異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる――   作:衝動

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2-8 不死身の天使長はお好きですか?

「――決まった!」

 

「マジか……」

 

「やっぱ陽奈子様つえー!」

 

「けど……天ヶ羽さん大丈夫なのか……?」

 

 ――いや、まだだ。

 

「――ふふ、仮にも私は世界二位なんですよ?」

 

 腹に風穴が空いたというのにも関わらず、動じないどころか、不敵に微笑む天音。――刹那、〈水星砲アクアリアスカノン〉の四つの注ぎ口から放たれた流線状の聖水が、陽奈子の身体を天音から引き剥がした。面食らった陽奈子の身体がアリーナの大地に痛々しい衝撃音と共に叩き付けられる。

 

 ――叩き付けられたダメージに(プラスアルファ)――聖水として蓄積されたダメージか……。あの聖水に触れた際のダメージが如何(いか)ほどなのかは天音のみぞ知るが、この一撃で陽奈子が受けたのは見た目以上のダメージだろう。

 

「うぐっ……流石ね……。あまねえ」

 

 痛みに身を震わせながら、辛うじて立ち上がった陽奈子の視線の先――宙にふわりふわりと浮かぶ天音の腹部の風穴は、見る見るうちに塞がってゆく。まるで時間が巻き戻ったかのように。穴が空き、赤く染まっていたはずのメイド服も元通りに。

 

「マジかよ……!あれが……第二席……!」

 

「あんな傷……常人じゃ死んでるぞ……!」

 

 またしても〈水星砲アクアリアスカノン〉から矢継ぎ早に放たれる聖水の猛攻。再び〈天照(アマテラス)〉によって天高く跳躍した陽奈子を執拗なまでに責め立てる。陽奈子はすんでのところでそれを回避する。陽奈子の「光速」の超スピードを以てしてもスレスレ――間一髪だ。

 

「マ……マジかよ姉御ォ……!陽奈子のアレ喰らってピンピンしてんのかよォ……!」

 

「理論上、天ヶ羽女史に勝てる者はいませんからなぁ」

 

「あァ?どういうことだァ?」

 

「例えば……そうだな。〈天衡(テミス)〉の仕様上、俺は天音には絶対に勝てない」

 

「あァ!?ボスでも姉御には勝てねェってのかよォ!?」

 

 ――〈天衡(テミス)〉によって定める、掟を破った際の罰として直接的な死は指定できない。だが天音は即死でもしない限り、神話級異能、〈聖癒(ラファエル)〉によってどんな傷でも回復できる。不死身だ。絶対に勝てない。

 

「天音を倒そうと思えば一撃必殺しかないからな。〈天衡(テミス)〉で直接的な死を(もたら)す罰を指定できない俺には絶対に無理だな」

 

「マジかよォ……!そういやトレーニングのときも……あんなに姉御は動いてたのに疲れる様子すらなかったぞォ」

 

「体力やスタミナの消耗もダメージと捉えて回復できるからな……。つまり体力切れやスタミナ切れもない」

 

「むむっ!(ひらめ)きましたぞ!回復を禁ずるような罰を指定して天ヶ羽女史の回復を阻止してしまうのはどうですかな?」

 

「そうだな……。それ自体は可能だろうが、天音は飛行できる。〈エフェメラリズム〉すら届かないほどの上空から〈水星砲アクアリアスカノン〉で一方的に攻撃されて終わりだろう。そんな機会はないだろうが……もし天音と本気で殺し合うとなったら、やはり心臓を一撃で潰すでもしないといけないだろうな」

 

「『言うは(やす)し、行うは(かた)し』ですな……」

 

「やすし?拓生のダチかァ?」

 

「相も変わらずアホですな……」

 

「アタイはアホじゃねェ!」

 

「一番怖いのは竜ヶ崎に選挙権があることだな……」

 

 陽奈子は宙を浮遊しながら、上昇、下降を繰り返し、凄まじいスピードで聖水の連撃を回避する。そのスピードは(まさ)に「光速」――目にも留まらぬ速さで、俺の目にはまるで瞬間移動したかのように映っていた。そして陽奈子は、堅実に、徐々に天音との距離を詰めてゆく。

 

「日向女史も……凄まじいですな……!」

 

「おォ!陽奈子も意味わかんねェくれェ強ェからなァ!」

 

