努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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26.三位一体

 

 その夜、わたしは穏やかな夢を見ていた。

 

 ふかふかのベッド、最高級の枕、陽だまりの中での至福の昼寝——

 

 すやすや。

 

 その時。

 

『――姫様!!上です!!』

 

 ナミギリの怒声が脳内に響いた。

 

「ふぇっ!? いきなり何!?」

 

 わたしは飛び起きた。

 

 まさか!?

 

 わたしには何かが起きたようには思えない。でも、ナミギリの声に緊張感があった。

 

『交代を! 今すぐに!』

 

 咄嗟に、わたしはナミギリに体を預けた。

 

 次の瞬間——

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 天井が吹き飛んだ。

 

 空から——眩い光の柱が降り注ぐ。

 

 魔力の塊。

 

 圧縮された破壊の光。

 

 ナミギリが剣で受け流す。

 

 ギギギギギギ!!!

 

『くっ……!』

 

 光の奔流が、剣を押し込む。

 

 ナミギリの足元が、地面にめり込んでいく。

 

 バラック全体が、光に包まれた。

 

 ドガァァァァン!!!

 

 爆発。

 

 建物が崩れる。

 

 兵士たちの悲鳴。

 

「何が起きた!?」

「攻撃!?」

「敵襲だ!!」

 

 煙の中——

 

 月明かりに照らされた異形の影。

 

 全身が灰色の鱗に覆われた人型。

 頭には黒い角。

 目は血のように赤く光る。

 

 魔物だ。

 それも、一体じゃない。

 三体。

 三体が横一列に並び——

 

「我ら、魔王軍四天王」

 

 真ん中の魔物が、低い声で名乗った。

 

「『心』担当、長男ココル」

「『技』担当、次男ワザオ」

「『体』担当、三男タイゾウ」

 

「「「三人そろって、【三位一体の四天王】!」」」

 

 三体が同時に構える。

 

「剣聖ネム——お前を、ここで始末する」

 

 一斉に襲いかかる。

 

 長男が正面から。

 

 次男が右から。

 

 三男が左から。

 

 完璧な三方向同時攻撃。

 

「フフフ……我らの連携は完璧だ」

「お前がいくら剣聖でも——」

「三対一では勝てまい」

 

 魔物たちが、不気味に笑う。

 

 しかし——

 

 ナミギリは、冷静に呟いた。

 

『……なるほど、連携が見事です。ですが』

 

 次の瞬間——

 

 ナミギリの姿が、揺らいだ。

 まるで幻のように。

 

「――《幻間歩法(げんかんほほう)》」

 

 ナミギリの姿が、揺らいだ。

 最小限の動きで、相手を惑わす斬霧流の技。

 

 わずかな重心移動、半歩の踏み込み。

 それだけで、敵の認識を誤認させる。

 

 3体の魔物には、ナミギリが何体にもぶれて見えていることだろう。

 

「何!?」

「姿が……いくつにも!?」

「そっちじゃねぇ、こっちだ!」

 

 3体の魔物が、戸惑う。

 

 ナミギリは、ほとんど動いていない。

 ただ、歩法を、剣を、ほんの少し動かしているだけ。

 

 それなのに、3体の魔物たちは、あらぬ方向を攻撃し続けている。

 

(これは!? 奥義!?)

 

『いえ、ただの基本技にすぎませぬ』

 

 ナミギリの声が、四方から聞こえる。

 

「くそっ、どれが本物だ!」

「右か!?」

「違う、左だ!」

 

 三体の連携が——完全に崩れた。

 

 互いの位置を見失い、攻撃が空を切る。

 

『連携は脅威――ですが』

 

 残像の中から、剣が閃く。

 

『三体が互いを見失えば、容易い』

 

 残像の中から、真の剣が閃く。

 

 長男ココルが反応する。

 だが——遅い。

 

 ナミギリの剣は、既にココルの首筋に達していた。

 

 一閃。

 長男ココルの首が、宙を舞う。

 

「——ッ!?」

 

 声も出せずに、首だけが地面に転がる。

 

「兄貴!?」

「嘘だろ!?」

 

 次男と三男が、愕然とする。

 

 そして——

 

「くそっ! ならば!」

「我ら最強の技を使うしかない!」

 

 2体が同時に叫んだ。

 

「「多重自爆っ!!」」

 

 2体の体が、膨張し始める。

 

『なにっ!?』

 

(え、いきなり自爆って!?)

 

 ナミギリが咄嗟に跳躍。

 

 爆発——

 

 

 ドガァァァァァン!!!

 ドガァァァァァン!!!

 

 閃光と爆音が、夜空を染めた。

 

 二連続の爆発が、バラックを完全に破壊した。

 

 

 

...*...*...*...*...*...

 

 

 

 気づくと、わたしは瓦礫の上に立っていた

 

 体は無傷。

 ナミギリはやっぱり最強だ。

 

 でも——

 

 心臓がバクバクと鳴っている。

 

 手が震える。

 

(……死ぬかと思った)

 

 周りを見ると、バラックは半壊。

 

 他の兵士たちは、何とか無事だった。

 

「何だったんだ、今の……!」

「魔物!? なんでここに!?」

 

 ガレスが駆けつけてくる。

 

「スリープ! 無事!?」

 

(いやでも……四天王って名乗ってた割には……意外と、楽勝だった?)

