異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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1-50 人間発電所

 お互いを見据えたまま、ステージの上で向かい合う俺と銃霆音雷霧。こうして対峙すると、ひしひしと感じる――(およ)そ人間が放つとは思えないほどの、途轍(とてつ)もない威圧感。

 

 ――コイツが、昨年の〈極皇杯(きょくのうはい)〉で、四十万人超の参加者の中から頂点に立った人間。そして、この新世界の頂点に座する、〈十天〉の一角――。

 

「オレは『〈十天〉剥奪』と『三百枚の虹金貨(こうきんか)』を、アルジャーノンは『第二席』と『日向陽奈子の〈十天〉剥奪』を賭ける♪それで間違いねえな♪」

 

 ――なんだコイツ……?分かりきったことを態々(わざわざ)復唱して……。念押しか?

 

「〈十天円卓会議(サミット)〉でそう言っただろう。お前こそ約束を反故(ほご)にするなよ」

 

「――悪くねえ『Answerだ』♪だがカウンター一発で『ワンパンだ』♪」

 

 すると銃霆音は、バックステップで一歩退き、右手に掴んだマイクを通して軽快に韻を踏み始めた。それと同時にステージ上のスピーカーから、歌詞のないbeatだけの音楽が流れ始める。頭上でバチバチ――と何か電気が弾けるような音がする。

 

 ――始まった……!

 

 その真下に留まらないよう、俺も一歩身を引いた。その瞬間、俺が立っていたハズの場所に、文字通り――轟音と共に、青白い雷が落ちた。

 

 ――〈十天〉の異能に関しては当然把握している。しかし、〈十天〉の異能戦が長期戦になることは極めて(まれ)なため、情報も少ない。

 

 ――〈十天〉・第八席――銃霆音雷霧の神話級異能、〈雷槌(トール)〉。現段階でわかっているのは、マイクを通して「韻を踏む度に落雷を発生させる異能」いう点のみ。「落雷」というのは比喩でも何でもなく自然現象の雷だ。

 

 ――雷は、電圧で言えば数千万ボルトから一億ボルトの電撃――当然当たれば即死だ。それが雷の速さで落ちてくる。最早(もはや)、歩く天災だ。馬鹿げた異能だが、どう考えても強い。

 

「――Yo♪オレの(ライム)で雷が『乱反射』♪Wack殺すのなんてさ『簡単だ』♪霊柩車で運ばれろ『ガンダーラ』♪天才クン(ほふ)ってオレが『No.1(ナンバーワン)』♪ハハッ♪」

 

『5combo♪』

 

 軽快にリズムに乗り(こな)しながら雷の四連撃が俺を襲うと同時に、スピーカーから、踏んだ韻の数を(しら)せる可愛らしい音声が聴こえた。雷の落下点を予測し、それらを間一髪で避ける。

 

 ――更に厄介なのがこの神話級異能、〈雷槌(トール)〉。同じ音で韻を踏み、「combo」する(ごと)に雷の威力が増すという凶悪仕様。

 

 ――現段階で銃霆音は、最初の「Answerだ」――(すなわ)ち「anaaa」という韻を、「No.1(ナンバーワン)」まで五つ重ねている。神話級異能、〈雷槌(トール)〉――どう考えてもヤバすぎる。

 

「――避けてばっかで勝てるって『習ったんか』?教科書のThunder(トンダ) Rhyme(ライム)に線引け『アンダーバー』♪」

 

 ――防戦一方じゃ意味がない。

 

 更に威力を増した雷が二発、轟音と共に眼前に落ちる。俺は脳内で〈天衡(テミス)〉を使用――掟を定める。

 

『掟:感電を禁ず。

 破れば、その電撃を相対する者へと反射する。』

 

 ――〈十天円卓会議(サミット)〉で俺は自身の異能を、『その身に受けた攻撃を全て反射する異能』だと(かた)った。

 

 ――掟は相手と、自身も対象だ。本来ならばデメリットでしかない自身への掟を今回は利用する。この掟ならば騙った異能とも矛盾せず、銃霆音に違和感を持たせないまま、防御と攻撃が同時に行える。

 

「飾りか持ってるパチンコと『弾丸は』♪マジでヤバめな『バーサーカー』♪オレの勝利を(うた)う『晩餐歌(ばんさんか)』♪」

 

『10combo♪』

 

 ――まだ「anaaa」で踏むかよ……!