 ――アインシュタインの特殊相対性理論(とくしゅそうたいせいりろん)。質量を持つあらゆるものは光速に達することはできない、というのが現代科学の鉄則である。それはこの新世界でも変わらない。仮にそれが可能だったとしても、衝撃波の発生、身体が細胞レベルで破壊されることは(まぬが)れない。そのあらゆる絶対の物理法則を無視するのが「#ぶっ壊れギャル」――〈十天〉・第七席に座する日向陽奈子だ。

 

「陽奈子様……なんつー動きだよ……!」

 

「〈十天〉ガチやべぇ!」

 

「陽奈子ちゃん押されてるか……!?」

 

「いや……!負けてないぞ……!」

 

 ――死者を(よみがえ)らせるほどだ。今のところは、異能とはそういうものだと理解するしかないのだ。

 

 そして、いよいよ天音の眼前にまで距離を詰めきった陽奈子は、ガントレット――〈キラメキ〉を振りかぶり、一気に勝負を決めに掛かる。――光の速さで放たれる高速――ならぬ、光速ラッシュだ。

 

 ――〈不如帰会(ほととぎすかい)〉への復讐のため、普通の女の子だったはずの陽奈子がどれだけの研鑽を積んだのかは、あの身の(こな)し一つからも容易に(うかが)える。きっと血の滲むような努力をしたのだろう。

 

「ボスが陽奈子とバトったらどうなんだァ?」

 

「ん?ああ、陽奈子にも勝てないよ。俺の〈天衡(テミス)〉は敵の視認が絶対条件だからな」

 

「確かに光の速さで動き回られては目で追うのは不可能ですな……」

 

「ああ。光の速さで何倍にも増幅した威力のパンチで俺の肉体が弾け飛んで終わりだ。勝負にもならねえ」

 

 そんな陽奈子の超スピードによって、数万倍にまで跳ね上がった火力の圧倒的なラッシュ――天音の身体に命中する度に天音の身体に風穴が空く。

 

「――アタシは……!あまねえに勝ちたい……っ!」

 

「ふふ、痛いものは痛いんですよ?陽奈子さん」

 

「くっ……!」

 

 宙に浮かんだまま、未だ微動だにせず、余裕そうな笑みを絵かべる天音。天音の身体に次々に空く風穴は、血を噴き出すと同時に、次々に塞がってゆく。その衝撃の光景に、観衆は騒めき立ちながら唖然としている。

 

「……陽奈子さんが〈十天〉に加入したときとは目が違いますね。〈不如帰会〉への復讐だけに囚われていたあのときの陽奈子さんとはもう違うんですね」

 

「雪渚に振り向いてもらうって決めたからね!」

 

「ふふ、陽奈子さんは魅力的で脅威ですが……せつくんは渡しませんよ?」

 

「あまねえには負けられないからっ!」

 

「ふふ、そうですか。ですが……実力の差は歴然のようですね」

 

「そう?あまねえも無敵ってワケじゃないでしょ?」

 

「同じ新世界の頂点――〈十天〉だとしても、席次によって格付けは完了しておりますから」

 

 再び、〈水星砲アクアリアスカノン〉の四つの注ぎ口から放たれた水の軌道が、陽奈子の真横を()り抜けて、快晴の空を飛び交った。そしてそれらの軌道は、大きく弧を描きながら、一様に陽奈子へと向かってゆく。

 

 ――俺は――二人の戦いに魅せられてしまっていた。言葉も出ない。

 

 四つの軌道が陽奈子に触れる――その瞬間。陽奈子の身体が消えた。――更にその刹那。地上近くにいた天音の背後に突然陽奈子が現れる。

 

「――っ!」

 

 陽奈子の強烈な蹴りが天音の頭部を狙う。――直撃。天音の頭が大きく揺れる。その驚異的な回復力でダメージを相殺しながら、天音は(たま)らず、白い翼でそのまま高く上空へと避難した。陽奈子がそれを凄まじい速度で追従する。

 

「な、なんつー戦いだよォ……」

 

「凄まじいですな……」

 

 天音の美しい顔には痛々しい火傷が。陽奈子の蹴りによるものだ。だが、天音の〈聖癒(ラファエル)〉によってその傷すら癒えてゆく。

 

 ――陽奈子が本気で蹴っていたら天音の頭が吹っ飛んで落命していたな……。いや、即死じゃなければ〈聖癒(ラファエル)〉の回復力で相殺できるか……?

