異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
――〈
「――それでアタシは〈十天〉になって、今日まで過ごしてきたの」
「……噂程度に聞いてはいたものの……そういうことだったのですな」
灰皿に煙草を押し付ける。あまりに衝撃的な話を受け、静寂に包まれる室内を換気する換気扇の音だけが、とても
「……〈
拓生がそう呟くと、竜ヶ崎は思い立ったように立ち上がって、汚れた床に座る。そして、日向に向かって土下座――頭を下げた。
「……竜ヶ崎……ちゃん?」
「――すまねェ!陽奈子ォ!アタイが……アタイが兄貴を止められるだけの力があれば……ッ!陽奈子の家族やダチは……そんな目に遭わずに済んだかもしれねェ!」
――〈竜ヶ崎組〉・組長――竜ヶ崎龍。俺が先日倒したその男――竜ヶ崎の兄は、〈不如帰会〉の
「待って竜ヶ崎ちゃん!ううん、竜ヶ崎ちゃんはずっと竜ヶ崎龍を止めようと戦ってたんでしょ?竜ヶ崎ちゃんは悪くないわ」
――その通りだ。竜ヶ崎や日向にとっては酷な話だが、
――というか……
「……ッ!陽奈子はアタイを助けてくれたってのに情けねェ!アタイは〈不如帰会〉の幹部の一人すら倒せやしねェ!」
竜ヶ崎の表情には悔しさが滲んでいた。室内の明るい照明が、その表情を映し出す。
――事実、竜ヶ崎龍は人智を超越した強者だった。竜ヶ崎龍の偉人級異能、〈
――そういう意味では、〈十天〉もまた、能力値がカンストした連中ばかりなのは間違いない。十数分後に戦うのは……そんな〈十天〉の第八席に座する男――
「竜ヶ崎さん、あまりご自分を責めないでください」
「陽奈子……姉御……すまねェな……」
「しかし日向女史が〈不如帰会〉への復讐のために〈十天〉へ加入したというのはわかりましたが……銃霆音氏はそれを知っていながら、日向女史の〈十天〉としての資格を剥奪しようとしたのですな……」
「そうですね。〈不如帰会〉はそのあまりの残虐性から、〈十天〉内でも情報は厳重に扱われています。そのためほとんど公にはなっていません。公にしたところで防げる類のものでもありませんし、
「うん……今となってはアタシもそれは理解できるわ」
「日向さんが〈十天〉の資格を失い、〈十天〉でなくなるのだとすれば、日向さんの〈不如帰会〉への復讐は絶対に叶わなくなります」
静観していた俺は、立ち上がり、テーブルの上に置かれた伝票を持って扉を開く。
「――ボス!どこに行くんだァ!」
「時間だろ。行くぞ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――〈歌舞姫町エリア〉。かつてはトー横キッズと呼ばれていた若者たちが集まる広場――その通りにナイトクラブ・
賑わう夜の店を横目に、地下へと続く階段を降りてゆく。一段、一段……背後に続く俺の仲間たちの足音が、その緊張感を増してゆくようにすら感じられる。
地下へと続く階段を降りた先――音楽が漏れる扉を開くと、
営業時間外なのだろう。賑わう人で
メインフロアとなるであろうフロアに足を踏み入れる。壁際にはソファ付きのVIPテーブルが並ぶ。そのVIPテーブルに、凄まじい存在感を放つ者たちが腰を下ろしていた。〈十天〉の面々だ。
「――影丸!ワタクシ、あのカクテルというものが飲みたいですわ!」
カクテルを片手にフロア内を歩く若い女を見て、〈十天〉・第十席の一角――
「いけません槐お嬢様。お嬢様はまだ未成年なのですから」
「だ、ダメだよ。え、槐お姉様。お、お酒なんて飲んじゃ」
黒崎の言葉に、縫いぐるみを抱えるゴスロリ少女――二人目の〈十天〉・第十席――
「ぶー!影丸も樒もケチですわ!」
「ケチで結構でございます。お嬢様方のお身体に何かあっては
