異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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1-36 公開告白アンダーザ打上花火

 満月をバックに、(やぐら)の頂上に立つ長い黒髪の女――竜ヶ崎巽は、ロータリーに集まる観衆を見渡しながら、言葉を継いだ。竜ヶ崎の頭に生えた二本の黄色い角が、バックの月光に映し出される。

 

『あー、みんなの言う通り〈十天〉の日向陽奈子も幹部の一人と百人を超える構成員たちを一掃してくれたァ。それに何より十六年間……陸の孤島……外部から誰の助けも入らなかったこの〈神屋川エリア〉にどデカい穴を開けてくれたのは他でもねェ陽奈子だァ。感謝しかねェよ』

 

「「日向様ー!!!」」

 

「「そうか!じゃあ日向様があの男を……!」」

 

『でも……アタイやみんなを苦しめていた竜ヶ崎龍を倒してくれたのは、また別のヤツなんだァ。そいつがアタイの功績にするとか言い出してよォ。意味わかんねェだろォ!アタイはそんな(ほどこ)しを受けるほどヤワじゃねェんでなァ!』

 

「ははっ、違いねえ!」

 

「でも日向様じゃないなら誰なんだ?あの男を倒せる人間なんて……」

 

 竜ヶ崎は、俺たちに視線を落とした。そして人差し指で、俺を真っ直ぐと指した。観衆の視線が、俺に集まる。

 

『――英雄は〈神威結社〉の夏瀬雪渚だァ!アタイらを救ってくれたのは……紛れもなくあいつだァ!だからお前ら……感謝するならアタイじゃなくてよォ、そいつとそいつの仲間にしてやってくれェ!』

 

「あの男が……?」

 

「とても強そうには見えないが……」

 

「でもすげえ……日向様もご一緒だぞ!」

 

『雪渚ァ……ありがとうなァ!』

 

 竜ヶ崎は目に涙を浮かべ、深々と頭を下げた。一瞬の静寂ののち、観衆たちが沸き上がる。

 

「「「うおおおーーー!!!〈神威結社〉ーーー!!!!」」」

 

「「「なーつーせー!!!なーつーせー!!!」」」

 

「「「よくやってくれたーーーー!!!!」」」

 

 ――竜ヶ崎め。人の好意を無下にしやがって……。

 

「せつくん……竜ヶ崎さんは……強い方ですね」

 

「そうだな……。俺なんかより、ずっとずっと強いよ」

 

『それでだァ!〈神威結社〉!そして夏瀬雪渚ァ!アタイは考えたァ!それを雪渚に伝えてェ!』

 

 再び、観衆が騒めき立つ。竜ヶ崎は、腰に両手を当て、俺の目を真っ直ぐと見て言った。最早その(あか)く美しい瞳に、一切の迷いは感じられなかった。竜ヶ崎の長い黒髪が、夜風に(なび)く。

 

『アタイは今日から夏瀬雪渚――いや、ボスに忠誠を(ちか)うぞォ!ボスのために強くなる!ボスのために戦う!絶対に役に立つ!だからボス!アタイを〈神威結社〉に入れやがれェ!』

 

 ――マジかコイツ。

 

「公開告白……これは断れないわね」

 

 観衆たちの『夏瀬雪渚コール』の中、日向が八重歯を覗かせて微笑んだ。天音が当然とばかりに頷く。

 

「せつくんに忠誠を誓う……賢明な判断ですね」

 

「竜ヶ崎女史も〈神威結社〉入りとなると、益々〈神威結社〉がパワーアップしますぞ!」

 

「あの馬鹿女……この観衆の目の中、それは断れねーだろ……」

 

「でも夏瀬、アンタ、悪い気はしてないんじゃない?」

 

「はは、まあな……」

 

「せつくん、答えはせつくん次第ですよ」

 

『――さァ!ボス!返事をくれェ!』

 

 竜ヶ崎巽は、(やぐら)の上からもう一本のマイクをこちらに投げ渡した。俺はそのマイクを受け取り、真っ直ぐとその赤い瞳を見て、言った。

 

