異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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2-39 FINALIST御披露目会・急

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

 (うね)るような大歓声の中、「なでなで」を強請(ねだ)る竜ヶ崎に押し倒され、尻餅を()く。アリーナの中央に立つ八人を、一千万人の観客と――上空のホログラムディスプレイに流れるコメント欄――新世界の十一億人がこれでもかというほどに賞賛していた。

 

 背後の出場者観覧席からこちらを見下ろす、俺や竜ヶ崎が予選で戦った強敵たちも、素直に俺たちを称えてくれていた。拍手と歓声はいつまでも、いつまでも鳴り止まなかった。

 

「――竜ヶ崎様もご無沙汰しております」

 

 燕尾服(えんびふく)に身を包む執事――黒崎(くろさき)影丸(かげまる)が、(うやうや)しく、寝転がりながら俺に頭を擦り寄せる竜ヶ崎に一礼した。

 

「――おォ!テメェはいつぞやの執事じゃねェかァ!」

 

「おいこら竜ヶ崎、失礼だろ……」

 

「ガッハッハ!ゴブサタだァ!ゴブサタァ!」

 

「お気になさらず、夏瀬様」

 

「――まさか竜ヶ崎ちゃんまで上がってくるとはなぁ。〈神威結社〉――やべぇじゃねーか」

 

 俺たち三人の会話に加わったのは金髪のボクサー――幕之内(まくのうち)(じょう)であった。後ろで束ねた金髪が夜風に(なび)いている。雫型のサングラスが月光を反射してキラリと輝いた。

 

「〈神威結社(ウチ)〉の竜ヶ崎は強いぞ。幕之内も軽く喰っちまうかもしれねーな」

 

「おォ!ボスがアタイに期待してんだァ!絶対(ぜってー)負けねェぞォ!」

 

「ははっ、やってみろよ。全部打ち砕いてやるぜ」

 

 尻餅を()いた姿勢のまま、闘技場――その十天観覧席の真下に設置された女神像――〈翔翼ノ女神像(セラフィム)〉を見遣(みや)る。その目の前に立つミルルンがパチンと指を鳴らすと、〈翔翼ノ女神像(セラフィム)〉は消滅した。予選も無事に終わり、役割を終えたようだ。そして、ミルルンはマイクを片手に観衆へ語り掛ける。

 

『――さあさあ!興奮冷めやらぬまま、本題に移りましょう!明日の本戦トーナメント――その組み合わせの発表です!』

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

 ――〈極皇杯〉の本戦――ここに残った八人のファイナリストがトーナメント形式で優勝を争う。場合によっては一回戦から竜ヶ崎と戦う可能性もあるが……。

 

 ミルルンの背後に巨大なホログラムディスプレイが投影される。一千万人の観衆たちもその画面に一様に注目している。

 

『――抽選はランダム!では!これが!明日の本戦トーナメントの組み合わせだっ!!』

 

 ミルルンの言葉を皮切りに、トーナメント表とデフォルメされた俺たち八人のイラストが映し出される。デフォルメされたイラストはトーナメント表の真下に横一列に並んでいる。それは――本戦トーナメントの組み合わせを表していた。

 

『――一回戦第一試合!海酸漿(うみほおずき)雪舟(せっしゅう)vs(バーサス)|竜ヶ崎(りゅうがさき)(たつみ)ッ!!!』

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

「――おあッ!?初戦からアタイかァ!」

 

「あらあら♡ボス様に懐いちゃって可愛いわねぇ」

 

「なん……だァ!?タコ女ァ!()でて喰っちまうぞォ!」

 

「あらあら♡弱い犬ほど良く吠えるものよぉ。海の藻屑(もくず)にしてあげるわぁ♡」

 

 ――竜ヶ崎の相手は前々回王者……!これは……!

 

『――一回戦第二試合!現憑月(うつつづき)(るな)vs(バーサス)黒崎(くろさき)影丸(かげまる)ッ!!!』

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

現憑月(うつつづき)様、お手柔らかにお願いいたしますね」

 

「あぁ……鬱よ……。イケメンは嫌い……私を見下すから……」

 

 ――別ベクトルで正体不明の二人が緒戦からぶつかり合うのか……。実力を見極めたいが……果たして……。

 

『――一回戦第三試合!夏瀬(なつせ)雪渚(せつな)vs(バーサス)知恵川(ちえがわ)言葉(ことのは)ッ!!!』

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

 俺は背後に控える電動車椅子の女――知恵川に目を向ける。知恵川はじっとこちらを見上げていた。やはりその瞳には狂気が宿っている。

 

「直接夏瀬雪渚を(なぶ)れるとは……何たる幸運なのです。一二三(ひふみ)様のご加護なのです」

 

一二三(ひふみ)好き好きbotが……。同じ大学の先輩としてしっかり教育してやるよ」

 

「自分から先輩だと持ち出す人に(ろく)な人はいないのです」

 

『――一回戦第四試合!大和國(やまとのくに)終征(しゅうせい)vs(バーサス)幕之内(まくのうち)(じょう)ッ!!!』

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

「幕之内殿……良い試合にしましょう」

 

「はっ!来たな!見てろ爺ちゃん!飯亜(めしあ)!オレは絶対に勝つ!……終征、容赦しねーからな?」

 

「望むところです、幕之内殿」

 

『――以上!明日はこちらのトーナメント表に従って対戦していただきます!』

 

 ――竜ヶ崎と当たるなら決勝か……。何にせよ……やるしかない……!