――いや、そもそも未成年をナイトクラブに連れ込むなよ。甘やかしすぎだろ。
内心ではそう思ったが、声には出さず、VIPテーブルに座る他の〈十天〉の面々を視界に入れる。すると古風な糸目の侍――〈十天〉・第五席――
「夏瀬殿……来たで御座るな」
「ええ……」
VIPテーブルには銃霆音雷霧の姿はない。メインフロアの奥には――立派なステージがあった。音響機器が並べられ、赤と青のムービングライトやスポットライトで照らされたそのステージの上に、「奴」の姿があった。金髪のロン毛の男と
すると、ステージの下のこちらの様子に気付いた銃霆音が、中指をクイクイっと動かし、俺を挑発するようにステージの上に招き入れた。
「雪渚氏……完全に煽られてますな……」
「腹立つヤツだぜェ……」
「……行ってくる」
〈十天〉から少し離れたVIPテーブルに〈神威結社〉の面々や日向を座らせ、俺はステージへと上がった。遠巻きに、〈十天〉の面々や竜ヶ崎たちがその様子を見守っている。
「ガリ勉クンがビビらずよく来たじゃねーか♪MC
「よおフェイク野郎。遊びに来てやったぜ」
「イキってられんのも今のうちだけどな♪」
「――おいおい雷霧。そりゃいくらなんでも失礼だろ……」
そう言って困った様子で銃霆音を
髪の根元は
「おいおいリョーガ♪コイツ、〈十天〉のオレに生意気にも歯向かってくるんだぜ♪」
「雷霧……またお前が何か言ったんだろ……」
その男は、俺に向き直ると、申し訳なさそうに言った。
「夏瀬くん……だったよな。君のことはニュースで観たよ。悪いな、うちの雷霧が。多分また人を傷付けるようなことを言っちまったんだろ」
男は片手で謝罪を意味するジェスチャーを
「これもさっきニュースになってたけど〈十天〉・第二席の彼氏さんなんだって?蘇生で蘇ったとか……。あ、あそこに座ってる女の子か……。すごいな……」
――〈十天〉に依頼した、『第二席・天ヶ羽天音は既に蘇生の力を使用しており使えない』という声明の発表。これが既に為されたことは確認済みだ。仕事が早い。
「ああ、すまない。俺は
――
「ああ、どうも」
「それにしても第二回EMB王者のMC
「そうか。ありがとう」
「雷霧との異能戦とは関係なく、EMBの本戦はそのまま出場してくれるんだろ?」
「おいおいリョーガ♪黙って聞いてりゃ楽しそうに話してんじゃねーよ♪MC
「雷霧お前な……」
呆れた様子の帯刀を気に留めることもなく、銃霆音は床に置いてあったマイクを手に取り、メインフロア全体に呼び掛けた。
『うーし
「お?なんだ?異能戦?」
「マジ?雷霧さんのバトル観られるの?」
「ヤバ!行こうぜ!」
そのナイトクラブ・
――二十人弱……コイツらが〈
「よっしゃ♪リョーガも危ねーから下りてろ♪」
「おい雷霧……ホントにやるのか?」
「男の意地ってヤツよ♪わかんだろ♪」
「……わかった。夏瀬くん、健闘を祈るよ」
帯刀は俺の肩に手を乗せ、ステージを下りていった。〈十天〉や〈神威結社〉、〈
「――ボス!ぶっ飛ばしてくれェ!そんなヤツよォ!」
「――雪渚氏!ファイトですぞ!」
頼れる仲間の声が、ステージの下から聴こえてくる。ステージの上とは対照的に、
相対する銃霆音はと言うと、
――ダイナミックマイク……通常付属しているであろうケーブルがないが、ワイヤレスタイプか。いや、そもそもこの西暦二一一〇年の新世界にワイヤレスという概念があるのかは疑問だが。
「改めて♪〈
「〈神威結社〉・クランマスターの夏瀬雪渚 a.k.a. MC
「レペゼンするのは『
「その『ダイオキシン』は『ワシントンD.C.』までぶっ飛ばして『埋葬式』してやるよ」
――二一一〇年十二月七日。七度目の異能戦が、始まろうとしていた。
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