異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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1-43 続々・十天円卓会議

 四人が〈十天〉・第八席――銃霆音雷霧の喉元に各々の武器を向ける。必殺の距離だ。銃霆音はそれでも、全く動じない様子で言った。

 

「ケッ♪笑わせんな♪名前も知らねー雑魚二人と?ピカピカ光放つだけの露出狂女と?回復しか能のない〈十天〉最弱のババアが?寄って(たか)ってオレに勝てるってか?」

 

「――さァなァ。『やってみなきゃわかんねェ』って……恩人に教わったからよォ!」

 

「……(ちな)みに小生は勝てる気はしていませんぞ」

 

「オタクくん……アンタね……」

 

「銃霆音さん、訂正してください。せつくんを侮辱した発言だけは取り消してください」

 

「神話級異能、〈雷槌(トール)〉――北欧神話最強の戦神の名を冠するオレの異能はこの地球(ほし)の体積の二割を削った♪お前ら雑魚四人なんか一瞬で塵芥(ちりあくた)だ♪理解(わか)るよな♪」

 

 ――銃霆音の言葉は、残念ながらブラフの類ではない。神話級異能の力はあまりに甚大で、俺が眠る八十五年もの間、大陸が大きく削られ、大陸が大移動し、多くの国が滅び――様々な異常事態を経て現在の新世界がある。

 

 ――そして最後に、この新世界に大きな影響を(もたら)したのはこの男――銃霆音雷霧だ。コイツは……俺が目覚める(わず)か数日前、異能による電撃で、地球の体積の二割を削った。

 

 銃霆音に武器を向けたまま動かない四人に向け、俺は言葉を投げ掛けた。四人に危害が及ばないよう、銃霆音を刺激しないよう、丁寧に言葉を選んで。

 

「――待ってくれみんな」

 

「……せつくん」

 

「俺のために怒ってくれてるんだよな。ありがとう」

 

「お♪なんだなんだ♪ヒーロー気取りか♪愛されボーイが♪」

 

「銃霆音が何を言おうが大丈夫だ。全く俺には響かねえ。俺の過去とは……ある程度は見切りつけたからな」

 

「夏瀬……でもアンタ……!悔しくないの?こんなこと言われてんだよ?」

 

「ロクに知らねーで喋ってるフェイク野郎だろ?気に留める必要もねえよ。日向も怒ってくれてありがとうな」

 

「……夏瀬」

 

 ――もし銃霆音に喧嘩を売って、誰かに危害が及ぶのなら、それは俺だけでいい。

 

「おーおー♪言うねえ♪ラッパーのオレに向かって『フェイク野郎』と来たか♪」

 

「みんなもほら、武器を下ろしてくれ。大丈夫、俺は大丈夫だから。な?」

 

 ――何より……折角できた仲間を、失いたくない。

 

「ボス……」

 

「雪渚氏……わかりましたぞ……」

 

「アンタがそう言うなら……」

 

 四人は武器を下ろし、それぞれ元の場所へと戻った。〈十天〉の他の面々や黒崎は、その様子を表情一つ変えずに静かに見守っていた。

 

 ――これでいい。少し情けなかったかもしれないが、これでいい。

 

「なんだ来ねーのか♪ケッ♪この程度なら〈歌舞姫町(かぶきちょう)エリア〉のクラブで顔だけ馬鹿女のケツ()んでた方がマシだぜ♪」

 

「銃霆音はん、お黙りんす」

 

「……銃霆音君は少し言いすぎだね。〈極皇杯〉も近いのだから気を引き締めてほしい」

 

 第一席・(おおとり)世王(ぜお)は爽やかな口調ながら、少し厳しさを(はら)んだ声色で告げた。

 

 ――コイツもコイツだ。止めるのが遅すぎる。というよりも(むし)ろ、他の〈十天〉もそうだが、事の成り行きを楽しんでいたようにすら思える。〈十天〉には秩序がないのか?

 

「はいはーい♪わーったよ♪」

 

「悪かったね夏瀬君。銃霆音君が言いすぎた。彼に代わって詫びよう」

 

「いえ……」

 

「話を戻すが……天ヶ羽君が夏瀬君を蘇らせた、というのは理解した。だがそれにしても、夏瀬君ほどの有名人の遺体の所在は警察ではどう扱っていたんだい?(あゆむ)

 

 鳳は天音とは反対側――隣に座る小柄な男に声を掛けた。〈十天円卓会議(サミット)〉開始から一言も発さないままの、黒い将校服を着た男。マスコット体型の、デフォルメの効いたその男は、(ようや)く、初めて口を開いた。

 

「………………ああ、俺か」

 

 その声色は、可愛らしいマスコット的な容姿に相反(あいはん)して、随分とハードボイルドな声だった。少し驚くが、気を引き締め直し、その男――〈十天〉・第三席――飛車角歩の声に耳を傾ける。

 

「…………警察でも上の人間しか知らない情報だが……夏瀬雪渚の遺体は現・天プラのCEOである五六(ふのぼり)一二三(ひふみ)が引き取った。…………表向きには家族葬が行われたと発表されていたようだがな」

 

