努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~ 作:エレティムさん
温泉から戻ると、勇者パーティが待っていた。
「ネム王女、アウレリア!」
勇者が一歩前に出てきた。
「ネム王女、我々はこれから魔王討伐の最終段階に入る。君の力があれば、必ず勝利できる。共に歴史に名を遺そう」
相変わらず、キザなセリフ。
でも——
「それでは、お別れですね」
アウレリアが、寂しそうに微笑んだ。
「え……?」
心臓が、ドクンと鳴った。
「ネムは、また前線に戻られるのでしょう? わたしたちは魔王討伐に向かいますから」
(お別れ……?)
それは——
(嫌だ)
アウレリアがいなくなったら、また眠れなくなる。
また、あの恐怖の日々に戻る。
毎晩、魔物に襲われるんじゃないかって怯えて。
リアル惰眠ができなくて。
頭がぼんやりして、思考がまとまらなくて。
(嫌だ……!)
「嫌だ!」
思わず、声が出ていた。
周囲が、驚いてこちらを見る。
「ネム王女……?」
勇者が戸惑った表情を見せる。
「わたし……一緒に行く」
「え……?」
アウレリアが目を見開いた。
「一緒に、魔王を倒しに行く!」
わたしは必死だった。
「アウレリアと離れたら……眠れなくなる」
「ネム……」
「それに……」
わたしは、アウレリアを見た。
「魔王を倒して、一緒に寝る約束したでしょ?」
アウレリアの目が、潤んだ。
「はい……約束、しましたね」
そして——
満面の笑みを浮かべた。
「嬉しいです。ネム様が、一緒に来てくださるなんて」
「ネム王女、君がついに一緒にパーティに参加してくれて嬉しいよ。僕はずっとこの時を待っていたんだ。一緒に歴史に名を遺す英雄になろう!」
勇者が、キザなセリフで歓迎する。
「はぁ」
わたしは適当に返事をした。
全然ときめかない。
賢者が、静かに口を開いた。
「魔王討伐の成功率は、もともと95%でした。しかし、剣聖殿の加入により、99.8%にまで上昇します」
「……0.2%は?」
「不測の事態です。しかし、限りなくゼロに近い」
賢者は冷静に分析する。
データキャラなんだな、この人。
聖女の騎士、セドリックが一歩前に出た。
「剣聖殿、共に戦えることを光栄に思います」
セドリックは、わたしの実力を認めてくれている。
剣技大会で戦った相手だから。
『セドリック殿は、強者でございます』
ナミギリの声が、脳内に響く。
『姫様が出場なさらなければ、優勝していたのはこの者でしょう』
(そうだよね)
わたしが参加していなければ、セドリックが剣聖になっていたはずだ。
そして——
フードをかぶった男が、一歩前に出てきた。
魔法使い、マグヌス。
「よろしくお願いします、剣聖殿」
表面上は丁寧だけど——
(やっぱり怪しい……)
当たり前のような顔でこの場に立っている。
どんな手を使ったかは知らないけど、審問は突破したらしい。
でもわたしは、信用しないよ。
ナミギリが殺気を向けてきたと言っているんだ。それが何よりの証拠。
でも——
今は、それよりもアウレリアと一緒にいることが大事だ。
「それでは、出発しましょう」
勇者が剣を掲げた。
「魔王を倒し、世界に平和を取り戻す!」
...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...
