異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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2-2 一番槍

 ――一方、〈神威結社〉の竜ヶ崎巽、御宅拓生の二名は、〈十天〉・第八席――銃霆音雷霧がクランマスターを務める〈鉛玉CIPHER(なまりだまサイファー)〉の居城、ナイトクラブ・NERF(ナーフ)に再び足を運んでいた。

 

 二週間ほど前に夏瀬雪渚と銃霆音雷霧の両名が激戦を繰り広げた、メインフロアのステージの上で、二人の男女が雌雄を決する。〈鉛玉CIPHER(なまりだまサイファー)〉に所属するダンサーの面々が、二人に絶え間ない声援を投げ掛けていた。

 

「「うおー!!いいぞー!!」」

 

「「DJ RYOGAーー!!!」」

 

「「巽ちゃーーん!!!」」

 

 黄色い二本の角を生やした長い黒髪の女――竜ヶ崎巽は、ステージの上で高く跳躍すると、アクロバティックに相対する男に向けて急降下する。女が生やした、鱗を纏った尻尾がステージに激しく叩き付けられる。

 

「――『竜ノ尻尾(ドラゴニックテイル)』ッ!!!」

 

 相対する、左右に長い金髪を分けたロン毛の男――帯刀(たてわき)凌駕(りょうが)は、間一髪でそれを回避し、即座に反撃に移る。男のサングラスにミラーボールが反射する。

 

「……ッ!『第二楽章』……っ!」

 

 男の身体が、瞬く間に青い光に包まれる。しかし、その一瞬の隙を竜ヶ崎巽は見逃さなかった。

 

「――『竜ノ両鉤爪(ダブルドラゴニッククロウ)』ッ!!!」

 

 竜ヶ崎巽が、その両の鉤爪――〈ヴァンガード〉でX字に空を切り裂く。その攻撃が帯刀凌駕に直撃する。だが、しかし――。

 

「……なッ!?効いてねェ……!?」

 

「いやいや竜ヶ崎巽ちゃん、俺の異能はこっからだよ?」

 

 帯刀凌駕は、右手に持っていたステンレス製のヨーヨー――その円盤をくるくると回して上下させ、勢い良く円盤を竜ヶ崎巽に向かわせる。帯刀凌駕は巧みなコントロールで竜ヶ崎巽に三連撃を与える。しかし――。

 

「――おォい!さっきからオモチャじゃねェかァ!こんなモン効くかよォ!」

 

「ははは、竜ヶ崎巽ちゃん!それはどうかな!?」

 

 更に帯刀凌駕はヨーヨーによる攻撃を連続して竜ヶ崎巽に命中させる。

 

「――舐めてんのかァ!『竜ノ息吹(ドラゴニックブレス)』ッ!!」

 

 竜ヶ崎巽は口から火炎放射――対峙する帯刀凌駕はそのステンレス製のヨーヨーを、ぐるりと弧を描くように眼前で回転させると、その風圧で炎を消し去った。

 

「――うおッ!?マジかよォ!いいじゃねェかァ!」

 

「よし……来た!『第三楽章』……!」

 

 次は帯刀凌駕の全身が一瞬、赤い光に包まれる。対峙する竜ヶ崎巽の長い黒髪が、その激しい動きに合わせて揺れていた。

 

 ――〈鉛玉CIPHER(なまりだまサイファー)〉のクランサブマスターである帯刀凌駕の異能は、偉人級異能、〈運命(ベートーヴェン)〉である。

 

 ――一定のリズムで攻撃を行うことで、「楽章」を進め、それによって徐々に自身が強化されてゆくという異能である。「第一楽章」で「俊敏性向上」、「第二楽章」で「ダメージ軽減」、「第三楽章」で「攻撃力上昇」、「最終楽章」に到達すればそれまでのバフ効果が全て倍加され、驚異的な戦闘力を誇ることとなる。

 

 しかし、竜ヶ崎巽は事前に受けたそんな小難しい話は全く理解していなかった。彼女はただただ、自身が忠誠を誓うボス――夏瀬雪渚に勝利を捧げるため、彼に勝利を報告するために死力を尽くして戦っていた。