 ――竜ヶ崎の強さ、そしてその真っ直ぐさは、二度も殺し合った俺は十二分(じゅうにぶん)に知っている。それに竜ヶ崎が仲間になってくれるならどれほど心強いことか。竜ヶ崎が俺について行きたいと言ってくれるなら、断る理由は一つもない。

 

『竜ヶ崎……俺は()き使うぞ』

 

『ガッハッハ!上等だァ!アタイを使いこなしてみろォ!』

 

 竜ヶ崎は期待の眼差しを俺に向けている。キラキラと輝く赤い瞳が、あまりに眩しい。

 

『大歓迎だ。……いいよな?天音、拓生』

 

「もちろんです。せつくんの仰せのままに」

 

「来ましたな!〈神威結社〉の天下は近いですぞ!」

 

『――ボス!大好きだァ!』

 

 竜ヶ崎は櫓から飛び降り、俺へ抱きついた。それを何とか受け止める。その様子を見守っていた観衆たちから、次々と賛辞の声が投げ掛けられる。

 

「巽を頼むぞー!!!」

 

「〈神威結社〉ー!!!俺たちはいつでもお前たちをサポートするからなー!!!」

 

「巽ー!!!ぶちかましてこーい!!!」

 

 満月が夜空に輝く夜。美しい夜空に色鮮やかな花火が打ち上がる。それは綺麗で、綺麗で。まるで十六年間の戦いに終止符を打った、竜ヶ崎巽の新たな門出を祝ってくれているようだった。

 

 ――俺たち〈神威結社〉、そして俺――夏瀬雪渚は竜ヶ崎巽に代わり、〈神屋川エリア〉の英雄となった。新たな仲間と共に、新しい日がやってくる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ――二一一〇年十二月六日。新世界六日目。時刻は夕方。〈神屋川エリア〉の崩落した城壁を(へだ)てて、俺たちは見送りに来た大勢の住民たちと向かい合っていた。

 

「料理に寝床まで……色々ありがとうございました」

 

「何を仰いますか夏瀬さん!俺たちの英雄にお礼をするのは当然ですよ!」

 

「そうなのだ!雪渚たちは〈神屋川エリア〉の英雄なのだ!ボクたちはみんな感謝してるのだ!」

 

「つーか手毬はこの先どうすんだァ?アタイらはもう自由なんだぜェ?」

 

 竜ヶ崎が手毬に問うと、手毬は腰に両手を当て、自慢げに答えた。

 

「夢だったクラン――〈十二支〉を作るのだ!最強の十二人――そのメンバー集めのために()ずは年末の〈極皇杯(きょくのうはい)〉に挑戦するのだ!」

 

「おォ!いいじゃねェかァ!」

 

「ふふ、せつくんも出場しますし今年の〈極皇杯〉も盛り上がりそうですね」

 

 天音がそう呟くと、日向が感心した様子で俺に話し掛けた。

 

「へえ、アンタ〈極皇杯〉出るんだ?」

 

「まあな」

 

「フフフ……雪渚氏が今年の優勝候補なのは間違いないでしょうな!」

 

「おォ!ボスなら余裕だろォ!」

 

「アンタらね……〈極皇杯〉を舐めすぎよ」

 

「全く……!馬鹿ばかりで困るのだ!ボクがいる限り雪渚に優勝はないのだ!」

 

 手毬は突然声のボリュームを上げると、俺を指差して高らかに宣言した。

 

「夏瀬雪渚!〈極皇杯〉の優勝を狙う者同士……今日から雪渚はボクのライバルなのだ!」

 

 ――何を言い出すんだ着ぐるみガールは。頭まで綿(わた)が詰まっているのか?