 

『――では本日はお疲れ様でした!解散!!!』

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 夜も更け、二十二時を回った〈天上天下(てんじょうてんげ)闘技場〉。控室で記者会見や、インタビュー等を受け、気付けば闘技場には俺たちと運営スタッフが残るばかりだった。

 

 昼に受付を済ませた、観客席の真下に当たる位置の入口ロビーに足を踏み入れた。竜ヶ崎が周囲を警戒しながら俺の前を進む。

 

「――ボス!気を付けろよォ!いつ敵が襲ってくるかわかんねェ!」

 

「そんな敵いねーよ、って言いたいところだが……新世界じゃ余裕で有り得るのが最悪だよなぁ……」

 

 闘技場を一歩出ると、〈王手街(おうてまち)エリア〉のメインストリートが視界に飛び込んでくる。目に映る光景はまるで、ライトノベル作品で頻繁に見かける中世ヨーロッパ――所謂(いわゆる)、「ナーロッパ」の街並みだ。その世界観に見事にクリスマスの装いが調和していた。月明かりの中で、クリスマスツリーのイルミネーションが淡い光を放つ。

 

「――雪渚!巽ちゃん!」

 

 可愛らしい声。そちらに目を向けると、金髪ツインテールに桜色の毛先、胸元やヘソ、太腿(ふともも)を露出したギャル風のファッションの女が笑顔で立っていた。八重歯を覗かせて、可愛らしく微笑んでいる。

 

「おう、陽奈乃。悪いな、待たせてしまった」

 

「ううん!大丈夫!二人ともマジでお疲れ様!」

 

「おォ!陽奈乃ォ!会いたかったぞォ!『なでなで』してくれェ!」

 

「はいはい……よしよし、もー、巽ちゃんマジでカワイイわね……」

 

 陽奈乃が竜ヶ崎の頭をわしゃわしゃと、だが優しく撫でた。まるで飼い犬を可愛がるようだ。竜ヶ崎は心地良さそうに陽奈乃の胸元に頭を擦り寄せている。

 

 ――竜ヶ崎は天音や陽奈乃にも良く懐いており、天音や陽奈乃もまた、竜ヶ崎を妹のように可愛がっている。陽奈乃は二十二歳で竜ヶ崎は二十歳。背丈は竜ヶ崎の方がデカいが年齢は二歳差。竜ヶ崎も二人を姉のように慕っているのが何処(どこ)か微笑ましい。

 

「――せつくん、竜ヶ崎さん、お疲れ様でした」

 

「――〈神威結社〉から二人もファイナリストに!本戦進出おめでたいですぞ!」

 

「おう、天音、拓生」

 

 メイド服が映える白髪(はくはつ)ウルフカットの美女に、ボウルカット――おかっぱ頭の肥満体で丸眼鏡を掛けた青年。天音と拓生だ。

 

「せつくん、瞬き一つせず拝見しておりましたが、どれも素晴らしい戦いでした」

 

「おー、瞬きはしような。目乾くぞ」

 

「雪渚氏はもちろん、竜ヶ崎女史も見事でしたぞ!本戦進出経験者(ファイナリスト)相手に連戦連勝!あれは痛快でしたな!」

 

「――ガッハッハ!そうだろォ!姉御も『なでなで』してくれェ!」

 

「ふふ、偉いですよ、竜ヶ崎さん。せつくんを想って戦い、勝利する――素晴らしい心意気と成果です」

 

 そう言って天音は陽奈乃と共に竜ヶ崎の頭を優しく撫でる。竜ヶ崎はとても幸せそうだ。

 

「アーカイブ映像を『NewTube(ニューチューブ)』で観られるんだよな。竜ヶ崎のHブロックも気になるな」

 

「うん!帰ったらみんなでもう一回観てみよ!見逃したとこもあるかもだし!明日の本戦の作戦会議もしたいし!」

 

「おォ!ボスもアタイの戦いは観た方がいいぜェ!アタイ頑張ったからなァ!」

 

「ああ、そうだな……」

 

「せつくん、食事は〈オクタゴン〉で()られますか?」

 

「そうしよう。色々話したいのは山々だが……取り敢えず帰るか。〈オクタゴン〉のリビングのソファが恋しくて仕方ねえ」

 

「ふふ、そうですね」

 

「うん!じゃああまねえとアタシですぐにご飯作っちゃうね!」

 

「おォ!陽奈乃ォ!偉いアタイも手伝ってやるぜェ!」

 

「竜ヶ崎女史は指切ってばっかで危ないでありますから大人しくしててほしいですな……」

 

「はは、帰ろう」

 

 夢のように長かった一日も、終わりを迎えようとしていた。月明かりが、その足取りを見送るように、五人の影を照らしている。冷たい夜風が、これから始まる出来事を予感させるように、静かに吹き抜けてゆく。

 

 緊張と不安と期待――様々な感情が入り混じる中、夜の(とばり)が降りた街並みに、街灯の光が鮮やかな(いろど)りを添えている。冬の寒空の下、街の灯りが、明日を予感させるように、夜空に浮かび上がってゆく。

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