努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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20.強制暴走

 

Side:ネム

 

 うるさくて目が覚めた。

 

(……え~と、どういう状況?)

 

 目の前には、血だらけでボロボロの男が地面に這いつくばっていた。

 

『姫様、お目覚めですか。こやつは四天王です』

 

(え……四天王!?)

 

「ま、待ってくれ! 待ってくれ!!」

 

 四天王らしき男が、血を吐きながら叫んだ。

 

「暗殺者を送ったことは謝る! あれは俺の判断ミスだった! この王都にも一生手を出さない! 魔王様とも交渉する! この街だけは絶対に手を出さないように交渉する! 四天王の俺ならできる!」

 

 地を這い、頭をこすりつける、醜い魔族の男。

 

(え~と……ほんとに四天王?)

 

『ええ、間違いありません。そして、王都襲撃の元凶だったようですな』

 

 ……まじで?

 わたしでも、やばいって分かるよ。

 

 しかし、四天王の男は傷だらけで、ナミギリに負けたことはそれだけでハッキリと分かった。

 

「死にたくない! ここで死んだら……ここで死んだら俺は無能ということになってしまう! 勇者ですらない人間に負けるなんて! そんなこと、あってはならない! 俺は有能だ! 有能なんだ! 魔王様だって認めてくれていたはずだ! だから、死ぬはずがない! ここで死ぬのは無能だけだ!!」

 

 男は、自分に言い聞かせるように叫び続ける。

 

「頼む! 頼むから! 見逃してくれ!!」

 

 男が、わたしに向かって手を伸ばす。

 

「お前の言うことなら何でも聞く! 何でもする! そうだ! 魔王軍の秘密だって教えていい! だから、だから……!」

 

(うわぁ……)

 

 なんというか、ドン引きなんですけど。

 

『姫様、どうされますか?』

 

 ナミギリが脳内で問いかけてくる。

 

(え、でも……ここまで言うんだから、殺さなくてもいいんじゃない?)

 

 わたしは、ちょっと迷った。

 

(惰眠を妨害したのは万死に値するけど、殺すほどなのかな?)

 

『しかし姫様。この者、姫様に暗殺者を送り込んだ張本人であるようです』

 

(え!?)

 

 そうなの!?

 暗殺者を送ったのは許せないね!

 

「た、助けてぐれぇ! お願いだ! 俺にできることならなんだってする!」

 

 情けなくて、半分泣きそうな男。

 

『姫様、甘言に惑わされるべきではありません。いますぐ殺すべきかと。ただ、この者は弱い。持っている情報を吐き出させてから殺した方が、良いかもしれませぬ』

 

 ナミギリは冷徹に言った。

 

 結局殺すの……?

 でも、もう戦えない相手を殺すのって……

 

(わたし、そこまで非情になれないかも)

 

 わたしは迷った。

 暗殺者を送ったのは許せない。

 でも——

 

(そもそも、こいつはそんなに悪い奴なのかな?)

 

 命乞いする姿があまりにみっともないから、そう思うのか。

 それとも、本当にそんなに悪くない奴ってことはないだろうか?

 

 わたしには、分からない。

 

 それでも、こんなにもみっともなく命乞いする相手を殺すなんて……人のすることなのだろうか?

 

(殺すのは、嫌だ)

 

 わたしは決めた。

 

『姫様! 考え直していただきたく!』

 

(むすっ! わたしに逆らうわけ?)

 

『いえ、申し訳ございません! 姫様がそうおっしゃるのであれば――』

 

 

 

「――殺さぬ」

 

 ナミギリが言った。

 わたしの選択通りに。

 

「……俺は生き残るのか?」

 

 四天王は呆然と呟いた。

 

「きた! 生き残る! 俺は、生き残る! 生き残るんだ! やはり俺は有能だッ!!」

 

 【霧化の四天王】の喜びの声が聞こえた。

 

 ちょっと呆れちゃう。

 

(なんか小物って感じ……)

 

『そうですな……』

 

「あ、魔王軍の秘密を教えるという話だったな! なんでも教えてやる。そうだな、何が聞きたい?」

 

『姫様、どうされます?』

 

(ん~、なんだろ? と言っても、わたしが聞きたいことはないし……とりあえず、わたしを襲った理由とか?)