 

「ふふ、火力と速度では陽奈子さんには勝てませんね」

 

 陽奈子は、聖水の軌道を避けながら、空中で天音に次々に光の速さを乗せた打撃や蹴り技を繰り出す。度々、天音に命中するも、その傷は無慈悲にも癒えてゆく。それは(まさ)に――神々の戦いの域に達していた。

 

「ホント……どう勝てっての……!」

 

 ――そのときだった。天音は白い翼を羽ばたかせ、ふわりと陽奈子に近寄った。そして、ここからでは聞こえない――陽奈子にだけ聴こえる程度の声量で、陽奈子に耳打ちをする。

 

「――――――――――――」

 

「……なっ!?」

 

 陽奈子が赤面した。――その一瞬の隙だった。

 

 〈水星砲アクアリアスカノン〉の四つの注ぎ口から現れた蒼の軌道が、一斉に陽奈子を襲う。そしてあっという間に陽奈子の身体を包み込んだ。――上空に浮かぶ、青い(まゆ)

 

「――な、なんだァ!?」

 

 直後、聖水の(まゆ)が水飛沫と共にぱぁんと弾ける。中から現れた陽奈子は、穏やかな表情で――すやすやと眠っていた。

 

「『(いず)れかが戦闘不能状態に陥れば決着』……でしたね」

 

 地上に落ちてゆく陽奈子の身体を空中で受け止め、ふわりと天音が地上に降り立つ。突然の決着に観客が三度(みたび)、騒めき立つ。

 

「陽奈子のヤツ……ね、眠ってんのかァ!?」

 

「そ、そのようですな……」

 

「ああ、そういうことか……」

 

 ――睡魔はどういうメカニズムで起こるものかご存知だろうか。答えはアデノシン等の疲労物質の発生だ。それによって脳が疲労し、ヒトは睡魔を感じる。その疲労をダメージと捉えるならば、〈水星砲アクアリアスカノン〉を経由しての再現は可能だろう。

 

 アリーナの端――女神像の近くで二人の戦いを見守っていたミルルンは、驚きを隠しきれないままに、酷く興奮した様子で高らかに宣言した。

 

『――決着!決着です!親善試合(エキシビションマッチ)の勝者は――〈十天〉・第二席!!天ヶ羽天音様ッ!!!』

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

 ――この親善試合(エキシビションマッチ)。天音と陽奈子には〈極皇杯〉の出場者のように〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉が与えられているわけではない。つまり天音に勝つには天音を殺すしか方法はなかったのだ。だが、陽奈子は決して、天音を殺したいわけではない。

 

「年季が違いますよ」

 

 ――結局のところ、この異能戦は、初めから天音の勝利で決まっていたのだ。

 

「す、すげェ……!」

 

 ――俺が八十五年の眠りから覚めたあの日、「五六(ふのぼり)総合病院」で天音は自身を、「戦闘能力はない」と称していた。

 

「何が『戦闘能力はない』だ……。OP(オーバーパワー)じゃねーか……」

 

「――おいボス!バトルで負けたら〈十天〉から下ろされるんだろォ!?陽奈子は〈十天〉辞めちゃうのかァ!?」

 

「いや、これは飽くまで親善試合(エキシビションマッチ)だ。そうはならねーよ」

 

 天音は観客へ(うやうや)しく一礼し、陽奈子を抱えたまま十天観覧席へと飛んで戻った。その最中、天音の腕の中で目が覚めた様子の陽奈子は、状況を察したのか、少し残念そうな表情を浮かべていた。だが、同時にその表情には、「やりきった」――そんな色も滲んでいた。

 

 ――何にせよ俺が二人のエキシビジョンマッチを許可した理由――二人の強さの誇示という目的は叶っただろう。これで二人が今後、実力差を理解していない馬鹿に舐められることはないし、このことは確実に〈神威結社〉の仲間を守ることに繋がる。

 

「第二席やべえ……!最強じゃねーか……!」

 

「陽奈子様もヤバかったぞ!」

 

「この二人が揃った〈神威結社〉……どうなってんだよ……!」

 

 熱が冷めやらぬ観衆たち。十天観覧席に戻った二人に、賞賛の意味を大いに含んだ盛大な拍手が送られる。〈極皇杯〉の開会式は大盛況。――だが、飽くまでも「開会式」なのだ。俺は、力強く拳を握り締めた。

 

 ――さて、次は――俺たちの番だ。




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