「へえ♪天プラの社長と知り合いなんか♪アイツ、アンドロイドって話だよな♪」

 

「五六くんは東慶大学医学部の首席入学だったよねぇ。夏瀬君も次席入学だってニュースで言ってたし、二人は友達だったんだねぇ」

 

 俺に甘ったるい声で話し掛ける巨躯(きょく)の男――噴下(ふくもと)。丁寧な物腰で返事をする。

 

「はい。一二三――五六一二三は大学時代の親友です」

 

「そっか☆夏瀬くんに生き返ってほしいって思ってた五六くんと天音ちゃんが遺体を引き取ったんだねっ☆普通ならそんなことできないかもだけど、五六くんなら当時の日本も特例として認めたかもねっ☆」

 

「…………ああ、夏瀬のボウズの両親も不慮の事故で他界していたしな。五六も夏瀬も当時の日本で言えば超がつく有名人……。まあ、特例中の特例ってヤツだ」

 

「そうだったのか。ありがとう歩。そうなると竜ヶ崎龍を倒したというのも信憑性が増すね。竜ヶ崎龍は偉人級異能だということだったが……夏瀬君の才覚なら偉人級……いや、神話級も十二分に有り得るね」

 

 ――ここだ。これをどうするか。

 

 ――当然神話級異能だと素直に白状するのは愚策だ。仲間が銃霆音と敵対してしまった以上、手の内を晒すことになるのは避けたい。だが恐らく、〈十天〉のうち、少なくとも数人に嘘は通用しない。

 

「夏瀬君、君は天ヶ羽君にとっても大事な人だということだし、〈十天〉としても力になってあげたい。突然こんな異能が蔓延(はびこ)る社会に放り出されて困惑しているとは思うけど、もし良ければ夏瀬君の異能について教えてもらえないかな?」

 

「ケッ♪どうせ精々偉人級止まりだろ♪つーか天プラの社長が偉人級なんだからそれしかねーよ♪」

 

 ――ああ、少なくとも銃霆音には、嘘は通用するらしい。

 

「はい。無論です。ただ、神話級異能……というのは少々買い被りすぎかもしれませんね」

 

「おや、そうなのかい?」

 

「残念ながら、銃霆音の読み通り、偉人級異能です」

 

 ――一二三と同格が良い落とし所だろう。

 

「偉人級か。それでも逸材だね。どんな異能なんだい?」

 

「『その身に受けた攻撃を全て反射する異能』です」

 

「ほら見たことか♪偉人級じゃねーか♪」

 

「偉人級ってスゴいんだけどねっ☆」

 

「なるほど……確か〈竜ヶ崎組〉の構成員たちの証言では、竜ヶ崎龍に最後、何か強い衝撃が加わって倒れたように見えた……とある。その異能で竜ヶ崎の攻撃を反射した、ということかな?」

 

「はい、仰る通りです。異能が敵にバレないように戦ったのでボロボロになりましたけど」

 

 ――この場において、俺が今嘘を()いていることを確実に知っている者は……〈神威結社〉の天音、拓生、竜ヶ崎。そして日向と、竹馬大学の事件の際、俺が〈審判ノ書(バイブル)〉に手を(かざ)す瞬間に立ち会った黒崎。……そうなると杠葉姉妹も知っている可能性はあるか。

 

 〈神威結社〉の仲間や日向はある程度俺の考えを読み取り、それを尊重してか、俺の嘘がバレないよう平静に振る舞ってくれている。一方、得体の知れない黒崎や杠葉姉妹……毅然(きぜん)としたその態度からは、考えを読み取ることはできない。

 

「理解したよ。ありがとう夏瀬君」

 

「いえ……。鳳さん、不躾(ぶしつけ)で恐縮ですが、自分から一つお願いさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

「天音は先刻、ソロランキングにおける非公開設定を外し、自身が〈十天〉・第二席であると公表しました。そこでなんですが……『第二席・天ヶ羽天音は既に蘇生の力を使用しており使えない』と、影響力のある〈十天〉の皆さんから公式に声明を出していただけませんか?」

 

「……せつくん」

 

 ――蘇生の力なんて、当時の日本で言えば数億、いや数兆払ってでも買いたい者は腐るほどいるだろう。それはこの新世界でも同じハズだ。飛び交う金が紙幣から虹金貨(こうきんか)に代わるだけだ。

 

「聞く必要もなさそうだけど、理由を聞いても構わないかな?」

 

「天音――天ヶ羽さんに危険が及ぶ可能性を減らすためです。ただ、実際に蘇生された俺が言うのと、世界の頂点である皆さん〈十天〉が言うのでは説得力が段違いです。世間の見る目も違うかと」

 

「わかった。そうしよう」

 

「ありがとうございます」

 

 ――一二三の話では、天音の蘇生術は恐らく……もう一度だけ使える。だが一度目の使用で天音は心が崩壊した。次の代償は……恐らくその命だ。絶対に二度目を使わせるわけにはいかない。

 

「せつくん……お気遣い感謝します」

 

「いや、当然のことだ。気にするな」

 

「――そンなことよりよー♪」

 