 

 銃霆音は矢継ぎ早に韻を踏み、更に威力を増した雷が三発、ステージに落ちる。身を(ひるがえ)して避けるも、その衝撃は、ステージ下のメインフロアにまで伝播(でんぱ)し、最もステージの近くにいた観客の数人が吹っ飛んだ。

 

「――うわああっ!」

 

「やべえ……っ!離れろ……っ!」

 

 騒めき立つ〈鉛玉CIPHER(なまりだまサイファー)〉の若者たちは、メインフロアの後方に避難した。対照的に全く動じる様子もない〈十天〉の面々は、各々が酒を片手に、何か呟いていた。

 

「銃霆音殿……矢張(やは)り容赦ないで御座るな」

 

「でも夏瀬くんもよく避けられるよねぇ。僕、身体が大きいから無理だよぉ」

 

「うんっ☆夏瀬くん、スゴく頑張ってるねっ☆」

 

「あんなに雷が落ちてこの建物もよく壊れないものですわね?」

 

(えんじゅ)はんはほんまちっこくて可愛(かい)らしおすなあ」

 

「槐お嬢様、こちらのナイトクラブ・NERF(ナーフ)は、銃霆音様特化の超耐雷設計でございます。音響機器も含め、壊れることはございません」

 

「あら影丸、そうなんですの」

 

「え、槐お姉様……た、食べ方下品だよ……」

 

「銃霆音君が全力で戦える数少ない場……ということだね」

 

 ――一方の銃霆音は、楽しそうに身体を動かしながら、軽快に韻を踏み続ける。

 

「離れてなきゃ危ねぇ『ラッパーだ』♪てか暗い顔してるけど何か『あったんか』♪テメェの頭をかち割るミョルニル『ハンマーだ』♪ハハッ♪」

 

『13combo♪』

 

 ――よし、ここまで威力が増せば……!

 

 頭上に轟音と共に降り注ぐ雷。その三発目――現段階での最大威力となったその雷を、頭から受ける。頭から爪先までを稲妻が駆け抜けるが、不思議と、痛みはない。掟の影響だろう。

 

 ――二十億ボルト……!いける……!

 

 ――すると、その瞬間。俺の身体を駆け巡った雷は、まるで壁に当てたゴムボールが跳ね返るように、びよんと跳ねて、銃霆音の下へと(はし)った。

 

「――お♪」

 

「――死ねよ、銃霆音雷霧」

 

 青白く(はし)る閃光。次の瞬間、轟音と共に銃霆音の体が弾けるように倒れた。男の全身が()けるような熱に包まれた。その熱が、離れた俺にも伝わるほどだ。焼け焦げた肉の匂いが辺りに広がり、メインフロアの空気が一瞬静まり返る。

 

 男の指先が痙攣(けいれん)し、(かす)かに動いたが、それきりぴくりとも反応しない。男が着ていた、銃と弾丸のグラフィティが描かれた黒いパーカー――その衣服の一部は焦げ、肌には赤黒い(あと)が刻まれていた。

 

 雷鳴の余韻だけが広々としたフロアに木霊(こだま)していた。男の身体から、煙が立ち上る。ムービングライトのカラフルな光が、色鮮やかにその(むご)たらしい光景を映し出す。

 

「……ボス……!やった……のか……ァ?」

 

 ――竜ヶ崎、馬鹿……。その台詞は……。

 

 すると、驚くべきことに、その男――銃霆音はゆっくりと上体を起こし、まるで、ベッドの中で心地良い朝を迎えたかのように、両手を伸ばして欠伸(あくび)をした。そして、ゆっくりと立ち上がった。

 

「あーきもち♪」

 

 ――あ、これ無理だ。

 

「うわ♪最悪♪俺らで作った服焦げてんじゃんかよ♪リョーガ♪替えあるか♪」

 

 銃霆音は、一部が焦げた自身の黒いパーカーを覗き込み、それを脱いだ。

 

「おう雷霧」

 

 銃霆音がパーカーをステージの下――そこにいた帯刀(たてわき)凌駕(りょうが)に投げ渡すと、帯刀は新たな黒いパーカーを、ステージの上に立つ銃霆音に投げ渡す。

 

「お♪これこれ♪」

 

 銃霆音が広げたその黒いパーカーは、銃と弾丸を模したグラフィティが描かれた、全く同じデザインのパーカーだった。銃霆音は満足した様子でそれを着ると、俺を視界の中央に捉える。そして、マイクを通して言い放った。

 

「……で?」

 

 ――聞いちゃいねえ。飽くまで人間である以上は、雷が直撃して無事でいられるハズがない。しかも低く見積もっても、通常の二十倍以上の電圧の雷だぞ……。

 

「『その身に受けた攻撃を全て反射する異能』――なるほどね♪」

 

「……お前ってもしかして人間じゃないのか?」

 

「ハハッ♪おもしれーこと言うな♪人間の両親から生まれて、ちゃんと心臓も動いてる人間だぜ♪」

 

 銃霆音は、楽しげに右手のマイクをクルクルと回している。――かと思うと、その場から消えた。

 

 ――凄まじい殺気を、()ぐ隣から感じる。そちらに顔を向けると、()ぐ隣に、銃霆音が立っていた。そして、銃霆音は、俺だけに聞こえる声量で、俺の耳元で耳打ちする。

 

「――なあアルジャーノン♪お前の異能、嘘()いてるだろ♪」

 

「……っ!」

 

「――死ねや♪」

 

