努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~ 作:エレティムさん
遠征は順調だった。
賢者の分析によれば、三位一体の四天王の位置をほぼ特定できているらしい。
「このペースなら、あと数日で追いつけるでしょう」
賢者が、地図を広げながら言った。
「予定より早いな」
勇者が満足そうに頷く。
「剣聖殿がいるおかげです」
セドリックが、わたしに——正確には、ナミギリに視線を向けた。
順調。
すべてが、順調だった。
わたしは、少しだけ気が楽になっていた。
……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……
数日後。
セドリックが、わたしに——正確には、ナミギリに声をかけてきた。
「ナミギリ殿、一手お願いしたい」
『光栄です、騎士殿』
ナミギリが答えた。
二人は、少し離れた場所で剣を交えた。
カンッ、カンッ、カンッ!
剣と剣がぶつかり合う音が響く。
「流石は剣聖……!」
セドリックが、感嘆の声を上げる。
『貴殿も、見事な剣技です』
ナミギリが答える。
二人は、お互いの実力を認め合っている。
そして——
ナミギリが、楽しそうにしている気がした。
『姫様』
ナミギリの声が、脳内に響く。
『セドリック殿は、良き剣士です』
(うん……ナミギリ、楽しそう)
わたしは、少し嬉しくなった。
ナミギリが、楽しんでいる。
剣の道を究める者同士、通じ合うものがあるんだろう。
……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……
夜。
わたしたちは野営をした。
焚き火を囲んで、夕食の準備が始まる。
いつもの光景。
でも、今日は少し雰囲気が明るい。
四天王を追い詰めている。
魔王討伐が、もうすぐそこまで来ている。
勇者が料理を作っている。
「今日も順調だったな」
賢者が静かに微笑む。
「ええ、このペースなら予定より早く四天王に追いつけます」
セドリックが薪を運んでくる。
アウレリアが食器を並べている。
マグヌスは、少し離れたところで、何かの準備をしている。
わたしは——
ナミギリから体を返してもらう。
久しぶりに、自分で体を動かす。
「ふぅ……」
体が、少し重い。
でも、ちゃんと動く。
料理ができあがった。
美味しそうな匂いが漂う。
「さあ、食べよう」
勇者が皿を配る。
わたしは、久しぶりに自分の手で食事をした。
美味しい。
温かい。
みんなで食べる食事は、やっぱり楽しい。
「剣聖殿、最近あまりお話しされませんが、大丈夫ですか?」
勇者が、心配そうに聞いてきた。
「あ、うん……大丈夫」
わたしは、少し曖昧に答えた。
(ナミギリに体を預けてるから、喋れないんだけど……)
それは、言えない。
「そうか……無理はしないでくれよ」
勇者は優しく微笑んだ。
その時——
マグヌスが、ワインの瓶を持ってきた。
「剣聖殿」
マグヌスが、わたしを見る。
フードの奥から、わずかに視線を感じる。
「何かしら誤解があったのでしたら、謝ります」
マグヌスの声は、表面上は丁寧だった。
「しかし、これから魔王を倒す仲間なのです。わだかまりがあってはいけないでしょう?」
(……この人、やっぱり怪しい)
わたしは、内心で警戒した。
前に、四天王を勝手にトドメ刺した人だ。
信用できない。
でも——
表面上は、優しそうに見える。
「順調な遠征を祝して……ワインくらいはいけますな?」
マグヌスが、グラスを差し出してきた。
「それに、旅の疲れもあるでしょう。少し気を緩めるのも悪くないかと」
(飲むわけないじゃん)
わたしは、内心で思った。
怪しい人から、飲み物なんて受け取れない。
それに——
「おい! まだネム王女は子供だぞ!」
勇者が慌てて止めに入った。
「子供にワインを勧めるなんて、何を考えてるんだ!」
「これは失礼」
マグヌスは、わずかに肩をすくめた。
でも——
その態度が、なんだか癪に障った。
子供扱いされたのも、癪に障った。
「べ、べつに子供じゃないし!」
わたしは、ムキになって言い返した。
「それくらい飲めるから!」
「ネム王女……」
勇者が心配そうな顔をする。
でも——
わたしは、もう止まらなかった。
マグヌスの態度が気に入らない。
勇者の心配も、ありがたいけど——
子供扱いされるのは、嫌だ。
「ほら、飲むから!」
わたしは、マグヌスからグラスを奪い取った。
「ネム様……」
アウレリアが心配そうに声をかけてくる。
でも——
わたしは、グラスを一気に飲み干した。
「……っ!」
瞬間——
喉が、熱い。
火が通ったみたいに、熱い。
「げほっ、げほっ……!」
咳き込む。
涙が出てくる。
「ネム王女! 大丈夫か!?」
勇者が慌てて駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫……」
わたしは、何とか答えた。
でも——
体が、熱い。
じわじわと、体の奥から熱が広がってくる。
頭が、ぼんやりしてくる。
「ネム様……?」
アウレリアの声が、遠くに聞こえる。
視界が、少しぼやける。
「あれ……?」
立ち上がろうとしたけど、足がふらついた。
「おっと……」
セドリックが、咄嗟に支えてくれた。
「剣聖殿、大丈夫ですか?」
「う、うん……大丈夫……」
わたしは、何とか答えた。
でも——
全然、大丈夫じゃない。
頭が、ぐるぐるする。
体が、すごく熱い。
顔が、熱い。
「血中アルコール濃度が急激に上昇しているようですね」
賢者が、冷静に分析している。
「体重と年齢から計算すると……おそらく、あと数分で完全に酔いが回るでしょう」
「数分って……!」
勇者が焦った声を上げる。
「アルコール耐性が極めて低いようです。おそらく、初めて飲んだのでは?」
「そ、そうなのか……」
勇者が、困ったような顔をする。
わたしは——
ふらふらと、その場に立っていた。
頭が、ぼんやりする。
視界が、揺れる。
でも——
不思議と、怖くない。
むしろ——
体が、ふわふわして気持ちいい。
「アウレリア……」
わたしは、アウレリアを探した。
どこ?
