努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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6.学園最強

 

 虹の上で眠りに落ちてから、どれくらい経ったのだろう。

 

 ゆっくりと目を開けると、見慣れた自室の天井があった。

 

「……ん、よく寝た」

 

 体を起こして、大きく伸びをする。

 窓の外からは、鳥のさえずりが聞こえてくる。

 

「あれ? わたし、いつの間に部屋に戻ってきたんだっけ?」

 

『メイドが運んでくださいました。姫様は虹の上で、そのまま眠り続けておられましたので』

 

「そっか。ナミギリ、ありがとね」

 

『いえ、むしろわしこそ、感謝を』

 

 ベッドから降りて、窓を開ける。

 爽やかな風が部屋に入ってきた。

 

『それで、姫様。どうでしょうか……?』

 

「え、何が?」

 

『わしの力が見たいと言っていたでしょう』

 

「あ~」

 

 確かに。

 悪魔戦のきっかけは、ナミギリの強さを確認したかったからだったね。

 

 そして、結果は――

 

「――もちろん、文句ないよ!」

 

『ありがたき幸せ』

 

「むしろ、わたしの体はどうだった?」

 

『素晴らしいの一言に尽きますな。若さというのはこれほど良いものだったとは……』

 

「ならよかったよ。それじゃあ、契約通り、わたしに忠義を尽くしてくれるってことでいい?」

 

『ええ、この剣鬼ナミギリ、一生姫様に忠義を誓います』

 

 うんうん。

 

「これでわたしの人生は安泰だね!」

 

 窓から差し込む日差しは、温かかった。

 

 すごくいいお天気。

 お昼寝日和だ。

 わたしは、本能に任せるまま、お昼寝タイムとしゃれこむのだった。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 次の日。

 

 目が覚めると、地獄が始まった。

 

「――っ!?」

 

 体を動かそうとした瞬間、全身に鈍い痛みが走った。

 

「い、痛い……!? 何これ!?」

 

 脚が、腕が、背中が、全身が悲鳴を上げている。

 

『姫様、これは筋肉痛というものでして』

 

「筋肉痛!? なんで!? わたし、何もしてないのに!?」

 

『奥義を使用した反動かと。姫様の体は、まだあの動きに耐えられる筋力がございませんでした』

 

「うそでしょ……感覚遮断してたのに!?」

 

『姫様とわしは同じ体を共有しています。つまり、筋肉痛も共有するのです』

 

「そんな……」

 

 その日から、わたしは地獄を見た。

 

 寝返りを打つだけで激痛。あくびをしただけで全身が痛む。くしゃみなんてしたら泣きそうになった。

 

 最悪だった。

 

 そして5日目。ようやく動けるようになったとき、ナミギリが提案してきた。

 

『姫様。このままでは、剣を振るたびに筋肉痛に苦しむことになります』

 

「……それは、嫌だ」

 

『ならば、鍛錬を。基礎体力をつければ、このような事態は防げます』

 

「でも、鍛錬って……めんどくさい」

 

『もちろん、鍛錬はわしが行います。姫様は感覚を切って、お休みになっていればよいのです』

 

「……それなら」

 

 毎日ちょっとだけ、ナミギリの鍛錬する時間を作ることにした。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 王宮の庭園。

 

 木刀を振るう"わたしの身体"を、わたしはぼんやりと眺めていた。動かしているのは、ナミギリ。

 

「……ありがたき幸せ。この老いぼれが、また刀を振れるとは……しかも日常的に」

 

 声は感極まっていた。木刀は鋭く風を裂く。

 

 剣の軌跡は、素人のわたしでも美しいと思えるものだった。

 でも、ナミギリ曰く、頭の中のイメージの半分も出せていないらしい。体作りが必要とかなんとか。まあ、わたしは剣なんてほとんど振ったことないしね。

 

「ああ、身に沁みます。剣を振れるだけで、こんなにも……」

 

(はいはい、感激してるとこ悪いけど、素振りは任せたからね。わたしは脳内でお昼寝するから〜)

 

「承知いたしました」

 

(あ、今は誰もいないけど、会話は脳内限定で。外に聞こえたら色々めんどいから。基本ナミギリは喋らなくていいよ、剣だけ振ってて)

 

『……ええ、脳内でのやりとり、精進いたします』

 

 ナミギリの声が脳内に響いた。

 

 肉体は黙々と素振りを続ける。

 わたしは感覚をスッと引いて、脳内で大あくび。

 

(あ〜……感覚切っとくとマジで楽。惰眠設計にこんな機能ついてたとか、わたし天才すぎ。ノーベル惰眠賞があったら受賞確定だよね)

 

 どれだけナミギリの素振りが大変だとしても、その感覚を切ってしまえば、関係がない。

 ノイズとなる感覚は切って、脳内でお昼寝することにした。

 

 外の世界では、木刀が風を裂く音が一定のリズムで刻まれていた。

 

 内側では、わたしは気持ちよく眠りにつくのだった。

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 それから数日が経った。

 

 学園。昼下がりの教室。

 

 わたしは机に突っ伏して寝ていた。

 授業を受ける気なんてゼロ。

 カーテン越しの陽だまり、まぶたの裏に金の粒がちらちら漂って、眠気がきもちいい。

 

「おい、また寝てるぞ」

「久しぶりに戻ってきたのに、何も変わってねぇな」

「でも聞いたか? 例の悪魔退治の話」

「ああ、ガイルが倒したんだろ?」

「いや、目撃者の話だと、白銀の髪の少女が倒したって」

「白銀の髪……一体誰なんだ」

 

 ひそひそ声が聞こえてくる。

 

「ネム様……なわけないか」

「寝ることで有名なお方だぞ?」

「少女の正体は分からないが、もしかしたらガイルと協力して倒したのかもな」

 

 わたしは机に顔を埋めたまま、むにゃむにゃと寝返りを打つ。

 

(……なんか、噂になってる?)

