努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~ 作:エレティムさん
希望の惰眠プロジェクト第一号、爆誕だっーーー!!!
これで、すべての面倒ごとはナミギリに任せられる。
最高の惰眠ライフが、始まる。
……始まるよね?
「ねえねえ、ナミギリって本当に強いの?」
思わず聞いた。
『……それを確かめたいと?』
「うん! ちょっと見てみたい!」
『では……ちょうどよい相手がおります』
「え、ほんと? どこ?」
『王都の外れ。今、悪魔が暴れているようです』
窓の外を見た。
まだ、雨が降り続いている。
窓から見ただけではわからないけど、悪魔なんているのかな?
少し歩く。
王都の外れ、路地裏。
ザーザー、ザーザー、ザーザーと、雨が激しく降り続いていた。
「うわ、すごい雨……」
傘を差しながら、現場に到着した。
そして――目の前の光景に、目を見開いた。
「あ、あれ? なんかすごいことになってない?」
逃げ惑う市民たち。
倒れている人々。
破壊された建物。
そして、その中心に――
「ハハハハハ! 剣鬼が滅ぶ時を待っていたんだ!」
巨大な悪魔が、哄笑しながら叫んでいた。
「剣鬼が死んだ! もう誰も我を止められぬ! ようやく自由に暴れられる! この世は我のものだ――」
悪魔の体は巨大で、禍々しいオーラを纏っている。
人々を嬲るように攻撃し、破壊を楽しんでいる。
「くっ……!」
その悪魔に、一人の青年が立ち向かっていた。
見覚えはないけど、わたしと同じ学園の制服を着ている。
(あ、学園の人だ……)
少年は、剣を構えて必死に戦っている。
「早く逃げろ! 俺が食い止める!」
少年の剣が悪魔に届く前に、弾かれた。
「ぐあっ!」
悪魔の一撃がガイルを吹き飛ばし、地面に叩きつけられる。
血を吐き、膝をつく。
「ちくしょう……学園最強の俺が、こんな……!」
少年が再び立ち上がろうとするが、体が動かない。
悪魔が、ゆっくりとガイルに近づく。
「小僧、なかなか楽しませてくれたが――もう終わりだ」
市民たちは震え上がっていた。
「誰か……誰か助けて……もう終わりだ……」
雨が、冷たく降り続ける。
わたしは、傘を差したまま、のんびりと呟いた。
「あ、あれが悪魔? なんか……でかいね」
『姫様、よい訓練相手ですな』
ナミギリの声が、脳内に響いた。
「え、あれと戦うの? やっぱり逃げた方がいいんじゃない?」
『姫様、ご心配には及びません。すぐに終わります』
「えー、ほんとに大丈夫?」
『ええ、この程度の悪魔、無傷で勝って御覧に入れましょう。身体を預けていただければ』
「えっと、じゃあ、すごいところ見せて!」
そして、ナミギリと交代する。
瞬間、悪魔と少年がこっちを向く。
「ほう――何かと思えば、なかなか、上質な乙女ではないか! これは楽しめそうだ」
悪魔の嘲笑。
そして、ガイルの叫び。
「おい! 逃げろ! お前が勝てる相手じゃない!」
でも、ナミギリは何も言わずに、悪魔の方へと進んでいく。
ナミギリは、傘を閉じた。
そして、傘を剣のように構える。
「何を……!」
少年が驚いた声を上げる。
「グハハハハハハ!!! 傘だと!? 馬鹿だ! これはとんでもない大馬鹿だ!! 我相手に、この上級悪魔である我相手に傘で立ち向かうとは!! グハ、グハハハハハハ!!」
悪魔は嗤っている。
ナミギリは、まっすぐ歩いていく。
一閃。
ナミギリの傘が、振るわれる。しかし――
――傘は弾かれるだけ。
「グハハハハハハ!! 効かん!!」
悪魔が哄笑する。
(に、逃げないと!)
しかし、ナミギリに逃げる様子はない。
連続で傘を振っていく。
だけど、ことごとく、ダメージにはならない。悪魔はただ突っ立っているだけだというのに。
傘を振ると、その触れる瞬間、その場所に小さな炎が現れる。
これが悪魔を守っているように見える。
傘をどれだけ振っても、小さな炎に守られ続ける。
「バカでも実力差を理解したんじゃないか? 我は絶対の防御を持つ! 攻撃される瞬間、一瞬で炎の障壁を具現化させる! 自動で発動してしまうのが我ながら惜しい! 小娘の攻撃など、我が異能など必要ないのだがなぁ!」
バキッ!
そして、傘が折れた。
(え!? わ、わたしのお気に入りの傘が!)
「これが、我が異能⦅|自動獄炎壁(オート・ヘル・ガイア)⦆!! グハハハハハハ!!! 絶望しろ! そして命乞いをしろ! だが、ここまで愉快なことをしてくれた礼は、たっぷりとさせてもらうぜ! 恐怖という名のな!!」
(ちょっと! 何、ぼさっと突っ立ってるの!? ナミギリ! 早く全力で逃げて!!)
