異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
――日向家の日常を、絶望一色に染め上げた
あれから数日の間も日向家では捜査が続けられていた。飛車角の話では、〈
取り調べによって木村がそう自供したとのことだ。当然、木村はその場で
〈不如帰会〉――
私は飛車角からその話を聞いた後、
――どうして舞白や家族がこんな目に
――舞白が家に遊びに来なければ舞白は助かったのか?
――あの日、ケーキをママから受け取らなければ舞白は助かったのか?
――階下に下りるのが私であれば舞白は助かったのか?
――そもそも私があの会社に入社しなければママもパパも舞白もタロも、誰も殺されずに済んだのではないか?
――いや、私に異能の力があれば誰も殺されずに済んだのではないか?
――私は不幸にも――生き残ってしまった。
次々に襲い来るそんな
「……この辺りかな」
今日は舞白の告別式だ。昨晩のお通夜は親族だけで、ということもあり、事件以降未だ舞白の両親には会えていない。学生の頃は舞白の家にもよく遊びに行っていた。マイペースながら優しい母親と
――あの二人に……なんと謝ればいいのだろう。
そんなことを考えながら、重い足取りで葬儀場に足を踏み入れた。受付で
「ああっ……舞白……どうして……どうしてこんなことに……っ!」
「舞白……ううっ……」
――話し掛けるべきだ。
その思いが、足を前に進ませる。遺影の前で泣きじゃくる彼らの下へと歩を進めた。すると、その様子に気付いた舞白の母が表情を変える。こちらに駆け寄り、私の肩を
「アンタ……!!!どの面下げてっ……!!!」
その声には深い悲しみと怒りが混じっている。
「アンタの
「陽奈子ちゃん……
言い
「わかってる……わかってるけど……ううっ……」
私の肩を強く掴んでいた両手がだらしなく垂れ、舞白の母はその場にへたり込む。
「――間もなく、故・
――数刻後、舞白の告別式が始まった。
「舞白ぉ……」
「舞白ちゃん……なんで……っ!」
舞白がどれだけの人に愛されていたの改めて実感する。何の取り柄もない私と違って、舞白は死んではいけないはずの人だった。
「――最後に、
舞白の父が立ち上がり、参列者の前に立って深く一礼した。
「……皆様、本日はお忙しい中、娘……舞白のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます」
私は舞白の父の顔を見ることができなかった。
「私ども家族にとって、娘は大切な存在でした。明るく、周りの人々に愛される娘であり、まだ若い彼女には、輝かしい未来が待っていると信じておりました」
舞白の父の声が震えている。耳を
「しかし……突然の出来事により、その未来を失うことになってしまいました。親としてこのような形で彼女を送り出さねばならないことに、深い悲しみと無念の念を抱かずにはいられません」
舞白の母が
――私はどんな気持ちでこの挨拶を聞けばいいんだろう……。
「娘を奪われた悲しみは言葉に尽くせませんが、多くの方々に見守られながら、娘はこの場で旅立つことができると信じております。皆様の温かいお心と、ご支援、ご
参列者たちは、各々の想いを抱えながらその挨拶に耳を傾けていた。各々の想いとは言っても、それが深い悲しみであることに変わりはなかった。
「私どもの苦しみを共有していただき、共に彼女を
――舞白をただ
「これからも娘の記憶を胸に抱きながら、前を向いて生きていくつもりです。どうか皆様も、娘のことを少しでも心に留めていただければ幸いです。……本日は誠にありがとうございました」
舞白の父が挨拶を終え、再度深く一礼する。
――その直後、式に似つかわしくない、
「――ヲイヲイヲイヲイヲイヲイヲイヲーイ!!!!」
式場の大きな扉が蹴り開けられる。その扉から現れたのは――まるで狂人。寄り目の目、大きく出した舌、ボサボサの濃い深緑色の髪、そんな細身の男だった。
