異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
「――おあッ!?陽奈子!?なんでこんなトコにいるんだァ!?」
「――陽奈子!ここは危険なのだ!ここはボクに任せて先に行くのだ!」
〈
竜ヶ崎巽と
「おい陽奈子ォ!しっかりしろォ!笑ってる場合じゃねェぞォ!毒ガスが迫ってきてんだァ!」
「陽奈子!
壁をドンドンと叩いて、必死の形相を浮かべる二人の背後で、
「
「薄々気付いてはいたが、竜ヶ崎巽と羊ヶ丘手毬はやはりアホなのか」
「〈極皇杯〉が
――本来、夏瀬雪渚や竜ヶ崎巽の行動は異常である。この異能バトルロワイヤルとでも呼ぶべき〈極皇杯〉の予選は、本来は皆、こそこそと敵に見つからないように移動するのが鉄則である。だが、彼らは堂々と動いていた。夏瀬雪渚は「勝利の圧倒的な演出」のため、竜ヶ崎巽はアホだから――理由は違えど、結果的に同じ選択に至っていた。
犬吠埼桔梗が一歩前へと踏み出し、二人の背中越しに声を掛ける。ブロンドのミディアムヘアが微かに揺れた。
「それは日向陽奈子の写真だ。日向陽奈子が起用されているだけで、そこに日向陽奈子が閉じ込められているわけではない」
犬吠埼桔梗のマジレスにきょとんとした顔を浮かべる竜ヶ崎巽と羊ヶ丘手毬の両名。二人は顔を見合わせて、首を傾げた。そして、憤慨する。
「あァ?犬吠埼テメェ!アタイが仲間の陽奈子を見間違えるとでも言うのかァ!?」
「そうなのだ!陽奈子が城壁を壊してくれたお陰で〈
「……
――犬吠埼桔梗の説得により数分後。歩を進めながら竜ヶ崎巽が満面の笑みでバシバシと犬吠埼桔梗の背中を叩いた。
「――ガッハッハ!写真なら写真って言えよォ!なァ、犬吠埼よォ!」
「まったくなのだ!」
「最初から言っていたと記憶しているが……理解したのならばいいだろう」
「先行きが不安アルヨ……」
四人が保安検査場まで差し掛かる。空港職員が誰もいない、普段とは違う〈極皇杯〉ならではの保安検査場の様子。
「ここから向こう側にも行けそうなのだ!どうするのだ?」
「見晴らしが良く、戦いやすいのはこちら側――エアサイドだろう」
「あァ?アタイは強ェヤツと戦えるならどこでもいいぞォ」
「エアサイドをこのまま真っ直ぐ行って、北側コンコースを進むのが良さそうアルネ」
四人が合意の上、保安検査場に背を向け、北側コンコースへ足を踏み入れようとした、
「「――今だっ!」」
保安検査場の物陰から飛び出してきたのは、十余名の若い男女だった。黒いローブや鎧、そして杖やクロスボウ等、それぞれが装備品を身に着けている。彼らは竜ヶ崎巽らに一斉に襲い掛かった。――が、そんな奇襲が上手くいくほど、〈極皇杯〉は甘くない。
「……折角見逃してやったのに、自ら死地に
李蓬莱の上級異能、〈
李蓬莱の振り向き
「――ガハ……ッ!」
待ち伏せに気付いていたのは何も李蓬莱だけではない。十六年間、遥か格上の兄に挑み続け、そして〈十天〉である
「――『
「グエッ……!!」
その隣では複数人に囲まれて蹴られる羊ヶ丘手毬の姿がある。羊ヶ丘手毬は体を丸めて床に
「――痛いのだ!痛いのだ!」
「なんだコイツ……クソ弱いな……」
「思い出作りに出場した下級異能か……?」
「さっさとKILL数稼いじまおうぜ!こんな雑魚でも倒しといて損はねえ!」
そして、待ち伏せに気付いていたのはもう一人――犬吠埼桔梗である。複数人の男が、剣で彼女の顔を傷付け、炎でその鎧を炙る。――が、犬吠埼桔梗は抵抗しない。
