異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
俺の言葉に、銃霆音は、目を丸くした。そして
「マジかよwwwお前wwwオレと殺し合うって?www」
銃霆音はケタケタと大笑いした後、笑いのあまり目に浮かんだ涙を拭って言った。その場の者は皆、面食らった様子で、俺と銃霆音を見守るしかなかった。
「あーおもろ♪
「そうか?〈十天〉の席次が高ければその名誉や報酬も多いと聞くが」
「何言ってんだ♪お前〈十天〉じゃねーだろ♪」
「一応これでも〈十天〉の第二席と交際させてもらってるんでな。見ての通り、天音は俺に依存しきってる。俺を殺せば第二席が空くぞ」
「……なるほどな♪いいぜ、乗った♪」
――かかった。馬鹿が。
――こんな軽薄な人間なのにも関わらず、〈十天〉に居座っている。それは銃霆音にとって、〈十天〉であることそのものがメリットだからだ。席次の話を出せば、必ず飛び付く。
「んで天才クン♪悪いけどオレこの後予定あんだわ♪やるなら今スグになるけど文句ねーよな♪」
「ああ、構わない。急ぎなら時間制限でも付けるか?」
「おい勘違いすんじゃねーよ♪『オレ』がお前の相手をしてやってんだ♪お前にそんな条件を出す権利はねーよ♪」
「お前こそ勘違いするな。その制限時間でお前が俺を殺せないようなら、弱いお前にハンデとして、お前の土俵で戦ってやるって言ってんだ。『その身に受けた攻撃を全て反射する異能』――お前じゃ俺の異能を突破できねえだろ」
「舐めんな♪つーか「オレの土俵」ってのはなんなんだよ♪まさかフリースタイルするわけでもねーだろ♪」
「よくわかってんじゃねーか」
「は?正気かよ♪」
「そうだな……異能戦で『五分』。五分以内にお前が俺を殺せないようなら仕方ねえからMCバトルで相手してやる。EMB本戦に出てやるよ」
――「EXTREME MC BATTLE」――通称、EMB。MCバトル――ラップバトルの世界的な大会でもあり、世界六国に六十四あるエリアでそれぞれ予選トーナメントが行われる。各エリアのEMB予選の優勝者が本戦に集い、本戦トーナメントを行う。そして最後に残った者が優勝。多額の賞金を得る。
「お前それマジで言ってんのか?オレは三連覇してんだぞ♪つーか本戦出てる奴らは全員各エリアの予選勝ち抜いて出場してんだよ♪オレが〈十天〉だからってオレの一存でそんなこと勝手に決められねー♪」
「HIPHOP的に言やビーフだ。無視するなんてダサい真似しねーだろ」
――HIPHOPにおけるビーフ。ラッパー同士が楽曲で互いを挑発し合う――「ディスり合い」を指す言葉だ。
「格下のビーフをいちいち相手してやる方がダセーだろ♪お前ラッパーでもねーしよ♪知った気になってビーフとか言ってんじゃねーよ♪」
「八十五年以上前の話だが……第二回EMB本戦の優勝者――知らねーわけじゃねーだろ?」
「は?MC
「ああ、俺がMC
「つい先程〈
「……なっ!?」
銃霆音は驚いた様子を見せ、スマートフォンを取り出すと誰かに電話し始めた。
「――おいリョーガ♪さっき終わったばっかのEMBの〈歌舞姫町エリア〉予選♪誰が獲ったよ♪」
状況を把握しきれない〈十天〉の面々や拓生たち……静かにその様子を見守る。銃霆音が耳に当てたスマートフォンから、微かに声が聴こえる。
「――マジ……かよ♪……OK、わかった♪サンキュなリョーガ♪」
銃霆音はスマートフォンを再び仕舞う。俺は銃霆音の目を見て、告げる。
「なあ銃霆音。これでも『格下』と言えるか?」
「おもしれー♪いやおもしれーよお前♪」
銃霆音は、そう言いながら、床に落ちていた白い手袋を拾った。
「殺せば第二席の椅子に座れる上にあのMC
「構わない。それとこっちはお前の土俵に上がってやるんだ。異能戦で五分以内にお前が俺を殺せず、MCバトルまで
――
「おいおいアルジャーノン♪どんどん条件足してくるな♪だがいいぜ♪オレにとっちゃ
「交渉成立だな」
