異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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1-57 Round1:人生賛歌

『EXTREME MC BATTLE 2110 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL!決勝戦!先攻MC Algernon(アルジャーノン)!後攻Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)!八小節四本!』

 

 ――始まる……!

 

 前傾姿勢で銃霆音さんに、今にでも飛び掛かりそうな勢いで身体を前後に揺らすせつくん。一方のThunder(トンダ) Rhyme(ライム)は手をクイッと動かし、銀色のグリルを覗かせながら挑発する。竜ヶ崎さん、御宅さん、日向さん、手毬さん――そして、新世界で夏瀬雪渚を知る全ての者たちも、息を呑んでその様子を見守っていた。

 

 ――せつくん。信じていますよ。私は、いつでも。

 

『――Ready Fight!!!』

 

 司会の掛け声と同時に、ドゥクドゥクドゥクドゥク――というスクラッチ音。そして、beatが流れ始める。

 

 せつくんはbeatが流れるのと同時に、驚くほどの熱量(バイブス)で、音楽に言葉を乗せる。せつくんの声音が、アリーナ中に反響する。

 

「――竜虎相搏(りゅうこあいうつ)つ!この瞬間を『(また)ぎ』!お前の言葉は全部『ハッタリ』?希死念慮(きしねんりょ)と後悔で重ねた『(わだち)』!立てた中指が挨拶『代わり』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 巻き起こる大歓声。ムービングライトやスポットライトの光がステージの上で交錯し、中指を立てるせつくんの姿を劇的に映し出す。まるで時が止まったのかと錯覚するほどの衝撃だった。思わず慣れない歓声を上げる。

 

 ――凄まじい気迫。せつくんの全てを込めた即興の音楽。

 

「『延長戦』だぜ!さっきの『異能戦』!!()手斬(たぎ)って悪かったな!お前の『二の腕』!!」

 

 私は既にその姿に見蕩(みと)れていた。

 

 ――これは……せつくんの人生賛歌だ。

 

「My name is Algernon(アルジャーノン) a.k.a. 夏瀬『雪渚(せつな)』!!かつての日本を席巻(せっけん)した『伝説だ』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 オーディエンスを正面に向いて、そう1(ワン)バース目を締めたせつくんに再び、思わず私たちも歓声を上げてしまう。せつくんの1(ワン)バース目を聞いたThunder(トンダ) Rhyme(ライム)は身震いした。そして、スクラッチ音と共にThunder(トンダ) Rhyme(ライム)の番へと移り変わる。

 

「そうだぜ♪さっき引き分けた『異能戦』!!一つは秀でたらしいな『優等生』!!オレが持ってる♪その伝説を築く『主導権』!!クソ陰キャ♪骨まで噛み殺す『軍用犬』!!!ハハッ♪」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 リズムに乗って、上体を揺らしながらアンサーを返すThunder(トンダ) Rhyme(ライム)。彼もまた、凄まじい熱量(バイブス)で。

 

 ――流石に上手い……!即興で韻を踏みつつ文章を成り立たせ、その上でアンサーを返すなんてどれだけ難しいか……!

 

「オレの言葉は何にも『替えられない』!!オレは仲間がいるから『負けられない』!!アルジャーノン弱くて目も『当てられない』!!つーか弱い者(いじ)めが『()められない』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 そう締めながら前方へスライディング正座――というパフォーマンス。会場が沸く。Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)もまた、圧巻であった。そしてスクラッチ音と共に、再び、せつくんのターン。

 

「確かに俺があの日の『優等生』!!Wack(ワック)陳腐(ちんぷ)なdisがマジ『ずっとうぜえ』!!此奴(こいつ)(ちまた)で噂の『有頂天』!!カウンター一発で仕留める『竜王戦』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 ――ヤバい。カッコよすぎる。

 

「『無条件』に勝てるから乗ってきた『輸送船』!!そもそも持ってねえだろこの先の『入場券』!!専売特許なんだよ究極の『頭脳戦』!!ほら、右手にMIC(マイク)掴んだら『優勝へ』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 天を高らかに指差すせつくん。それを受け、大歓声と共に赤と青の二本を束ねたサイリウムが会場中から高らかに掲げられる。

 

 ――Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)が言った「優等生」の韻で最後まで……!

 

 興奮した様子で竜ヶ崎さん、御宅さん、手毬さんが歓声を上げる。日向さんもまた、その姿に恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべていた。次は、Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)

 

「オレが作ってんだ♪音楽の『流行は』!!再び海底二万マイルまで『急降下』!!!ハハッ♪」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 ――悔しいけど上手い。でも、せつくんも負けていない。

 

「オレが魅せに来た『ワードプレイ』!!世界一だぜ♪堪能しな♪全員『カッ飛ぶぜ』!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

「イキったチー牛ブッ殺す『桶狭間(おけはざま)』♪戦国♪天下人(てんかびと)に成るのは『オレじゃなきゃ』♪」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

「オレが(ひね)る時代の『ドアノブなら』♪東大生の返り血浴びる『織田信長』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 楽しそうに、だが真剣な、Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)。再び、せつくん。既に折り返しだ。

 

「『東大生』『問題ねえ』『放火事件』『Go my way』♪気付いたらお前は『場外でーす』♪」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

「『頂上決戦』♪『本当に弱え』♪信長討ち取る『本能寺の変』!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 抑揚をつけながら、楽しそうに言葉をマイクに込めるせつくん。そして、せつくんは再び熱量(バイブス)を加速させる。

 

「殺し損ねた第八席、『仕留めに来たぞ』!!また名前を世界に『広めに来たぞ』!!歯ァ食い(しば)れ!俺が『ブチカマすぞ』!!明日の朝刊の一面は『俺が飾るぞ』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 ――カッコよすぎるだろ……私の彼氏……!

