異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
「――決まった!」
「マジか……」
「やっぱ陽奈子様つえー!」
「けど……天ヶ羽さん大丈夫なのか……?」
――いや、まだだ。
「――ふふ、仮にも私は世界二位なんですよ?」
腹に風穴が空いたというのにも関わらず、動じないどころか、不敵に微笑む天音。――刹那、〈水星砲アクアリアスカノン〉の四つの注ぎ口から放たれた流線状の聖水が、陽奈子の身体を天音から引き剥がした。面食らった陽奈子の身体がアリーナの大地に痛々しい衝撃音と共に叩き付けられる。
――叩き付けられたダメージに
「うぐっ……流石ね……。あまねえ」
痛みに身を震わせながら、辛うじて立ち上がった陽奈子の視線の先――宙にふわりふわりと浮かぶ天音の腹部の風穴は、見る見るうちに塞がってゆく。まるで時間が巻き戻ったかのように。穴が空き、赤く染まっていたはずのメイド服も元通りに。
「マジかよ……!あれが……第二席……!」
「あんな傷……常人じゃ死んでるぞ……!」
またしても〈水星砲アクアリアスカノン〉から矢継ぎ早に放たれる聖水の猛攻。再び〈
「マ……マジかよ姉御ォ……!陽奈子のアレ喰らってピンピンしてんのかよォ……!」
「理論上、天ヶ羽女史に勝てる者はいませんからなぁ」
「あァ?どういうことだァ?」
「例えば……そうだな。〈
「あァ!?ボスでも姉御には勝てねェってのかよォ!?」
――〈
「天音を倒そうと思えば一撃必殺しかないからな。〈
「マジかよォ……!そういやトレーニングのときも……あんなに姉御は動いてたのに疲れる様子すらなかったぞォ」
「体力やスタミナの消耗もダメージと捉えて回復できるからな……。つまり体力切れやスタミナ切れもない」
「むむっ!
「そうだな……。それ自体は可能だろうが、天音は飛行できる。〈エフェメラリズム〉すら届かないほどの上空から〈水星砲アクアリアスカノン〉で一方的に攻撃されて終わりだろう。そんな機会はないだろうが……もし天音と本気で殺し合うとなったら、やはり心臓を一撃で潰すでもしないといけないだろうな」
「『言うは
「やすし?拓生のダチかァ?」
「相も変わらずアホですな……」
「アタイはアホじゃねェ!」
「一番怖いのは竜ヶ崎に選挙権があることだな……」
陽奈子は宙を浮遊しながら、上昇、下降を繰り返し、凄まじいスピードで聖水の連撃を回避する。そのスピードは
「日向女史も……凄まじいですな……!」
「おォ!陽奈子も意味わかんねェくれェ強ェからなァ!」
――アインシュタインの
「陽奈子様……なんつー動きだよ……!」
「〈十天〉ガチやべぇ!」
「陽奈子ちゃん押されてるか……!?」
「いや……!負けてないぞ……!」
――死者を
そして、いよいよ天音の眼前にまで距離を詰めきった陽奈子は、ガントレット――〈キラメキ〉を振りかぶり、一気に勝負を決めに掛かる。――光の速さで放たれる高速――ならぬ、光速ラッシュだ。
――〈
「ボスが陽奈子とバトったらどうなんだァ?」
「ん?ああ、陽奈子にも勝てないよ。俺の〈
「確かに光の速さで動き回られては目で追うのは不可能ですな……」
「ああ。光の速さで何倍にも増幅した威力のパンチで俺の肉体が弾け飛んで終わりだ。勝負にもならねえ」
そんな陽奈子の超スピードによって、数万倍にまで跳ね上がった火力の圧倒的なラッシュ――天音の身体に命中する度に天音の身体に風穴が空く。
「――アタシは……!あまねえに勝ちたい……っ!」
「ふふ、痛いものは痛いんですよ?陽奈子さん」
「くっ……!」
宙に浮かんだまま、未だ微動だにせず、余裕そうな笑みを絵かべる天音。天音の身体に次々に空く風穴は、血を噴き出すと同時に、次々に塞がってゆく。その衝撃の光景に、観衆は騒めき立ちながら唖然としている。
「……陽奈子さんが〈十天〉に加入したときとは目が違いますね。〈不如帰会〉への復讐だけに囚われていたあのときの陽奈子さんとはもう違うんですね」
「雪渚に振り向いてもらうって決めたからね!」
