異能至上主義に花束を ――神話級異能〈テミス〉は新世界を成り上がる―― 作:衝動
五ツ星ホテル、〈
俺は銃弾の嵐を避けながら、一気にオレンジに染まった壁に走る。ぴたりとその壁を背にして、逃げ場を
――思えば簡単な話だった。本館五階スパフロアの
――
すると、観念したかのように、俺の正面――窓際の白い壁から、ぬるりと白いフードとバラクラバで覆われた男の頭が現れた。まるで水面から顔を出すかのように。まるで壁に溶け込んでいたかのように。
「
「『白から白へと移動する異能』……この解……正解か?」
「正解だヨ……見事ダ……。この偉人級異能の名を〈
「ああ、ぴったりじゃねーか」
「軍人としテ、これまでの二十五年――異能戦争で五万人は
「……そうか。……でも悪かったな、生中継されてる中で異能をバラして。今後戦いづら――いや、そもそもお前は昨年の本戦で……異能を使ってなかったんだな」
「どちらにせヨ、この夕方までに予選が決着しなかった時点デ……僕の負けだヨ。夕陽が差しては、白が
「まさか……降参するってか?」
「あア……もう勝ち目がないからナ……」
「――舐めんなよ」
気付けば俺は、全身白
「お前も
――過去に、
「……っ!舐めては……いなイ……。気を悪くしたなら謝ル……」
「これまで一度も看破されなかった異能が数分で看破されたからって何だってんだ!俺が賢すぎただけだろうが!相手が悪かったんだよ!馬鹿が!」
「……どういう……つもりダ?」
「仮にも世界十三位の人間が、まだ終わったわけでもねーのに降参なんてつまんねー真似してんじゃねーって言ってんだ!」
「……だが……恐らく僕では勝てなイ……」
「去年、異能を使わずに本戦で庭鳥島を倒したんだろうが!これまで成功続きだったから初めての失敗に戸惑ってんのか!?お前強いんだよ!自信持て!」
「……戸惑ってル――そう……かもしれないナ……」
俺は
「俺は容赦なく死体蹴りするぞ。……守らなきゃなんねーモンがあるからな」
「……いや、戸惑ってタ――その方が正確だろウ。お陰で迷いは晴れタ」
「……おう」
冴積はスナイパーライフルを構えた。ライフルスコープ越しにこちらに照準を合わせる。それに合わせて、俺も〈エフェメラリズム〉のY字型の
「安心しろ。俺だけ異能を使うような卑怯な真似しねーよ」
「……感謝すル。〈
「
その言葉を引き金に、二発の弾――銃弾とパチンコ玉が交錯する。お互いに命中し、それと同時に両者バックステップ――一歩
「初段は外すつもりだったガ……敢えて喰らったのカ……?」
「さっきお前を壁に叩き付けたからな。ハンデだ」
「天才なのカ……馬鹿なのカ……わからない奴ダ……」
――頭と心臓を避ければ、即死はない……!
銃声がボールルームに絶え間なく響き続ける。異能の発覚を
頭と心臓を正確に撃ち抜いてくるが、それを読んで俺は回避する。冴積もまた、回避を予測してその位置に五十口径弾をブチ込んでくる。更にそれを予測して俺は回避――。凄まじいレベルの読み合いが銃声の響くボールルームで行われていた。
「――くっ!殺戮マシーンかよ……!」
「敬意を評して、じわじわと
「――『
頬の肉が
「狙撃銃を扱う軍人に対してパチンコとは……舐めているのはどちらダ?……〈
そう声を発する冴積の口元はバラクラバで覆い隠されているものの、
――そりゃそうだ。相手はガチガチのスナイパーライフルに対して、こちらは玩具店で買った金属製のスリングショット――付属していたゴム弾をパチンコ玉に替えただけだ。武器の性能が違いすぎる。それに加えて相手はプロの軍人でこちらはズブの素人……分が悪すぎる。
「おー、ガチでやってんだけどな……!――『
三発のパチンコ玉が空を切る。不安定なエイムにより、一発だけ命中するも、またもその防寒コートに弾かれてしまう。防弾チョッキの役割も果たしているのだろう。露出しているのは目元だけだが、それもリコイルスコープによって隠されている。一切の隙がない。
「本気なのは伝わっていル……。だが……このままでは時間の問題のように思うガ……?」
――勝ちの目は……アレしかない。
「いやいや……素人相手に時間掛けすぎだろ」
「安い挑発……乗るわけがないだろウ……」
響き渡る銃声。その砲声はあまりにも
「軍人が聞いて呆れるぜ……。ああ、だから去年の準決勝も負けたんだな」
安い挑発の台詞と同時にパチンコ玉――『貫通弾』を放つ。冴積の目を狙うも、鉄製のライフルスコープがそれを
「動揺を誘っているのカ……?僕は戦場で人の死を何度も見ていル……。今更多少のことでは動じなイ……」
――ダメだ……!もっと、もっとコイツと向き合え……!コイツから本音を引き出せ……!
「軍人か……。俺にはわからないがお前も苦労してそうだな……」
「幼い頃から兵器として生きてきタ。
お互いが描く弾道がボールルームの宙で交錯する。何度も、何度も。その度に銃声が響く。身体のあちこちから血が流れ、俺の身体は一方的に追い詰められていた。
「そうか?俺のさっきの言葉が効いたんならまだお前の心は死んでねえだろ」
「いや……〈極皇杯〉も、異能戦争の軍資金稼ぎに上から命令されて出場しただけダ……。後で怒られる面倒と天秤に掛けて、戦うことを選んだだけだヨ……」
「お前……!」
「ニュースで観た……。君の幼い頃もそうだったのだろウ……?感情など
「…………っ!お前……それで……!」
「だから君が少しだけ羨ましイ……。だから〈
「――お前……人生クソつまんねーだろ」
『貫通弾』を放ちながら、弾丸が急所に命中するのをすんでのところで回避した俺は告げた。冴積は、
「お前がなんで軍人をやってるのかは知らねえ。お前ほど優秀な人間がなんで戦場に
「〈
冴積が初めて、声を荒らげた。
「五年後の自分を想像してみろよ。――お前は笑えてるのかよ」
「笑えるかッ!毎日毎日戦わされて、味方は何人も死んで、何の恨みもない敵を何人も殺しテ……ッ!笑えるわけがないだろウ……ッ!」
「俺は仲間に教えてもらった……!楽しんで生きなきゃ……死んでるのと一緒だろうが!」
「……ッ!〈
「強くねえよ……俺なんか強くねえ……」
「僕は……人として生きたイ……ッ!」
「大丈夫。お前を本戦へは進ませねえ。――頭冷やしな」
冴積四次元が放った最後の弾丸と、俺が放った最後の弾丸――『
冴積が撃った弾丸は、〈エフェメラリズム〉の
「ありが……とウ……」
――そのとき、冴積がそう告げた。バラクラバに覆われて表情は読めないが、笑っているような気がした。それと同時に、俺が撃った『雪華弾』もまた、冴積四次元に命中した。冴積の身体が、冷気と白い霧に包まれて――瞬く間に凍り付く。瞬き一つしない。
「柄にもなくクサい台詞吐いちゃったな……」
足を引き
――コイツなら、自分の道を歩めるだろう。俺ができたんだ。
右脚を高く上げ、冴積の頭を目掛けての
「じゃあな、銃殺王」
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