努力アウトソーシング ~寝てるだけの最強姫、起きたら世界救ってた~   作:エレティムさん

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8.惰眠の成果

 

 わたしことネムは、いつもどおり机に突っ伏し、特等席である窓際のカーテン越しの陽射しを枕にしていた。

 

 至高の昼寝タイム。

 わたしにとって授業なんて、最高の寝心地を楽しむためのBGMでしかない。

 

――が。

 

「ネム姫!」

 

 またガイルだ。

 最近、やたらと話しかけてくる。

 

「今日も美しい! その佇まい――剣を極めた者だけが持つ風格だ!」

 

「はいはい、うっとおしい~」

 

 わたしは片手をひらひらと適当にあしらい、再び机に顔を伏せた。

 

「頼む! もう一度、あの剣技を見せてくれ! 俺は毎日、ネム姫の剣を思い出しながら鍛錬してるんだ!」

 

(知らんがな)

 

「朝は五時から走り込み! ネム姫のような身のこなしを目指して! 夜は素振り千本! ネム姫の剣筋を再現しようと! でも……どうしても足りない!」

 

「へー、すごいね。がんばって」

 

(興味ない)

 

「興味ないって顔してるな! でも構わない! 俺はネム姫を理解するために、全力で研究する!」

 

 周囲のクラスメイトたちの、ヒソヒソ声。

 

「またガイルじゃん」

「毎日じゃない? 朝も昼も放課後も」

「完全に信者でしょ」

「ネム様の行動、ずっと目で追ってるよね」

「食堂行ったら、ガイルも食堂にいたし」

「あれはもう恋では?」

 

「信者じゃない! 尊敬してるだけだ!」

 

 ガイルが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「信者じゃなかったら、ストーカー?」

「わかる、ちょっと怖いよね」

「もう嫌われてるんじゃない?」

「尊敬と言うより、余計……」

 

「違う! ネム姫の完璧な技を理解したいだけだ! 殿下がいつ、どうやって鍛錬しているのか――」

 

「うるさい……」

 

 わたしは深々とため息をついた。

 

(はぁ……昼寝の邪魔されるのが、この世界で一番の大罪なんだよね。マジで)

 

 そのとき、女子グループの会話が耳に入った。

 

「……ねぇ、なんか最近のネム様、雰囲気違わない?」

「わかる! 前より姿勢いいっていうか、背筋がすっと伸びてて……」

「なんかスタイル爆上がりしてない?」

「姿勢もだけど、スカートから伸びる足も違う」

「努力してるのかな……? でもそんな姿、見たことないよね」

「あれじゃない? 毎日素振りしてるらしいじゃん?」

 

 わたしは机に突っ伏したまま、半目でため息。

 

(なにが"努力"よ。してないし)

 

 でも、そう言われて気になって、トイレついでに鏡を覗いてみた。

 

 鏡に映る姿は、思わず二度見してしまうほど。

 

 制服のスカートから伸びる足は、以前よりスラリとして、無駄な肉が一切ない。

 腰のラインもキュッとくびれて、制服のブラウスが綺麗にウエストに沿っている。

 二の腕も、ぷよっとしてたのが見事にスッキリ!

 

「あれ? わたし、さらに美しくなっちゃってる!?」

 

 勘違いではない気がする。

 

 お付きのメイドに声をかける。

 

「ねぇ? わたしってさらに美少女に磨きがかかっちゃってる?」

 

「え? ええ、ネム様。以前より、美しくなっているのは間違いないかと」

 

「ふふん! やっぱりそうなんだ!」

 

 鏡に映るわたしは、何度見ても美しい。

 

 いや、前から美しかったけどね? さらに磨きがかかったみたい。

 

「寝てただけなのに……可愛さレベル上がってない!? やっぱり惰眠効果すごすぎ! 世界最強の美容法認定!」

 

 脳内で、ナミギリの声。

 

『姫様、当然の結果です。日々の素振り八千、型合わせ二百、歩法三十往復――筋肉は正直に応えております』

 

(数字はいいから。でもナミギリの鍛錬のおかげだよね?)