遠征が始まった。
とある四天王の居城に向かうための旅。
1~2週間かかるらしい。
わたしたちは、森を抜け、山を越え、川を渡った。
道中、賢者が説明してくれた。
「勝率を最大化するために、魔王を倒しに行く前に、四天王をすべて倒しておくのが良いです。残る四天王は、三位一体の四天王のみですから」
三位一体——
その言葉を聞いた瞬間、心臓が凍りついた。
あの夜の記憶が、鮮明に蘇る。
天井が吹き飛んだ瞬間。
眩い光の柱。
三体の魔物。
『剣聖ネム——お前を、ここで始末する』
あいつらは、わたしを狙っていた。
認識阻害のイヤリングを着けているのに。
平凡な少女に見えているはずなのに。
それなのに——魔王は、わたしを殺そうとしている。
ナミギリが圧倒した。
でも——
死体が、消えた。
(また……あいつらと戦うんだ……)
体の奥底から、震えが込み上げてくる。
「あの時……死体が消えたのは……」
「ええ」
賢者が頷く。
「三位一体の四天王は、特殊な異能を持っています。三体を同時に倒さなければ、復活してしまうのです」
「同時に……?」
「はい。一体でも生き残れば、他の二体も復活します」
「それって……」
「至難の業です」
賢者は冷静に答えた。
「我々も、何度か接敵しましたが、倒しきることができませんでした」
「でも、今回は剣聖殿がいます」
セドリックが言った。
「必ず、倒せるでしょう」
「ええ」
アウレリアが微笑んだ。
「私の魔法で、三位一体の四天王のおおよその位置が分かっています。追い詰めて、一気に倒しましょう」
(三体、同時に……)
それは、確かに難しい。
でも——
(ナミギリがいれば、大丈夫)
わたしは、そう信じていた。
……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……
道中、魔王軍の雑兵と遭遇した。
「敵だ!」
勇者が剣を抜く。
その剣が、光を放ち始める。
「光よ、悪を断て!」
眩い光の斬撃が、雑兵を薙ぎ払う。
アウレリアが杖を振るう。
「癒しの光よ!」
味方の傷が、瞬時に回復していく。
賢者が魔法陣を展開する。
「氷結!」
雑兵の足元が凍り、動きを封じる。
セドリックが剣を振るう。
堅実な剣技で、確実に敵を倒していく。
マグヌスが氷の槍を放つ。
氷魔法が、雑兵を貫く。
そして——
『参ります』
ナミギリが動いた。
一瞬。
ただの一瞬で、すべての雑兵が倒れた。
「す、すごい……」
勇者が驚愕の声を上げる。
「流石は剣聖……」
セドリックも、感嘆の表情を浮かべた。
(ナミギリは、やっぱり最強だ)
わたしは、少し誇らしい気持ちになった。
でも——
わたしは、基本的に喋らない。
体は、ナミギリに任せている。
だから——
周囲と会話することができない。
ナミギリの口調で喋ると、バレてしまう。
アウレリアが、心配そうにこちらを見ている。
(ごめん、アウレリア……)
喋りたいのに、喋れない。
この状況が、少し辛かった。
(もっとみんなと話したいのに……)
(アウレリアと、もっと話したいのに……)
……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……
その日の夜。
わたしとアウレリアは、同じテントで過ごすことになった。
「結界を張りますね」
アウレリアが杖を振ると、テントの周囲に淡い光の壁が現れた。
「これで、魔物は入ってこられません」
「ありがとう、アウレリア」
わたしは、心から感謝した。
この結界があるから、安心して眠れる。
アウレリアがいるから、眠れる。
「今日は楽しかったですね」
アウレリアが微笑む。
「うん……楽しかった」
本当に、久しぶりに楽しいと感じた。
勇者パーティのみんなと過ごす時間。
美味しい食事。
剣の鍛錬。
すべてが、楽しかった。
「明日も頑張りましょうね」
「うん」
わたしは頷いた。
「おやすみなさい、ネム」
「おやすみ、アウレリア」
わたしは、毛布にくるまった。
アウレリアの優しい気配が、すぐそばにある。
安心感が、全身を包み込む。
久しぶりの、リアル惰眠。
すぐに、深い眠りに落ちていった。
……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……
数日が過ぎた。
毎晩、同じように過ごしていた。
アウレリアが結界を張ってくれる。
わたしは安心して眠る。
その習慣が、当たり前になっていった。
アウレリアへの信頼が、どんどん深くなっていく。
親密度が、増していく。
でも——
ある夜、わたしは思った。
(これって……いつまで続けられるんだろう)
アウレリアは、毎晩眠らずにわたしを守ってくれている。
聖女の祝福で、眠らなくても平気らしいけど——
(わたしだけ、アウレリアに頼りっぱなし……)
それが、少し心苦しかった。
そして——
(やっぱり、魔法使いの人格が必要だ)
魔法使いの人格を手に入れれば、結界を張ってもらえる。
そうすれば、アウレリアに頼らなくても、リアル惰眠ができる。
でも——
(マグヌスは……ダメだ)
あの人は、絶対に怪しい。
契約相手には、ならない。
(他に、誰かいないかな……)
そんなことを考えながら、眠りに落ちた。
……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……
数日が過ぎた。
毎晩、同じように過ごしていた。
アウレリアが結界を張ってくれる。
わたしは安心して眠る。
その習慣が、当たり前になっていった。
アウレリアへの信頼が、どんどん深くなっていく。
でも――
ある夜、わたしは思った。
(昼間も……アウレリアと話したいな)
夜のテントの中では、たくさん話せる。
でも、昼間は体をナミギリに預けているから、話せない。
昨日も、一昨日も、その前も。
ずっと、そう思っていた。
(いつか……昼間も、話せるようになったらいいな)
アウレリアの優しい気配が、すぐそばにある。
安心感が、全身を包み込む。
(アウレリアと……もっと、一緒にいたい)
そんなことを思いながら――
わたしは、深い眠りに落ちていった。