 

 続くのは、Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)の3バース目。

 

「ニュースとラジオ♪そして『新聞も』♪世界が揺れる♪オレが『韻踏むと』♪」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 オリジナリティを交えた名曲のサンプリング。会場も自然と沸き上がる。全身を使って喜びを表現する、楽しそうなThunder(トンダ) Rhyme(ライム)の様子からは、HIPHOPという文化が大好きなのだと伝わってくる。

 

「本能寺の変?『冗談じゃない』!明智を討ち取る『山崎の戦い』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 ――これは切っ先三寸の斬り合いだ。言葉の刃で……お互いがお互いを全力で殺しに掛かっている……!

 

「『歯ァ食い縛って』『(まく)し立てる』!!声を(とどろ)かす全国『各地まで』!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

「真夜中でも照らすぜ『五月晴(さつきば)れ』!!『勝つしかねえ』!!オレらは『やるしかねえ』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 この二人は最早(もはや)、完全にお互いを認め合った上で、最高の好敵手だと認めた上で、その上で相手を全身全霊を(もっ)て殺そうとしている。そのことは、誰の目にも明らかだった。――そして、最後のせつくんのターン――ラストバース。

 

「そうだろ!俺らは『やるしかねえ』!死んでも残るverse(バース)『吐くしかねえ』!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

「でも黙って聞いてりゃ『ホントつまらねえ』!!あんたの首斬る『妖刀村雨(ようとうむらさめ)』ェ!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 首を斬るジェスチャーを交えた、せつくんの魂のバース。会場が三度(みたび)、沸き上がる。

 

「一歩『踏み出す』!お前じゃ『無理だ』!ブチ殺しに来た俺!『堕天使ルシファー』!!!』

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

「俺は仲間と明日を『生きるため』!!そのために此処(ここ)に俺が『いるんだぜ』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 親指を下に向けてステージの床を指し示すせつくん。三度(みたび)、自然と歓声を挙げてしまう。

 

 ――嗚呼(ああ)、せつくんがあんなに楽しそうなのは本当にいつぶりだろう。良かったね……良かったね……せつくん。もう……泣きそうだ。

 

 ――せつくんの言葉を受け、Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)のラストバース。

 

「ブチ食らったよ♪Niceな『サンプリング』!!オレの喉に(ひそ)んでる『ファフニール』!!聴こえた福音(ふくいん)♪『大天使ガブリエル』!!仲間と掲げたクランが『タッグチーム』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 自身が着る、銃と弾丸のグラフィティが描かれた黒いパーカーを少し引っ張って観客にまざまざと見せつける。会場は割れんばかりの大歓声に包まれていた。

 

「『ハウリング』するくれえ声を『枯らす』!!三本足でStageに立つ『八咫烏(やたがらす)』!!!討ち取ったり♪稀代(きだい)の『天才も』!!!貧民から成ったぜ『天下人』!!!」

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 ――これは……!

 

「――やばいやばいやばいやばい!!!」

 

「エグいって!!!」

 

「MC Algernon(アルジャーノン)やべえって!」

 

Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)ー!!!」

 

 赤と青、二色のサイリウムが会場中で掲げられている。大歓声の中、二人の男は全てを出し尽くしたかのように息を切らして、ただただお互いの目をしっかりと見据えている。二人の額に汗が伝う。

 

 その戦いを間近で見届けた司会の男は、マイクを口に近付けて、会場全体に呼び掛ける。

 

『素晴らしい……!素晴らしいバトルでした……!』

 

 司会の男の心からの言葉だった。そして一方の観客たちは、その余韻から抜け出せないでいる。司会の男は言葉を継ぐ。

 

『それでは……!ジャッジに入ります!「ヤバかった」と思うMCに!手を挙げてください!より歓声が上がったMCが優勝となります!!』

 

 ――Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)も間違いなくヤバかった。でも、私はせつくんの言葉の方が刺さった。それは……私がせつくんの彼女だからという理由ではない。最早(もはや)この勝負は、そんな理由で勝敗を決めていい勝負ではない。

 

『まずは……!先攻!MC Algernon(アルジャーノン)!!』

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 割れんばかりの大歓声。私と同じ考えに至ったであろう竜ヶ崎さん、御宅さん、日向さん、手毬さんもサイリウムを掴んだ片手を大きく挙げ、歓声を上げる。

 

 ――これだけの人が……せつくんに……!

 

『続いて後攻!Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)!!』

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 ――歓声は半々……!これは……!

 

『おっと……もう一度聴かせてください!先攻――MC Algernon(アルジャーノン)!!』

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

『後攻――Thunder(トンダ) Rhyme(ライム)!!』

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

『――延長ッッッ!!!』

 

「「「「「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」」」」」

 

 会場中から、まだ魅せてくれ、もっと魅せてくれと言わんばかりの大歓声。最高潮に達していたはずの会場の熱は、更にヒートアップしていた。

 

 ――時刻は既に深夜二時を回っていた。夏瀬雪渚と銃霆音雷霧の両名が支配する夜は、終わらない。




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