努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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23.新天地

 

 とりあえず話は終わったので、自室に戻ろうとしたところで……

 

「待ってくれ、ネム様!」

 

 不意に、勇者がわたしに声をかけてきた。

 

「本当に、勇者パーティに加わる気はないか?」

 

 勇者が、真剣な表情で聞いてきた。

 

「ないよ」

 

 わたしは即答した。

 

「そうか……でも、聞いてほしい」

 

 勇者が、諦めずに続ける。

 

「俺たちは、これから最前線近くのハイゼンベルグという街に向かう」

 

「ハイゼンベルグ?」

 

 わたしは首を傾げた。

 聞いたことがない名前だ。

 

「最前線にもっとも近い街だ」

 

 勇者が、熱のこもった口調で語り始めた。

 

「魔王軍との戦いの最前線。そこは、真の戦場だ。毎日、魔物の群れが押し寄せ、冒険者たちが命を賭けて戦っている。危険な場所――でも、だからこそ!」

 

 勇者の目が輝く。

 

「そこは冒険者たちの憧れの地でもある。世界中から腕自慢が集まってくる。実力を試したい者、名を上げたい者、正義のために戦いたい者――様々な想いを持った強者たちが、日々しのぎを削っている」

 

「うんうん、で?」

 

 わたしは、適当に相槌を打った。

 

「強敵との戦い、仲間との絆、そして――勝利の栄光! ネム様のような実力者なら、きっと大活躍できるはずだ!」

 

 勇者が、さらに熱く語る。

 

「俺たちと一緒に戦えば、ネム様の名は世界中に轟く! 剣聖として、いや、英雄として――」

 

(そんなことどーでもいいってわからない?)

 

 わたしは、心の中で呟いた。

 

 名声とか、栄光とか、英雄とか。

 全然興味ないんだけど。

 わたしが欲しいのは、安眠できる環境だけ。

 

「あの、勇者様」

 

 聖女が、優しく勇者の言葉を遮った。

 

「ネム様は、剣聖として王都をお守りくださるのですよ。それだけで私たちは安心して魔王と戦えると思いませんか?」

 

「確かにそれはそうだが……」

 

「ふわあ、ねむい……」

 

 もう部屋に戻ろうかな。

 

 と。

 ふと、勇者の言葉が脳裏に引っかかった。

 

(待って……世界中から腕自慢が集まる?)

 

 頭がゆっくりと動き始めた。

 最前線に近い?

 ってことは……

 

 わたしの思考が、回転する。

 

「ねえ、ハイゼンベルグって、魔法使いも多いの?」

 

 思わず聞く。

 

「ああ、もちろんだ!」

 

 勇者が、目を輝かせて答えた。

 

「最前線での戦いには、魔法使いの力が不可欠だからな。優秀な魔法使いがたくさん集まっている!」

 

(おお……)

 

 わたしの期待が高まる。

 

「じゃあ、死んじゃう魔法使いとかも?」

 

 わたしは、ストレートに聞いた。

 

「え……」

 

 勇者が、言葉に詰まった。

 聖女も、少し困ったような表情になる。

 

「あ、あの、ネム様……」

 

 聖女が、慎重に言葉を選ぶ。

 

「確かに、最前線は危険な場所でございます。戦いで傷つく方も……その、命を落とされる方もいらっしゃいます」

 

「そっか」

 

 わたしは頷いた。

 

(これは……行くしかない! 瀕死の魔法使いを見つけるチャンス!)

 

 黒装束の襲撃以来、王宮の外で眠れなくなっていた。

 

 いつまた刺客が来るかわからない。

 でも、魔法使いの人格を手に入れれば……

 

 

 ナミギリが、頭の中で尋ねる。

 

『姫様、どうかされたのですか?』

 

(ナミギリ、わたし気付いちゃったよ。現状を解決する方法! 魔法使いを手に入れられれば、すべてが解決できる!)

 

 そう。

 

 不意打ち対策!

 眠ってるときに攻撃してくるようなやつがいるかもしれないし!