「ふふ、陽奈子さんは魅力的で脅威ですが……せつくんは渡しませんよ?」
「あまねえには負けられないからっ!」
「ふふ、そうですか。ですが……実力の差は歴然のようですね」
「そう?あまねえも無敵ってワケじゃないでしょ?」
「同じ新世界の頂点――〈十天〉だとしても、席次によって格付けは完了しておりますから」
再び、〈水星砲アクアリアスカノン〉の四つの注ぎ口から放たれた水の軌道が、陽奈子の真横を
――俺は――二人の戦いに魅せられてしまっていた。言葉も出ない。
四つの軌道が陽奈子に触れる――その瞬間。陽奈子の身体が消えた。――更にその刹那。地上近くにいた天音の背後に突然陽奈子が現れる。
「――っ!」
陽奈子の強烈な蹴りが天音の頭部を狙う。――直撃。天音の頭が大きく揺れる。その驚異的な回復力でダメージを相殺しながら、天音は
「な、なんつー戦いだよォ……」
「凄まじいですな……」
天音の美しい顔には痛々しい火傷が。陽奈子の蹴りによるものだ。だが、天音の〈
――陽奈子が本気で蹴っていたら天音の頭が吹っ飛んで落命していたな……。いや、即死じゃなければ〈
「ふふ、火力と速度では陽奈子さんには勝てませんね」
陽奈子は、聖水の軌道を避けながら、空中で天音に次々に光の速さを乗せた打撃や蹴り技を繰り出す。度々、天音に命中するも、その傷は無慈悲にも癒えてゆく。それは
「ホント……どう勝てっての……!」
――そのときだった。天音は白い翼を羽ばたかせ、ふわりと陽奈子に近寄った。そして、ここからでは聞こえない――陽奈子にだけ聴こえる程度の声量で、陽奈子に耳打ちをする。
「――――――――――――」
「……なっ!?」
陽奈子が赤面した。――その一瞬の隙だった。
〈水星砲アクアリアスカノン〉の四つの注ぎ口から現れた蒼の軌道が、一斉に陽奈子を襲う。そしてあっという間に陽奈子の身体を包み込んだ。――上空に浮かぶ、青い
「――な、なんだァ!?」
直後、聖水の
「『
地上に落ちてゆく陽奈子の身体を空中で受け止め、ふわりと天音が地上に降り立つ。突然の決着に観客が
「陽奈子のヤツ……ね、眠ってんのかァ!?」
「そ、そのようですな……」
「ああ、そういうことか……」
――睡魔はどういうメカニズムで起こるものかご存知だろうか。答えはアデノシン等の疲労物質の発生だ。それによって脳が疲労し、ヒトは睡魔を感じる。その疲労をダメージと捉えるならば、〈水星砲アクアリアスカノン〉を経由しての再現は可能だろう。
アリーナの端――女神像の近くで二人の戦いを見守っていたミルルンは、驚きを隠しきれないままに、酷く興奮した様子で高らかに宣言した。
『――決着!決着です!
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
――この
「年季が違いますよ」
――結局のところ、この異能戦は、初めから天音の勝利で決まっていたのだ。
「す、すげェ……!」
――俺が八十五年の眠りから覚めたあの日、「
「何が『戦闘能力はない』だ……。
「――おいボス!バトルで負けたら〈十天〉から下ろされるんだろォ!?陽奈子は〈十天〉辞めちゃうのかァ!?」
「いや、これは飽くまで
天音は観客へ
――何にせよ俺が二人のエキシビジョンマッチを許可した理由――二人の強さの誇示という目的は叶っただろう。これで二人が今後、実力差を理解していない馬鹿に舐められることはないし、このことは確実に〈神威結社〉の仲間を守ることに繋がる。
「第二席やべえ……!最強じゃねーか……!」
「陽奈子様もヤバかったぞ!」
「この二人が揃った〈神威結社〉……どうなってんだよ……!」
熱が冷めやらぬ観衆たち。十天観覧席に戻った二人に、賞賛の意味を大いに含んだ盛大な拍手が送られる。〈極皇杯〉の開会式は大盛況。――だが、飽くまでも「開会式」なのだ。俺は、力強く拳を握り締めた。
――さて、次は――俺たちの番だ。
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