 

「頭まで綿が詰まっているのか?」

 

「こ、声に出てるのだ!言っておくのだ!実はボクは超強いのだ!〈十天〉にも引けを取らない……そういう説もあるのだ!」

 

 ――どんな説だよ。

 

「ホントかよ。とてもそうは見えねえけど……まあ根拠もなしに疑うのは好きじゃねえ。試してみるか?」

 

「フフフ……受けて立つのだ。今更後悔しても遅いのだ!」

 

「おォ!早速アタイら〈神威結社〉のボスのバトルだァ!」

 

 ――こうして、俺と羊ヶ丘(ひつじがおか)手毬(てまり)は相対する。六度目の異能戦は、唐突に始まった。

 

「なんだなんだ?夏瀬さんが手毬の奴とバトルするって?」

 

「おいおい、あの男を倒した夏瀬さんに手毬が勝てるわけねーだろ」

 

 〈神屋川エリア〉を囲んでいた、かつての城壁――そこを一歩外に踏み出すと、何もない平原が広がっている。その地に五メートルほどの間隔を保って相対する俺と手毬――その二人を囲うように人々がその様子を見守っている。

 

「さて日向女史、この勝負、〈十天〉としてどう見ますかな?」

 

「どうも何も……手毬ちゃんの異能次第ではあるけど夏瀬が勝つんじゃない?」

 

「手毬さんも……せつくんに挑むとはなかなか無謀ですね」

 

「ボス!手毬!カマしてくれやァ!」

 

「せつくん、ご武運を」

 

「おう」

 

 黒いスキニーパンツのポケットから〈エフェメラリズム〉を取り出し、構える。心地良い風が、二人の間を静かに吹き抜けてゆく。

 

 ――さて、今のところ手毬が強いようには見えないが、油断するのも失礼か?

 

「そう言えば雪渚、竜ヶ崎龍との戦いは見事だったのだ」

 

「おう、そうか」

 

 ――お互いに殺意を持っているわけではない異能バトルはやりづらいな。竜ヶ崎龍の方が(はる)かに戦いやすかった。

 

「ただイキっていたのは見ていられなかったのだ。いい大人が見苦しいのだ。勝ち確盤面(ばんめん)でイキり散らかす白髪(はくはつ)赤ニット帽柄シャツ色付き眼鏡男は見ていられないのだ」

 

「はあ!?手毬てめえ絶対に言いすぎだろ!喧嘩売ってんのか!」

 

「――今なのだ!」

 

 その一瞬の(すき)を突いて、手毬がこちらにドタドタと足音を立てて向かって来る。

 

 ――来る!

 

「喰らうのだ!」

 

 咄嗟(とっさ)に腕を十字に交差させ、防御の構えをとる。手毬の右手――厳密には着ぐるみの羊の右手に僅かに、青く光る静電気のような、帯電状態が目に見える。

 

 ――電気を操る異能か?不味(まず)い。その威力によっては……!

 

 突き出した手毬の右手は、交差した腕に触れた。ピリッ、といった僅かな痛みが柄シャツを通して腕に走る。

 

 ――これは……まさか……。

 

 防御の構えを解き、バックステップ――一歩後方に退き、〈エフェメラリズム〉のゴム紐とパチンコ玉を引っ張る。手を離すと、そのパチンコ玉が勢い良く手毬の着る着ぐるみの中心――腹部分に、ぼすんと音を立てて命中した。

 

「い、痛いのだ!こ、降参なのだ!」

 

「マジか……」

 

 その決着を見届けた一同が、こちらに駆け寄って来る。

 

「おォ!さすがボスだぜェ……!」

 

「お見事でした、せつくん」

 

「いやいやいやいや、おかしいだろ」

 

 手毬は着ぐるみの腹部分を(こす)りながら、涙目で俺に告げた。

 

「な、なかなかやるのだ。今日のところはこのくらいにしておいてやるのだ」

 

「いやいやいやいや、待て待て待て」

 

 右足を大きく上げ、当然のようにそそくさと立ち去ろうとする手毬の着ぐるみ――その背中部分を引っ張りこちらに手繰(たぐ)り寄せる。

 

「な、何なのだ!」

 

「無茶苦茶弱いじゃないか、なんだお前」

 

「め、面と向かって弱いとは無礼なのだ!〈極皇杯〉出場者の風上にも置けないのだ!」

 

