努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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24.最前線の街

 

 白い光が消えると、そこは見知らぬ街だった。

 

 石畳の道、木造の建物、遠くから聞こえる人々の喧噪。でも、王都とは明らかに違う緊張感が空気に漂っている。

 

「ここは?」

 

 わたしが周囲を見回すと、勇者が答えた。

 

「最前線からもっとも近いところにある街、ハイゼンベルグだよ」

 

「ほへー」

 

 適当に相槌を打つ。

 

(さて、まずは魔法使いを探さないと)

 

 そんなわたしの思惑を知らず、勇者が一歩前に出てきた。

 

「ネム殿下、ああ、麗しの姫君。やっと僕たちのパーティに入ってくれる気になってくれて、とても嬉しいよ」

 

 なんかキザなセリフを言う勇者。

 

 その横で、聖女がキラキラした目でこちらを見ている。

 

「剣聖様……私たちと共に歩んでいただけるのですか!?」

 

 なんか、すごく期待した顔してる。

 

「えっ、いや、わたし勇者パーティには入らないけど?」

 

「……え?」

 

 勇者が固まった。

 

「……え?」

 

 聖女も固まった。

 

 あれ? もしかしてなんか勘違いされてる?

 

『あのタイミングであれば、姫様が心変わりして勇者パーティに入ることにしたと捉えられても仕方ないかと』

 

(あー、やっぱり)

 

『ええ……これは姫様が悪いですな……』

 

(そっかぁ)

 

「あー、えーと、あはははは……ごめん、言い方が悪かったかも? 転移魔法で連れてってもらえるなら便利だなーって思っただけで」

 

「そう……ですか」

 

 聖女は一瞬寂しそうな表情を見せたが、すぐに明るい笑顔を取り戻した。

 

「でも、剣聖様らしいですね! 自由でいらっしゃるところも、とても素敵だと思います」

 

 ……聖女様ってやっぱり優しい。

 

「それに、剣聖様が自由に動けることも大切ですから。困ったことがあれば、いつでも私たちを頼ってくださいね」

 

「ありがとう」

 

 わたしは素直に頷いた。

 

 一方の勇者は、

 

「……そう、か」

 

 と、残念そうな顔をする。

 

「君が居れば必ず魔王を倒すことができる!」

 

「今でもできるでしょ?」

 

 勇者はパーティメンバー、聖女、賢者、聖女の騎士、魔法使いの姿を見た。

 

「それはそうだが……君がいればより確実なものとなる!」

 

「えー、大丈夫だって」

 

 そのとき、聖女が言った。

 

「剣聖様! ひとつよろしいでしょうか」

 

 そう言って、聖女が小さな箱を取り出した。

 

「認識阻害のイヤリングです。調査をするのなら、使ってみてもいいんじゃないでしょうか?」

 

「認識阻害?」

 

「はい。これを着けていると、周囲の人があなたの顔を認識しにくくなります。王女様だとバレずに行動できますよ」

 

「あ、便利! ありがとう!」

 

 イヤリングを受け取ると、賢者が口を開いた。

 

「ネム殿下には、是非ともパーティに加入していただきたいところですが……」

 

「剣聖様の意思を尊重しましょう」

 

 聖女が答える。

 

 勇者パーティと別れる直前、わたしは思い切って聖女に声をかけた。

 

「あ、そうだ。聖女様!」

 

「はい、何でしょう?」

 

「マグヌスって怪しいから、警戒してよね!」

 

「大丈夫ですよ、剣聖様が懸念している通りなら、審問を突破できず、こちらに来ることはないでしょう」

 

 聖女は、微笑んだ。

 

 わたしは嫌な予感がする。

 マグヌスのあの笑み。何か策があるんじゃないか――それこそ、わたしとナミギリが突破したような裏技が。

 

 わたしは聖女に言った。

 

「とにかく、もし審問を突破したとしても、ほんとに怪しいと思うから! 気をつけてね!」

 

「はい、わかりました。剣聖様が心配してくださるなら、注意してみます」

 

 聖女は優しく微笑んだ。

 

「聖女様、じゃあね!」

 

 わたしは手を振った。

 

「剣聖様も!」

 

 聖女が明るく手を振り返してくる。

 

(……ほんと、聖女様は優しいなぁ)

 

 

 

...*...*...*...

 

 

 

 勇者パーティと街の入口で別れた。

 

 彼らは街を出て最前線へ向かう。

 わたしは街に残って、独自の調査——という名目での人格狩り——を始める。

 

 まあ、ついでに勇者パーティ手伝うかもだけど……

 

『姫様……!』

 

 ナミギリの声が脳内に響いた。なんか、期待してる感じの声だ。

 

 かもってだけだからね! あくまで"かも"!

 

 慌てて訂正する。

 

(それにしても、マグヌスはなんか突破してきそうだよね)

 

『ええ。姫様、あの男には引き続き警戒を』

 

(わかってる。ナミギリも気をつけててね)

 

『承知いたしました』

 

 ただ、直近のすべきことは……

 

 まず冒険者登録!

 

 ギルドに登録すれば、依頼の情報とか、冒険者の情報とかが手に入るはず。

 瀕死の魔法使いを探すにも、情報網は大事だよね!

 

 それに、身分証明にもなるし。

 王女だってバレずに行動するには、ちゃんとした冒険者として登録しておいた方がいい。

 

 一応、褒章でもらった金貨は持ってきた。

 だらだらしながら、ゆっくりする手もある。

 でも、すぐに魔法使いを見つけて契約したい。

 まあ最前線だし、いい感じに瀕死の魔法使いが転がっているでしょ! さっさと契約して、王都に帰ろう!

 

 わたしは街の中心部へ向かって歩き出した。

 通りを歩く人々の表情は、王都とは違う緊張感に満ちている。

 武装した冒険者たちがあちこちで話し込み、行商人が声を張り上げている。

 

「昨日、また魔物の群れが出たらしいぞ」

「前線が押されてるって噂だ」

 

 そんな会話が聞こえてくる。

 

(うわぁ、なんか物騒な街だね)

 

 しばらく歩くと、街の中心に大きな石造りの建物が見えてきた。

 冒険者ギルドだ。

 

 扉を開けると——

 

「おい、聞いたか!?」

「王都で剣聖が四天王を倒したって!」

「しかも謎の魔法使いと一緒に魔物の大群も殲滅したらしいぞ!」

「その魔法使い、マグヌスっていう名前らしい」

「で、そのマグヌスが勇者パーティに加入するって話だ!」

「マジか!? 勇者パーティ、ますます強くなるじゃん!」

「転移魔法でもう着いてるかもな」

「剣聖が王都を守ってくれるなら、勇者も安心だな!」

「2人で、しかも勇者も聖女もなしで四天王を倒すとか、強すぎるだろ!」

「いや話では、四天王は剣聖がたった一人で倒しちまったらしいぞ!」

 

 わあわあと賑やかな声が飛び交っている。酒の匂いと汗の匂いが混じった独特の空気の中、冒険者たちが興奮して話し込んでいた。

 

 ほへー、冒険者ギルドは初めてだよ!

 なんか、酒場みたいな雰囲気だね。

 ……なんかわたしの話も聞こえるけど……このイヤリングつけてきて正解だった。

 

 受付には若い女性が立っていて、わたしを見て笑顔を向けた。

 

「いらっしゃいませ。冒険者登録ですか?」

 

「はい」

 

「お名前は?」

 

「スリープです」

 

 適当な偽名を告げる。

 スリープは古い言葉で「睡眠」という意味らしい。

 眠りに関する名前なら覚えやすいし、わたしらしい。

 

「スリープ様ですね。では、こちらの用紙にご記入ください。お名前と職業をお書きいただければ結構です」

 

 受付嬢が羊皮紙を差し出してくる。

 

 わたしは羽ペンを手に取って、名前を書いた。

 そして、職業欄を見て——少し悩んだ。

 剣士? でもわたしが戦ってるわけじゃないし。

 魔法使い? まだ魔法使いの人格手に入れてないし。

 

 わたしは迷った末に、ペンを走らせた。

 

 

――【職業:眠り姫】

 

「……え?」

 

 受付嬢が固まった。

 

「眠り、姫……ですか?」

 

「はい」

 

 わたしは堂々と頷いた。

 

「わたし、眠るのが仕事なので」

 

『姫様……それでよろしいのですか?』

 

(だって本当のことだし)

 

『確かに間違ってはおりませんが……』

 

「あの……」

 

 受付嬢が困ったような顔をする。

 

「職業は自由に書いていただいて構いませんが、パーティを組んだり、依頼を受ける時に不利になる可能性がありますよ?」

 

「大丈夫です」

 

 わたしは自信満々に答えた。

 

「わたし、パーティとか組まないので」

 

(それに、不利とか関係ないし。わたしには最強の剣士がついてるんだから)

 

『……姫様のそういうところ、嫌いではありませんが』

 

「そ、そうですか……」

 

 受付嬢は諦めたような表情で、登録を進めてくれた。

 

 さて、ここからが本番だ。瀕死の魔法使い、どこかに転がってないかな?

 

 わたしは周囲を見回しながら、次のターゲットを探し始めた。

 

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