異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
十数の分身体が次々に繰り出すアクロバティックな波状攻撃。分身体も〈如意棒〉を持ち、的確に刺突を挟んでくる。竜ヶ崎巽が必死に鉤爪を振り
――第十回〈極皇杯〉、予選Hブロック。予選開始より一時間十四分三十八秒。竜ヶ崎巽
「クッソ……がァ!うざってェ……!」
「しぶといなぁ、ライターの姉ちゃん。策もないんやったら諦めた方が楽やで?」
猿楽木天樂は、攻撃を分身体に任せて後ろに控えている。しかし、その目は一切油断していなかった。
「……違ェよォ!待ってたんだよォ!この刻をォ!」
「はぁ?なんや?」
「――『
そう竜ヶ崎巽が叫んだ瞬間、竜ヶ崎巽は怒気を具現化したような赤いオーラを身に纏った。竜ヶ崎巽の身体を覆っていた鱗が逆立ち、全身が刺々しい姿へと変貌する。竜ヶ崎巽の黄色い双角が禍々しく変貌し、その異様な姿が鏡張りの壁面に映し出される。
「――『
竜ヶ崎巽の両の鉤爪が十字に空を切り裂く。――すると、竜ヶ崎巽を取り囲んでいた猿楽木天樂の分身体は、一人残らず霧のように消えてしまった。
「――なっ!なんや!?」
「『
〈世界ランク〉のソロランキング――〈極皇杯〉の開会式時点で竜ヶ崎巽の順位は九十八位であった。竜ヶ崎巽は、既に、夏瀬雪渚が目覚めたあの日、「
「たはー!やるやん?でもこんなもんでイキったらアカンで、ライターの姉ちゃん!――『
猿楽木天樂は口から煙を吐き出す。その煙は、雲のような形を成した。
「――おあッ!?そんなんアリかよッ!?」
「煙草を吸わなければ力が出ない」という先刻の猿楽木天樂の発言。その意図は、「煙草を吸わなければ戦う気力が起きない」ではなく、「煙草を吸えば戦う力を得ることができる」が正しい。喫煙によって猿楽木天樂が口腔に留めておいた煙――それこそが
「『
「すごいのだ!巽も天樂もすごいのだ!」
竜ヶ崎巽は筋斗雲に乗って頭上を徘徊する猿楽木天樂から目を離さない。猿楽木天樂は筋斗雲の上から一方的に〈如意棒〉による激しい刺突を繰り返す。――が、『
「――『
バネのように跳び上がって筋斗雲と同じ高さに達する竜ヶ崎巽。その両の鉤爪が、猿楽木天樂をX字に切り裂く。猿楽木天樂はこのとき初めて、防御行動を選択した。
「――っ!あかん!『
筋斗雲を突き破り、空中で巨石と化した猿楽木天樂。重力に従って床へ落ちてゆく。――その巨石を、竜ヶ崎巽はX字に切り裂いた。
「――おらァ!!」
その岩石に大きな亀裂が入る。舞い上がる粉塵。破片が周囲に飛び散る。完全に砕かれる寸前、その巨石は人の姿へと戻った。――が、猿楽木天樂の身体にはX字の深い傷が刻まれている。見るに痛々しい傷であった。
「……はぁ、はぁ。『
「ガッハッハ!そろそろ決めようぜェ!」
だが、竜ヶ崎巽も既にボロボロであった。お互いの肉体の限界は近い。扉越しにその戦闘を見守っていたブロンドヘアの女騎士――
「竜ヶ崎巽……もしかすると……もしかするぞ……!」
竜ヶ崎巽と猿楽木天樂。二人は何か心の奥底で通じ合ったかのように頷き合い、同時に距離を詰めた。竜ヶ崎巽の鉤爪による斬撃、そして猿楽木天樂のアクロバット。先刻とは異なり、刺々しい姿に変貌した竜ヶ崎巽の攻撃も、次々に猿楽木天樂を追い詰めてゆく。
「――巽!すごいのだ!天樂に攻撃が通じてるのだ!」
「巽サン……どれだけ強くなってるアルカ……!」
だが、猿楽木天樂も一歩も譲らない。偉人級異能、〈
両者一歩も
「……っ!
「誰が言ってんだァ!猿女ァ!」
「なんで自分みたいなのが最近まで無名やったんや!?化物やんけ!」
「あァ……クソ強ェ!こんなんばっかりかよォ!〈極皇杯〉よォ!!最高じゃねェかァ!!」
「手段選んでられへんわ!『帰化猿』っ!!」
猿楽木天樂が再び吐き出した煙は、またもや雲の形を成す。そしてその雲――筋斗雲は、竜ヶ崎巽の視界を覆うように絡み付いた。竜ヶ崎巽は、暗闇の中で思考する。
――視覚妨害……ッ!だが、わかるぞ……お前ほどの強者……!存在感がハッキリとわかる!