 

『御意』

 

 ナミギリが聞く。

 

「なぜ姫さ――わたくしを襲った?」

 

「それは、魔王様が警戒されていたからだ! だからこの『有能』であるこの俺は、いち早く察して暗殺者を送り込んだのだ!」

 

 ふ~ん。

 魔王、ねぇ……

 

『姫様、他には?』

 

(え? え~と、あとは、王都を襲った理由とか?)

 

『御意』

 

 ナミギリが聞く。

 

「なぜ王都を襲った」

 

「それは魔王様の指示だ! どうだ? 他にはあるか? ……ないなら、もういいか?」

 

「待て。魔王の指示とだけでは、分からぬ。もっと詳細に」

 

「え、でも俺も、なぜここを襲うかなんて、魔王様の深淵なる御心は……待て待て待て! おそらく、お前を危険視したからだろう! きっとそうに違いない! そして有能な俺に倒してほしかったんだ! きっとそうだ! だが、予想以上に強かったが……これも魔王様の想定内に違いない! 有能な、霧化の四天王である俺は、どれだけ剣聖が化け物であろうとも、逃げられる。その情報を持ち帰ることができる!」

 

「ならば、お前をここで斬った方がよいか」

 

「待て待て待て! これはただの推測だ! それにそうだな……仕方ない、これを言ったら魔王様に怒られるかもしれないが、有能であるこの俺を失うよりはマシだろう! 魔王軍の秘密を教えてやる!」

 

 四天王は、高らかに言った。

 

「四天王は実は4体じゃねぇ!」

 

(え?)

 

「しかも、驚け! うち一体の【偽装の四天王】は――」

 

 

 

――そこで止まった。

 

「――う、ぐ……!」

 

 四天王の言葉が、途切れた。

 

「あ……ぐ……! う、うぐ……!」

 

 四天王が、突然、地面に倒れ込んだ。

 声も出せないように、身体を丸めて転がる。

 

(……え? なに?)

 

「ぐ……ぁ……!」

 

 四天王は、喉の奥から絞り出すような声を出しながら、地面を這いずる。

 まるで、何かに首を絞められているかのように。

 

(なんか、急に苦しみだした?)

 

 血だらけの四天王が、地面をのたうち回る。

 その目が——赤く光り始めた。

 

(……?)

 

 赤い目?

 なんだろ? よく分からない。

 

「……ぁ……あ……」

 

 四天王は、もはや言葉にならない声を漏らすだけ。

 地面を転がり続けている。

 

(なんというか……)

 

 わたしは、その光景を見ながら思った。

 

(もう、話とか聞けなさそう)

 

 四天王は完全に苦しんでいて、会話ができる状態じゃない。

 つまり——

 

(これ以上、ここにいても意味ないよね)

 

 ふわぁ、と欠伸が出た。

 

(眠い)

 

 そういえば、さっきちょっと寝たけど、うるさくて起こされたんだっけ。

 寝不足だ。

 

(ま、いいや。もう終わりでしょ?)

