異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
2-1 Xmas Adam
――年の瀬に差し掛かった二一一〇年十二月二十三日。
四億人のフォロワーを抱える陽奈子の
それに加え、〈竜ヶ崎組〉壊滅のニュース、雷霧との異能戦――異能バトルやMCバトル――様々な要因が影響してか、俺の特に何も投稿していない
――そして俺は、天音、陽奈子が見守る中、現在、「剣聖大将軍」の異名を持つ〈十天〉・第五席――
「――雪渚殿、脇が甘いで御座るよ」
「……くっ!」
――場所は、江戸の城下町を彷彿とさせる和風の街並みの〈
――大和國綜征がクランマスターを務める世界二位のクラン・〈
「遅い……。遅いで御座るな」
「うおっ……!やっば……!」
大和國さんが振るう刀――ではなく細い木の枝から放たれる衝撃波を避け、身体を大きく捻る。赤いニット帽を
敷地内――天守閣の前の広場に集まった、
『掟:一切の攻撃を禁ず。
破れば、全身が炎上する。』
「
――なんでわかるんだよ……!
大和國さんは、
「――
大和國さんが一歩踏み出す。大和國さんが枝木を、まるで空を切るように振り払うと、衝撃波――ソニックウェーブが凄まじい勢いで俺に襲い掛かる。空が、割れたかのように映った。
「――あっぶ!」
俺の頬を
一方、眼前の大和國さんは、衝撃の光景に包まれていた。大和國さんの全身は突然、激しい炎にめらめらと包まれる。大和國さんの右手に握られていた木の枝が燃え、地に灰となって落ちる。午後の快晴の空の下、凄まじい炎の熱気が、こちらにまで伝わってくる。俺の頬から、赤い血がぽたりと垂れる。
「ほう……『攻撃すると炎上』という掟で御座ったか」
大和國さんは、それでも全く動じない様子で、炎に包まれた自身を覗き込むように、興味深く観察していた。そして、そのままゆっくりと俺に歩み寄ってくる。
「化物っすよ……師匠……」
――そして、俺の胸に、開いた
「うぐっ……」
胸に強烈な痛みが走る。心臓が体内でのたうち回り、破裂したのかと思うほどの、想像を絶する痛み。それは、以前戦った、〈竜ヶ崎組〉・組長――竜ヶ崎龍等とは
「はぁっ……はぁっ……」
俺はトランプ柄の柄シャツの上から胸を抑えて、あまりの痛みに思わずしゃがみ込む。荒れる呼吸を必死に整える。その様子を見兼ねた二人の人物が、俺たちを囲っていたギャラリーから飛び出してきた。
「――せつくん!」
「――雪渚……っ!」
その二人の美女――天音と陽奈子は、俺に駆け寄る。二人の表情には心配の色が強く滲んでいた。天音は神話級異能、〈
「……雪渚、大丈夫?痛くない?」
「あ、ああ……ありがとう二人共」
顔を見上げると、その古風の糸目な侍――大和國さんが俺を見下ろすように堂々と立っていた。いつの間にかその身を包む炎は消えており、筋骨隆々の上裸の上から羽織った黒い袴も、モヒカン風ツーブロックの髪も一切焦げた様子もなく。大和國さんのバックに聳え立つ天守閣と、満天の青空に上る太陽が圧巻だった。
「師匠……降参です。次元が違いすぎますよ」
「ははは、雪渚殿。まだ実力を隠しているように見受けられるが?」
「……勘弁してくださいよ師匠。全力でやっても勝てそうにないから降参です。師匠ならお見通しでしょうに」
――実は俺は実力を隠している……と言いたいところだが本心からの言葉だ。この人――師匠には一切の隙も見当たらない。
「ははは、だが
そう言って師匠は豪快に笑い飛ばす。だが、それと同時に心から俺を賞賛していることも読み取れた。
「師匠……やっぱ枝木で空を割ったって話……マジですよね……」
「はは、どうだったで御座るかな……」
――頭を使ってどうこう……という次元じゃない。圧倒的な強さの前には、どんなに卓越した頭脳も無意味なのだと思い知るには十分な経験だった。
「せつくん、傷は癒えたかと思いますが、あまり無理して動かれない方がよろしいかと」
「ああ、ありがとう天音。楽になった」
その場にゆっくりと立ち上がる。敷地内――天守閣の周囲には、
「師匠、剣術だけでなく武術の心得もあったんですね」