「――いてまえっ!」
猿楽木天樂がアクロバティックに繰り出す拳――竜ヶ崎巽がそれを避けたタイミングで的確に繰り出される、〈如意棒〉による刺突。竜ヶ崎巽の脳天を揺らし、全身を強い衝撃が襲う。暗闇の中で、竜ヶ崎巽は必死に叫んだ。
「アタイはァ!!!〈神威結社〉のお荷物になりたくねェんだよォ!!!」
「それがライターの姉ちゃんのホンマの気持ち?ええやん、負けても!〈極皇杯〉は来年もあるで!」
「アタイが負けてもボスや姉御、拓生も陽奈子もアタイを見捨てねェ!!!でもよォ!!!アイツらの顔に泥ぶっかけたくはねェんだよォ!!!!」
「……終わらせるで!」
絶え間なく続く、猿楽木天樂のアクロバティック攻撃と伸縮する〈如意棒〉による刺突。筋斗雲に
「――アタイはァ!!!今年じゃなきゃダメなんだよォォォ!!!!――『
竜ヶ崎巽の『
「
「――『
視界が覆われた中で、闇雲――否、的確に放たれた、竜ヶ崎巽の攻撃。脚の筋肉をバネに、全身をフルに使った突進攻撃。竜ヶ崎巽のその渾身の攻撃は、猿楽木天樂に、「入った」。
「が…………ッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォ!!!」
鏡張りの喫煙室内に響く、凄まじい衝撃音。猿楽木天樂の身体が、大きく飛ばされる。扉の外で、
――やがて、竜ヶ崎巽の赤い瞳に纏わり付いていた雲が晴れる。喫煙室の鏡張りの壁に空いた大穴から、隣の男子トイレの小便器が覗いた。彼女のその視界の先には、壁を突き抜け、その小便器に激突して、力なく
「アタイの勝ちだなァ……」
「…………ウチの負けや、堪忍な……。……せや、名前教えてや」
「よォし!生中継観てるヤツも全員耳の穴かっぽじってよく聞けやァ!クラン・〈神威結社〉の一番槍、
「わはは、こんなアホには勝てんわ……。巽の姉ちゃん、ウチの首切って〈
「……いいのかァ?」
「当たり前や。早よ楽にしてくれや」
「わかったァ……」
竜ヶ崎巽は壁に空いた穴を通り、男子トイレに足を踏み入れる。そして、鉤爪・〈ヴァンガード〉の切っ先を猿楽木天樂の頸動脈に添えた。竜ヶ崎巽の長い黒髪が微かに揺れる。
「巽の姉ちゃん……勝つんやで」
竜ヶ崎巽は、鉤爪の先端で猿楽木天樂の首に触れたまま、指先を軽く右に動かした。猿楽木天樂の首から血飛沫が上がる。がくりと
「退屈しなかったぜェ……。猿女ァ……」
「――巽!巽!」
「巽サン……っ!」
背後のガラス張りの扉を勢い良く開け、喫煙室内に羊ヶ丘手毬と李蓬莱が
「す、すごいのだ巽!〈極皇杯〉の
「巽サン……これは……世界が動くアルヨ……」
このとき、竜ヶ崎巽は直感していた。竜ヶ崎巽を見る、世界の目が変わったことを。〈極皇杯〉の
「確実に……確実に今、巽サンはファイナリスト候補に名乗りを上げたアル!」
「――って巽!そもそも戦うんじゃないのだ!ボクのクランメンバーなのだ!」
ポカポカと竜ヶ崎巽の黒い軽装の鎧を殴る羊ヶ丘手毬。竜ヶ崎巽は『
「だからァ……そもそもアタイと手毬も敵同士なんだぞォ……」
「ふふん!でもいいのだ!ボクがファイナリストに残り、天樂は後でお説教なのだ!」
「手毬サン……今の戦いを見てよく言えるアルネ……」
何か、喫煙室の外から、連続して衝撃音が聴こえてくる。しかし、満身創痍の竜ヶ崎巽にはそんなことを気に留める余裕はなかった。
一方、
「あァ?犬吠埼ィ、どうしたァ?」
「どうやら私は……貴殿を
「おォ!アタイの強さがわかったってことかァ!偉いじゃねェかァ!」
「竜ヶ崎巽……貴殿と手合わせがしたい。――無論、ファイナリストの座を懸けて」
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