異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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2-5 極皇杯

 ――二一一〇年十二月二十四日――クリスマス・イヴ。時刻は十五時に差し掛かろうという頃。よく晴れた空の下、街は聖夜の装い。

 

 世界六国のうち、旧世界のユーラシア大陸の東部――アジア大陸を中心として建国された〈日出国(ひいづるくに)ジパング〉の首都は、この〈王手街(おうてまち)エリア〉になる。

 

 〈王手街エリア〉のメインストリート。目に映る光景はまるで、「ハイファンタジー」の「異世界転生」系のライトノベル作品で見かける中世ヨーロッパ――所謂(いわゆる)、「ナーロッパ」の街並みだ。その世界観に見事にクリスマスの装いが調和している。

 

「この街は異世界ファンタジってるな……」

 

「そっか、雪渚は初めてなんだよね?」

 

「おォ!アタイもこの街は初めてだなァ!」

 

 露店が建ち並ぶ、石畳が敷かれた大通りは多くの人で(にぎ)わっている。目移りするほどの露店の品揃えに興味を(そそ)られる。武器や防具、回復薬等の戦闘に役立ちそうなアイテムや、物珍しい魔道具(まどうぐ)――魅力的な品ばかりだ。石畳の上に並べられた品々は、それぞれが物語を持っているかのように輝いていた。

 

「色々売ってますな!商人としては興味深いですぞ!」

 

「へえ、閉業につき在庫一掃(ざいこいっそう)セールだとよ」

 

「雪渚、それ一年前からやってるわよ……」

 

「閉店詐欺かい……」

 

「ふふ、せつくん楽しそうですね」

 

 ――世界観統一してくれよ……とは思うものの、アニメ好きなら物語の中の存在であった中世ヨーロッパ風の街並みに心踊ってしまうのも事実だ。

 

 初めて訪れるはずなのに何処(どこ)か慣れ親しんだ光景に、思わず感嘆(かんたん)の声が漏れる。石造(いしづく)りの建物が建ち並ぶ通りには、明るく輝くランタンやクリスマスツリーが並び、幻想的な雰囲気を(かも)し出していた。暖かな陽光が、俺の赤いニット帽を照らす。

 

「――むむっ、あれですな!」

 

「来たかァ!〈天上天下(てんじょうてんげ)闘技場〉……ッ!」

 

 メインストリートを進んだ突き当たり、〈王手街エリア〉の中心地には巨大な、巨大な円形闘技場――〈極皇杯〉の会場となる〈天上天下闘技場〉が(そび)え立つ。既にその大きな入口の前には人集(ひとだか)りができている。

 

 ――〈天上天下闘技場〉。〈極皇杯〉の予選――ではなく「本戦」が行われる会場である。

 

「おい、すげぇ……。〈十天〉・第二席の天ヶ羽(あまがばね)天音様に第七席の日向(ひなた)陽奈子様だぞ……!」

 

「陽奈子ちゃん顔良っ」

 

「〈十天推薦枠(ワイルドカード)〉の夏瀬だ!……ってことは〈神威結社〉か……!」

 

「天音様ビジュ爆発してんじゃん……!」

 

「アルジャーノン頑張ってー!」

 

 俺たちに気付いた人々が徐々に騒めき立つ。俺がその間を軽く手を振りながら通過する後を、天音、陽奈子、拓生、竜ヶ崎がついてくる。四億人のフォロワーを抱える陽奈子は笑顔で手を振りながら、天音は(うやうや)しく頭を下げながら。

 

「おーおー、中々の人気だな俺ら」

 

「さすがボスに〈十天〉だぜェ!」

 

「小生は肩身が狭いですぞ……!」

 

「拓生、お前は二週間で虹金貨(こうきんか)三百枚――旧世界で言う三億を五億に増やした化物だぞ。俺じゃできねー芸当だ。もっと自信持っていいって」

 

