努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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5.最強

 

 希望の惰眠プロジェクト第一号、爆誕だっーーー!!!

 

 これで、すべての面倒ごとはナミギリに任せられる。

 最高の惰眠ライフが、始まる。

 

 ……始まるよね?

 

「ねえねえ、ナミギリって本当に強いの?」

 

 思わず聞いた。

 

『……それを確かめたいと?』

 

「うん! ちょっと見てみたい!」

 

『では……ちょうどよい相手がおります』

 

「え、ほんと? どこ?」

 

『王都の外れ。今、悪魔が暴れているようです』

 

 窓の外を見た。

 まだ、雨が降り続いている。

 

 窓から見ただけではわからないけど、悪魔なんているのかな?

 

 

 

 

 少し歩く。

 

 王都の外れ、路地裏。

 ザーザー、ザーザー、ザーザーと、雨が激しく降り続いていた。

 

「うわ、すごい雨……」

 

 傘を差しながら、現場に到着した。

 そして――目の前の光景に、目を見開いた。

 

「あ、あれ? なんかすごいことになってない?」

 

 逃げ惑う市民たち。

 倒れている人々。

 破壊された建物。

 

 そして、その中心に――

 

「ハハハハハ! 剣鬼が滅ぶ時を待っていたんだ!」

 

 巨大な悪魔が、哄笑しながら叫んでいた。

 

「剣鬼が死んだ! もう誰も我を止められぬ! ようやく自由に暴れられる! この世は我のものだ――」

 

 悪魔の体は巨大で、禍々しいオーラを纏っている。

 人々を嬲るように攻撃し、破壊を楽しんでいる。

 

「くっ……!」

 

 その悪魔に、一人の青年が立ち向かっていた。

 見覚えはないけど、わたしと同じ学園の制服を着ている。

 

(あ、学園の人だ……)

 

 少年は、剣を構えて必死に戦っている。

 

「早く逃げろ! 俺が食い止める!」

 

 少年の剣が悪魔に届く前に、弾かれた。

 

「ぐあっ!」

 

 悪魔の一撃がガイルを吹き飛ばし、地面に叩きつけられる。

 血を吐き、膝をつく。

 

「ちくしょう……学園最強の俺が、こんな……!」

 

 少年が再び立ち上がろうとするが、体が動かない。

 

 悪魔が、ゆっくりとガイルに近づく。

 

「小僧、なかなか楽しませてくれたが――もう終わりだ」

 

 市民たちは震え上がっていた。

 

「誰か……誰か助けて……もう終わりだ……」

 

 雨が、冷たく降り続ける。

 

 わたしは、傘を差したまま、のんびりと呟いた。

 

「あ、あれが悪魔? なんか……でかいね」

 

『姫様、よい訓練相手ですな』

 

 ナミギリの声が、脳内に響いた。

 

「え、あれと戦うの? やっぱり逃げた方がいいんじゃない?」

 

『姫様、ご心配には及びません。すぐに終わります』

 

「えー、ほんとに大丈夫?」

 

 

『ええ、この程度の悪魔、無傷で勝って御覧に入れましょう。身体を預けていただければ』

 

 

「えっと、じゃあ、すごいところ見せて!」

 

 そして、ナミギリと交代する。

 

 瞬間、悪魔と少年がこっちを向く。

 

「ほう――何かと思えば、なかなか、上質な乙女ではないか! これは楽しめそうだ」

 

 悪魔の嘲笑。

 そして、ガイルの叫び。

 

「おい! 逃げろ! お前が勝てる相手じゃない!」

 

 でも、ナミギリは何も言わずに、悪魔の方へと進んでいく。

 

 ナミギリは、傘を閉じた。

 そして、傘を剣のように構える。

 

「何を……!」

 

 少年が驚いた声を上げる。

 

「グハハハハハハ!!! 傘だと!? 馬鹿だ! これはとんでもない大馬鹿だ!! 我相手に、この上級悪魔である我相手に傘で立ち向かうとは!! グハ、グハハハハハハ!!」

 

 悪魔は嗤っている。

 

 ナミギリは、まっすぐ歩いていく。

 

 一閃。

 ナミギリの傘が、振るわれる。しかし――

 

 

 

 

――傘は弾かれるだけ。

 

「グハハハハハハ!! 効かん!!」

 

 悪魔が哄笑する。

 

(に、逃げないと!)