 ――直後。腹を突き上げるような強烈なボディーブローが俺を襲う。あまりの痛みに前屈(まえかが)みになる。胃の中のものが逆流しそうになる。

 

「ぐっ……!」

 

 そのまま続け様に凄まじい威力の回し蹴りを食らった俺の身体は――メインフロア中央の天井に激突する。全身を、激痛が駆ける。

 

「あっぶね♪ミラーボール壊すトコだった♪」

 

 そのまま重力に従って、俺の身体はメインフロア中央の床――観衆の中に落ちる。周囲の若者たちが、それを避ける。ニット帽の赤に、頭から流れた血が混じる。

 

 ――体格は俺と大差ない。それなのに、身体能力すら竜ヶ崎龍の遥か上を行くのか……。明らかに……格が違う。

 

「――せつくん!」

 

「――夏瀬!」

 

 〈神威結社〉の三人と日向が、心配そうに俺に駆け寄る。ゆっくりと、身体を起こす。

 

「ボス……アイツなんなんだよォ……!なんであの電撃食らって死なねェンだよォ……!」

 

「鍛えてどうにかなるレベルを超えておりますぞ……」

 

 ――当人のあらゆるステータスや才覚に依存して異能の階級が決定される。神話級異能を持つ人間は、例外なく化物だ。これが……〈十天〉か。

 

「せつくん……」

 

「夏瀬、アンタ……」

 

「おーいアルジャーノン♪戻って来ーい♪ステージの上でやんなきゃAudienceに危害が及ぶだろーが♪」

 

 銃霆音は、ステージの上から煽るようにマイクをクルクルと回しながら、俺を見下ろしている。スピーカーから流れるbeatに乗るように、身体を小刻みに揺らしながら。

 

「あと(ちな)みに今流れてるbeatな♪約束通り、丁度(ちょうど)五分で鳴り止むようになってる♪この地獄が一生続くわけじゃねーから安心しろよ♪だって殺すし♪」

 

 銃霆音は歯に取り付けた銀色のグリルを覗かせて、にかっと笑う。俺は、仲間たちを安心させるよう声を掛ける。

 

「大丈夫だ。全部上手くいってる」

 

「夏瀬、アンタね……強がらないでよ。アンタの決死のカウンターも通用しなかったじゃない……」

 

 床に落ちた〈エフェメラリズム〉とパチンコ玉を拾う。そして、俺はゆっくりとステージの階段を上り、再び銃霆音雷霧と相対する。

 

「あと半分――二分半ってトコか♪なあアルジャーノン♪実力差には気付いたか?まさか〈十天〉が神話級異能頼りの一芸集団だなんて思っちゃねーよな♪」

 

 ――コイツは、俺が異能を偽証したことを看破した。ならば最早(もはや)、俺の神話級異能、〈天衡(テミス)〉を隠す必要もない。

 

「逆境を跳ね除けてこそのHIPHOPだと俺は思うんだけどな」

 

「いいね♪口だけは♪」

 

「口だけで戦うのがラッパーだけどな」

 

「ハッ♪よく喋る♪ま、結局のトコ♪お前はオレにこのまま負けてオレは第二席に♪〈十天〉に相応しくねー日向も〈十天〉から陥落♪二分半ありゃ余裕だな♪」

 

「一番喋ってるのはお前だけどな」

 

「つーかアレなんだよな♪お前らはシャバいんだ♪ババアもドラゴンガールもデブもエロ女もよ♪」

 

 ――コイツ……また……!

 

「ババアも八十五年もつまんねー理由で自分置いて勝手に死んだ人間のために貴重な時間使ってしょうもねえ♪」

 

「天音を侮辱するな」

 

「ドラゴンガールもデブも自分が救われたからって他者に依存してしょうもねえ♪エロ女も家族とダチが死んだからなんなんだ♪自分が弱い所為だろーが♪」

 

「これ以上喋るな」

 

「あ?復讐のために〈十天〉に?舐めんなボケ♪……あ♪そーだ♪まあエロ女もババアもカラダだけはエロいから〈十天〉じゃなくなった暁には抱いてやってもいいぜ♪」

 

 ――嗚呼(ああ)、本当にコイツは殺さないといけない。

 

 俺は、一気に〈エフェメラリズム〉のゴム紐を引っ張り、手を離す。勢い良く射出されたパチンコ玉は、銃霆音の額に鈍い音と共に直撃する。

 

『掟:声を上げることを禁ず。

 破れば、右腕が切断される。』

 

「いって♪何すんだ入水(じゅすい)自殺クン♪」

 

 ――その瞬間、マイクを持つ銃霆音の右腕が、鈍い音を立てて、マイクと共にステージの上に落ちた。

 

 銃霆音は、一瞬、何が起こったのか理解できないといった様子で、床に落ちた右腕を見つめ、数秒の沈黙ののち、静かに眉間に(しわ)を寄せ、怒りを露わにした。

 

「――おっけ♪瞬で殺すわ♪」

 

「ラッパーなんだからマイク持ったら?」




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