努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~ 作:エレティムさん
とりあえず話は終わったので、自室に戻ろうとしたところで……
「待ってくれ、ネム様!」
不意に、勇者がわたしに声をかけてきた。
「本当に、勇者パーティに加わる気はないか?」
勇者が、真剣な表情で聞いてきた。
「ないよ」
わたしは即答した。
「そうか……でも、聞いてほしい」
勇者が、諦めずに続ける。
「俺たちは、これから最前線近くのハイゼンベルグという街に向かう」
「ハイゼンベルグ?」
わたしは首を傾げた。
聞いたことがない名前だ。
「最前線にもっとも近い街だ」
勇者が、熱のこもった口調で語り始めた。
「魔王軍との戦いの最前線。そこは、真の戦場だ。毎日、魔物の群れが押し寄せ、冒険者たちが命を賭けて戦っている。危険な場所――でも、だからこそ!」
勇者の目が輝く。
「そこは冒険者たちの憧れの地でもある。世界中から腕自慢が集まってくる。実力を試したい者、名を上げたい者、正義のために戦いたい者――様々な想いを持った強者たちが、日々しのぎを削っている」
「うんうん、で?」
わたしは、適当に相槌を打った。
「強敵との戦い、仲間との絆、そして――勝利の栄光! ネム様のような実力者なら、きっと大活躍できるはずだ!」
勇者が、さらに熱く語る。
「俺たちと一緒に戦えば、ネム様の名は世界中に轟く! 剣聖として、いや、英雄として――」
(そんなことどーでもいいってわからない?)
わたしは、心の中で呟いた。
名声とか、栄光とか、英雄とか。
全然興味ないんだけど。
わたしが欲しいのは、安眠できる環境だけ。
「あの、勇者様」
聖女が、優しく勇者の言葉を遮った。
「ネム様は、剣聖として王都をお守りくださるのですよ。それだけで私たちは安心して魔王と戦えると思いませんか?」
「確かにそれはそうだが……」
「ふわあ、ねむい……」
もう部屋に戻ろうかな。
と。
ふと、勇者の言葉が脳裏に引っかかった。
(待って……世界中から腕自慢が集まる?)
頭がゆっくりと動き始めた。
最前線に近い?
ってことは……
わたしの思考が、回転する。
「ねえ、ハイゼンベルグって、魔法使いも多いの?」
思わず聞く。
「ああ、もちろんだ!」
勇者が、目を輝かせて答えた。
「最前線での戦いには、魔法使いの力が不可欠だからな。優秀な魔法使いがたくさん集まっている!」
(おお……)
わたしの期待が高まる。
「じゃあ、死んじゃう魔法使いとかも?」
わたしは、ストレートに聞いた。
「え……」
勇者が、言葉に詰まった。
聖女も、少し困ったような表情になる。
「あ、あの、ネム様……」
聖女が、慎重に言葉を選ぶ。
「確かに、最前線は危険な場所でございます。戦いで傷つく方も……その、命を落とされる方もいらっしゃいます」
「そっか」
わたしは頷いた。
(これは……行くしかない! 瀕死の魔法使いを見つけるチャンス!)
黒装束の襲撃以来、王宮の外で眠れなくなっていた。
いつまた刺客が来るかわからない。
でも、魔法使いの人格を手に入れれば……
ナミギリが、頭の中で尋ねる。
『姫様、どうかされたのですか?』
(ナミギリ、わたし気付いちゃったよ。現状を解決する方法! 魔法使いを手に入れられれば、すべてが解決できる!)
そう。
不意打ち対策!
眠ってるときに攻撃してくるようなやつがいるかもしれないし!