 

『ええ、どうやら姫様の武勇が知れ渡っているようで』

 

(めんどくさ……わたし、虹で寝てただけなのに)

 

 と思っていたら。

 

「――ネメシア殿下」

 

 突然、声をかけられた。

 

 顔を上げると、見覚えのある少年が立っていた。

 整った顔立ち、真っすぐな瞳。学園の制服をきちんと着こなしている。

 

「あ、えっと……」

 

「俺は、ガイル・ロードナイトだ。実は、国王陛下から頼まれてさ」

 

「え? パパが?」

 

 ガイルは少し気まずそうに視線を逸らした。

 

「ああ。殿下に、剣の基礎を教えてほしいって」

 

 その時、確信する。

 

(……あ、これパパの嫌がらせだ)

 

 同時に、脳裏に国王の顔が浮かんだ。

 ――ポンコツネムがっ!

 

「いらないよ……そんな面倒なことすると思う?」

 

「でも、国王陛下の命令だし――」

 

「いらないって言ってるでしょ!」

 

 ガイルは困ったように眉を下げる。

 

「はぁ……国王陛下の言った通りだ」

 

「え?」

 

「毎日寝てばかりの『ポンコツ娘』だって聞いてたけど、本当なんだな」

 

「……なに?」

 

 それは禁句だ。怒るよ?

 

「まあ、だから俺が呼ばれたんだろうけど」

 

 ガイルは少し考えるように腕を組んだ。

 

「とりあえず、まず基本からだな。言っておくけど、この世は努力だ」

 

「……」

 

「どれだけ努力するかで、すべてが決まる。才能がなくても、努力で補える」

 

「……そんなことないし、話が終わったんならどっか行って」

 

「終わってないだろ。これからが本番なんだよ」

 

 ガイルの声が、少しだけ熱を帯びる。

 

「俺も才能があるわけじゃない。でも学園最強って呼ばれてる。なぜだと思う?」

 

「学園最強? 知らないけど」

 

(……あれ? この人、どこかで)

 

『姫様、あの日の悪魔と戦っていた少年かと』

 

(あ! そうだ!)

 

 目の前の少年を見つめる。

 確かに、あの日の少年に似ている。

 

「……もしかして、悪魔と戦ってた?」

 

 ガイルの目が、僅かに見開かれた。

 

「……ああ。先日、上級悪魔に遭遇してさ」

 

 そして、ガイルの表情が変わる。

 

「そのとき、白銀の髪の剣士に助けられたんだ」

 

「白銀の髪……」

 

「そう。女性だった。あの剣技は、まるで剣鬼様みたいで……」

 

 ガイルの目が、遠くを見つめる。

 

「俺、あの人に憧れてる。いつか追いつきたいんだ」

 

(……え、わたしのこと?)

 

『どうやら、姫様とは気づいていないようですな』

 

(そりゃそうだよね。わたし、寝てただけだし)

 

「まあ、殿下も白銀の髪だけど――いや、違うな」

 

 ガイルは首を振った。

 

「あの剣士は、凛々しくて、強くて、美しかった。君とは……その、全然違うタイプっていうか」

 

(……なんか、ちょっとムカつく)

 

『姫様、落ち着いて』

 

「話を戻すけどさ」

 

 ガイルは真剣な目でネムを見つめた。

 

「俺が学園最強なのは、努力してるから。ただそれだけなんだ」

 

「努力……」

 

「ああ。睡眠時間を削って、朝早くから夜遅くまで鍛錬する。それが、俺の強さの秘訣だ」

 

「あのね、ガイル」

 

 わたしは、大きなあくびをしながら遮った。

 

「わたし、努力とか興味ないから。それに、睡眠時間を削るとか、人生の損失だし」

 

「は? 人生の……損失?」

 

 ガイルが呆然とした表情を浮かべる。

 

「うん。寝る時間削るとか、ありえないでしょ。睡眠は人生で一番大事なんだから」

 

「で、でも――」

 

「努力すれば誰でも強くなれるとか言ってたけど、わたしには関係ないし。そういうの、めんどくさいから」

 

「めんどくさい……!?」

 

 ガイルは信じられないという顔をしている。

 

「もういい。わたし、寝るから」

 

 わたしは、机に顔を伏せた。

 

「ま、待ってくれ! 少しでいいから話を――」

 

「zzz……」

 

 即、寝た。

 

「……そっか。変わった人だな」

 

 ガイルは小さくため息をついて、教室を出ていった。

 

 足音が遠ざかっていく。

 

(はぁ〜、めんどくさい人来ちゃった……)

 

『姫様、あの少年は真面目ですな』

 

(真面目すぎて疲れるタイプだよね。わたしとは正反対〜)

 

『努力、努力と……少々暑苦しい印象を受けました』

 

(でしょ? 睡眠時間削るとか、正気じゃないよ)

 

 わたしは、まどろみの中へと落ちていった。

 

 今日も平和な、惰眠ライフ。

 

 カーテン越しの陽射しが、とても心地よかった。

 

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