努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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30.遠征の夜

 

 遠征は順調だった。

 

 賢者の分析によれば、三位一体の四天王の位置をほぼ特定できているらしい。

 

「このペースなら、あと数日で追いつけるでしょう」

 

 賢者が、地図を広げながら言った。

 

「予定より早いな」

 

 勇者が満足そうに頷く。

 

「剣聖殿がいるおかげです」

 

 セドリックが、わたしに——正確には、ナミギリに視線を向けた。

 

 順調。

 

 すべてが、順調だった。

 

 わたしは、少しだけ気が楽になっていた。

 

 

 

……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……

 

 

 

 数日後。

 

 セドリックが、わたしに——正確には、ナミギリに声をかけてきた。

 

「ナミギリ殿、一手お願いしたい」

 

『光栄です、騎士殿』

 

 ナミギリが答えた。

 

 二人は、少し離れた場所で剣を交えた。

 

 カンッ、カンッ、カンッ!

 

 剣と剣がぶつかり合う音が響く。

 

「流石は剣聖……!」

 

 セドリックが、感嘆の声を上げる。

 

『貴殿も、見事な剣技です』

 

 ナミギリが答える。

 

 二人は、お互いの実力を認め合っている。

 

 そして——

 

 ナミギリが、楽しそうにしている気がした。

 

『姫様』

 

 ナミギリの声が、脳内に響く。

 

『セドリック殿は、良き剣士です』

 

(うん……ナミギリ、楽しそう)

 

 わたしは、少し嬉しくなった。

 

 ナミギリが、楽しんでいる。

 

 剣の道を究める者同士、通じ合うものがあるんだろう。

 

……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……

 

 夜。

 

 わたしたちは野営をした。

 

 焚き火を囲んで、夕食の準備が始まる。

 

 いつもの光景。

 

 でも、今日は少し雰囲気が明るい。

 

 四天王を追い詰めている。

 

 魔王討伐が、もうすぐそこまで来ている。

 

 勇者が料理を作っている。

 

「今日も順調だったな」

 

 賢者が静かに微笑む。

 

「ええ、このペースなら予定より早く四天王に追いつけます」

 

 セドリックが薪を運んでくる。

 

 アウレリアが食器を並べている。

 

 マグヌスは、少し離れたところで、何かの準備をしている。

 

 わたしは——

 

 ナミギリから体を返してもらう。

 

 久しぶりに、自分で体を動かす。

 

「ふぅ……」

 

 体が、少し重い。

 

 でも、ちゃんと動く。

 

 料理ができあがった。

 

 美味しそうな匂いが漂う。

 

「さあ、食べよう」

 

 勇者が皿を配る。

 

 わたしは、久しぶりに自分の手で食事をした。

 

 美味しい。

 

 温かい。

 

 みんなで食べる食事は、やっぱり楽しい。

 

「剣聖殿、最近あまりお話しされませんが、大丈夫ですか?」

 

 勇者が、心配そうに聞いてきた。

 

「あ、うん……大丈夫」

 

 わたしは、少し曖昧に答えた。

 

(ナミギリに体を預けてるから、喋れないんだけど……)

 

 それは、言えない。

 

「そうか……無理はしないでくれよ」

 

 勇者は優しく微笑んだ。

 

 その時——

 

 マグヌスが、ワインの瓶を持ってきた。

 

「剣聖殿」

 

 マグヌスが、わたしを見る。

 

 フードの奥から、わずかに視線を感じる。

 

「何かしら誤解があったのでしたら、謝ります」

 

 マグヌスの声は、表面上は丁寧だった。

 

「しかし、これから魔王を倒す仲間なのです。わだかまりがあってはいけないでしょう?」

 

(……この人、やっぱり怪しい)

 

 わたしは、内心で警戒した。

 

 前に、四天王を勝手にトドメ刺した人だ。

 

 信用できない。

 

 でも——

 

 表面上は、優しそうに見える。

 

「順調な遠征を祝して……ワインくらいはいけますな?」

 

 マグヌスが、グラスを差し出してきた。

 

「それに、旅の疲れもあるでしょう。少し気を緩めるのも悪くないかと」

 

(飲むわけないじゃん)

 

 わたしは、内心で思った。

 

 怪しい人から、飲み物なんて受け取れない。

 

 それに——

 

「おい! まだネム王女は子供だぞ!」

 

 勇者が慌てて止めに入った。

 

「子供にワインを勧めるなんて、何を考えてるんだ!」

 

「これは失礼」

 