学園での黒装束の襲撃。
今でも、あの日のことを思い出す。
お昼寝してたら、いきなり短刀が飛んできて——ナミギリの警告がなければ、わたしの頭に刺さっていた。
あれは怖かった。
四天王という黒幕は倒した。
でも、また誰かが刺客を送ってくるかもしれない。
あれ以降、眠っている時に誰かが近づいてくる気配がすると、ハッと目が覚めてしまう。あのベッドなら安心できるけど、外ではまだ怖くて眠るなんてことできない。
だから、魔法使いの人格も手に入れたかった。
わたしはいつもどおり寝ているだけで、まだ見ぬ魔法使いくんが睡眠中も守ってくれる。
『なるほど、不意打ちさえ防ぎ、時間さえ稼いでもらえれば、どれだけ強敵であろうとも、このナミギリに身体を交代さえしてもらえれば……そうなれば不意打ち対策は完璧と言えるでしょう』
一応、問題もある。
身体の操作を、2人に分けることはできないっていう。
魔法=魔法使いくん、残り=わたし、みたいに。
これができれば、魔法使いくんに体を守ってもらいながら、わたしは自分の体でぐっすり寝るみたいなことが可能になる。
とはいえ、これができなくても、結界を張ってもらうだけでも全然違う。ナミギリは結界みたいな高度なことはできないからね……
ま、体の操作を分ける黒魔術の開発も含めて、魔法使いくんにやってもらってもいいかなって思ってる。
多分そんなに難しくはないんだけど、わたしって努力はもうしないつもりだし!
(そんな感じかな~)
『なるほど、姫様らしい』
(そ、そう?)
『鍛錬をするという発想がない辺りが。あくまで自分では努力しないと』
(そりゃそうでしょ!)
『それに、合理的ですな……確かに、魔法使いが手に入れば隙はなくなる』
(でしょ? やっぱり、剣士と魔法使いがいた方がバランスがいいってこと! それに、一応不意打ち対策以外にも理由があるし)
『というと?』
(四天王と戦って思わなかった? 魔法使いがいれば全然違うって! あのマグヌスは絶対いらないけど、やっぱり剣士だけだと相性の悪い敵っていると思うんだ)
霧化の四天王との戦いで知った。
回復チートとか、物理無効とか、そういう厄介な能力を持った相手には、魔法で対抗する手段が必要だ。
『なるほど、確かに聞けば聞くほど、魔法使いが必要な気がしてきましたな』
(でしょ~! で、最前線の街に行けば……魔物との戦いが激しいから、実力がある魔法使いが瀕死で転がっている可能性、高い!)
「ってことで!」
わたしは言った。
「ちょっと待って!」
勇者パーティに向かって声をかけた。
「わたしも、その転移魔法で一緒に行っていい!?」
勇者は、驚いたように目を見開いた。
それから――満面の笑みを浮かべた。
「本当か、ネム様! もちろんだ! 大歓迎だ!」
聖女も、嬉しそうに微笑んだ。
「ネム様がご一緒なら、とても心強いです」
セドリックも、嬉しそうな表情だ。
「これで勝利は確実ですね」
賢者は、何を考えているかわからないが、小さく頷いた。
マグヌスは、フードの奥から、わたしをじっと見ていた。
「マグヌスは審問後、自力で転移するそうだ」
勇者が説明する。
マグヌスは、何も言わず、ただ笑みを浮かべている。
(ふん、どうせクロになって来られないでしょ)
「ネム! お前、本当に行くのか!?」
国王が、慌てて声を上げた。
「最前線は危険だぞ! 王都に留まっていた方が――」
「大丈夫だ、陛下」
勇者が、国王に向かって頭を下げた。
「ネム様の身は、この命に代えても守る」
「わ、わかった……」
国王が、渋々頷いた。
(あれ、珍しく心配してる?)
わたしは、少し意外に思った。
でも、今はそんなことより――
「では、ネム殿下もご一緒に」
賢者が、杖を振り上げた。
転移陣が、足元に浮かび上がる。
「転移開始」
周囲の景色が、白い光に包まれた。
包まれるのは、5人。
勇者、聖女、賢者、聖女の騎士の既存メンバー。
そして、わたし。
うん、判断は正しかった。
絶対に魔法使いは必要だ。
最高の惰眠生活を取り戻すためには!
そして――
(まあ、目的は魔法使い探しだけど……新しい街、か)
少しだけ、わくわくしている自分がいた。
(べ、別に観光とかじゃないからね! あくまで魔法使い探しのついでに、ちょっと見て回るだけだし!)
新しい街、新しい環境、新しい眠り。
ちょっとだけ……楽しみかも。
光が強くなり、視界が真っ白に染まる。
転移が完了する――
次に目を開けたとき、わたしは新天地、ハイゼンベルグに立っていた。