 

「なんだァ……!?突然攻撃力が……ッ!?」

 

 執拗(しつよう)に竜ヶ崎巽を責め立てるヨーヨーの波状攻撃に、竜ヶ崎巽の黒い軽装の鎧の一部に亀裂が入る。それは本来、帯刀凌駕の偉人級異能、〈運命(ベートーヴェン)〉が「第三楽章」にまで到達しなければ、絶対に付けられない傷であった。その様子をステージの下で見守る、銃霆音雷霧と御宅拓生が呟く。

 

「お♪『第三』まで進んだか♪ありゃあのドラゴンガールの身が持たねーぞ♪」

 

「まずいですな……。単純な異能の階級だけで言えば帯刀氏は竜ヶ崎女史よりも格上ですぞ」

 

「豚クン♪それでもドラゴンガールが勝つって言ったな♪」

 

「フフフ……もちろんですぞ!〈神威結社〉の一番槍の力はこんなものじゃありませんからな……!」

 

 肥満体でおかっぱ頭、丸眼鏡にアニメキャラが描かれたパツパツのTシャツという、珍妙な格好の男――御宅拓生は、丸眼鏡のブリッジを指で押さえ、ニヤリと笑った。彼の丸眼鏡のレンズが妖しく光を反射する。

 

「――竜ヶ崎巽ちゃん!そろそろ終わらせようか!」

 

「――『竜ノ鉤爪(ドラゴニッククロウ)』ッ!――『竜ノ尻尾(ドラゴニックテイル)』ッ!」

 

 竜ヶ崎巽は、矢継ぎ早に繰り出される金属製のヨーヨーの攻撃を、両の鉤爪や尻尾をフルに活用して応戦するも、一歩足りない。その黒い軽装の鎧の(ひび)が、徐々に増えてゆく。

 

 ――竜ヶ崎巽が技名を叫ぶのは、決して無駄な行動ではない。未だ未知の力である異能のコントロールは難しいため、新世界の多くの住民――特に異能バトルを行う者が呼吸をするように、当然のように行っている行為の一つだ。

 

 ――完成させた技に名前を付けて、それを叫ぶことでその技が即座に発動できるよう身体と己の異能に染み込ませる。パソコンのキーボードにおいて、「Ctrl+C」で選択した項目をコピーできるように、ショートカット機能の役割を果たすのが「技名を叫ぶ」という行為なのだ。

 

「――クッソ!鎧壊しやがってよォ……!姉御の手を(わずら)わせることになるじゃねェかロン毛野郎ォ!」

 

「――っしゃ来た!『最終楽章』っ!」

 

 帯刀凌駕の身体が、刹那(せつな)、黄金の光に包まれる。見た目こそ変わらないものの、その男――帯刀凌駕が発する存在感は最早(もはや)、先刻の帯刀凌駕とは見違えるようだった。その様子を見た観衆が湧く。

 

「来た……っ!リョーガさんの『最終』……!」

 

「巽ちゃんやべーぞ!気張れよ!」

 

「リョーガさん行けー!!」

 

 更に威力と速度を増したヨーヨーの止めどない波状攻撃が竜ヶ崎巽を容赦なく襲う。竜ヶ崎巽は必死に応戦するも、竜ヶ崎巽はヨーヨーへの対処に必死で、まるで帯刀凌駕に攻め込めない。

 

 体力の消耗も激しく、一撃が重いヨーヨーによって、その体力すらもどんどん削られていく。竜ヶ崎巽が劣勢――彼女が敗北するのは時間の問題だった。

 

「――そろそろ降参したらどうだい!?竜ヶ崎巽ちゃん!」

 

「クッソ……!強ェな……!」

 

 そして、メインフロアの端でステージの上の異能バトルを見届ける御宅拓生と銃霆音雷霧も口を開く。

 

「あー♪終わったんじゃねーかこれ♪」

 

「む?〈神威結社(ウチ)〉の竜ヶ崎女史は負けませんぞ!」

 

「あーいや♪そーじゃなくて――リョーガが♪」

 

