異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
――〈超渋谷エリア〉・駅前、交差点付近にあるハチ公前喫煙所。夜の
交差点を挟んで向かいには、ロータリーに囲まれた、天空まで
フィルターを通して、煙を肺に取り込む。そして息をゆっくりと吐く。心地良い感覚に身を委ねる。
「――つーわけだ。まあ、ある意味で銃霆音は、本当に『フェイク野郎』だったわけだ。異能を偽証した俺もだけどな」
「そういうことでしたか……。全てが
「銃霆音氏の目的は至ってシンプルだったのですな……」
「えっと……どういうこと?銃霆音はアタシを〈十天〉から下ろそうとして……。それで夏瀬はアタシを庇ってくれて……。でも銃霆音はそうじゃなくて……?えーっと……?」
混乱した様子の〈十天〉・第七席――日向陽奈子。髪型は、高めの位置で結んだ、毛先にカールのかかったポップな印象の、ツーサイドアップに近い金髪ツインテール。ウェーブがかっており、毛先にかけて美しい桜色のグラデーションとなっている。
服装はお腹が
「雪渚氏、日向女史が理解できていないようですぞ。高卒
「――えっオタクくん、学歴厨なの!?きも!最悪じゃん!」
「日向、俺も高卒だぞ。除籍されてるから」
「東大医学部の中退は高卒って言わないわよ!」
「暴論だろこれ……」
「安心しろ陽奈子ォ!アタイも何一つわかってねェぞォ!仲間だなァ!」
長く
「竜ヶ崎ちゃん、それ
「おーマジかお前ら。かなり丁寧かつ分かりやすく話したつもりだったんだが……」
「今の説明で理解できないとは、竜ヶ崎女史と日向女史がアホすぎますな……」
「なんだ拓生テメェゴルァ!出荷するぞォ!」
「――ぶひっ!?暴力反対ですぞ!」
「ふふ……賑やかですね」
「何なのコイツら……。で、ごめん夏瀬。もっかい説明してよ」
狭い喫煙所のパーテーションの中で取っ組み合いを始めた拓生と竜ヶ崎を見て呆れた様子の日向が、ルビーのような大きな瞳で、俺を下から覗き込むように見つめた。その悪気ない上目遣いは、並の男なら堕ちてしまいそうだ。
「要するに〈
「日向さんを〈十天〉から下ろそうとした件ですね」
「ああ」
「えーっと、それは何のためなんだっけ?」
「銃霆音に与えられた、今年の〈極皇杯〉の〈
「そのために
「えっと、でも夏瀬待って。演技って言っても……銃霆音の奴はいつもあんな感じよ?今回は場を荒らしすぎだったけど」
「ああ。だからこそ誰も気付かなかった。アイツの〈
「銃霆音さんはご友人の
――銃霆音雷霧との異能戦の終盤、突然俺の脳裏を
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きょうの話題
・〈
・S級クラン〈
・第十回〈
・〈
・〈
・きょうの異能占い
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――銃霆音雷霧は、〈十天〉としての役割を間違いなく全うしていた。奴が〈十天〉であることに誇りを持ち、そして〈十天〉としての役割を十分に遂行していることは疑いようがない。
「元は『〈十天〉に相応しくないから』日向を〈十天〉から下ろすと言う話だったはずだ。言動からも〈十天〉であることに誇りを持っていることは
「確かに……銃霆音氏は〈十天〉としての活動は精力的に行っておりますな……」
「ああ。そんなアイツが、〈十天〉の格を下げるような雑な真似をするとは考えづらい。そうじゃないなら〈
「そうですね。〈
「事実、〈
「ですが雪渚氏。銃霆音氏が雪渚氏を見極めるために日向女史を〈十天〉から下ろす等と言って煽る必要があったのですかな?」
「アイツは異能戦で、フリースタイルをしながら、自身のバックボーンを歌った。〈
「どうやらそのようですね。日向さんを〈十天〉から下ろす、と煽ることでせつくんがそれを庇うのか。その点を見極めたのでしょう」
「そうですな。雪渚氏のことを昨晩のニュースで知って、〈
「はい。昨晩のニュースで語られたせつくんの凄まじい伝説。そしてその人が〈
「恐らく追放指名をするのなら天音の方が俺との関係性もあってやりやすかったんだろうが、『日向陽奈子が竜ヶ崎龍に敗北した』……っつー