「そ、そうですな!雪渚氏にそう言ってもらえると救われますぞ!」

 

 入口に足を踏み入れると、影ができた空間がある。闘技場の観客席の真下に当たる位置だろう。既にロビーには出場者らしき人がごった返している。

 

 (ひし)めき合う人混みの奥に、「出場受付」と記載された白い札が置かれた受付カウンターが目に留まった。その奥の椅子に座る女性に声を掛ける。

 

「あのー、〈極皇杯〉にエントリーしたいんですが」

 

「こんにちは。参加希望の方ですね。氏名と、所属されているクランがございましたら教えていただけますでしょうか」

 

「〈神威結社〉の夏瀬雪渚です」

 

「確認させていただきます」

 

 受付嬢はそう告げると、眼前に展開されたホログラムディスプレイに触れ、操作する。数秒の沈黙があった後、受付嬢は顔を上げて愛想良く口を開いた。

 

「……はい、〈十天推薦枠(ワイルドカード)〉の夏瀬雪渚様ですね。お待ちしておりました。お話は〈十天〉の皆様より伺っております」

 

 ――把握済み、と……。まあ当然か。

 

「〈神威結社〉から出場されるのは夏瀬様のみでよろしいでしょうか」

 

「おォい!準優勝候補のアタイを忘れてんだろォ!」

 

「あんま言わないだろ。『準優勝候補』……」

 

「相変わらず巽ちゃんはアホね……」

 

「ふふ、通常運転ですね」

 

「竜ヶ崎女史、『アタイ』ではなく名前を伝えるのですぞ……!」

 

 拓生が耳打ちすると、竜ヶ崎は納得した様子で告げる。ロビー内に響き渡るほどのいつもの大声で。

 

「おォ!そうかァ!竜ヶ崎巽だァ!」

 

 受付の女性は眼前に展開されたホログラムディスプレイを再び操作し、竜ヶ崎の情報を確認すると、小さく頷いた。彼女はこちらを見て告げる。

 

「ありがとうございます。確認いたしました。エントリー費は一名様当たり銀貨一枚となります」

 

「はい、二人分のエントリー費です」

 

 そう言ってポケットから取り出した銀貨を二枚、カウンターに置かれたつり銭受け皿――正式名称、カルトンに載せる。

 

「銀貨二枚、確かに確認しました。では、こちらをどうぞ」

 

 そう告げて受付嬢が俺と竜ヶ崎に差し出したのは、赤いハート型の、手のひら大の宝石のようなものだった。それは形容し難い不思議な存在感を放ち、美しい光沢を帯びていた。

 

「ご説明いたします。今お渡ししたのは〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉という、〈極皇杯〉専用に開発された、〈極皇杯〉でのみ有効な魔道具です。そちらはエントリーの証明も兼ねております」

 

「へえ……」

 

 竜ヶ崎が隣で難しそうな顔をしながら〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉を弄っている。

 

「そちらを左胸――心臓の位置に押し当てていただけますと同期が完了します」

 

 受付嬢の指示の通りに、〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉を左胸に押し当てると、不思議なことに、まるで溶け込むかのように、すっと消えてしまった。それと同時に、心臓が波打つように、ドクンと鼓動する。

 

 ――同期が完了した……ということか。

 

「そちらは異能によって壊れることはございませんし身体から離れることもございません。〈極皇杯〉で優勝、()しくは敗退するまで出場者と共にあります」

 

 受付嬢は、丁寧かつ手馴れた口調で淡々と説明を続ける。隣の竜ヶ崎が、俺に(なら)って〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉を左胸に押し当てた。

 

「〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉は名が表す通り、所持する方の心臓――(すなわ)ち命を肩代わりするものです。出場者様が〈極皇杯〉で『死亡』すると、〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉が自動で発動し、出場者様の身代わりとなります」

 

「成程……ゲームで言うところの残機が一機増えるイメージですかね。本来一機しかない命を二機に増やしてくれる……」

 