 

 学園での黒装束の襲撃。

 今でも、あの日のことを思い出す。

 お昼寝してたら、いきなり短刀が飛んできて——ナミギリの警告がなければ、わたしの頭に刺さっていた。

 

 あれは怖かった。

 

 四天王という黒幕は倒した。

 でも、また誰かが刺客を送ってくるかもしれない。

 あれ以降、眠っている時に誰かが近づいてくる気配がすると、ハッと目が覚めてしまう。あのベッドなら安心できるけど、外ではまだ怖くて眠るなんてことできない。

 

 だから、魔法使いの人格も手に入れたかった。

 わたしはいつもどおり寝ているだけで、まだ見ぬ魔法使いくんが睡眠中も守ってくれる。

 

『なるほど、不意打ちさえ防ぎ、時間さえ稼いでもらえれば、どれだけ強敵であろうとも、このナミギリに身体を交代さえしてもらえれば……そうなれば不意打ち対策は完璧と言えるでしょう』

 

 一応、問題もある。

 身体の操作を、2人に分けることはできないっていう。

 

 魔法=魔法使いくん、残り=わたし、みたいに。

 これができれば、魔法使いくんに体を守ってもらいながら、わたしは自分の体でぐっすり寝るみたいなことが可能になる。

 とはいえ、これができなくても、結界を張ってもらうだけでも全然違う。ナミギリは結界みたいな高度なことはできないからね……

 

 ま、体の操作を分ける黒魔術の開発も含めて、魔法使いくんにやってもらってもいいかなって思ってる。

 多分そんなに難しくはないんだけど、わたしって努力はもうしないつもりだし!

 

(そんな感じかな~)

 

『なるほど、姫様らしい』

 

(そ、そう?)

 

『鍛錬をするという発想がない辺りが。あくまで自分では努力しないと』

 

(そりゃそうでしょ!)

 

『それに、合理的ですな……確かに、魔法使いが手に入れば隙はなくなる』

 

(でしょ? やっぱり、剣士と魔法使いがいた方がバランスがいいってこと! それに、一応不意打ち対策以外にも理由があるし)

 

『というと?』

 

(四天王と戦って思わなかった? 魔法使いがいれば全然違うって! あのマグヌスは絶対いらないけど、やっぱり剣士だけだと相性の悪い敵っていると思うんだ)

 

 霧化の四天王との戦いで知った。

 回復チートとか、物理無効とか、そういう厄介な能力を持った相手には、魔法で対抗する手段が必要だ。

 

『なるほど、確かに聞けば聞くほど、魔法使いが必要な気がしてきましたな』

 

(でしょ~! で、最前線の街に行けば……魔物との戦いが激しいから、実力がある魔法使いが瀕死で転がっている可能性、高い!)

 

「ってことで!」

 

 わたしは言った。

 

「ちょっと待って!」

 

 勇者パーティに向かって声をかけた。

 

「わたしも、その転移魔法で一緒に行っていい!?」

 

 勇者は、驚いたように目を見開いた。

 

 それから――満面の笑みを浮かべた。

 

「本当か、ネム様! もちろんだ! 大歓迎だ!」

 

 聖女も、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ネム様がご一緒なら、とても心強いです」

 

 セドリックも、嬉しそうな表情だ。

 

「これで勝利は確実ですね」

 

 賢者は、何を考えているかわからないが、小さく頷いた。

 

 マグヌスは、フードの奥から、わたしをじっと見ていた。

 

「マグヌスは審問後、自力で転移するそうだ」

 

 勇者が説明する。

 

 マグヌスは、何も言わず、ただ笑みを浮かべている。

 

(ふん、どうせクロになって来られないでしょ)

 

「ネム! お前、本当に行くのか!?」

 

 国王が、慌てて声を上げた。

 

「最前線は危険だぞ! 王都に留まっていた方が――」

 

「大丈夫だ、陛下」

 

 勇者が、国王に向かって頭を下げた。

 

「ネム様の身は、この命に代えても守る」

 

「わ、わかった……」

 

 国王が、渋々頷いた。

 

(あれ、珍しく心配してる?)

 

 わたしは、少し意外に思った。

 でも、今はそんなことより――

 

 

「では、ネム殿下もご一緒に」

 

 賢者が、杖を振り上げた。

 転移陣が、足元に浮かび上がる。

 

「転移開始」

 

 周囲の景色が、白い光に包まれた。

 

 包まれるのは、5人。

 

 勇者、聖女、賢者、聖女の騎士の既存メンバー。

 そして、わたし。

 

 うん、判断は正しかった。

 絶対に魔法使いは必要だ。

 最高の惰眠生活を取り戻すためには!

 

 そして――

 

(まあ、目的は魔法使い探しだけど……新しい街、か)

 

 少しだけ、わくわくしている自分がいた。

 

(べ、別に観光とかじゃないからね! あくまで魔法使い探しのついでに、ちょっと見て回るだけだし!)

 

 新しい街、新しい環境、新しい眠り。

 ちょっとだけ……楽しみかも。

 

 光が強くなり、視界が真っ白に染まる。

 転移が完了する――

 

 次に目を開けたとき、わたしは新天地、ハイゼンベルグに立っていた。

 

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