「銃霆音……アイツ馬鹿だと思ってたけどそんなことを考えてたの?」
静かに俺たちの話を聞いていた日向が少し驚いた様子で口を開いた。日向の桜色の毛先が夜風に
「日向……銃霆音は日向の数万倍賢いぞ。誇張抜きで」
「えっ……嘘でしょ。最悪なんだけど」
――とは言え日向が救いようのないアホというわけではない。単純な学力で言えば、日向は平均か……それより少し下くらいのものだろう。
――対して銃霆音は賢すぎた。単独で俺たち〈神威結社〉や〈十天〉の全員を騙し、全てアイツの思い通りに事が進んでしまった。
――いや、もしかすると〈十天〉の中には気付いていた者もいるかもしれないが。
「銃霆音氏が雪渚氏の喧嘩を買ったのは……異能戦を受けたのは単純な好奇心ですかな?」
「そうだな。〈
「それと雪渚氏、異能戦に時間制限を設けたのはどうしてだったのですかな?」
「俺も神話級異能だから少なくとも完敗はないだろうと感じていた。……だが、相手は地球の表面の二割を削るような奴だからな。異能戦の経験も積んでいるだろう。長引かせては確実に負けると思った」
「……うん。いい判断だと思うわ。異能戦自体も延長狙い――ラップバトルで決着をつけるつもりだったわけね」
「ですが銃霆音氏はEMBを三連覇しているラッパーですぞ。ラップにおいて銃霆音氏が手を抜くとは考えられませんな」
「ああ。アイツは全力で来る」
――HIPHOPの四大要素の一つ、ラップ。生い立ち――バックボーンや生き様を音楽に乗せて言葉で戦うのがMCバトルだ。マイクを持って相対すれば、その人がどんな人物なのかが言葉に鮮明に滲み出る。
「アンタその大会の第二回王者……なのよね?よくわかんないけど勝てるの?銃霆音はラップに関しては間違いなくこの新世界最強の男よ」
「ラップバトルってのは即興でやるモンだ。その場に立って、その場で生まれた言葉で戦う。だからこそ本当にやってみないとわからないな。どちらにせよこの先は男の意地だ。勝つしかない」
――時間制限を設けた特殊ルールとは言え、異能戦では銃霆音と引き分けた。これから行うのが異能戦ではない以上、銃霆音から〈十天〉の資格を剥奪することは適わなくなったが、勝てば
「そっか……。でもアタシを庇って戦ってくれるんだもんね。応援しかできないけど……勝ってね」
「ああ、ありがとう」
「――ちょっ、勘違いしないでよね!?ア、アタシがアイツのこと嫌いなだけで、アンタのこと好きなわけじゃないから!」
突然顔を赤らめて誤魔化す日向。俺の右手の指に挟んだ煙草の煙が、ゆらゆらと夜空に立ち上る。
「はは、わかってるって」
すると、俺たちの会話を難しい顔をして聞いていた竜ヶ崎が、言った。
「おォ……さっきから言ってる内容が全然わかんねェな。結局銃霆音のヤツは何がしたかったんだァ?」
――おー、マジかコイツ。
――竜ヶ崎は究極のアホだ。日向とは違って救いようがないくらいに。まあ竜ヶ崎の生い立ちを考えればそれも仕方ないのだが。
「銃霆音はそこまで悪いヤツじゃないって話だよ」
「あっ雪渚氏……面倒になりましたな」
「おォ!アイツ悪いヤツじゃなかったのかァ!……ん?じゃあなんで陽奈子を〈十天〉から下ろそうとしたんだァ?」
「アホ……じゃなく竜ヶ崎さん……私から後で説明しますね……」
「おォ!姉御頼むぜェ!」
――さて、アホは放っておいて……。
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Solo Ranking
1.【天】
2.【天】
3.【天】
4.【天】
5.【天】
6.【天】
7.【天】
8.【天】
9.【天】
10.【天】
10.【天】
12.【極】
13.【極】
13.【極】
15.【極】
15.【極】
15.【極】
15.【極】
19.【極】――非公開――
20.【極】――非公開――
21.【極】――非公開――
22.【極】――非公開――
22.【極】――非公開――
24.【極】――非公開――
24.【極】――非公開――
26.【極】
↓
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「お、二十六位……!?めっちゃ上がったな」