「姫様、ご心配には及びませぬ。今の"鍛錬"で、おおよその勘は取り戻しました」
なぜか、ナミギリの声は、落ち着いていた。
次の瞬間、少年の目の前にいた。
「少々、剣を拝借いたします」
「え?」
少年から剣を借りる。
ナミギリは、剣を構えた。
空気が、変わった気がした。
「な……なんだ、この気配……」
悪魔が、初めて警戒の色を見せる。
そして――
一閃。
音もなく。
「ごふっ!?」
悪魔の口から、血が吹き出した。
「ば、バカな!? 我が異能が発動しないだと!? これは剣鬼にしかできぬはず!」
腹部に、深い傷が刻まれている。
ナミギリは、何も言わず、再び剣を振るった。
二撃。
三撃。
流れるように。
悪魔の異能、炎の障壁は生まれない。
ただ悪魔に傷を与えていく。
「ふむ、思ったより早く感覚が合ってきましたな。やはりこの者は、鍛錬にちょうど良い」
ナミギリが、静かに呟いた。
「き、貴様……まさか……!」
悪魔の顔が、恐怖に歪む。
「その剣筋……ナミギリ……!? いや、貴様は確かに死んだはず……! もうお前の魔力は世界のどこからも感じない!! ならばお前は何なんだ!!!」
「ふむ、わしが何かとな……」
ナミギリが、静かに言った。
「今のわしは、ナミギリではない。ただ姫様を守る騎士。姫様にもう一度剣を振る機会を与えていただいた。その恩に報いるために剣を振るう忠義の騎士」
四撃。
悪魔から血が噴き出す。
「グアアアアアアッ!? し、死ぬ! 殺される!!」
悪魔が、恐怖に駆られて逃げ出した。
突如、空間が裂けた。
悪魔はその空間に逃げ込んでいく。
でも――
――ナミギリは、動じなかった。
ゆっくりと、剣を構える。
「体が動かぬとも、頭の中ではずっと描いておった。その逃げ技の対処法を」
剣を振り上げる。
「この技が完成した頃には、お前はわしの前に現れなくなった。だから披露する機会がついぞ訪れなかった」
悪魔は、すでに空間の裂け目の中に逃げ、姿が見えなくなっていた。
「斬霧流奥義、虚空の太刀《|朧一文字(おぼろいちもんじ)》――」
――剣が、すべてを斬り裂いた。
一刀両断。
世界も、空も。
亜空間に逃げた悪魔ごと、何もかも。
「グアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
絶叫。
そして、何もない空間から、両断された悪魔が現れた。
明らかに致命傷だった。
「ば、バカなっ……!! 我が秘奥が!! あの剣鬼からも逃げ延びたこの技が、こんな小娘相手に破られるだと……」
そして、悪魔の体が崩れ落ちた。
日が差し込んできた。
分厚い雨雲が割れていた。
その一閃は、空まで届いていた。
重い雲が、真っ二つに裂けていく。
雨が、止んだ。
割れた雲の向こうから、光が差し込む。
(勝った?)
「ええ、姫様。悪魔は死にました。どうでしょうか、姫様の期待に沿えましたでしょうか?」
雨上がり、きらきらした世界で、わたしは自分の体を動かしてみる。
「うわっ」
剣が意外と重くて、落としてしまった。
わたしじゃ剣を満足に振ることすらできないのだろう。でも――
「――わたしの体が、悪魔を倒したんだよね?」
『ええ、もちろんです』
「そっか……」
悪魔。それも上級悪魔なんて、わたしでも無茶苦茶強いってことくらいは分かる。
それを無傷で倒しちゃった。
なんというか現実感がなかった。
それは、景色も。
ナミギリの一刀で、空が割れていた。
青い空が、帯のようだ。雨は止み、虹が生まれていた。日が差し込む。世界がきらめく。
なんて幻想的な光景なんだろう。
そして――
「――あ! 虹が降りてきた!」
虹が生まれたとき、稀に発生する現象。
空から虹が降る――通称、虹降り。
激レア現象きちゃああああああ!!!!!!
「きっと世界も祝福しているんだよっ!!」
わたしは虹に駆け出す。
降りてきた虹に一番乗りだ!
虹の光が、体を包む。
それは極上のベッド。
ふわふわと、まるで極上のベッドに沈むような感覚。
「やるじゃん、ナミギリ!! これ、最高に気持ちいい……」
あくびをする。
やっと分かった。ナミギリは現実で、今ここで眠るわたしも現実だって。
最高の現実が、最高の惰眠生活が始まるって。
「……うん、じゃあ、寝るね」
そのまま、虹の光の上で、まぶたを閉じる。
虹がクッションのように、優しく支える。
あ、これは簡単に眠れそうだ。今日はいろいろあったし、身体も疲れていたんだと思う。
「虹が……降ってきた……」
「助かった……のか?」
「勝った! 悪魔に勝ったぞ!」
「あの若者が……!」
「いや、あの少女も……!」
「二人で協力したのか……?」
「俺の目には少女が倒したように見えたぞ!」
市民たちの声が遠くで聞こえた。
「君は一体――」
この声は、さっきの少年?
(ん? なんか言った気がするけど……)
意識が、遠のいていく。
『姫様……ありがとうございます』
ナミギリの声が、優しく響いた。
『久しぶりに、剣を振れました』
わたしはまどろみに身を任せて、眠りにつくのだった。