 マグヌスは、わずかに肩をすくめた。

 

 でも——

 

 その態度が、なんだか癪に障った。

 

 子供扱いされたのも、癪に障った。

 

「べ、べつに子供じゃないし!」

 

 わたしは、ムキになって言い返した。

 

「それくらい飲めるから!」

 

「ネム王女……」

 

 勇者が心配そうな顔をする。

 

 でも——

 

 わたしは、もう止まらなかった。

 

 マグヌスの態度が気に入らない。

 

 勇者の心配も、ありがたいけど——

 

 子供扱いされるのは、嫌だ。

 

「ほら、飲むから!」

 

 わたしは、マグヌスからグラスを奪い取った。

 

「ネム様……」

 

 アウレリアが心配そうに声をかけてくる。

 

 でも——

 

 わたしは、グラスを一気に飲み干した。

 

「……っ!」

 

 瞬間——

 

 喉が、熱い。

 

 火が通ったみたいに、熱い。

 

「げほっ、げほっ……!」

 

 咳き込む。

 

 涙が出てくる。

 

「ネム王女! 大丈夫か!?」

 

 勇者が慌てて駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫……」

 

 わたしは、何とか答えた。

 

 でも——

 

 体が、熱い。

 

 じわじわと、体の奥から熱が広がってくる。

 

 頭が、ぼんやりしてくる。

 

「ネム様……?」

 

 アウレリアの声が、遠くに聞こえる。

 

 視界が、少しぼやける。

 

「あれ……?」

 

 立ち上がろうとしたけど、足がふらついた。

 

「おっと……」

 

 セドリックが、咄嗟に支えてくれた。

 

「剣聖殿、大丈夫ですか?」

 

「う、うん……大丈夫……」

 

 わたしは、何とか答えた。

 

 でも——

 

 全然、大丈夫じゃない。

 

 頭が、ぐるぐるする。

 

 体が、すごく熱い。

 

 顔が、熱い。

 

「血中アルコール濃度が急激に上昇しているようですね」

 

 賢者が、冷静に分析している。

 

「体重と年齢から計算すると……おそらく、あと数分で完全に酔いが回るでしょう」

 

「数分って……!」

 

 勇者が焦った声を上げる。

 

「アルコール耐性が極めて低いようです。おそらく、初めて飲んだのでは?」

 

「そ、そうなのか……」

 

 勇者が、困ったような顔をする。

 

 わたしは——

 

 ふらふらと、その場に立っていた。

 

 頭が、ぼんやりする。

 

 視界が、揺れる。

 

 でも——

 

 不思議と、怖くない。

 

 むしろ——

 

 体が、ふわふわして気持ちいい。

 

「アウレリア……」

 

 わたしは、アウレリアを探した。

 

 どこ?

 

 アウレリア、どこ?

 

「ネム様、ここですよ」

 

 アウレリアの声が聞こえた。

 

 そっちだ。

 

 わたしは——

 

 ふらふらと、アウレリアに向かって歩いた。

 

「アウレリア!」

 

 そして——

 

 ぎゅっと、抱き着いた。

 

「大好き!」

 

「ね、ネム!?」

 

 アウレリアの顔が、一瞬で真っ赤になる。

 

 温かい。

 

 アウレリア、温かい。

 

 気持ちいい。

 

「お、おい! ネム王女! 大丈夫か!?」

 

 勇者が慌てた声を上げる。

 

「アルコール耐性が低いようですね」

 

 賢者が、冷静に分析している。

 

「剣聖殿、大丈夫ですか?」

 

 セドリックが、心配そうに声をかけてくる。

 

 マグヌスは、表面上は無関心を装っているが、フードの奥からじっと様子を見ている。

 

「大丈夫です、わたしが……」

 

 アウレリアが、慌てつつも答えた。

 

 でも——

 

 アウレリアの声が、震えている。

 

 顔が、真っ赤だ。

 

 わたしは——

 

 アウレリアの温かさに、さらにぎゅっと抱きついた。

 

「ふふ……アウレリア、温かい……」

 

「ね、ネム……あの……」

 

 アウレリアの声が、さらに震える。

 

 でも——

 

 わたしは、止まらなかった。

 

 気持ちいい。

 

 温かい。

 

 でも——

 

 暑い。

 すごく、暑い。

 

「暑い……」

 

 わたしは、ぽつりと呟いた。

 

 体が、熱い。

 

 服の襟元を、ぐいっと引っ張る。

 

「ね、ネム!?」

 