――非公開設定にしていても自身だけは順位表に表示されるようになっている。二十六位――かなりの昇格だ。
「銃霆音さんと引き分けたためでしょうね」
優雅に佇む天音が俺の様子を見て、欲しい答えをくれた。
天プラの技術力は凄まじいものだが、社長である一二三を良く知る俺に言わせれば特に驚きはない。
画面に映る第二位に表示される名前はよく知る名前――
「この三十位以内のトップランカーのうち三名がこの場に集まっているとは……いやはや現実味がありませんな」
「おォ!姉御も世界二位で陽奈子も世界七位じゃねェかァ!すげェ!」
「竜ヶ崎ちゃん……〈十天〉の第二席と第七席なんだからそうでしょ……」
「そういうことかァ!なァボス!これはこの下も見れるのかァ?」
「ああ、こうやってスクロールすれば見られるぞ」
「おォ!すげェ!名前がいっぱい書いてあるじゃねェかァ!」
――銃霆音に勝って、
「そう言えば雪渚氏、色々あって忘れてましたが一攫千金の策というのは銃霆音氏から三百枚の
――お、いいタイミングで質問するな。そう言えばその説明をしていなかった。
「ああ。元々今夜の〈
「そのために
「案外建前かもしれないけどな。俺が単純に久々にラップをやりたかったってのもあるかもな」
すっかり短くなった煙草を灰皿スタンドに捨て、喫煙所を出る。夜の街は行き交う若者たちで賑わっていた。異常なほどに。
「むむっ、ヤケに人が多いですな」
「おォ?みんな同じ方向に向かってねェかァ?」
「『超渋谷第一体育館』の方向じゃない?」
「大きな会場ではありますが……変ですね。そのキャパを考慮しても人が多すぎます」
すると、メイド服に身を包む天音の姿を見つけた二人の街行く若い男女が、天音に声を掛ける。目をキラキラと輝かせて。
「――〈十天〉・第二席の天ヶ羽さんですよね!?生配信観ました!」
「生配信……ですか?」
「うわ……!スゴい!陽奈子様もいる!めっちゃカワイイ!」
「あ、ありがと」
「それに
――
「あ、ああ……どうも」
「すみませんでした!急にお声掛けして!頑張ってくださーい!」
「えっスゴ……天ヶ羽さんもめちゃ美人――って待ってケンくん!」
そう一方的にエールを送った男女は、そそくさとその場を去っていった。二人は「超渋谷第一体育館」の方角へと真っ直ぐ向かってゆく。
――なんだ?生配信?バトル?それにまだ名前しか公表されていないハズの〈十天〉・第二席。天音の姿を見て、何故一目で天音本人だと見抜いた?
「な、なんだったのですかな?」
「なんだァ生配信って?姉御ォ、動画でも回してたのかァ?」
「いえ……そんなことはしておりませんが……恐らく」
「あーあまねえ、そういうことね……。マジ最悪、アイツの仕業ね」
「待ってくれ、俺も訳が分からん」
「夏瀬。また銃霆音の仕業よ。忘れてたわ、アイツらの城――ナイトクラブ・
「はい。目的はシンプルにHIOHOPを世界中に広めるため、だったような気がしますが」
「動画サイトか。そうか、生配信していたということは――」
「――はい。先程の異能戦の様子、
「マジか……」
――そりゃ〈十天〉・第二席の天音の姿もわかるし、俺と銃霆音が異能戦で引き分けたことも知っているし、これから俺がEMB本戦に出場するのも街行く人が知っているわけだ。
――銃霆音――アイツが異能戦の直前、
「いや待て……たかだかライブカメラのようなモンだろ。視聴者数も大して伸びてないんじゃないか?」
「あーそれだけどね……。夏瀬。これ見て」
日向が可愛くデコられた自身のスマホ――その画面を俺に見せる。そこに映っていたのは、
――そこには、動画サイトのURLと共に、「二十一時開戦。要チェック系。全員で見極めろ。」とのみ
「異能戦のタイミングでの視聴者数は確認できませんが……〈十天〉である銃霆音さんがわざわざ告知したということは、相応の人数が視聴していたことは容易に想像できてしまいますね……」
「アイツ……!そういうことか。銃霆音だけが、じゃない。世界に、〈
「……銃霆音氏も本気ですな」
「問題ねェだろォ!ボスが銃霆音を倒すからなァ!」
――相手にとって不足なし、か。
「――よし、行くか」
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