「肉弾戦となると麓殿や日向殿に軍配が上がるで御座るがな」
すると、師匠の袴の内側から音が鳴る。この新世界で今時四和音の着信音――着メロだ。師匠はスマートフォンを見て告げた。
「むっ、ばいとの刻で御座るな」
――〈十天〉として莫大な収益を得ているはずだが、師匠はバイトをしているらしい。金銭目的というよりは、アルバイトを通じて新世界の住民たちと触れ合うのが主目的のようだ。
「
「いえ。師匠、今日もありがとうございました」
――実は俺が〈極皇杯〉の〈
――大和國さんとの最初のバトルで、俺は手も足も出ずに完敗した。大和國さんは「稽古をつけてやっても
「うむ、明日は〈極皇杯〉の予選で御座るな」
「そうですね。〈
「うむ。期待しているで御座る」
そう言って、師匠は袴姿の男たちと共にその場を去った。すると陽奈子が、豊満な胸を俺に押し付けて抱きついた。
「雪渚!お疲れ様!カッコよかったよ!」
「いやいや完敗だって……。あれで異能使ってないんだろ?化物だろマジで……」
「――陽奈子さん!大和國さんが去ったからと言ってせつくんにくっつきすぎです!離れてください!迅速に!」
「えー!やだー!」
取っ組み合いを始める天音と陽奈子を横目に、背後を振り返ると、一人の青年が俺に歩み寄った。赤い着物風の上着と紺色の袴風の
「雪渚殿、兄者とあのれべるの戦いをされるとは流石です。やはり銃霆音殿と引き分けた実力者ですね」
――彼は
「終征さん。ありがとう」
「雪渚殿と〈極皇杯〉で手合わせできるのを楽しみにしてます」
そう言って終征はにこりと笑った。師匠ほどの体格ではないものの、その動きや表情一つ一つから、何か洗練されたものを感じさせた。彼もまた、間違いなく強者だ。
「ええ。お互い頑張りましょう」
――そうして俺たちは大きな城門を出て、〈桜和門城〉を去った。江戸の城下町を彷彿とさせる和風の街並み――〈桜和門エリア〉の通りを歩きながら、両脇を歩く天音も陽奈子と共に、和のイメージの下に建てられた桜和門駅へと向かう。
横並びになって歩く俺たちの脇を、人力車が通過する。その人力車を追い抜くように、時代錯誤も
「やっぱり間違いなく去年のファイナリスト――優勝した銃霆音を除いた七名は優勝候補の一角よね。その中でもBEST4に残った三名は規格外だし……。まあもちろん雪渚が優勝するんだけど」
――〈十天〉と〈極皇杯〉のファイナリスト。〈世界ランク〉からも読み取れる通り、〈十天〉には及ばないものの、〈極皇杯〉のファイナリスト連中も超が付く実力者なのは間違いない。
――優勝して〈十天〉入りしたため出場しない雷霧を除いて、直接会って知るだけでも終征さんに幕之内。両者共に強者だ。俺や竜ヶ崎は、明日からの〈極皇杯〉で、そんな猛者連中と戦わなければならない。
「そうですね。それに昨年のファイナリストだけが優勝候補という話でもなく……今年は何か波乱が起きそうな気がしてなりません。せつくんが優勝する、という未来だけは確定していますが」
――二人は全く悪気なく、俺を褒めたいだけなんだろうが……ナチュラルに俺にプレッシャーを掛けていることに全く気付いていないな……。
「うーん、そうよねあまねえ。でもアタシたちは雪渚を全力で応援しよ。〈十天〉としてはフェアじゃないかもしれないけど知ったことじゃないわ」
「そうですね。とは言えやはり、全て取るに足らない
――どうも少しずつ口が悪くなるな天音。いやだが、壊れた心が治り始めた兆候と見るべきかもしれない。
「世界的な〈極皇杯〉をクソ大会……ってあまねえ……。あまねえが〈十天〉じゃなかったら炎上してる問題発言ね……」
――すると、俺のズボンのポケットの中のスマートフォンから通知音が鳴る。スマホを確認すると、竜ヶ崎から
「お、竜ヶ崎と拓生も無事終わったようだな。このまま〈オクタゴン〉に戻るか」
「うん!」
「はい、せつくん」
陽光が、俺たちの足取りを明るく照らしていた。裏起毛になったニット帽の温かさが、少しだけ心地良かった。
評価やお気に入り、感想等で
応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします。