努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~ 作:エレティムさん
# 第25話 一般兵スリープ
冒険者ギルドで登録を済ませた翌日、わたしは情報収集をしていた。
(うーん、ギルドに来てる魔法使い、微妙な人ばっかりだなぁ)
そんな時、掲示板に一枚の張り紙を見つけた。
【人類軍・志願兵募集】
・前線での戦闘任務
・報酬:金貨1~10枚/週
・魔法使い優遇
(あ、これいいじゃん! 前線なら強い魔法使いがいっぱいいるはずだし、死にかけてる人もいっぱいでしょ!)
というわけで、わたしは人類軍の募兵所へ向かった。
「志願者か?」
受付の兵士が、わたしを上から下まで見て眉をひそめた。
「ああ、見たところ華奢だな。前線は地獄だぞ。本当に大丈夫か?」
「大丈夫です」
わたしは、剣技大会で優勝したらしいし!
「名前は?」
「スリープです」
「スリープ……か。まあいい、こちらにサインを」
こうして、わたしは一般兵スリープとして、魔王軍との最前線に配属されることになった。
ってことで!
強い魔法使いを見つけるために、人類軍の一人として最前線に参加する!
ここなら一流の魔法使いが集まってるし、瀕死になる確率も高い。
完璧な作戦じゃない?
いい感じの魔法使いが瀕死になったら、契約すればいいんじゃない?
『姫様……それは不謹慎では……』
(え、だって本人も死ぬよりマシでしょ? わたしの中で生き続けられるんだし)
『それはそうですが……命を狙うような表現は……』
(狙ってないよ! たまたま瀕死になった人を助けるだけ!)
ナミギリは何も答えなかった。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
前線の駐屯地は、想像以上に過酷な環境だった。
木造の粗末なバラック、常に漂う緊張感。
そして何より――劣悪な睡眠環境!
ベッドは固く、お風呂すらない。
「新入りか。私はこの隊の隊長を任されているガレスだ」
隣のベッドの女性が声をかけてきた。
「よろしく、スリープ」
「……ああ」
「ここは女性だけの第七分隊だ。変な男が入ってくる心配はないから安心しろ」
「……そうか」
「まあ、最前線じゃ男も女も関係ないけどな。魔物は容赦しないからな」
「……ああ」
わたし――ではなく、ナミギリは適当に頷いた。
今は体をナミギリに任せているからね。
わたしは意識の中で半分寝ているようなものだ。
ちょっとした我慢だ。魔法使いを見つけるまでのね!
「あんた、喋らないタイプ? まあいいわ。ここじゃ、喋る元気もなくなるから……」
ガレスは疲れた顔で笑った。
そして新しい日々が流れていく。
駐屯地では、毎日のように魔物との戦闘があった。
朝、起床の鐘が鳴ると、兵士たちは重い足取りで武器を手に取る。
「また今日も地獄ね……」
「昨日、ベルナールが死んだって聞いた?」
「マジなの……あの子、子供が生まれたばかりだったのに……」
「私たちも、いつああなるか……」
兵士たちの会話は、いつも死の匂いで満ちていた。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
戦場に出ると、魔物の群れが待ち構えている。ゴブリン、オーク、時にはドラゴンまで。
「きゃああああ!」
「くそっ、囲まれたわ!」
「誰か、回復を!」
悲鳴、血飛沫、断末魔の叫び。
ナミギリが体を操って戦っている間、わたしは意識の中でゴロゴロしていた。
うーん、暇だぁ……
せっかくだから、魔法使いでも観察しようかな。
わたしは戦場にいる魔法使いたちを眺め始めた。
若い魔法使い。火の玉の威力が弱い。3点。
中年の魔法使い。氷の矢の狙いが甘い。5点。
雷魔法使い。詠唱が長すぎる。11点。
うーん、どれも微妙。人格にしたいと思えるレベルじゃない。
そして——遠くに見える、一際目立つ魔法使いに目が留まった。
白髪混じりの髪、鋭い眼光。杖を高く掲げると、大地が轟音を立てて応える。
「大地よ、我が盾となれ——《土壁展開》!」
詠唱と共に、地面が隆起し始めた。
ただの土の壁ではない。
魔力で圧縮された大地が、まるで城壁のようにそびえ立つ。
高さは優に十メートルを超え、表面は岩のように固く、魔物の爪も牙も通さない。そんな城壁が数百メートルも連なって生まれた。
魔物の群れが突進してくるが、その巨大な土壁の前で完全に阻まれる。
「全軍、前進! 今がチャンスだ!」
さらに杖を振るうと、今度は地面が波打ち、敵陣の足場が崩れる。
魔物たちがバランスを崩し、隊列が乱れる。
「地形操作——《泥沼化》!」
敵の足元が泥に変わり、動きが鈍る。
そこへ、人類軍の兵士たちが一斉に攻め込む。
戦場そのものを支配する魔法。
攻撃ではなく、地形を操ることで戦況を完全に制御する——これが土魔法の真髄。
あれが、大魔導将ゼルギウス——前線のトップに立つ、最強の魔法使い。
わたしは思わず目を輝かせた。
88点!!
この一流を見ると、他の魔法使いなんて人格にしたいとは思えなくなっちゃうね。
大魔導将ゼルギウス、外注先候補ナンバーワン!