 

 ナミギリは基本技だけで圧倒していた。

 

(あれ……?)

 

 わたしは、周囲を見回した。

 

 爆発の痕跡はある。

 焦げた地面、崩れた瓦礫。

 

 でも——

 

 魔物の死体が、ない。

 首を斬られた長男の体も、首も。

 自爆した次男と三男の残骸も。

 

 何もかも、消えていた。

 

(死体……どこ?)

 

『……分かりませぬ。しかし、どこにも魔物の死体が見当たらないようですな』

 

(え……? どゆこと? 確実に倒してたよね?)

 

『ええ、長男については、確実に首を刎ねました』

 

 ナミギリも、困惑している。

 

(あいつら……本当に死んだの?)

 

『……もしかしたら、自爆技に関しては瀕死になるだけで済む可能性はありますが……』

 

(でも、長男は?)

 

『……』

 

(なんで……)

 

 不気味だった。

 本当に、倒せたのか?

 

 それとも——

 

(それに、あいつら……何て言ってた?)

 

『剣聖ネム、お前をここで始末する、と』

 

(つまり、わたしを……狙ってた)

 

 魔王が……わたしを殺そうとしてる。

 

 でも、死体が消えた……?

 また、来るんじゃ……

 

 怖い。

 本当に、怖かった。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 翌朝、バラックは騒然としていた。

 

「ねえ、聞いた?」

「昨夜、魔物が襲撃してきたらしいわ」

「でも、スリープが返り討ちにしたって」

 

 兵士たちは、ひそひそと囁き合っている。

 

「四天王を名乗ってたらしいわよ」

「四天王!? それであの子が勝ったの?」

「でも……」

 

 ガレスが、困惑した表情で呟く。

 

「死体が、見つからないのよ」

「え?」

「爆発の痕跡はあるのに、魔物の死体が一つも……」

「消えた……?」

「そういうこともあるのかしら」

「倒せたわけじゃないんじゃない?」

「そもそも四天王を名乗っただけなんだし、嘘ってこともあるでしょ?」

 

 兵士たちは、首を傾げた。

 認識阻害のイヤリングの効果で、誰もスリープを特別視しない。

 

「まあ、平凡な少女だし」

「運が良かったのよ」

「そういうこともあるわよね」

 

 兵士たちは、それ以上深く考えることをやめた。

 

 でも——

 

 わたしの心には、深い疑問と恐怖が残っていた。

 

 死体が消えた。

 本当に、倒せたのか?

 また、来るんじゃないか?

 

 認識阻害のイヤリングを着けているから、わたしは「平凡な少女」に見えているはず。

 それなのに、なぜ? 確実に相手は『剣聖』だと言っていた。

 

 魔王が……わたしを狙ってる。

 

 どこにも安全な場所なんて、ないんだ……

 

 

 ここ最近の生活では、このバラック一番安全な場所だったはずだ。

 なのに、眠っている間に襲われた。

 

 どんな状況でも、どんな場所でも、危険はある。

 

 わたしは、その夜も自分の体で眠ろうとした。

 

 でも——

 

 まぶたを閉じた瞬間、魔物の顔が脳裏に浮かんだ。

 

 赤い目。

 鋭い爪。

 死の予感。

 

 そして——消えた死体。

 

(……怖い)

 

 心臓がドクドクと激しく鳴る。

 

(大丈夫、大丈夫。もう襲ってこないよ)

 

 自分に言い聞かせる。

 

 でも——眠れなかった。

 

「ナミギリ……」

 

『はい、姫様』

 

「ごめん……やっぱり、あなたが起きてて」

 

『……承知いたしました』

 

 わたしはナミギリに体を預けた。

 

 そして、意識の中で眠ることにした。

 

 リアル惰眠は——もう、諦めるしかなかった。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 数日が過ぎた。

 

 つらい……脳内惰眠だけでは、つらくなってきた……

 

 意識の中での睡眠は、本物の睡眠とは違う。

 

 体が休まらない。

 心が休まらない。

 やっぱり『リアル惰眠』を取りたい!

 

 ふかふかのベッドで、何も考えずに眠りたい。

 

 でも——それは叶わない。

 

 もう、現実の世界には戻れない。

 わたしは、自分の体で眠ることができなくなった。

 

 毎日、魔物との戦闘が続く。

 ナミギリが体を操り、わたしは意識の中でぼんやりと過ごす。

 

 でも——

 

 脳内は真っ暗闇だ。

 何もない。

 時として、それは最高の睡眠環境になるかもしれない。

 でも、非常に退屈でつまらない。

 

 魔物の顔が、何度も浮かぶ。

 怖い。

 また襲ってくるんじゃないか。

 次は、もっと強い刺客が来るんじゃないか。

 

 どうすればいいの……?

 

 他の兵士たちは疲弊していく。

 

「また今日も地獄ね……」

「いつまで続くの、この戦いは……」

 

 でも、わたしには別の地獄があった。

 

 眠れない地獄。

 リアル惰眠を奪われた地獄。

 

 早く帰りたい……王都に帰れば、ベッドで寝られる。

 

 そう、早く、魔法使いくんを見つけて、わたしの人格にする。

 そうすればリアル惰眠もできるようになる。

 悠々と王都に帰れる。

 

 それだけが、心の支えだった。

 

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