 

『はい、鍛錬の成果は確実に出ております。そして、努力の積み重ねが、剣を鍛えるのです』

 

 ぜい肉がなくなったお腹をさする。

 

 ……いや別に最初から全然なかったけどね? ちょこ~っと、ほんのちょこ~っとだけあったぜい肉が、なくなっていた。

 

(……つまり――努力ゼロで超絶美少女! こんな効果もあるなんて、わたしってばやっぱ天才すぎるね!)

 

『……姫様、それはわしの努力の成果でもあるのですが』

 

(ナミギリの努力は、イコール、わたしの努力なんだから!)

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 そんな感じで【惰眠=努力】という至高の日常を過ごしていたら、また王宮に呼び出された。

 

「……ネム」

 

 クソジジイこと、国王ベルトナーガは、冷たい目でわたしを見下ろしていた。

 

「S評価を取ったそうだな。意外だ」

 

「でしょー? ほら、見直した?」

 

「……確かに、少し姿勢や体つきは整ったようだな」

 

「でしょでしょ! やっぱり惰眠効果が――」

 

「王都での悪魔討伐も、噂では聞いている。だが、あれはガイルという学園の優秀な剣士の協力があったのだろう」

 

「え? 違うけど」

 

「だが、それは実績ではない」

 

 国王は続ける。

 

「学園でのS評価も同様だ。ガイルと手合わせをしたと聞いたが、あの者が手加減したか、あるいは何らかの取引があったのだろう」

 

「はぁ!? そんなわけないじゃん!」

 

「ネムが本当の努力をするわけがない。だからこそ噂は信じられん」

 

(……このジジイ、全部ガイルの手柄だと思ってる!?)

 

『姫様、落ち着いて』

 

(落ち着けるか! ナミギリが倒したのに! つまり、わたしが倒したのに!)

 

「買収に、いくら使ったのかは知らんが、小遣いもなしだな」

 

「はぁ!? 買収ってなにそれ! こっちは不正なんて一切なく、勝ったのに!」

 

「ほう? ガイルという優秀な若者を利用したわけではないと?」

 

「そう言ってんじゃん!!」

 

 ……マジでムカつく。

 

「剣の道を歩むというのなら、剣技大会に出場し、実績を残してみせよ。ガイルの協力なしに、な。それができぬなら、潔く学業に励め」

 

「……大会!? めんどくさ……」

 

 わたしは腕を組んで、じとっとにらみ返した。

 

 なんでそんなこと、しないといけないのよ?

 

『しかし、姫様。物は考えようですぞ』

 

 ナミギリが脳内で静かに話す。

 

(というと?)

 

『王様は、姫様の剣技を信じておられぬ様子。しかし、わしの力があれば、剣術大会に出場して実績を残すことなど容易い。見返すきっかけになるのでは?』

 

 ナミギリの言葉で、1つひらめいた。

 

「ふっふっふ」

 

「……ネムよ、どうしたのだ?」

 

「出てあげるよ! でも、条件付き!」

 

「条件?」

 

「もし剣術大会に出場して、実績を残したら――」

 

 わたしは指を突きつけて叫ぶ。

 

「今後わたしに口出ししないこと! それと……この前わたしに『ポンコツ』って言ったでしょ? ちゃんと謝れ!」

 

「なに……?」

 

「謝れ、じじい!」

 

 空気が凍った。

 

 大臣たちは青ざめ、近衛兵は石像みたいに固まっている。

 

 国王は深く息を吐き、低く言った。

 

「……よかろう。だが、実績を残したと、予選一回戦を突破しただけで主張されても敵わん。そうだな――もしベスト4に入れば謝罪し、以降は口出しせぬことを約束しよう」

 

 わたしは脳内でガッツポーズ。

 

「言ったね!? じゃあもう決まり!」

 

 国王は小声でつぶやいた。

 

「……どうせそこまで行けはせぬだろうがな」

 

「ん? なんか言った?」

 

「いや……大会は王国が注目している。ここで醜態をさらせば、これまで通りとはいかぬからな」

 

(はっ、醜態? ナミギリがいれば余裕でしょ)

 

『姫様、ご期待に応えられるよう、精進いたします』

 

(うん、よろしくー)

 

 

 

...*...*...(っ˘ω˘c)zzz...*...*...

