異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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1-27 Re:チュートリアル

 ――〈オクタゴン〉・庭園。俺と竜ヶ崎は一定の距離を保ったまま向かい合っていた。二人の合間を冷たい風が吹き付けた。まるで、これから始まる戦いを予感させるかのように。

 

 ――竜ヶ崎(りゅうがさき)(たつみ)。俺の異能バトル――その初戦の相手を務めた女だ。

 

「はわわわわわわ……急に異能戦でありますか……!?」

 

「御宅さん、せつくんの邪魔になってしまいます。私たちは離れていましょう」

 

「りょ、了解ですぞ」

 

 ポケットから〈エフェメラリズム〉とパチンコ玉を取り出す。竜ヶ崎は、俺の背後で噴水の陰に隠れる天音と拓生を見て、口を開いた。

 

「おいテメェ……!なんだそのデケェ男はよォ!」

 

「――ぶひっ!?しょ、小生ですかな!?」

 

「そうだァ!テメェだァ!この前はいなかっただろォがァ!」

 

「しょ、小生はただの商人ですぞ……!」

 

「拓生……バカお前……」

 

「ほォ!『商人』かァ!金持ってそうだなァ!」

 

「おい竜ヶ崎、あんたの相手は俺だろ。お前この前軽く(ひね)ってやったのを忘れたわけじゃあるまい」

 

「ハッ!二度とあんなヘマするかよ!お前の『麻痺(まひ)させる異能』は喰らわねェ!」

 

 ――そう。俺の神話級異能、〈天衡(テミス)〉は使い方によっては異能の本質を隠したまま完勝することもできる。情報を与えていないので当然と言えば当然だが、竜ヶ崎は未だ勘違いしたままだ。

 

『掟:声を上げることを禁ず。

 破れば、全身を麻痺する。』

 

 ――取り()えず様子見……。

 

「――っしゃァ!速攻だァ!」

 

 瞬間、竜ヶ崎が鉤爪を鋭く光らせ、低い姿勢のまま、こちらに迫ってくる。更にその直後、一瞬、竜ヶ崎の顔が(ゆが)んだ。

 

「また麻痺かァ……!おらァ……ッ!」

 

 竜ヶ崎はほんの一瞬(ひる)んだが、(くう)をX字に裂き、気合いを入れ直すと、そのままの勢いでこちらに迫ってきた。

 

「――『竜ノ両鉤爪(ダブルドラゴニッククロウ)』!!」

 

 竜ヶ崎の鉤爪が再び空をX字に切り裂く。それと同時に、俺は右の脚で大きく空を蹴り上げ、(かかと)をその交差点に差し込んだ。スニーカーに爪が食い込み、痛々しい爪痕が残る。そのまま、俺は踵を前面に押し出し、竜ヶ崎の身体ごと後方に蹴り飛ばした。

 

 ――そうか。気合いで麻痺を突破するか。それなら……。

 

『掟:声を上げることを禁ず。

 破れば、受けるダメージが二倍に増幅される。』

 

 〈エフェメラリズム〉のゴム紐とパチンコ玉を一気に引っ張り、パチンコ玉を竜ヶ崎の脳天目掛けて射出――。そして命中。

 

「――いッでェ!」

 

 その隙に、続け様に玄関の前で立ち上がった竜ヶ崎まで一気に駆け抜け、迫る。〈エフェメラリズム〉と数発のパチンコ玉を掴んだまま、両手両足の乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打――。竜ヶ崎も、それに負けじと必死に拳を振るって応戦する。

 

「――いでェいでェいでェ……ッ!!なんだァお前!?喋らねーでよォ!」

 

 ――ダメージ倍加……これでもくたばらないか。……認識を改めよう。強いな。

 

『掟:水に濡れることを禁ず。

 破れば、身体能力が半減する。』

 

 ――これで掟は上書き……俺も喋れるようになる。

 

「――天音!拓生!離れてろ!」

 

「かしこまりました、せつくん」

 

「りょ、了解ですぞ!」

 

「――てめェ!防戦一方じゃねェかァ!?『竜ノ鉤爪(ドラゴニッククロウ)』!」

 

