異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
「…………え?」
悪い夢を見ている気分だった。いや
一階に続く階段とそこから玄関まで続く廊下が真っ赤に染まっている。その鮮血の上に転がる舞白のバラバラになった身体。
「う……そ……」
その光景は
「ま、舞白……あ……あ……ああっ」
何が起こったのか、頭が理解し始める。ふらつく足と
散らばった手足は四本ではなかった。確認できるだけでも五本……いや六本。そのことに気付いた私の脳裏を、家族の存在が
「ママ……パパ……タロ……」
玄関へと続く廊下の左手。そこにあったリビングの扉は開いており、リビングからも赤い血が流れているのが見えた。嫌になるほどの赤が、視界を埋め尽くす。
重い足取りで、やっとの思いで一階へと下り、目を閉じる。そして、嫌な予感を振り切るように目を開け、リビングを覗く。心臓が、激しく鼓動を打つ。
――
鮮血に染まったリビングには
その光景は、明らかに
「あ……ああ……ああっ……!」
家族の
いつも玄関で私を出迎えてくれた温かな存在が、この世のものとは思えない姿に変えられていた。
「あ……ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
悲鳴にも近い、絶叫――。
「お、おえええええええええええええええええええええええええっ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――この時代においては、異能犯罪への
刑事や警察の
私は警察への通報の後、リビングの
通報から数十分後、駆け付けた警官たちはインターホンを鳴らしたが、私は、鼻を刺す血の臭いと血溜まりの中、玄関まで向かう気力はなかった。すると、扉が開いていたのか、警官たちは続々と玄関へと入ってきた。
「……うっ……酷い……」
「……惨いな」
玄関や廊下に広がる光景を見て、警官たちは一瞬
無論、リビングの隅に蹲っていた私にも声が掛かったが、上の空であった私を見て警官たちは状況を察したのか、他の捜査を始めた。
「「「飛車角警視監!お疲れ様です!!」」」
「……おう」
突如として警官たちが立ち上がり、敬礼するその先には……身長百二十センチメートルほどだろうか。まるで子供のような
それに反してハードボイルドな声で短く
私は彼のことを知っていた。厳密に言えば、私でなくても彼のことを知っている。この新世界における頂点、世界上位十名――〈十天〉の一人に名を連ねる男――〈十天〉・第三席――
――〈十天〉・第三席――
――更に元・〈陸軍〉大将――軍人上がりだと聞く。数年前の異能戦争により最愛の妻を亡くし、その悲劇を二度と繰り返さないために警察になった。未だに将校服に身を包むのは、その辛い記憶を忘れないためなのだとか。
――
「……こりゃあ派手にやってくれたな」
飛車角が顔を
「あっ警視監、その子は落ち着いてから……」
「…………」
止めに入った警官を右手で制止し、飛車角が私を見下ろすように立つ。その漫画のような黒い目には、確かな意思が宿っている。
「…………第一発見者の……日向陽奈子だな?」
「……はい」
「……早速だが……俺はホシに心当たりがある」
「……ッ!」
驚いて顔を上げる。飛車角はポーカーフェイスを保ったまま、落ち着いた様子で言葉を継いだ。
「……だがその前に話を聞かせてくれ……。嬢ちゃんにはその義務がある」
「……わかりました」
私は飛車角に事の
「……成程。……嘘はないようだな」
飛車角はそう言葉を発し、少し考え込むようなポーズを取った。そして飛車角は突然、
「……ついて来い」
飛車角はそう告げると、キッチンの
「インターホン……ですか?」
「……ああ」
飛車角はそう短く答えた後、短い手足を必死に伸ばし、白い手袋を
「録画」に映し出されたのは警官たちだった。これは私が通報した後、警官たちが駆け付けた際の映像だろうと確信した。
飛車角が「前へ」のボタンを押すと、日向家の玄関前に立つ二人の男女が映し出された。一人は、ボサボサの濃い深緑色の髪の男。細身のその男は、目を寄り目にし、舌を大きく出している。――狂気の沙汰であった。そしてもう一人は――。
「えっ……」
「……知り合いか?」
小さなモニターに映った女は知っている人間だった。木村――。私に
「職場の……上司です」
「……こっちの女か」
「……はい」
「……そうか」
飛車角はそう告げ、何かを考え始めた。その表情には、暗い確信が浮かんでいる。
「……あの、飛車角さん」
「……そうだ、ホシはコイツらだ」
視界が歪む。
――どうして?
疑問が、次々と浮かび上がる。
「……〈
「…………最近クランとしても登録されたばかりの
――〈不如帰会〉……聞いたことがない。
「どういうことですか……?」
「……
「……はい、鳴りました……」
「……じゃあそのときだろうな、扉を開けた嬢ちゃんのご両親は勧誘を断った」
「…………それだけで……殺されたってことですか?」
「……そういう団体だ。……と言っても納得できないだろうがな」
――宗教の勧誘を断っただけで殺害された?何の罪もない私の両親とタロが?舞白はその場に偶然居合わせて?……なんで……なんで……?
「…………なんで……」
「……なんだ?」
「なんで〈不如帰会〉のことを公表しなかったんですか……ッ!そこまで
私は震える声で叫んだ。リビングの警官たちの注目を集める。しかし、飛車角の回答は――。
「……警察も色々あんだよ」
「……ッ!」
そう告げて制帽を押さえ、申し訳なさそうに目を閉じる飛車角。その声には、
あまりの
「映像に映る男……間違いない。〈不如帰会〉の
「…………ダーキニー……ですか?」
「…………〈不如帰会〉の人間は、〈不如帰会〉の幹部を――
「幹部…………なんでそんな人が…………?」
「……ここ最近でバラバラ殺人は何件も起きててな……。足取りが掴めない男だが……全ての事件にコイツが関与してると見て
「……もう一人……木村……さんは……」
「……嬢ちゃんの知り合いならここに四条を誘導したのはこの女という線もあるな」
「……そんな…………」
「……嬢ちゃん、あまりここに居すぎない方がいい……おい、嬢ちゃんを部屋まで連れてってやってくれ」
飛車角は近くにいた刑事にそう告げると、その場を離れて行った。
「あの、日向陽奈子さん、すみません。お話は後でまた詳しく
「……はい」
警官に連れられ、ゆっくりと階段を上がり、部屋に戻る。扉を開けた先には先程まで普通に舞白と過ごしていた日常の一ページがあった。しかし、理不尽なまでの暴力によってそれは奪われ、一瞬で絶望に塗り変わった。
ベッドの上に雑多に並べられた旅行情報誌。そのベッドの足元――フローリングの床に置かれた舞白の小さな鞄から、何かが
――そうだ、舞白はケーキを食べようと一階に下りて……。
「……まだ……食べられるかな」
食欲なんてなかった。そのとき私は何を思ったのか、その白い箱を開けた。ホールケーキに
――陽奈子 誕生日おめでとう――
「…………ッ!ママ……パパ……タロ……舞白……ッ……!!」
――
流れる涙を
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」
白い箱の前に、
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