――インターホンの録画に木村と共に映っていた男、〈不如帰会〉の
「ちょっと!あなた!式の途中ですよ!」
司会の男が止めに入る。騒めき立つ会場。直感が、危険を告げている。
「あ、待って……!」
私は司会の男を制止しようと立ち上がるも、時既に遅し。司会の男が一歩を踏み出した瞬間、彼の
そして――ボト、ボトと鈍い音を立てて、地に落ちた。彼の
「ああ……あああ……」
「――きゃああああああああああ!!!」
「――やばいって!逃げろ!!!」
何が起こったのかわからない――そんな一瞬の静寂の後、突如としてパニック状態となった葬儀場。四条はその様子を
「ヲイヲイヲイヲイヲイ!パパさんさあ!」
「あ、ああ……」
「未来を失った?彼女を奪われた?何か勘違いしてないッスか?」
「……あなた……何を……」
「あんたの娘は死んだんじゃないんスよ、〈
「……何を言っているんですか……」
「おや?パパさんは警察から聞いてないんスか?俺が――」
見下ろすように舞白の父に語り掛ける四条。パニックとなった葬儀場――その中でも四条の声は不思議なほどにクリアに聞こえた。その声に、底知れない狂気が感じられる。
――待て。そんなことを、言っていいはずがない。
そんな私の想いも
「――あんたの娘を殺したんスよ」
一瞬の静寂……本当に一瞬の静寂の後、舞白の父が立ち上がり、勢い良く四条に向かった。その動きには、
「てめえええええええええええええ!!!」
「――あなた!」
続け
ダメだ、このままでは舞白のパパまでも――と、そう思った瞬間、私はすっかり乱れてしまったパイプ椅子を蹴飛ばし、駆け出していた。それと同時に、私の身体が、
「いいよ、あんたも〈救いの子〉っス!おめでとうございやーす!」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そう叫んだ私の身体が焼けるほどの熱を帯び、真っ白に光り出す。そのエネルギーを、右の拳に。右の拳だけが凄まじい輝きを放っていた。
「……あ?」
――
直後、凄まじい爆音と共に、四条の身体は勢い良く床に叩き付けられた。衝撃が、式場全体を揺らす。
「がはッ……てめえ……ッ」
「……ひ、陽奈子ちゃん!?」
何が起こったのかわからない、といった表情で私に声を掛ける舞白の父。そこに舞白の母が駆け寄ってくる。彼らの表情には、驚きと恐れが混じっている。
「お二人共、逃げてください」
「……てめえ……〈不如帰会〉を敵に回す気っスか……?」
「……黙れよ殺人鬼」
初めて見るそんな私の様子に、
「お前……なんで私の家族を殺した?」
「……あ?」
「この遺影の子と同じ日に……お前が殺した私の家族だよ……」
「……ああ……あんた、〈救われなかった子〉っスか……」
「なんで殺したって聞いてんだよ……」
「殺したんじゃない……〈救いの子〉にしてあげたんスよ。さっきも言ったっスよね?」
「――
「よし、じゃあお前も〈救いの子〉っスね」
四条はそう思いついたように告げると、構えの姿勢を取る。彼のとった姿勢に、凄まじいほどの敵意と殺意が
「俺の偉人級異能……〈
直後、足を大きくバネのように使い、飛び掛かってくる四条。人を「殺す」ために特化したような、洗練された動きだった。
「……陽奈子ちゃん!危ない!」
舞白の父の声を気に留めることもなく、私は不思議と冷静だった。四条の動きは止まっているようにすら見えた。避けるまでもなかった。
――直後、私の右の拳が更に
「……てめえ……何者……」
真っ二つに割れた四条の身体が地に落ちる。
「地獄に堕ちろ」
「……そうっスか……
不気味な言葉を
「……ひ、陽奈子ちゃん……君は……」
いつの間にか葬儀場から人の気配はなくなっていた。舞白の両親と私だけを残し、四条の身体は光に包まれ、見る見るうちに形を失い――やがて消滅した。その最期の瞬間まで、狂気の笑みを浮かべたまま。
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