「異能戦は……そうだな♪〈歌舞姫町エリア〉にあるウチの〈
「いいだろう」
「つーわけだお前ら♪オレは『〈十天〉剥奪』と『三百枚の
「……銃霆音君。それが君の結論なんだね」
「ああ♪アルジャーノンは〈十天〉のオレが異能戦を受けてやるだけのメリットを提示した♪資格は十分だ♪」
「……わかった。〈
第一席・鳳の言葉を受け、〈十天〉の面々や黒崎は、次々に部屋の四隅に置かれた〈
日向は
「……夏瀬……ちょっと待ってよ……!アタシを守ってくれたの?なんで……!」
「アイツが気に入らないからだ」
「……気に入らない……って!気持ちは嬉しいけど……!でも……そんなことしたら……ホントに夏瀬……アンタ死んじゃうわよ!?何考えてるの……!」
「さあ……我ながら何考えてるんだか……」
日向は俺の柄シャツ――その胸ぐらを掴んで、そのまま俺の身体を壁に叩き付けた。あまりの力に、あまりの一瞬の出来事に、抗うことすらできない。日向のその真剣な表情からは、事の深刻さが
「……イカれてるわよ!アンタ!」
日向と壁に挟まれ、壁に押し付けられる俺の背中。日向の力に、全く身動きが取れない。〈十天〉・第七席――日向陽奈子が俺よりも遥かに格上の存在だと理解するには、それだけで十分だった。
「……
「わかってない……!アンタわかってないわよ……!銃霆音がどれだけヤバいのか……!またあまねえを悲しませるの!?」
日向は自身の豊満な胸を俺に押し付けていることすら気にも留めず、俺の胸ぐらを掴む力を強めた。呼吸が苦しくなってくる。
天音は、「Ⅱ」の席から立ち上がったものの、深刻な面持ちで一点を見つめたまま動かない。
「――日向女史!落ち着いてくだされ!」
「おい陽奈子ォ!ボスは陽奈子のためにだなァ!」
「――わかってるわよそんなことは!だから怒ってるんじゃない!」
「まあ落ち着けよ日向。別に死のうと思ってるわけじゃねーんだから」
日向は俺の顔を数秒、見つめた後、俺から手を離した。苦しかった呼吸が戻ってくる。その暗く
「――な、なァボス!いーえむびー……?ってのはラップバトルの大会なんだろォ?ボスはラップもできたんだなァ!」
「ああ、先人のレジェンドに比べりゃまだまだだけどな」
「……雪渚氏が言っていた一攫千金の策……。銃霆音氏から……ということだったのですかな?EMBを優勝すれば優勝賞金も入りますぞ」
「そうだな……。まあEMBの優勝賞金に関しては音楽に使われるべきだ。
「ボス……アタイは
「お前らもさっき銃霆音に喧嘩売ってただろ。つーかお前らは納得してんだな」
「おォ!ボスのやることに間違いはねェからなァ!」
「いやはや肝が冷えるかと思いましたがな……」
一方の天音は未だ、「Ⅱ」の席から立ち上がったまま、一点を見つめたまま動かない。
「大丈夫か、天音?」
「あっ……いえ、大丈夫です。きっとせつくんは勝ってくれますから」
――天音の言葉にいつもの俺を全面的に肯定する力強さはない。〈十天〉だからこそ知る、銃霆音の強さ……ということか。
「……わかったわ。夏瀬……アンタに話がある」
「話?」
「アタシの……昔話よ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――〈
「……日向女史、小生たちもついてきて良かったのですかな?」
「うん。あまねえはもう知ってるけど、夏瀬と、オタクくんと竜ヶ崎ちゃんにも聞いてほしい」
――日向陽奈子は、カルト集団――〈
「陽奈子の過去かァ……おい陽奈子ォ……。辛い話なんだろォ……。無理に話さなくてもよォ……」
「ううん……夏瀬はアタシを庇って銃霆音と戦うの。だったら……知っててほしい。アタシに何があったのか……」
天音、拓生、竜ヶ崎が日向を静かに見守る。俺は覚悟を決め、日向に言った。
「わかった。聞こう」
「うん……」
――そして、〈十天〉・第七席――日向陽奈子は口を開いた。
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