 流れを断ち切るように、片脚を円卓にダン、と乗せて大きな声を発したのは、またしても〈十天〉・第八席――銃霆音雷霧だった。

 

 ――コイツ……また……!なんなんだ一体……。

 

「忘れてねーかお前らよー♪竜ヶ崎龍に日向陽奈子は敗北したんだよな♪」

 

 日向が銃霆音のその圧に萎縮する。見兼ねた天音が呆れた様子で銃霆音に反論する。

 

「銃霆音さん、先程も言ったはずですが、日向さんは異能戦――(すなわ)ち、異能を用いた戦闘で敗北したわけではありません。〈十天〉の規則には反していないはずですよ」

 

「おーエンジェリックババア♪確かにそうだな♪〈十天〉の規則――『〈十天〉は異能戦において一度でも敗北すれば、〈十天〉の資格を剥奪される』……だったよな♪でもよー♪異能戦とか関係なくよー♪」

 

 ――空気が、恐ろしいほどに弛緩(しかん)していた。日向は、今にも泣きそうな様子で怯えている。

 

「『負けたヤツ』って……〈十天〉に要らなくねーか♪」

 

「――銃霆音くんっ☆それはあんまりだよっ☆」

 

「――銃霆音さん!なんてことを……!」

 

「……日向殿を〈十天〉から下ろすということで御座るか?良くもそんな非道なことを思い付くもので御座るな……」

 

「…………おい銃霆音のボウズ。そりゃあねえだろう。日向の嬢ちゃんは〈不如帰会(ほととぎすかい)〉に家族や親友を突然惨殺され、その復讐のために〈十天〉へ加入した」

 

 突然、(いきどお)る〈十天〉の面々。最も怒りを露わにしていたのは、意外にも第三席・飛車角歩だった。落ち着いた様子ながらも、渋い声で、飛車角は静かに言葉を継ぐ。

 

「…………〈竜ヶ崎組〉を潰して、〈不如帰会〉への道筋がやっと見えてきたってタイミングで嬢ちゃんを〈十天〉から下ろすだと?お前は嬢ちゃんに〈不如帰会〉への復讐を諦めて泣き寝入りしろってのか?」

 

「『〈十天〉のうち一名に追放指名されることで〈十天〉の資格は剥奪される』……って規則もあったよな♪」

 

「……ううっ……ううっ……嫌だ嫌だ……」

 

 日向は、涙を流して、今にも壊れそうなほどに震えている。

 

 ――俺は日向の過去を詳しくは知らない。そして……家族に愛されたこともないから日向の痛みを多分、完全には理解してあげられない。日向は〈神威結社〉の仲間でもない。

 

「最低ですわね……銃霆音さん……」

 

「じゅ、銃霆音さん……こ、こんなの……あんまりだよ……」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

 

「気狂ったのか?うぜーな♪」

 

 ――だが、日向は俺を庇ってくれた。俺に「頑張ったね」と、欲しかった言葉をくれた。

 

「――おいボス!どうなってんだよこれはよォ!」

 

「な、なんでこんなことになっているでありますか!?」

 

「オレは日向を追放するぜ♪」

 

 ――嗚呼(ああ)、そうか。

 

 俺は再び、ゆっくりと椅子から立ち上がり、銃霆音雷霧――その男の目を見て、言った。

 

「なあ銃霆音。『〈十天〉は異能戦において一度でも敗北すれば、〈十天〉の資格を剥奪される』……だったよな?」

 

「あ♪ガリ勉クン♪なんだよテメー急によ♪」

 

「……夏……瀬?」

 

「鳳さん。銃霆音は日向を追放すると宣言しましたが、もうこの時点で日向は〈十天〉ではないのですか?」

 

「いや……実際は諸々の手続きを終えた時点で、だ。それも数日と掛からないだろうけどね」

 

「では『〈十天〉は異能戦において一度でも敗北すれば、〈十天〉の資格を剥奪される』――これも手続きを終えた時点で〈十天〉追放ですか?」

 

「えっと……夏瀬君、どういう意味か理解し兼ねるが……そちらの規則は即時だね。〈十天〉が異能戦で敗北した時点で、その者は〈十天〉の資格を全て失うよ」

 

「そうですか。つまりは追放指名をした者が、手続きの期間内に異能戦で敗北すればその追放指名は無効になるわけですね。〈十天〉ではない者の追放指名ということになりますから」

 

「あ、ああ……そうだね」

 

「……せつくん?」

 

「おーい♪ごちゃごちゃうるせーぞ部外者が♪〈十天〉じゃねー奴は黙っておうちで勉強してろよバーカ♪」

 

 ――〈十天〉・第八席――銃霆音雷霧。

 

「ごちゃごちゃうるせーのはテメーだよ銃霆音」

 

 ()めていた白い手袋を、銃霆音に投げ付ける。銃霆音の顔に命中したそれは、ひらりと白い床に落ちた。銃霆音は苛立(いらだ)ちを露わにして、熊鷹眼(くまたかまなこ)で俺を威圧する。

 

「――あ?」

 

 ――コイツは一度、殺さなきゃいけない。

 

「――拾えよフェイク野郎。異能戦やろーぜ」




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