 

『姫様?』

 

(自室に帰ったら教えて)

 

『は……?』

 

(おやすみ)

 

『姫様、お待ちください! これは——』

 

(……zzz)

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

Side:ナミギリ

 

 姫様は、また眠ってしまわれた。

 規則正しい寝息が、再び意識の奥底から聞こえてくる。

 

(……まあ、仕方ありませぬな)

 

 ナミギリは、内心で小さく嘆息した。

 

 その時——

 

「――あ、ぐ、ぐぁ……ま、まさか、これは、ぐあっ……《強制暴走(バーサーク・コマンド)》かっ!?」

 

 四天王が、ようやく声を絞り出した。

 

「ぐわっ……な、なぜだ!? うぐ……う……この俺に使える存在などっ……おぐ……世界でたった一人っ!?」

 

(なるほど、強制暴走か)

 

 ナミギリは、すぐに理解した。

 先ほど、四天王が魔物に使っていた技。

 あれを、四天王自身に使った者がいるということか。

 

(魔王……でしょうな)

 

 おそらく、四天王が秘密を漏らしかけたことへの制裁。

 あるいは、最後の一撃として。

 

「うぐ……ぐおおっ! どうしてっ!? ぐああっ……ですカッ!? オレハッ! 無能デハッ――」

 

 

 

「――グア、グアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 四天王の叫び声が、もはや人のものではなくなった。

 

 霧が暴風のように集まっていく。

 四天王を中心に、収縮するように。

 

 四天王の体が膨れ上がっていく。

 いや、膨れ上がっているのは霧だ。

 霧が、四天王を中心に集まり、凝縮し、そして——巨大化していく。

 

「グ、グアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 獣のような咆哮が響く。

 もはや人の声ではない。理性など、微塵も感じられない。

 

(ほう……これは)

 

 ナミギリは、巨大化していく霧の塊を見上げた。

 

 霧の巨人が、王都に向かって歩き出した。

 

(でかいですな)

 

 その大きさは、優に百メートルを超えている。

 森を超え、城壁をも、はるかに超える。

 

 一歩、また一歩。

 その度に地面が揺れる。

 

 ゆっくり歩いているようでも、この巨体だ。

 一歩の大きさが違いすぎる。

 

 このままではすぐに王都に到達するだろう。

 

 そして、霧の巨人が口を開けた。

 

「グ、グアアアアアアアア!!」

 

 巨人の咆哮とともに、口から霧が吐き出される。

 濃密な霧のブレスが、王都を覆い始めた。

 

 先ほど晴れたばかりの王都が、また霧に覆われていく。

 

(なるほど、厄介ですな)

 

 ナミギリは、静かに刀を構えた。

 

(姫様は眠っておられる。ならば、奥義は使えぬ)

 

 奥義の使用には、姫様の許可が必要だ。

 それは姫様を筋肉痛で苦しめないため。

 

 しかし、姫様は今、眠っておられる。

 

(まあ、問題ありませぬ)

 

 ナミギリの口元に、僅かな笑みが浮かんだ。

 

(奥義なしで、どこまでやれるか——楽しませていただきましょう)

 

 心の奥で、何かが燃え上がった。

 

 ナミギリは、霧の巨人に向かって走り出した。

 

「グアアアアア!!」

 

 巨人が腕を振り下ろす。

 霧でできた巨大な腕が、ナミギリに向かって叩きつけられる。

 

 ナミギリは、それを避けることなく、斬った。

 

 一閃。

 

 霧の腕が両断される。

 しかし——

 

 本体は、気にも留めない。

 実際ダメージなど受けていないのだろう。

 霧の腕は、そのままナミギリに向かって振り下ろされる。

 

(ふむ、やはり霧では斬った実感がありませぬな)

 

 ナミギリは軽々と避ける。

 左右に分かれた霧の腕は、地面に激突! 轟音とともにクレーターを作る。

 

(なるほど、霧を斬っても意味はないと。中心を斬らねば倒せませぬ)

 

 ナミギリは、巨人の胸の辺りを見上げた。

 あの辺りに、四天王の本体がいるはずだ。

 

(あれを斬れば終わりでしょうな)

 

 ナミギリは、地面を蹴った。

 巨人の足元に向かって跳躍する。

 

 そして、足を斬った。

 

 一閃。

 

 しかし——やはり何も起きない。

 霧の足は、斬られたことなど関係なく、そこに存在し続けている。

 

(ふむ、足を斬っても倒れませぬか……ならば直接しかありませぬな)

 

 ナミギリは、地面を蹴り、跳躍!