「仰る通りです、夏瀬様。流石ですね……他の初出場者の方と比べて理解がお早いです。ですので出場者様がどれだけ激しい戦いをされても〈極皇杯〉での命の安全は保証されます」

 

 ――事前に調べて知ってはいたものの、この〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉のお陰で〈極皇杯〉ではガチで戦える、というわけだ。

 

 ――それと同時に、〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉の存在が、〈極皇杯〉で敗退した場合の言い訳を許さない。「殺しても殺人にならない」〈極皇杯〉で敗退することは、単なる実力不足だということになる。

 

「この魔道具……強力すぎませんか?」

 

「ええ、ですので〈極皇杯〉でのみ有効なのです。製造コストがとんでもなく高額なことを考えるとコストに見合っているのかは判断仕兼ねますが……」

 

「成程……」

 

「あァ?よくわかんねェなァ……?」

 

「竜ヶ崎……お前〈極皇杯〉に七度出場してるんじゃなかったのか。なんで理解してないんだ……」

 

「アホですな……」

 

 ――竜ヶ崎は過去七年間、十三歳の頃から兄――竜ヶ崎龍を討ち取るための資金稼ぎとして〈極皇杯〉に毎年挑戦していたらしい。ただ、結果は振るわず、毎年予選敗退で終わってしまっているようだ。そのことからも〈極皇杯〉の厳しさが十二分に(うかが)える。

 

「言葉を選ばずに言えば……要は相手を気にせず殺していいってコトだよ。これがあれば死なねえから」

 

「おォ!すげェじゃねェかァ!」

 

 ――とは言え竜ヶ崎もこの二週間で急激に成長した。ある程度は善戦するのではないだろうか、というのが俺の希望的観測込みでの推測だ。

 

「ではお二人共、間もなく開会式が始まりますので出場者観覧席入口へお進みください。ご健闘を祈ります」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「おォ!」

 

「天ヶ羽様、日向様は十天観覧席へお願いしますね」

 

「はーい!」

 

「かしこまりました」

 

 ――〈天上天下闘技場〉を囲う観覧席は、一般観客席、出場者観覧席、〈十天〉観覧席に分けられるらしい。新世界の頂点に座する人類最強の十一人――〈十天〉は何処(どこ)でもVIP待遇だ。

 

 陽奈子は俺たちへと向くと、笑顔で告げた。

 

「じゃ、アタシとあまねえはこっちだから……雪渚、巽ちゃん、頑張ってね!」

 

「せつくん、竜ヶ崎さん、ご健闘をお祈りしております」

 

 天音が俺の両手を優しく両手で包む。天音の体温が肌に伝わる。

 

「ああ……勝ってくる」

 

「――ッしゃァ!行くかァ!」

 

 ――観覧席入口に足を踏み入れ、上階の観覧席に続く広い階段を竜ヶ崎、拓生と共に駆け昇る。意気揚々と一段飛ばしで進む先頭の竜ヶ崎に俺が続く。その後ろに、拓生が丸々と太り上げた大きな腹を揺らしながら、必死についてくる。

 

「――ってなんで拓生もこっち来てんだァ!?拓生も出るのかァ!?」

 

「でっ……出ませんぞ!出場者のクランメンバーであれば出場者観覧席への立ち入りも許可されていますからな!」

 

「そうかァ!なァボス!開会式があるんだよなァ!?最前列で観るかァ!?」

 

「ああ」

 

「そうですな!」

 

 階段を上りきると、既に大勢の出場者が観覧席を埋め尽くしていた。彼らを横目に、階段状になった出場者観覧席の最前列の席を陣取る。俺たちが着席するやいなや、周囲の出場者たちが俺たちを見てウィスパーボイスで話しているのを背中に感じ取った。

 

「おい……見ろよ……優勝宣言の……」

 

「夏瀬か……」

 