 

 しかし、ナミギリに逃げる様子はない。

 

 連続で傘を振っていく。

 だけど、ことごとく、ダメージにはならない。悪魔はただ突っ立っているだけだというのに。

 

 傘を振ると、その触れる瞬間、その場所に小さな炎が現れる。

 これが悪魔を守っているように見える。

 傘をどれだけ振っても、小さな炎に守られ続ける。

 

「バカでも実力差を理解したんじゃないか? 我は絶対の防御を持つ! 攻撃される瞬間、一瞬で炎の障壁を具現化させる! 自動で発動してしまうのが我ながら惜しい! 小娘の攻撃など、我が異能など必要ないのだがなぁ!」

 

 バキッ!

 そして、傘が折れた。

 

(え!? わ、わたしのお気に入りの傘が!)

 

「これが、我が異能⦅|自動獄炎壁(オート・ヘル・ガイア)⦆!! グハハハハハハ!!! 絶望しろ! そして命乞いをしろ! だが、ここまで愉快なことをしてくれた礼は、たっぷりとさせてもらうぜ! 恐怖という名のな!!」

 

(ちょっと! 何、ぼさっと突っ立ってるの!? ナミギリ! 早く全力で逃げて!!)

 

「姫様、ご心配には及びませぬ。今の"鍛錬"で、おおよその勘は取り戻しました」

 

 なぜか、ナミギリの声は、落ち着いていた。

 

 次の瞬間、少年の目の前にいた。

 

「少々、剣を拝借いたします」

 

「え?」

 

 少年から剣を借りる。

 

 ナミギリは、剣を構えた。

 空気が、変わった気がした。

 

「な……なんだ、この気配……」

 

 悪魔が、初めて警戒の色を見せる。

 そして――

 

 

 

 一閃。

 音もなく。

 

「ごふっ!?」

 

 悪魔の口から、血が吹き出した。

 

「ば、バカな!? 我が異能が発動しないだと!? これは剣鬼にしかできぬはず!」

 

 腹部に、深い傷が刻まれている。

 

 ナミギリは、何も言わず、再び剣を振るった。

 

 二撃。

 三撃。

 流れるように。

 

 悪魔の異能、炎の障壁は生まれない。

 ただ悪魔に傷を与えていく。

 

「ふむ、思ったより早く感覚が合ってきましたな。やはりこの者は、鍛錬にちょうど良い」

 

 ナミギリが、静かに呟いた。

 

「き、貴様……まさか……!」

 

 悪魔の顔が、恐怖に歪む。

 

「その剣筋……ナミギリ……!? いや、貴様は確かに死んだはず……! もうお前の魔力は世界のどこからも感じない!! ならばお前は何なんだ!!!」

 

「ふむ、わしが何かとな……」

 

 ナミギリが、静かに言った。

 

「今のわしは、ナミギリではない。ただ姫様を守る騎士。姫様にもう一度剣を振る機会を与えていただいた。その恩に報いるために剣を振るう忠義の騎士」

 

 四撃。

 悪魔から血が噴き出す。

 

「グアアアアアアッ!? し、死ぬ! 殺される!!」

 

 悪魔が、恐怖に駆られて逃げ出した。

 

 突如、空間が裂けた。

 悪魔はその空間に逃げ込んでいく。

 

 でも――

 

 

 

――ナミギリは、動じなかった。

 ゆっくりと、剣を構える。

 