 ――帯刀凌駕のヨーヨーが、竜ヶ崎巽の顔の前――眼前に現れた。帯刀凌駕は、竜ヶ崎巽の頭に一撃加えて気絶――この勝負を(たた)むつもりだった。

 

 ――しかし、竜ヶ崎巽は、「待ってました」とばかりに口角を上げ、大きな声で叫んだ。

 

「――『竜ノ犬牙(ドラゴニックファング)』ッ!!!」

 

 そう叫び終えるのと同時に、竜ヶ崎巽は、眼前に現れたヨーヨーに食らい付き――噛み砕いた。牙を剥き出しにした竜ヶ崎巽の口の両端から、金属が(こぼ)れ落ちる。そして、竜ヶ崎巽は笑って、帯刀凌駕に飛び掛かる。

 

「なっ……!?」

 

「ッしゃァ!かかったなァ!」

 

「……なっ!?」

 

「――『竜ノ両鉤爪(ダブルドラゴニッククロウ)』ッ!!!」

 

 竜ヶ崎巽は帯刀凌駕の首を目掛け、X字に両の鉤爪で切り裂いた。――かと思うと、その鉤爪の先端が、頸動脈を切り裂く寸前で止めた。一呼吸置いて、諦めたように溜息を()いた帯刀凌駕が告げる。

 

「……降参だ。参ったよ、竜ヶ崎ちゃん」

 

「――ッしゃァ!!」

 

 全身を使って喜びを表現する竜ヶ崎巽。帯刀凌駕は竜ヶ崎巽に問う。

 

「竜ヶ崎巽ちゃんは直情タイプだと思ってたけど……策を練ってたのか……」

 

「ガッハッハ!ボスに『奥の手は最後まで見せるな』って教わったからなァ!」

 

 そう言って竜ヶ崎巽は笑う。観衆たちの拍手の中、御宅拓生と銃霆音雷霧がステージに歩み寄り、ステージの上に立つ二人を見上げた。

 

「おーリョーガ、ドンマイ♪」

 

「いやーすまん雷霧。負けちまったよ」

 

「流石アルジャーノンの仲間ってトコか♪まあリョーガしゃーねー♪切り替えてけ♪」

 

「おう雷霧。サンキュな」

 

「この勝利をボスに捧げるぜェ!」

 

「竜ヶ崎女史!これでここ最近挑まれた勝負は八連勝ですな!」

 

「おォ!」

 

「ドラゴンガール♪リョーガに完勝とはやるじゃねーか♪マイメン・アルジャーノンほどじゃねーが、〈極皇杯〉もいいトコ行くんじゃねーか♪」

 

「当然だァ!ボスが優勝してアタイが準優勝!これしかアタイは考えてねェからなァ!今なら銃霆音!テメェにも勝てる気がするぜェ!」

 

「舐めんな♪そりゃ無理だろ♪〈十天〉の壁は高え♪」

 

「ちぇっ!〈極皇杯〉に〈十天〉の参加が許されるなら()りたかったぜェ!」

 

「あとよドラゴンガール♪『アルジャーノンが優勝する』とか言ってたがそれも無理だぜ♪」

 

 竜ヶ崎巽と御宅拓生の間に、少し不穏な空気が流れ、二人は顔を見合わせた。そして、竜ヶ崎巽は憤慨(ふんがい)しながらステージの下に立つ銃霆音雷霧に問い返す。

 

「はァ?何言ってんだ銃霆音よォ!ボスが負けるってのかァ!?」

 

「銃霆音氏、どういうことですかな?」

 

「確かにアルジャーノンはやべえ♪オレも食らった♪」

 

「むむっ、でしたら雪渚氏が優勝するというのは有り得る話なのではないですかな?」

 

「〈極皇杯〉は、『あ、コイツが今年は優勝だな』って空気を纏った『怪物(モンスター)』が毎年現れるンだよ♪」

 

「『怪物(モンスター)』……だとォ?」

 

「ちな、外野が言うには、その『怪物(モンスター)』は去年がオレでその前の前が〈十天〉のお侍サンだったみてーだな♪」

 

「あァ?ボスはその空気まとってるじゃねェかァ!」

 