 竜ヶ崎の鉤爪が俺の首元――頸動脈(けいどうみゃく)を捉えた瞬間、俺は身体を大きく(ひるがえ)した。

 

「――うおッ!?」

 

 回避されたことでバランスを崩し、前方に倒れ込む竜ヶ崎の背中――その黒い軽装の鎧に、踵落としを食らわせる。石のタイルに叩き付けられるように竜ヶ崎が倒れ込む。

 

「――がはッ……!て、てめェ……ッ!」

 

 その勢いのまま、回し蹴り――。竜ヶ崎の身体は、噴水のパイプ部分――筒状の噴水口に、ガンと音を立てて激突した。水飛沫を上げて受け皿に落ちる。

 

 竜ヶ崎は長く艶やかな黒髪をすっかり濡らし、悔しげな表情を浮かべて受け皿の中で立ち上がった。噴水口から吹き出す水が、容赦なく竜ヶ崎の髪を濡らす。俺は〈エフェメラリズム〉とパチンコ玉を引き抜き、構えの姿勢で竜ヶ崎に告げた。

 

「おい……まだやるのか?女を(なぶ)る趣味はないんだがな」

 

「クッソ……がァ!アタイじゃ勝てねェってのかよ……ッ!」

 

「帰れ。お前にやる金はない。真面目に働きなさい」

 

 一瞬、どの口が、とは思ったが()ぐに心の奥底に封じ込めた。

 

「――『竜ノ息吹(ドラゴニックブレス)』!!」

 

 すると、竜ヶ崎の口から炎が噴射された。勢い良く放たれた炎は幻想的な輝きを放っている。竜ヶ崎が身に着けた黒い軽装の鎧がその炎の輝きを(なま)めかしく反射する。

 

「火炎放射……!?大道芸かよ……」

 

 ――マジで「ドラゴニュート」だな。最高にファンタジってる。

 

『掟:攻撃の意思を持つことを禁ず。

 破れば、炎による一切のダメージを受けない。』

 

 直後、〈エフェメラリズム〉のゴム紐を引っ張ったまま、俺の身体は炎に包まれる。だがしかし、再び炎の中から現れた俺の姿を見た竜ヶ崎は目を丸くした。

 

「う……ッそだろ……!アタイの攻撃が何も通用しねェなんて……ッ!」

 

「切り札だったか?お前の負けだ」

 

「――るせェ!金がなきゃ、金がなきゃ……アイツらを救えねェんだよォ!」

 

「……アイツら?」

 

「テメェには関係ねェ!」

 

「そうか」

 

 〈エフェメラリズム〉のゴム紐から手を離し、パチンコ玉が凄まじい勢いで射出される。竜ヶ崎の脳天に再び直撃したパチンコ玉が、ぽちゃんと音を立て、噴水の受け皿に沈んだ。竜ヶ崎は、意識を失い、水飛沫を上げながら後方に倒れ込んだ――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ――数刻後。〈オクタゴン〉・一階リビングの壁掛け時計は二十時を指し示す。百インチの液晶テレビの前に設置されたガラス製のローテーブル。それを囲うようにL字型のソファに俺たちは腰掛けていた。

 

「う……うう……うっ……」

 

「――竜ヶ崎女史!起きましたかな?」

 

「目が覚めたか、竜ヶ崎」

 

 俺はガラス製のローテーブルの上に置いた灰皿に煙草を擦り付け、フェザークッションを枕にしてソファの上で横になっていた竜ヶ崎に声を掛けた。新たな一本を口に(くわ)え、オイルライターで着火する。

 

「あ……あァ?な……にが……」

 

「竜ヶ崎さん、お怪我は大丈夫ですか?」

 

「あ……あァ……?」

 

 竜ヶ崎の上級異能、〈竜鱗(ドラゴスケイル)〉は既に解かれていた。竜ヶ崎は上体を起こすと、黒い軽装の鎧を身に付けた自身の身体のあちこちに触れて目を丸くした。

 

「傷が……治ってやがる……だと?元々あった傷も……」

 