「〈神威結社〉のヤツらだろ……?天ヶ羽様や日向様のクランの……」

 

「優勝宣言って怖いモノ知らずかよ……」

 

「同じブロックになりたくねーって……」

 

 ――まあこんなことは想定内だ。

 

「はっ、コイツら日和(ひよ)っちまって敵じゃねえな」

 

「あァ!始まる前からビビってるヤツらに負ける気がしねェよォ!」

 

「よ、よく平気ですな……お二方……」

 

 ――当然俺たち二人が優勝、準優勝のワンツーフィニッシュを狙うからには決勝で相対する可能性もあるが、それならそれで別に構わない。〈神威結社〉の名がより磐石なものになるだけの話だ。

 

「そういや終征(しゅうせい)さんや幕之内とも話したかったが……流石に人が多すぎてここから見つけ出すのは無理だな……」

 

 ――何せ今年の出場者数は四十八万人らしい。その大半が既にこの出場者観覧席に集まっていることを考えれば人探しはまず無理だ。

 

「あァ……アタイも手毬(てまり)に会いたかったんだけどよォ……」

 

「手毬の奴もやっぱり参加するんだな」

 

「おォ!クラン・〈十二支〉に誘いたいヤツが本戦経験者にいるって話だからなァ!」

 

「〈極皇杯〉のファイナリスト経験者か……。予選突破の大きな障壁になりそうだな」

 

「なァに!ボスとアタイなら問題ねェよォ!」

 

 ――だが手毬も参加するとなると、やはりこれだけの規模の〈極皇杯〉。意外な人物が参加していても不思議はないのかもしれない。

 

 犇めき合う人混みは出場者観覧席だけに留まらない。緊張感が走る出場者観覧席とは対照的に、一般観客席も同様に人が(あふ)れているものの、売り子にチアガールの姿もあり、既にそちらは異常なほどの盛り上がりを見せている。

 

 ――〈天上天下闘技場〉。収容人数は一千万人という超巨大闘技場。更にこの〈極皇杯〉、世界六国に生中継され、その視聴率は九割を超えるという化物コンテンツだ。

 

 ――ファイナリストに残るだけでも今後の人生に困ることはない。それに加えて世界中からスター待遇を受ける。優勝すれば虹金貨(こうきんか)千枚――日本円にして十億円が贈呈され、望めば〈十天〉入りも確約される。大会キャッチコピーの「一夜で人生が変わる」に嘘偽りなしだ。

 

「竜ヶ崎は七度出場したんだよな……」

 

「あァ。情けねェ話だがよォ、本戦どころか毎年予選の序盤でぶっ飛ばされて負けてんだよなァ……」

 

「竜ヶ崎女史が即敗退するレベルですからな……。油断は禁物ですぞ」

 

 気を引き締めようと赤いニット帽を目深(まぶか)(かぶ)り直す。真冬の冷たい風が頬を撫でる。

 

「とは言え今年は兄貴を殺すためじゃねェ。アタイを救ってくれたボスのため……アタイを拾ってくれた〈神威結社〉の仲間のため……そしてアタイ自身のためだァ!なんとしてでも勝つぞォ!」

 

「ああ。竜ヶ崎はそれでいい」

 

「おォ!任せろォ!」

 

 露出の多い黒い軽装の鎧に身を包む竜ヶ崎は、胸を張って堂々と返事をした。竜ヶ崎の頭に生えた黄色の双角と、彼女の長く(つや)やかな黒髪が日差しを受けて輝いていた。

 

 ――頼もしいな、コイツは……。

 

 その思考の最中、突如として闘技場を囲う観覧席中に設置されたスピーカーから、女性の声が響き渡る。

 

『――世界十一億人の〈極皇杯〉ファンの皆様!!!お待たせしました!!!それでは!!!只今より!!!第十回!!!〈極皇杯〉!!!開会式を!!!始めます!!!!!』




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