガの巨大な斧がガイルに振り下ろされる。ガイルは紙一重で避けながら、剣を叩き込んだ!

 

「おらああああああ!!!!!!」

 

 ガイルの剣がオーガを斬り裂いた。

 

 

 

 

(おお! やるじゃん、ガイル)

 

『なるほど、あの小僧の実力ではオーガには苦戦するかと思っておりましたが、どうやら鍛錬を欠かしていないようですな。ですが――』

 

 ガイルの背後。

 そこへ、もう一体のオーガが近づいてきていた。

 

――ナミギリの一閃。

 もう一体のオーガの巨体が、真っ二つに裂けて倒れた。

 

「ネ、ネム姫!?」

 

 ガイルが驚いて振り返る。

 

 振り返り、もう一体のオーガに気付くガイル。

 

「あの、もしかして、俺のこと助けて……?」

 

『何か、ガイルに言いますか?』

 

(いいよ別に)

 

「ありがとう、ネム姫! 助かった! 命の恩人だ!」

 

(別に……)

 

 そんな風に思っていると。

 

『姫様、ご覧ください』

 

 見ると——前方、城門の方には、巨大なドラゴンがいた。

 

(……は? な、何あれ?)

 

 一目で、やばいと分かった。

 あんなのは人間が勝てる相手ではない。戦いにすらならない。素人の私でもわかる。『あいつ』とは、生物としての格が違う。

 羊竜は、羊が空に浮いている感じの割とポップな感じの見た目だった。でも『あの竜』の見た目はかなり違う。そう、格が違うように感じた。

 

 でも、ナミギリは高速で、駆け抜ける!

 

 赤い鱗に覆われた巨体が城壁の一部を溶かしながら暴れ回り、王都騎士団の精鋭たちが剣と魔法で応戦している。

 しかし、明らかに旗色は悪そうだった。

 

「騎士長! このままでは城壁が持ちません!」

「くそっ! 魔法攻撃が効かない!」

「炎の温度が尋常じゃありません! 近づけません!」

 

 騎士たちの叫び声が戦場に響いている。

 

(ナミギリ! やばいって!)

 

『ええ、通常は滅多に人里に現れることはございませんが……』

 

(なんでドラゴンの方に向かっているの!? 説明はいいから! 早く逃げないと!)

 

『逃げる? 姫様、お言葉ですが、このようなトカゲなど恐るるに足りませぬ』

 

(……は、何を言って——)

 

 ドラゴンは大きく口を開き、真っ赤な炎を溜め始めた。

 その時、ナミギリがふっと息を整えた。

 

「ふぅ……」

 

『姫様、お任せを』

 

 ドラゴンから炎が騎士たちに向かって吐き出される——

 

 

——そこに、ナミギリは突っ込んでいた。

 

 ちょおおおおおおおおおおおおい!?

 

 次の瞬間、ナミギリの基本動作——ただの袈裟斬り。

 それだけで空中の炎が縦に裂ける。それだけに留まらず、そのままドラゴンの首が音もなく胴体から滑り落ちた。巨体が勢いそのままに地面に激突し、砂埃が舞い上がる。

 

 ……え?

 いったい何が……?

 

 周囲の騎士たちも、呆然と立ち尽くしている。

 

「な、なんだ今のは……! 一瞬で……!」

「ドラゴンを一刀両断だと……?」

「剣聖の実力、恐るべし……!」

「剣聖姫様が助けてくださった!!」

 

 え、弱っ!

 いや、ナミギリが思ってた以上に強い……?

 どっちなんだろ?

 

『最近では奥義の鍛錬もしておりましたからな』

 

 そう。

 学園での襲撃事件以降、ナミギリには奥義の鍛錬も許可していた。

 一日一回だけだけど、奥義を使用していた。

 なんと、羊竜王のベッドは、筋肉痛にも効果があるようで、そんなにつらくなくなったというのもある。

 

 もしかしたら、奥義の鍛錬でナミギリの強さは剣聖になった時よりも、かなり強くなっているのかもしれない。

 

 その時、周囲にいた市民たちの歓声が地鳴りのように響き上がった。

 

「剣聖ネム様が戦っているぞ! 希望だ!」

「剣聖様が我らを救ってくださった! 続けぇぇ!」

「王都に剣聖あり! 我らに勝利を!」

 

 勢いづいた声援を背に、私は心の中でつぶやく。

 いや別に、共に戦うとは言って

 

 そこへ、血まみれの騎士が息を切らして駆け寄ってきた。王都騎士団の男だった。

 

「剣聖様!」

 

 騎士は必死の形相で、その場で膝をつき頭を下げる。

 

「陛下はすでに避難されました。我々の務めは本来、あなた様をお守りし共に退避させることですが……!」

 

 あー、はいはい。で?

 

「ですが今は、それどころではありません! 王都は崩壊寸前です!」

 

 騎士の声は震えていた。

 

「どうか剣聖として——どうか我らに力をお貸しください! このままでは王都が、民が……!」

 

 まぁ、この状況じゃ安眠どころじゃないし。

 

『姫様、お手伝いするということでよろしいですな?』

 

 頭の中でナミギリが確認してくる。

 うん、乗り掛かった舟だしね。それに、このまま放っておいたら安眠できないし。

 

 すると、ナミギリが操るわたしの口が動いた。

 

「もちろんだ。助太刀する」

 

 凛とした声で、威厳たっぷりに。

 

 いや、キャラ違うって! なにその偉そうな口調!

 

「感謝いたします! 剣聖様!」

 

 兵士が頭を下げる。

 

「では、まず状況を教えてくれ」

 

(また口調がおかしいって!)

 

『姫様、情報収集は大切です』

 

 いや、そういうことじゃなくてだな……もうちょっとわたしの口調に寄せてほしいんだけど……

 

「はっ! 現在、王都各地に魔物が出現しております。確認されているだけで、ドラゴン3体、オーガ10体、その他ゴブリンやオークなど魔物が多数……」

 

 多すぎでしょ。これじゃ安眠どころか、一睡もできないじゃない。

 

「全て、あの白い霧から現れているようです。霧の発生源は……王都北部の森林地帯と思われます」

 

 やっぱり北からね……

 つまり、そこが本丸ってわけね。

 

『恐らく、何者かが魔法的な手段で魔物を召喚していると思われます』

 

 魔物召喚? そんなことができる人間いるの?

 

『通常は不可能ですが、禁術を使えば……』

 

 禁術かぁ。面倒な響きだなぁ。

 

「勇者パーティは、最前線にいますので、王都までは戻れません! 北部の霧の発生源には、シュノール騎士団が向かっております!」

 

 兵士は力強く頷いた。

 

「シュノール騎士団は王国最強の精鋭部隊。必ずや霧の発生源を断ってくれるはずです!」

 

 つまり……北部さえ何とかなれば、魔物は湧いてこなくなる。

 

『その通りです、姫様』

 

「では、わしは北へ行き、加勢すればよろしいかな?」

 

「いえ……」

 

 兵士は言う。

 

「今も王都では被害が拡大する一方なんです! シュノール騎士団が発生源を断つまで、王都の被害を最小限に抑えるのです!」

 

 その時、また新たな爆音が響いた。今度は王宮の方角からだ。

 

「まずい! 王宮にも魔物が!」

 

 兵士が青ざめた顔で叫ぶ。

 

(王宮にも……王宮にも!?)

 

 わたしの目には、王宮を襲うドラゴンの姿が映っていたのだった。

 

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