アウレリア、どこ?
「ネム様、ここですよ」
アウレリアの声が聞こえた。
そっちだ。
わたしは——
ふらふらと、アウレリアに向かって歩いた。
「アウレリア!」
そして——
ぎゅっと、抱き着いた。
「大好き!」
「ね、ネム!?」
アウレリアの顔が、一瞬で真っ赤になる。
温かい。
アウレリア、温かい。
気持ちいい。
「お、おい! ネム王女! 大丈夫か!?」
勇者が慌てた声を上げる。
「アルコール耐性が低いようですね」
賢者が、冷静に分析している。
「剣聖殿、大丈夫ですか?」
セドリックが、心配そうに声をかけてくる。
マグヌスは、表面上は無関心を装っているが、フードの奥からじっと様子を見ている。
「大丈夫です、わたしが……」
アウレリアが、慌てつつも答えた。
でも——
アウレリアの声が、震えている。
顔が、真っ赤だ。
わたしは——
アウレリアの温かさに、さらにぎゅっと抱きついた。
「ふふ……アウレリア、温かい……」
「ね、ネム……あの……」
アウレリアの声が、さらに震える。
でも——
わたしは、止まらなかった。
気持ちいい。
温かい。
でも——
暑い。
すごく、暑い。
「暑い……」
わたしは、ぽつりと呟いた。
体が、熱い。
服の襟元を、ぐいっと引っ張る。
「ね、ネム!?」
アウレリアの声が、さらに高くなった。
「あの……その……!」
アウレリアの顔が、さらに赤くなる。
ぐるぐる目を回しているような表情。
わたしは——
襟元をさらに引っ張った。
鎖骨が、少しあらわになる。
「暑いの……」
「ね、ネム……お願いですから……」
アウレリアの声が、必死だ。
「み、見るな! みんな目を閉じろ!」
勇者が、慌てて叫んだ。
「あ、はい!」
セドリックが、慌てて目を背ける。
「統計的に見て、このような状況は——」
「賢者! お前もだ!」
「……承知しました」
賢者も、目を閉じた。
マグヌスは——
フードの奥から、相変わらず様子を見ている気配がする。
アウレリアが、何とか冷静さを取り戻そうとしている。
「ね、ネム……落ち着いてください……」
アウレリアの声が、震えている。
顔が、真っ赤だ。
でも——
聖女として、何とか対応しようとしている。
「治癒魔法をかけますね……!」
アウレリアが、慌ててわたしの頭に手を当てた。
優しい光が、わたしを包む。
温かい。
安心する。
体の熱が、少しずつ引いていく。
頭のぼんやりした感じが、和らいでいく。
わたしは——
アウレリアの腕の中で、すーっと力が抜けていった。
気持ちいい。
温かい。
安心する。
何も言わずに、すーっと眠りに落ちていった。
安心しきった表情で。
頬が、ほんのり赤く染まっている。
髪が、少し乱れている。
無防備な寝顔。
「もう、ネムったら……」
アウレリアの優しい声が、最後に聞こえた気がした。
そして——
アウレリアが、優しくわたしの頭を撫でてくれた。
その手の温かさを感じながら——
わたしは、深い眠りに落ちていった。
……*……*……(っ˘ω˘c)zzz……*……*……
次の日。
わたしは目を覚ました。
頭が、少し痛い。
体が、重い。
「おはよう、ネム」
アウレリアが、優しく微笑んでいる。
「あ……おはよう……」
何か——
すごく嫌な予感がする。
昨夜のこと……あんまり覚えてない。
でも——
断片的に、何か思い出す。
アウレリアに抱きついて……
「大好き!」って叫んで……
服のボタンを……
(うわああああ!?)
顔が、一気に熱くなった。
(や、やだ……! 何やってるの、わたし!?)
記憶が、断片的に蘇ってくる。
その度に、顔が熱くなる。
恥ずかしい。
すごく、恥ずかしい。
「ネム様、大丈夫ですか?」
アウレリアが、心配そうに聞いてくる。
「だ、大丈夫……」
わたしは、何とか答えた。
でも——
全然、大丈夫じゃない。
顔が、熱い。
恥ずかしい。
もう二度と、ワインなんて飲まない。
絶対に。
「それでは、出発しましょう」
勇者が、剣を掲げた。
「今日も、順調に進みましょう」
みんなが、準備を始める。
わたしは——
まだ顔が赤いまま、ナミギリに体を預けた。
『姫様……昨夜は大変でしたな』
(うるさい! 何も言わないで!)
『承知いたしました』
ナミギリの声に、わずかな笑いが含まれている気がした。
(もう……!)
わたしは、脳内で頭を抱えた。
恥ずかしい。
本当に、恥ずかしい。
でも——
アウレリアの温かさだけは、はっきり覚えている。
あの安心感。
優しい声。
温かい手。
(……アウレリア、ありがとう)
そう思いながら——
(もう! とにかく今日は寝る!)
わたしは、頭の奥へと引きこもった。
今日もナミギリにすべてを任せる。
でも——
心の奥で、ふと思った。
(もっと……アウレリアと、話したいな)
昼間も、夜みたいに話せたらいいのに。
そんなことを思いながら——
わたしは、意識の奥へと沈んでいった。