 アウレリアの声が、さらに高くなった。

 

「あの……その……!」

 

 アウレリアの顔が、さらに赤くなる。

 

 ぐるぐる目を回しているような表情。

 

 わたしは——

 

 襟元をさらに引っ張った。

 鎖骨が、少しあらわになる。

 

「暑いの……」

 

「ね、ネム……お願いですから……」

 

 アウレリアの声が、必死だ。

 

「み、見るな! みんな目を閉じろ!」

 

 勇者が、慌てて叫んだ。

 

「あ、はい!」

 

 セドリックが、慌てて目を背ける。

 

「統計的に見て、このような状況は——」

 

「賢者! お前もだ!」

 

「……承知しました」

 

 賢者も、目を閉じた。

 

 マグヌスは——

 

 フードの奥から、相変わらず様子を見ている気配がする。

 

 アウレリアが、何とか冷静さを取り戻そうとしている。

 

「ね、ネム……落ち着いてください……」

 

 アウレリアの声が、震えている。

 

 顔が、真っ赤だ。

 

 でも——

 

 聖女として、何とか対応しようとしている。

 

「治癒魔法をかけますね……!」

 

 アウレリアが、慌ててわたしの頭に手を当てた。

 

 優しい光が、わたしを包む。

 

 温かい。

 安心する。

 体の熱が、少しずつ引いていく。

 

 頭のぼんやりした感じが、和らいでいく。

 

 わたしは——

 

 アウレリアの腕の中で、すーっと力が抜けていった。

 

 気持ちいい。

 温かい。

 安心する。

 何も言わずに、すーっと眠りに落ちていった。

 

 安心しきった表情で。

 

 頬が、ほんのり赤く染まっている。

 髪が、少し乱れている。

 無防備な寝顔。

 

「もう、ネムったら……」

 

 アウレリアの優しい声が、最後に聞こえた気がした。

 

 そして——

 

 アウレリアが、優しくわたしの頭を撫でてくれた。

 

 その手の温かさを感じながら——

 

 わたしは、深い眠りに落ちていった。

 

 

 

……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……

 

 

 

 次の日。

 

 わたしは目を覚ました。

 

 頭が、少し痛い。

 体が、重い。

 

「おはよう、ネム」

 

 アウレリアが、優しく微笑んでいる。

 

「あ……おはよう……」

 

 何か——

 すごく嫌な予感がする。

 

 昨夜のこと……あんまり覚えてない。

 

 でも——

 

 断片的に、何か思い出す。

 

 アウレリアに抱きついて……

 「大好き!」って叫んで……

 服のボタンを……

 

(うわああああ!?)

 

 顔が、一気に熱くなった。

 

(や、やだ……! 何やってるの、わたし!?)

 

 記憶が、断片的に蘇ってくる。

 

 その度に、顔が熱くなる。

 

 恥ずかしい。

 すごく、恥ずかしい。

 

「ネム様、大丈夫ですか?」

 

 アウレリアが、心配そうに聞いてくる。

 

「だ、大丈夫……」

 

 わたしは、何とか答えた。

 

 でも——

 

 全然、大丈夫じゃない。

 

 顔が、熱い。

 

 恥ずかしい。

 

 もう二度と、ワインなんて飲まない。

 

 絶対に。

 

「それでは、出発しましょう」

 

 勇者が、剣を掲げた。

 

「今日も、順調に進みましょう」

 

 みんなが、準備を始める。

 

 わたしは——

 

 まだ顔が赤いまま、ナミギリに体を預けた。

 

『姫様……昨夜は大変でしたな』

 

(うるさい! 何も言わないで!)

 

『承知いたしました』

 

 ナミギリの声に、わずかな笑いが含まれている気がした。

 

(もう……!)

 

 わたしは、脳内で頭を抱えた。

 

 恥ずかしい。

 本当に、恥ずかしい。

 

 でも——

 

 アウレリアの温かさだけは、はっきり覚えている。

 

 あの安心感。

 優しい声。

 温かい手。

 

(……アウレリア、ありがとう)

 

 そう思いながら——

 

(もう! とにかく今日は寝る!)

 

 わたしは、頭の奥へと引きこもった。

 

 今日もナミギリにすべてを任せる。

 

 でも——

 

 心の奥で、ふと思った。

 

(もっと……アウレリアと、話したいな)

 

 昼間も、夜みたいに話せたらいいのに。

 

 そんなことを思いながら——

 

 わたしは、意識の奥へと沈んでいった。

 

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