「鎧で上手く隠していたようですが、全身ボロボロでしたよ」

 

「お前らァ……アタイは二度もお前らから金を奪い取ろうとしたってのに……アタイを助けてくれたのかよォ……」

 

「竜ヶ崎女史……」

 

「竜ヶ崎さん、簡単なものですがお食事を用意しております。よろしければどうぞ」

 

 そう言って天音は、ガラス製のローテーブルに置かれた皿を竜ヶ崎に差し出した。皿の上には美味しそうなおにぎりが三つ置かれている。

 

「飯まで……アタイなんかに……いいのかよォ……」

 

「はい、もちろんです」

 

「……っ!すまねェ!すまねェ……ッ!」

 

 竜ヶ崎は涙を流しながらおにぎりを頬張った。美味しそうに、美味しそうにおにぎりに食らいついている。

 

「アタイはダセェなァ……誰も救ってやれねェ……。挙句の果てに勝負を吹っ掛けて二度も負ける(てい)たらくだァ……」

 

「――そんなことはいい。竜ヶ崎、お前には話がある」

 

「お……おォ……」

 

 竜ヶ崎は動揺を隠せない様子のまま、手の甲で涙を(ぬぐ)って、赤い瞳で俺の目を見つめた。その瞳には明らかな戸惑いの色が浮かんでいた。その様子を、俺の隣にちょこんと座った天音と、床に胡座(あぐら)をかいて座る拓生が見守っていた。

 

「お前は何のために俺を襲った?」

 

「それはァ……言っただろォがァ……。金のためだァ……」

 

「そうか。何故金が必要なんだ?」

 

「……ッ!尚更お前らには言えねェよ。巻き込むわけにはいかねェ」

 

「『アイツらを救う』だの何だの言ってたがそのためか?」

 

「言えねェ。アタイの傷を治してくれたことも、警察に突き出さなかったことも感謝してる。だがよォ……お前らみてェないいヤツは巻き込めねェ」

 

「そうか。じゃあ俺の話は終わりだ。帰れ」

 

「ちょ、ちょっと雪渚氏!?」

 

「あ……あァ。アタイも二度とお前らは襲わねェから、アタイには二度と関わるなァ。邪魔したなァ……」

 

 竜ヶ崎は立ち上がると、玄関の扉を開けて〈オクタゴン〉を出ていった。玄関脇の窓から差し込む月明かりが、その様子を寂しげに照らしていた。

 

「雪渚氏……帰してしまって良かったのですかな?」

 

「アイツは口を割らねえからな。仕方ねえだろ」

 

「そうでありますが……。雪渚氏、小生……『竜ヶ崎』という名に心当たりがありますぞ」

 

「はい、せつくん。私もです」

 

「――〈竜ヶ崎組〉、だろ?」

 

 ――〈竜ヶ崎組〉。クランランキングの世界二十位に名を連ねていたA級クランだ。

 

「そ、そうですぞ!竜ヶ崎女史との関係性を疑わざるを得ないですな……」

 

「『竜ヶ崎』――単なる同姓という可能性も考えられますが、大勢いるような苗字でもございませんからね……」

 

「どうにも困っている様子でしたな……」

 

「仕方ねえ。明日、竜ヶ崎を追うぞ」

 

「流石雪渚氏!そう言うと思っていましたぞ!……はて、でもどのように?」

 

「天音」

 

「はい、竜ヶ崎さんにGPSを取り付けておきました」

 

「既に手を打っていたでありますか!?」

 

「そういうわけだ。明日の朝イチでGPSを追う。それまでの間に〈竜ヶ崎組〉に関連する情報を洗う。……っつってもネット頼りにはなるが」

 

「了解ですぞ!」

 

「〈竜ヶ崎組〉と竜ヶ崎に関連性があるかは現時点では判断できない。だが竜ヶ崎が何かに困っているのは事実だ。殺し合った仲だしな、助けてやるか」

 

「はい、せつくん」

 

 天音はそう言って可憐に微笑んだ。新世界四日目、夜が――更けてゆく。




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