「体が動かぬとも、頭の中ではずっと描いておった。その逃げ技の対処法を」

 

 剣を振り上げる。

 

「この技が完成した頃には、お前はわしの前に現れなくなった。だから披露する機会がついぞ訪れなかった」

 

 悪魔は、すでに空間の裂け目の中に逃げ、姿が見えなくなっていた。

 

「斬霧流奥義、虚空の太刀《|朧一文字(おぼろいちもんじ)》――」

 

 

 

――剣が、すべてを斬り裂いた。

 

 一刀両断。

 世界も、空も。

 亜空間に逃げた悪魔ごと、何もかも。

 

「グアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 絶叫。

 そして、何もない空間から、両断された悪魔が現れた。

 

 明らかに致命傷だった。

 

「ば、バカなっ……!! 我が秘奥が!! あの剣鬼からも逃げ延びたこの技が、こんな小娘相手に破られるだと……」

 

 そして、悪魔の体が崩れ落ちた。

 

 日が差し込んできた。

 分厚い雨雲が割れていた。

 

 その一閃は、空まで届いていた。

 重い雲が、真っ二つに裂けていく。

 雨が、止んだ。

 割れた雲の向こうから、光が差し込む。

 

(勝った?)

 

「ええ、姫様。悪魔は死にました。どうでしょうか、姫様の期待に沿えましたでしょうか?」

 

 雨上がり、きらきらした世界で、わたしは自分の体を動かしてみる。

 

「うわっ」

 

 剣が意外と重くて、落としてしまった。

 わたしじゃ剣を満足に振ることすらできないのだろう。でも――

 

 

 

「――わたしの体が、悪魔を倒したんだよね?」

 

『ええ、もちろんです』

 

「そっか……」

 

 悪魔。それも上級悪魔なんて、わたしでも無茶苦茶強いってことくらいは分かる。

 それを無傷で倒しちゃった。

 

 なんというか現実感がなかった。

 

 それは、景色も。

 

 ナミギリの一刀で、空が割れていた。

 青い空が、帯のようだ。雨は止み、虹が生まれていた。日が差し込む。世界がきらめく。

 なんて幻想的な光景なんだろう。

 

 そして――

 

 

 

「――あ! 虹が降りてきた!」

 

 虹が生まれたとき、稀に発生する現象。

 空から虹が降る――通称、虹降り。

 

 激レア現象きちゃああああああ!!!!!!

 

「きっと世界も祝福しているんだよっ!!」

 

 わたしは虹に駆け出す。

 

 降りてきた虹に一番乗りだ!

 虹の光が、体を包む。

 それは極上のベッド。

 ふわふわと、まるで極上のベッドに沈むような感覚。

 

「やるじゃん、ナミギリ!! これ、最高に気持ちいい……」

 

 あくびをする。

 やっと分かった。ナミギリは現実で、今ここで眠るわたしも現実だって。

 

 最高の現実が、最高の惰眠生活が始まるって。

 

「……うん、じゃあ、寝るね」

 

 そのまま、虹の光の上で、まぶたを閉じる。

 虹がクッションのように、優しく支える。

 

 あ、これは簡単に眠れそうだ。今日はいろいろあったし、身体も疲れていたんだと思う。

 

「虹が……降ってきた……」

「助かった……のか?」

「勝った! 悪魔に勝ったぞ!」

「あの若者が……!」

「いや、あの少女も……!」

「二人で協力したのか……?」

「俺の目には少女が倒したように見えたぞ!」

 

 市民たちの声が遠くで聞こえた。

 

「君は一体――」

 

 この声は、さっきの少年?

 

(ん? なんか言った気がするけど……)

 

 意識が、遠のいていく。

 

『姫様……ありがとうございます』

 

 ナミギリの声が、優しく響いた。

 

『久しぶりに、剣を振れました』

 

 わたしはまどろみに身を任せて、眠りにつくのだった。

 

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