 ――手毬がクランマスターを務めることになるクラン・〈十二支〉。その「()」の枠はその辺の猪とかでいいんじゃないか。野生の猪の方が手強いだろ。――と言おうかと思ったが流石に酷すぎる。やめておこう。

 

「『亥』の枠は猪でいいだろこれ……」

 

「な!なんてことを言うのだ!考えていることを声に出すのをやめるのだ!」

 

「竜ヶ崎……手毬の異能は何なんだ?」

 

「おォ!手毬の異能は下級異能(かきゅういのう)、〈微電(スパーク)〉だァ!『(てのひら)から静電気を発生させる異能』だぞォ!」

 

 ――下級異能、〈微電(スパーク)〉……これほどまでに弱いか。

 

 ――もっと可哀想なのが異能が人によってランダムに顕現(けんげん)するわけではなく、その人のあらゆる能力値や才能によって異能の階級が決まるという点だ。世界人口の過半数が下級異能らしいが、とどのつまりこの子は能力値が低いということだ。

 

「能力値が低いのか……」

 

「だから声に出てるのだ!なんなのだ!ギザ歯のくせになのだ!」

 

「なんなのこの子……」

 

 日向が呆れた様子で、手毬を見つめている。

 

「フフフ……まあ今日のところはボクの負けにしといてやるのだ。しかーし!次会ったときにはボクが率いるクラン・〈十二支〉が必ず勝利するのだ!」

 

 そう、絵に描いたような捨て台詞を残して、手毬は手を振りながら去っていった。

 

「と、とにかく色々ありがとうなのだ!またなのだー!」

 

「な、なんだったでありますかな……手毬女史は……」

 

「ガッハッハ!いつものことだァ!」

 

 するとその勝負を静観していた周囲の人々――〈神屋川エリア〉の住民たちの一人が俺に声を掛けた。三十代半ばといったところだろうか――その男の表情には、感謝の色が強く(にじ)んでいた。

 

「あの、夏瀬さん」

 

「あ、はい」

 

「本当にありがとうございました!俺たち……何とお礼を申し上げれば良いか……!」

 

 そう話す男の目には涙が浮かんでいる。後方に控える街の人々も、同様に涙ぐみながら、男の言葉に賛同する様子を見せる。

 

「俺が竜ヶ崎龍を気に入らねえからぶん殴っただけの話です。昨晩、十分に(もてな)していただきましたし、これ以上はもう結構ですよ」

 

「そうですか……。巽が笑うのを見たのは十六年ぶりです……。本当にありがとうございました。それに……巽」

 

「お、おォ……」

 

「本当にすまなかった。お前には一人で辛い戦いを強いてしまっていた。信じてもらえないかもしれないが……お前に強く当たっていたのもその地獄から解放しようと思っての行動だったが……逆効果になってしまったようだな」

 

「信じねェも何も最初から全部知ってたよォ。この街で何年過ごしたと思ってんだァ」

 

「そうか……。俺たちにはこんなことを言う資格はありませんが……夏瀬さん、どうか、どうか……巽をよろしくお願いします」

 

「……俺たちが竜ヶ崎の『居場所』になります。そしてきっと……竜ヶ崎は大丈夫ですよ」

 

「……はい、そのようですね」

 

 そう言って男は静かに頷いた。

 

「「巽を頼みましたよーーー!!!」」

 

「「ありがとうございましたー!!!」」

 

「「巽ーーーィ!!元気でなー!!!」」

 

「「たまには遊びに来いよー!!!」」

 

「「頑張れよーー!!巽ーー!!!」」

 

 プレハブ街の住民たちの壮大(そうだい)な見送りを背中に受けながら、俺たちと日向は〈神屋川エリア〉を後にした。

 

「ガッハッハ!うるせェヤツらだなァ!」

 

 そう言って、竜ヶ崎は嬉しそうに笑った。少しだけ、涙を浮かべながら。夕暮れの光が、その門出を祝うように、竜ヶ崎の二本の黄色い角を温かく照らしていた。




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