でも、問題があった。
今のところ、前線に現れるのは雑魚の魔物ばかり。
四天王のような強敵は姿を見せない。
後衛職である魔法使いが瀕死になるような状況が、全く訪れないのだ。
あー、四天王とか現れないかな〜。
一方、わたしが意識の中でのんびりしている間、ナミギリは淡々と魔物を斬り倒していくのだった。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
そんな地獄のような環境の中で、一人だけ異質な存在がいた。
スリープと名乗る少女だ。
「あの新入り、変わってるわよね」
ガレスが仲間に囁いた。
「ああ。全然喋らないし、表情も変わらない」
「でも、戦闘になると……」
兵士たちは、スリープの戦いぶりを目撃していた。
魔物の群れが襲ってきても、少女は淡々と剣を振るう。
一振り、また一振り。
その度に、複数の魔物が沈黙する。
「……なんなの、あれ」
「速すぎて見えないわ」
「あの動き、普通じゃない」
しかし、不思議なことに、誰もスリープを特別扱いしなかった。
認識阻害のイヤリングの効果で、兵士たちは彼女を「平凡な少女」と認識してしまうのだ。
「まあ、あの子も一般兵だし」
「運がいいだけよ」
「私たちと同じ、ただの兵士よ」
本来なら英雄として祭り上げられてもおかしくない戦果なのに、誰もそれに気づかない。
そして、ある日——
「ドラゴンだ!」
「またドラゴンが来たわ!」
「くそっ、前回は十人やられたのに!」
「逃げて! あれは私たちじゃ勝てない!」
「魔法部隊を呼んで! 早く!」
「間に合わない! こっちに来るわ!」
兵士たちが恐怖に顔を引きつらせ、武器を取り落とす者すらいる。
空から巨大なドラゴンが降下してくる。赤い鱗が陽光を反射し、その咆哮が戦場を震わせた。
「やばい! あれに狙われたら終わりよ!」
「誰か! 誰か助けて!」
兵士たちが絶望に顔を歪め、後退し始める中——
スリープが一歩前に出た。
『姫様、ドラゴンです』
(あー、はいはい。よろしくー)
剣を構え、ドラゴンに向かって跳躍する。
一閃。
ドラゴンの首が地面に落ちた。
静寂。
「……え?」
「今、何が……?」
「ドラゴンが……死んだの?」
兵士たちは呆然とスリープを見つめた。
「あ、ありがとう、スリープ」
ガレスが駆け寄ってくる。
「助かったわ!」
「ああ、スリープは運が良いわよね」
別の兵士が頷く。
「たまたまドラゴンの急所に当たるなんて」
「運が良いわよね」
「たまたまドラゴンに狙われることなく近づけて、たまたまドラゴンの逆鱗に刃が当たって、たまたま会心の一振りができて、倒せちゃうんだから」
「さすが、私たちの仲間ね」
誰も、その異常さに気づかない。
認識阻害のイヤリングの効果は絶大だった。
スリープは、また黙々と次の魔物に向かっていった。
(……このイヤリング、便利すぎない?)
と思いながら。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
二週間ほどが過ぎた頃、わたしは前線での生活に慣れ始めていた。
昼はナミギリに体を任せて戦闘参加。夜だけ自分の体で眠る。
この生活、意外と悪くない。
夜になると、わたしは認識阻害のイヤリングをつけたまま眠りについた。外すと面倒なことになりそうだし、つけたままでも問題ない。
ずっと脳内睡眠はつらいからね。こんな質素な環境でも、ちゃんと自分の体で寝られるのは気持ちがいい。
固いベッド、薄い毛布。
でも、自分の体で眠れるというのは、やはり特別なものだった。
ある夜、隊長のガレスがわたしに話しかけてきた。
「ねえ、スリープ」
「……ん?」
「最近、変な噂があるのよ」
「え? そうなの?」
「うん、夜、バラックの周りに怪しい人影を見たって子がいるの」
わたしは少し身を起こした。
「怪しい人影?」
「たぶん気のせいだと思うけどね。この前線じゃ、疲れて幻覚見る子もいるし」
ガレスは笑ったが、その笑顔はどこか不安げだった。
「でも、一応気をつけてね。何があるかわからないから」
「……うん、一応ね」
わたしは頷いて、また横になった。
怪しい人影か。
でも、ここは人類軍の駐屯地。魔物が入ってくるはずがない。
きっと、ガレスの言う通り、誰かの見間違いだろう。
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
それから数日後。
やっと夜になった。
わたしは今日も戦場でナミギリに体を任せながら、意識の中でゴロゴロしていた。
あー、眠い。早く自分の体で眠りたい。
大丈夫。剣聖だとは思われていないし、襲われる可能性はゼロだ。
ここは人類軍の中。安全な場所。
わたしは安心して、ベッドに横になった。
固いベッドだけど、自分の体で眠れるのは気持ちがいい。
まぶたが重くなる。
意識が遠のいていく——
...*...*...*...*...*...
一方、バラックの外では——
月明かりが、窓から差し込んでいた。
バラックに静寂が訪れ、兵士たちは疲れ果てて眠り、寝息だけが聞こえている。
その光の中で——
闇の中で、何かが鈍く銀色に光った。
刃だ。
複数の人影が、静かにバラックに近づいてくる。
足音を殺し、息を潜めて。
その目は、一人の少女——スリープのベッドに向けられていた。