「――犬吠埼……!コイツ……今年も防戦一方かよ……!」
「攻撃してこねーなら好都合だ!押せ押せ!クラン・〈劇団ビショップ〉!!」
犬吠埼桔梗も人間である。本来であれば、剣で斬られれば血が出るし、炎で焼かれれば
「おォい!犬吠埼ィ!何してんだァ!ちゃんと戦えやァ!負けちまうぞォ!」
「巽サン……犬吠埼サンなら大丈夫アルヨ」
「あァ?」
犬吠埼桔梗は、その猛攻にも全く動じない様子だ。どれだけ傷付けても一滴の血すら流さない犬吠埼桔梗。相対する男たちの表情が曇ってゆく。
「――くっそ!やっぱコイツ突破できねえ!」
「――やっぱファイナリストに喧嘩売るんじゃなかった!」
犬吠埼桔梗はゆっくりと口を開いた。凛とした表情を崩さぬまま、刺すような冷たい目で。その言葉は眼前の敵ではなく、背中合わせに共闘する竜ヶ崎巽に向けられる。
「偉人級異能、〈
「あーさー……だァ?」
「この異能は特殊でな。この異能が私に顕現すると同時に、天から武器が降ってきた。……千の
犬吠埼桔梗は
「あらゆるものを……って!強すぎだろそれよォ!陽奈子みてェな攻撃力じゃねェかァ!」
「巽サン……それだけじゃないアル」
「ああ……この魔法の
「――はァ!?姉御みてェな力……あァ?いや姉御は回復だから違ェのかァ?」
「姉御……?……
「――痛いのだ!やめるのだ!」
字面通り足蹴にされる羊ヶ丘手毬が、半泣きのまま何とか頭を守っている。
「……見ていてあまり気分の良いものではないな。……が、悪とは断定できまい」
「――犬吠埼!テメェ!」
自分に群がっていた敵を蹴散らし、
「――『
羊ヶ丘手毬を蹴り付けていた男女の頭を目掛けて、竜ヶ崎巽が
李蓬莱は、〈竜ヶ崎組〉の幹部陣の中で、唯一殺人に手を染めていなかった。しかし、組長や他幹部の手前、そのことは隠し通す必要があった。それ故、説得力を持たせるために、彼女は
「……うぐっ……!つ、強すぎる……!」
「くっそ……!また今年も予選落ちかよ……!」
「仕方ないわ……。相手が悪かった……!後のことは座長に託しましょう……」
彼らはやがて、息絶えた。そして、〈
「うわあぁああぁああぁん!!!蓬莱ー!怖かったのだぁあぁぁあぁ!!!」
「全く……仕方ないアルネ……」
一方の竜ヶ崎巽は、その視線を背後で突っ立っていた犬吠埼桔梗へと向けた。犬吠埼桔梗と戦闘していたはずの者たちの姿は既にない。どさくさに紛れて逃げたようだ。彼女を
「――犬吠埼!テメェ!なんで手毬を助けてやらねェンだァ!!」
「共闘する、と言った覚えはないが。私は飽くまで散歩に誘っただけだ」
犬吠埼桔梗は淡々と反論する。――そのときだった。
『ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
耳障りな警告音が鳴り始めた。音の発生源は、犬吠埼桔梗の背後――金属探知機の役割を果たすゲートであった。金属を探知したことを示す、赤いランプが点滅している。
「――あァ!うるせェなァ!なんだこの音はァ!」
何故、警告音が鳴っているのか。その理由は明白だった。当然、金属を探知したからである。いつからそこにいたのか――ゲートの側面に
男の姿は奇怪である。アルミ箔を重ねて作る帽子――ティンホイル・ハットを頭に
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