 

 

 

 帰り道。

 

 歩いていると、訓練場の片隅で、汗だくになりながらも剣を振るう少年がいた。

 あれってもしかして……あ。

 

 その少年が突然振り返ると、目が合った。

 やっぱり、例のストーカー男子ことガイルだった。

 

 ガイルはものすごい速度でわたしの目の前に駆け寄った。

 

「ネム姫! 大会に出場されると聞いたぞ!」

 

 ……え?

 情報早すぎない!? まだ夕方だよ!? どんな情報網してんのこの人……やっぱストーカー?

 

「素晴らしい! ネム姫の剣技が、王国中に知れ渡る! 俺も出場する! そして――殿下と戦えることを夢見て!」

 

「はいはい、どうぞどうぞ。努力はそっちで勝手にやってて~」

 

「もちろんだ! 俺はネム姫に追いつくために、全力で努力する! でも……」

 

 ガイルの目が、キラキラと輝く。

 

「ネム姫には敵わないことも、分かっている。あの剣技は――完璧だったから」

 

「……」

 

「だから教えてくれ! どうすれば、ネム姫のように強くなれるのか! いつ鍛錬を? どんな修行を?」

 

「してないけど?」

 

「……え?」

 

 ガイルが固まった。

 

「してない? まさか……ネム姫は、努力を隠しているのか?」

 

「隠してないし。本当にしてない」

 

「そんな……でも、あの剣技が!」

 

「知らない」

 

「なぜだ! 俺は――」

 

「うるさい。寝る邪魔」

 

 わたしは完全に背を向けた。

 

「待ってくれ! ネム姫! 俺は本気で――」

 

「興味ない」

 

 ガイルの声が、背中に響く。

 

「……ネム姫は、俺なんかに教える価値がないと思っているんだな」

 

「そうじゃなくて、本当に何もしてないの」

 

「謙遜だな! さすがネム姫! 俺も、もっと努力する!」

 

(……話、聞いてる?)

 

 脳内でナミギリが静かに口を開く。

 

『……あの少年、見込みはあるのですが、少々思い込みが激しいようで』

 

(マジでうっとおしい……)

 

『ですが、姫様。あの執念は、剣士にとって重要な資質。たとえ実力で劣っていようと、折れぬ心こそ武の礎となります』

 

(フォローいらない! こっちは騒音被害食らってるんだから!)

 

『……ですが、姫様。こちらも負けるわけにはいきません』

 

(はぁ、ナミギリが負けるわけないよね?)

 

『しかし姫様、剣技大会は連戦になります。今まで以上に体作りをしっかり行っていく必要がございます。いくら技術が優れていても、身体がついてこなければ、剣を振るうことはできませぬ』

 

(あ~……)

 

『ちなみに、本日までで素振り一万二千、型合わせ三百、歩法往復五十を終えました』

 

(別に、数字はどうでも……って、え? 一万? 多くない?)

 

『いえ、このくらいは普通ですな。むしろまだまだ足りないくらいです』

 

(そっか)

 

 わたしには剣技のことは分からない。

 

 ナミギリがそう言うのならば、きっとそうなのだろう。

 

『筋肉は嘘をつきませぬ。努力の積み重ねが確実に剣を鍛えるのです』

 

(筋肉痛は嫌だけど、ま、まぁ、お腹ぺたんこになって、さらに美しさに磨きがかかってるし? まあ、許せなくもないかな?)

 

 部屋に入ると、すぐにベッドに倒れ込む。

 

 柔らかいベッドが体を包み込んで、至福の時間が始まる。

 

(ふわぁ……やっぱりベッドが一番だよね……)

 

『姫様、本日の鍛錬はいかがいたしましょう?』

 

(あー、もう今日はいいよ。疲れたし。明日からまたよろしく)

 

『承知いたしました。では、姫様はごゆっくり』

 

(うん、おやすみ~)

 

 わたしは目を閉じて、意識を手放した。

 

 遠くで、鐘が夕刻を告げる音が聞こえた。

 

 でも、わたしにはもう関係ない。

 

 今は、ただ眠るだけ。

 

 大会のことも、ガイルのことも、ジジイのことも、面倒だったら全部ナミギリにぶん投げればいい。

 

 剣技大会がもうすぐ始まる。

 それまで、ずっと惰眠を貪ろう。

 

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