「バーカ♪アルジャーノンはそこには達してねえ♪断言するぜ♪アルジャーノンは〈極皇杯〉を優勝できねえ♪」

 

「はァ……?何言ってんだァ?コイツはよォ」

 

「雪渚氏を認める銃霆音氏がそう言うでありますか……。気になりますな」

 

 その会話を、微笑みながら静観していた帯刀凌駕が、ふとスマホを取り出すと、突然慌てた様子で銃霆音雷霧に声を掛けた。

 

「――おっと!雷霧、そろそろレコーディングの約束の時間だぞ!夜はライブもあるし!」

 

「おっと、もうそんな時間か♪」

 

 ステージから下りた帯刀凌駕と共に、銃霆音雷霧が竜ヶ崎巽と御宅拓生に背を向ける。

 

「じゃあね、竜ヶ崎巽ちゃん。アツい試合だったよ」

 

「ま、楽しみにしてるぜ〈極皇杯〉♪アルジャーノンたちにもよろしくな♪」

 

「『れこーでぃんぐ』……?お、おォ!」

 

「お二方!またですな!」

 

 竜ヶ崎巽と御宅拓生は、クラブ内のレコーディングルームに入った二人を見届けた後、外に出た。クリスマスの装い――そんな昼の色町を歩きながら、〈歌舞姫町(かぶきちょう)エリア〉から〈オクタゴン〉のある〈真宿(しんじゅく)エリア〉を目指す。〈歌舞姫町エリア〉と〈真宿エリア〉は隣接しており、徒歩数分の距離感だ。

 

「竜ヶ崎女史。雪渚氏にこれから帰宅する旨伝えておいてくれますかな?」

 

「『帰宅する胸』……?ワケわかんねェこと言ってんじゃねェぞ拓生ォ!」

 

「相変わらずアホですな……。スマホで雪渚氏に、帰ると連絡するんですぞ」

 

「おォ!アタイが連絡していいのかァ!?」

 

「竜ヶ崎女史、雪渚氏からスマホを買ってもらって喜んでいた様子でしたからな」

 

「ッしゃァ!任せろォ!アタイがボスに連絡をしてやるぜェ!」

 

 竜ヶ崎巽は軽装の鎧と肌の隙間から、そこに挟んでいた真新しいガラス製のスマートフォンを取り出した。それは陽光を受けてキラキラと輝いていた。

 

「えーとよォ、ぼ、す、い、ま、か、ら、か、え、る……ッと!これで完璧だァ!さすがアタイだなァ!」

 

 竜ヶ崎巽は嬉しそうにスマホを慣れない手つきで操作し、一件のメッセージを自身の敬愛する夏瀬雪渚宛に送った。

 

「待ってくだされ竜ヶ崎女史……。歩きスマホは危険ですぞ……!」

 

「ンなことより拓生ォ!アタイの勝利をボスに伝えなきゃなんねェぞォ!」

 

「そうですな!〈神威結社〉に竜ヶ崎女史が加入してからというもの、竜ヶ崎女史の成長は著しいですな」

 

「〈オクタゴン〉の地下のトレーニングルームのお陰だなァ!〈十天〉の陽奈子や姉御も手合わせしてくれて強くなれてるのを実感するしよォ!」

 

「実際今でしたら、もしかすると雪渚氏とも良い勝負するのではないですかな?」

 

「ボスが怪我するのが嫌だからって姉御に止められてボスとは戦えてねェけどよ。銃霆音がなんと言おォが、ボスと当たるなら〈極皇杯〉の決勝だァ!ボスの優勝で文句はねェが、前みてェに簡単には勝たせてやらねェぞォ!」

 

「本当に〈極皇杯〉が楽しみですな。バッチリお二方を応援させてもらいますぞ!」

 

「おォ!さすが拓生だァ!頼もしいぜェ!――ッしゃァ!早く〈オクタゴン〉に帰ろうぜェ!」

 

「そうですな!急ぎますぞ!」

 

 陽光が、二人の足取りを温かく照らす。竜ヶ崎巽の(つや)やかな長い黒髪が、冷たい風に(なび)いた。




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