 そして、巨人の胸の中心——四天王がいるはずの場所に向かって、斬りかかった。

 

 しかし——

 

 ナミギリの剣が、霧に阻まれた。

 

(……ほう)

 

 胸の中心部分は、他の部位とは比べ物にならないほど、霧の密度が濃かった。

 剣が、まるで粘土の中を進むように、重く、遅い。

 

 そして——

 

「グアアアアアア!!」

 

 巨人が咆哮する。

 

 胸の中心から、暴風が吹き荒れた。

 霧の暴風が、ナミギリを吹き飛ばす。

 

(おっと)

 

 ナミギリは空中で体勢を立て直し、地面に着地した。

 

(なるほど、中心を守っておるのですな)

 

 ナミギリは、再び巨人を見上げた。

 

(しかし……)

 

 ナミギリの心に、ふと疑問が浮かんだ。

 

(『斬霧流』を名乗るわしが、霧ごときに阻まれるとは……いささか不本意ですな)

 

 我が流派は、霧を斬るのではなく霧のように斬る流派。

 霧のように相手を惑わせ、霧と相対しているような錯覚を与える——そういう意味だ。

 

(とはいえ、霧が相手とは皮肉なものよ)

 

 ナミギリは、再び巨人に向かって走り出した。

 

 巨人が腕を振り下ろす。

 ナミギリは、それを避け、そして跳躍する。

 

 再び、胸の中心に向かって斬りかかる。

 

 しかし、やはり霧の密度が濃く、暴風が吹き荒れる。

 

 ナミギリは、再び吹き飛ばされた。

 

(ふむ、二度目)

 

 ナミギリは、再び跳躍する。

 

 三度目。

 

 四度目。

 

 五度目。

 

 何度も、何度も、ナミギリは胸の中心に向かって斬りかかる。

 

 その度に、暴風に吹き飛ばされる。

 

 しかし——

 

 少しずつ、霧が薄くなっていく。

 ナミギリの剣が、少しずつ、深く入るようになっていく。

 

(ほう、霧が薄くなってきましたな)

 

 そして——

 

 十度目。

 ナミギリの剣が、ついに霧の中心に到達した。

 

 そこには——

 

 四天王がいた。

 目を赤く光らせ、狂ったような笑みを浮かべる、完全に理性を失った四天王が。

 

(——届きました)

 

 ナミギリが、四天王を真っ二つに斬った。

 

「――ア……」

 

 四天王の声が、途切れた。

 

(これで終わり……でしょうか)

 

 ナミギリは、着地しながら思った。

 

 しかし——

 

 次の瞬間、霧が爆発した。

 

(!?)

 

 ナミギリは、すぐに後退する。

 

 霧の巨人を構成していた霧が、一気に膨張し、そして——収縮し始めた。

 

 王都を覆っていた霧も、巨人を包むように渦を巻きながら集まっていく。

 竜巻のように。

 

 霧の竜巻が、空へと昇っていく。

 

 下に残されたのは、干からびたミイラのような、両断された四天王の死体だった。

 明らかに死んでいる。

 

(……何が起きておるのですか?)

 

 ナミギリは、空を見上げた。

 

 空には、巨大な霧の球が生まれていた。

 巨大な、本当に巨大な霧の球だ。王都を覆うほどの大きさ。

 

 そして——

 

 バチッ、バチバチッ!

 

 霧の球が、帯電し始めた。

 

 雷が、球の表面を走る。

 バチバチと、不穏な音を立てながら。

 

 紫電。

 本能的な、恐怖を呼び起こすような雷の色。

 

(……これは)

 

 ナミギリは、その光景を見上げた。

 

 そして、雷を纏った巨大な霧の球は——

 

 

——王都へと落ち始めた。

 

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